日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『CLUB SEVEN ZERO』プレビュー公演感想(2017.5.27マチネ)

キャスト:
玉野和紀 吉野圭吾 東山義久 西村直人 原田優一 蘭乃はな 香寿たつき

いつかは見ておきたいと思った『CLUB SEVEN』。
今年、『CLUB SEVEN ZERO』の上演がある。しかも自宅最寄り駅から乗換無しで行ける北千住でプレビュー公演。ということで、シアター1010まで出向いてまいりました。

ただ、良く知らずに行ったのですが、今回はCLUB SEVENの集大成公演だったようです。
客席も長年見続けて応援しているリピーターさんが多いように見受けられました。
公演中、毎回恒例になっているらしい、お馴染みキャラと思われる扮装もしくは着ぐるみ姿の玉野さんと西村さんによる客いじりがあったのですが、話しかけられていた2名ほどの方のいずれも、複数シーズンを見続けている(お一人は初演から!)ということでした。

カンパニーの皆さま、当方は今回が初回な上、クリエの東京本公演は観る予定がなく本当に申し訳ございません……。

本公演初日がこれからであり、しかもネタが命な内容ですので、以下、お馴染みと思われる基本構成以外はネタバレなしでまいります。
ちなみに構成はAバージョンとBバージョンの2種類あるとのことですが、今回観たのはBバージョンでした。

初めて観た者として内容を総括しますと「う〜ん、体育会系!」でした。

1幕は、実力派揃いのメンバーによるハイレベルなレビューで決めたかと思えば、コントあり、大喜利あり。衣裳も男装、女装、コスプレ、着ぐるみなど実に豊富です。
身体を張って爆笑させてくれた1幕と対照的に、2幕は人情ドラマなミニミュージカルでしんみりさせてくれます。
その後は一転してスピード感溢れる怒濤の五十音順ヒットメドレー、そして爽やかにエンディングへと突入。

キャストの体力、アドリブ力、そして豊かなショーアップ精神が隅々まで尽くされていて、色々な意味で「役者殺し」な演目だと感じました。
観客としても、過去最高の平均年齢(パンフより)にもかかわらず全力で持ち芸を炸裂させてくるキャストのパワーを受け止めるのに、相当の体力と精神力を要求されます。
ちなみに、私、半年前の体力だったら、多分パワーに撃ち倒されていたんじゃないかと思われます。体力がだいぶ回復していて本当に良かった(^_^;)。

この演目は、スタッフの皆さまもさり気なく良いお仕事をされているという印象です。
例えば照明さんが、あの場面転換が目まぐるしい舞台できっちり仕事し、あまつさえ歌の出だしで失敗して進行がだれた時にもしっかり対応しているのは、本当に凄いことだと思います。

何よりも、キャストもスタッフも全力な舞台というのは、視点を変えれば作り手や演じ手の汗水を包み隠さず見せることなので、一歩間違えると自己満足に終わりかねないのですが、『CLUB SEVEN ZERO』はそうではなく、「全力であること」も含めて質の良いエンターテインメントとしている所に好感を持てます。

レビューあり、涙と笑いありのエンターテインメントと言えば、基幹キャストのうち玉野さんと吉野さんとが重なる『ダウンタウン・フォーリーズ』を思い出します。
あちらも『CLUB SEVEN』シリーズと同様、大人が大人のために弾け、時に下ネタも厭わず、芸を尽くしておしゃれに楽しませてくれるショーですが、『CLUB SEVEN』にはおしゃれ感よりは疾走感、そして隠し味としてペーソスが感じられました。

なお、これはお芝居と無関係な部分ですが、原田優一くんの出演舞台を観たのは大変久しぶりでした。
しばらく彼を見なかった間に、何だかヒアルロン酸たっぷりぱつぱつ艶々なほっぺになっていたので、彼が登場するとまずほっぺが気になりまして(^_^;)(優一くんごめんなさい)。そんなわけで、今回の1日を表す私の漢字三文字*1は「艶福頬」に決定しました。

現在のところ、この演目を観るのは今回のみなのですが、Aバージョンも少し気になるところです。

*1:注:今回の本編に登場したネタです。

『王家の紋章』感想(2017.4.22マチネ)

キャスト:
メンフィス=浦井健治 キャロル=新妻聖子 イズミル宮野真守 ライアン=伊礼彼方 ミタムン=愛加あゆ ナフテラ=出雲綾 ルカ=矢田悠祐 ウナス=木暮真一郎 アイシス濱田めぐみ イムホテップ=山口祐一郎

王家の紋章』再演を、今回は聖子キャロルで観てまいりました。
手持ちのチケットは今の所これが最後です。もう一度観るかどうかは定かではありません。

前回のブログに再演版の演出について文句ばかり書いていますが、今回改めて観て、
「初演版で削られた箇所を初めからなかったものとして、まっさらな気持ちで観れば、意外と素直に楽しめるかも」
と思い直しました。

観たものの感想や考察を書こうと思いますが、あまり気合いが入っておりません。
聞く所によれば2.5次元ミュージカル界(そんなものがあるのか)では「板が出るまでネタバレ厳禁」という掟があるらしいですが、そこまで書く気力が湧いてこない……。

とは言え、DVDは帝劇にて購入を予約しました。もう一度観たい、というよりは今後の舞台作品の映像化の継続に繋がれば、という思いから、投資のつもりで2バージョン予約しています。

では、以下、感想+考察にまいります。
前回初めて佐江キャロルを観て、カワイイ! 声も出ている! と思ったのですが、今回聖子キャロルを観たら、声の伸びが遙かに尋常ではありませんでした。
別に歌唱力だけで評価するわけではなく、聖子キャロルの方が気の強さにプラスしてキャロルの必死さや面倒くささの含有率が高いような気がして、個人的には好みです。さすが「王族」。

宮野イズミルは2回目でしたが、今回はあまり「うぜえ」とは思いませんでした。既に公演日程の中日が近かったためか、何と言うか、声の出し方とか、表現が洗練されてきたような印象です。
イズミルがキャロルに惹かれたタイミングが分かりづらいとか、イズミルの歌唱の出番が続きすぎるとか、全く役者さん方の責任ではない要素において、心境の変化の色づけをしていくのは本当大変だろうと思います。
ついでに、あのずるずるした衣裳で殺陣をこなすのもかなり苦労が多いのではないかと……お疲れ様です。

それにしても全体の物語の中で、アイシスとライアンとイズミルは本当に報われないですね。節目節目の出番も多くてこんなに頑張っているのに、弟は結婚は政治的駆け引きだから思い入れも何もない、みたいなことを言っておいてナイルの娘に走るわ、妹はやっと発見されたと思ったらまた失踪するわ(しかも存在だけは伝わってくる!)、戦争は撤退を強いられて思い人が手に入る見込みもないわで。
特に2幕で、せっかく目の前で眼福・耳福なデュエットやカルテットが披露されているのに、繰り広げられるストーリーは叶わぬ愛や末端の兵士の死、という鬱展開なのは結構辛いです。
これは別に、2幕のカルテットで自分が眠ってしまった言い訳ではありません(^_^;)。でも本当に疲れてしまったのです。

そんな中で、宰相イムホテップ様が、出番が少なくなったにもかかわらず、ダイソンの掃除機並みの吸引力、もとい求心力を発揮し、しかも癒しパワーまで発揮していたのは救いです。
Twitterでどなたかも指摘されていましたが、最初の登場で大階段を老人らしくえっちらおっちらと杖を突いてゆっくり下りてくる姿とか、その後王様と再会して本当に嬉しそうな姿とか、終盤で愛を確かめ合っているカップルを横目に見て実に嬉しそうにしている姿とか、あとカーテンコールで隣のライアン兄さんにちょっかいを出しているさまとか、色々と眼福な癒し要素はございます。
何だか「エジプトの知恵」というよりは「エジプトの癒し」になっているような気がするのです。

なお前回、エンディングを変更するなら、いっそもっと婚礼衣装などでゴージャスにならないものか? という趣旨のことを書きましたが、今回観て、
「最後にメンフィスが羽根背負ってポーズを決めながら大階段を下りてきて、キャロルと踊るなどすれば良かったかも。ついでにイズミルとミタムン(あるいはイズミルとルカでも可)がデュエットダンスを踊って、そして全員集合したら宰相様とアイシス様とライアン兄さんとウナスとセチがシャンシャンを持って……」
と不謹慎なことを考えてしまいましたすみません(^_^;)。

というわけで消化不良気味ですが、この辺で失礼いたします。

『王家の紋章』再演初日感想(2017.4.8ソワレ)

キャスト:
メンフィス=浦井健治 キャロル=宮澤佐江 イズミル宮野真守 ライアン=伊礼彼方 ミタムン=愛加あゆ ナフテラ=出雲綾 ルカ=矢田悠祐 ウナス=木暮真一郎 アイシス濱田めぐみ イムホテップ=山口祐一郎

めでたく再演と相成りました『王家の紋章』の初日公演を見てまいりました。
しかし、ちょっと困惑しています。何故なら、再演に付き物の脚本の手直しや演出のテコ入れにより、物語の色合いが全く別物になっていたためです。

それでも1幕を見終えた時には、あれ? あのシーンもこのシーンもカットされた? と思いながらも、余分な細部を刈り込むことによりストーリーにメリハリが付いて分かりやすくなった、とそれなりに評価していました。
しかし。2幕を観た後には、
「刈り込み過ぎてつるっつるになってしまったんじゃないか、これ」
と当惑する自分がおりました。

カットされたシーンは、例えばメンフィスがキャロルに「腕ポキ」する場面。
キャロルについては、「私は未来から来たのだから歴史を変えてはいけない」などと逡巡して散々「面倒くさい女」ぶりを発揮する場面が細かく削られて、一途さや気の強さを発揮する局面が増えたような印象です。
あとセチ母子とキャロルの絡む場面も減っていたように思います。

もちろん場面の整理と料理のし直しで良くなったと感じた所もありましたし、ここ、残してくれてありがとう! と思った場面もありました。
前者の例は、1幕序盤のライアン兄さんの居方。エジプトとは異なる地のオフィスビルにいることがビジュアル面で分かりやすくなりました。それからルカの工作活動。彼が2幕のキャロル拉致に至るまでいかに動いたかが、初演より明確に伝わるようになっていたと思います。
後者の例は、2幕で戦闘に向かう前のメンフィスのソロと、セチのダンスとのコラボです。立場は違えど「キャロルを救いたい」という思いは一緒で、しかし対照的な結末を迎える2人の共演場面を残してくれたことは評価したいです。

残念なのは、メインのカップル+イズミルの3人以外の人物像の描写が全体に薄めになってしまったことです。
特に宰相様。確か初演では、戦いに赴く主君や軍勢に、初期の戦いの目的を見失うな、という言葉を贈っていた筈ですが、その場面が削られていました。
それから、王家には新たな血を加えるべきと考える宰相様が姉弟婚にこだわるアイシス様に苦言を呈する場面もカットされていました。
この対話場面なしに宰相様が嫉妬するアイシス様を眺めて、
アイシス様も恋をすると愚かになられる」
と嘆くので、宰相様がいくらキャロルの才覚を買っているとしても、何故アイシス様とメンフィスの結婚に反対するのかが見えづらくなってしまった気がします。
2人の対話の場面があってこそ、終盤の宰相様の祝婚歌が深みを持って伝わっていたと思うのですが……。

恐らく新しい演出の意図としては、初演のように多彩な登場人物にスポットを当てて見せ場を作るのではなく、メンフィスとキャロルの恋物語を太いうねりとして見せるために、メリハリを付ける方向性に持って行こうとしているのだろうと分かります。
ただ、その割には2幕でイズミルのソロが延々3曲分ぐらい続く場面は初演からそのままなのですね(^_^;)。
エジプトに妹を惨殺されたイズミルの恨みの深さを示すことは、その後のキャロルにまつわる心境の変化と対比させる意味で大事とは思います。それでも、ちょっとイズミルに費やす尺が長すぎる、と感じました。
ラストに追加されたメンフィス&キャロルのデュエットも……良い曲なのですが、ええと、何か存在感が薄いような?
金ピカの婚礼衣装をこのラストナンバーで身に着けていないのも謎です。そして何故か婚礼衣装はカーテンコールで着てきます(^_^;)。

私、オギーさんの演出は3、4作ぐらいしか観ていないのですが、多分彼の演出の真骨頂は、割り切れそうで割り切れない、観客を突き放して「え? これで終わり?」と戸惑わせつつしっかり余韻を残す所にあると考えています。
ところが今回の『王家』では、恐らくは若い世代に伝わりやすいよう、枝葉末節の綺麗な剪定を試みるあまり、本来の持ち味である、観た者の心にこびり付く澱のようなものが薄まってしまったように思うのです。
とは言え、観に行く予定はありませんが、大阪公演ではまた少し変わるかも知れませんね。
とりあえず、帝劇でもう一度観る予定がありますので、その際に少しでも印象が改善されることを期待します。

『クリエ・ミュージカル・コレクションIII』(2017.2.9、2017.2.25)セットリスト

こんにちは。大変に今更感がありますが、備忘録(主に自分の後からの反芻用(^_^))として『クリコレIII』のセットリストを記しておきます。
改めて見直すと、このキャストとセットリストで1ヶ月近く通し興行だなんて、本当ゴージャスで贅沢で素敵です。「反芻」と書きましたが本当に思い出すだけで何年も心の栄養補給ができそうに思います。
なお誠に残念ながら、最終週のセットだけは聴けておりません。観たかったし聴きたかったなあ……。

  1. エドウィン・ドルードの謎』より「ようこそ」(山口祐一郎&全キャスト)
  2. 『三銃士』より「帰ってきたミレディ」(瀬奈じゅん
  3. 風と共に去りぬ』より「葉巻き」(岡田浩暉&男性アンサンブル)
  4. サンセット大通り』より「As If We Never Said Goodbye」(保坂知寿
  5. 『CHESS』より「アンセム」(田代万里生&アンサンブル)
  6. マイ・フェア・レディ』より「ラブリー」(大塚千弘&男性アンサンブル)
  7. 『She Loves Me』より「好きになってくれるかしら」(涼風真世
  8. 『42nd Street』より「42nd Street」(吉野圭吾&アンサンブル)
  9. 『ウエストサイド物語』より「マリア」(今拓哉
  10. ローマの休日』より「ローマの休日」(大塚千弘&田代万里生)
  11. 『パイレート・クイーン』より「フィナーレ」(保坂知寿山口祐一郎
  12. 『シラノ』より「栄光に向かって」(岡田浩暉&今拓哉&田代万里生&吉野圭吾&男性アンサンブル)
  13. 『エニシング・ゴーズ』より「フレンドシップ」(瀬奈じゅん&吉野圭吾)
  14. モンテ・クリスト伯』より「地獄に堕ちろ!」(今拓哉&田代万里生)
  15. 『グッバイ・ガール』より「I Think I Can Play This Part」(岡田浩暉)
  16. レ・ミゼラブル』より「One Day More」(全員) (Act1終了)
  17. 『天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜』より「さあ、声を出せ!」(大塚千弘涼風真世瀬奈じゅん保坂知寿&女性アンサンブル)
  18. 『シラノ』より「独りで」(田代万里生)
  19. モーツァルト!』より「終わりのない音楽」(大塚千弘今拓哉
  20. 『パイレート・クイーン』より「ひとを愛する女こそ」(涼風真世保坂知寿
  21. エリザベート』より「最後のダンス」(山口祐一郎
  22. 『ニューヨークに行きたい!!』より「地獄からのメッセージ」(アンサンブル)
  23. アンナ・カレーニナ』より「待ち焦がれて」(瀬奈じゅん&岡田浩暉)
  24. ミー&マイガール』より「ミー&マイガール」(大塚千弘&吉野圭吾)
  25. エドウィン・ドルードの謎』より「おかしくなる」(今拓哉
  26. 『天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜』より「天国へ行かせて」(瀬奈じゅん&アンサンブル)
  27. 『ロミオ&ジュリエット』より「エメ」(涼風真世&岡田浩暉&アンサンブル)
  28. サンセット大通り』より「サンセット大通り」(吉野圭吾)
  29. レベッカ』より「夢に見るマンダレイ」(大塚千弘&アンサンブル)
  30. レベッカ』より「何者にも負けない」(涼風真世
  31. レベッカ』より「レベッカI」(保坂知寿
  32. エリザベート』より「私が踊る時」(瀬奈じゅん山口祐一郎)(2月9日)*1/『エリザベート』より「闇が広がる」(田代万里生&山口祐一郎)(2月25日)*2 *3
  33. 『ニューヨークに行きたい!!』より「未来は今、始まる」(大塚千弘涼風真世瀬奈じゅん保坂知寿・岡田浩暉・今拓哉・田代万里生・吉野圭吾・アンサンブル)
  34. オペラ座の怪人』より「Music of the Night」(山口祐一郎
  35. ミー&マイガール』より「ランベス・ウォーク」(全員)

*1:2月9日〜16日まで同曲(公式サイトより)

*2:2月17日〜25日まで同曲(公式サイトより)

*3:未見ですが2月26日〜3月5日(千穐楽)までは「私が踊る時」(涼風真世山口祐一郎)であったと思われます。(曲目&歌い手は公式サイトより)

『クリエ・ミュージカル・コレクションIII』感想(2017.2.25マチネ)

キャスト:
大塚千弘 涼風真世 瀬奈じゅん 保坂知寿 岡田浩暉 今拓哉 田代万里生 吉野圭吾 山口祐一郎 木内健人 福永悠二 松谷嵐 横沢健司 天野朋子 島田彩 堤梨菜 橋本由希子

再びクリコレIIIを観てまいりました。杖なしでクリエまで行けるようになった体力に感謝!
今のところ、これがマイ楽の予定です。ああ、山口×涼風ペアの「私が踊る時」も聴きたかったなあ……。

今回の日直さんは涼風さんでした。
以下、自分の脳みそだけでは追いつかなかったので、Twitterのフォロワーさんから教えていただいた内容で補完しまくった日直レポートです。

黒いレースのロングドレスで登場した涼風さんの「コレクション」なナンバーは、22年前に出演した『シー・ラブズ・ミー』の「好きになってくれるかしら」とのことでした。
演目の話題に進むかと思いきや、「22年前」にちなんで袖から知寿さん、千弘ちゃん、瀬奈さん(あさこちゃーん! と呼んでました(^_^))を呼び出し、お三方に「22年前は何をしてましたか?」というインタビューを開始。

まず、知寿さんは、22年前っていつだっけ? としばらく数えて遡った後に、22年前は申し訳なく思いながら子供の役をやってました! と回答されていました。涼風さんが「ショートパンツをはいた役?」と訊くと、はい、と肯定。
私は四季時代の演目は観ていないのですが、恐らく『夢から醒めた夢』辺りのことと思われます。でも同時に子供のいるお母さん役もやってました! とご回答。『マンマミーア!』かな? と思いましたが、複数の方から22年前なら『アスペクツ・オブ・ラブ』のことだろう、と教えていただきました。
『アスペクツ・オブ・ラブ』はロイド・ウェバー作曲のミュージカル、四季で石丸幹二さんや堀内敬子さんも共演されていたとのことで、ううん、これは観たかった! CDも出ているようですが、やはり生舞台で。

続いて千弘ちゃんは22年前は小学2年で徳島でハナ垂らして棒振り回して遊んでました! とご回答。知寿さんのほか、瀬奈さんも「22年前」を思い出すには一瞬考え込んでいましたが、千弘ちゃんの場合はすんなり「22年前の年齢」が出てきてました(^_^)。
小2でした、を受けて涼風さんが、もう携帯はあったの? という問いを投げかけると、ポケベルがありました、と千弘ちゃんが返答。その答えを聞いて何故こちらも安堵してしまうのか……。

あさこちゃーん、こと瀬奈さんは、私寅年生まれで、他2人も寅なんですよ! と話を逸らすも先輩に引き戻され、22年前は「男性」でした、とご回答。宝塚の研3か研4辺りだったそうです。袖から突如男性アンサンブルの木内健人くん(観劇直後、お名前を失念してました。すみません)が呼び出され「当時はこのくらいのカッコよさで」と突然のサンプル化。さぞ驚かれたことと思います。
木内くんにも22年前は? の問いが振られ、5歳でした、と回答されていました。若い! なお瀬奈さん、当時は「このくらい」でしたが、その後頑張ってもっとカッコよくなったそうです(^_^)。

なお肝心の日直さんの思い出は、時間がないので、とほぼ割愛されていました。ただし今回の『シー・ラブズ・ミー』の曲のお衣装は当時の物を着用、とのコメントが。さすが妖精、何と素晴らしい体型維持! と驚愕しておりました。ちなみに後から登場したお召し物は綺麗なピンクのコートで、全く違和感のない可愛らしさでした。細身のコートって二の腕や背に肉が付くと意外と入らなくなるんですよね(自虐)。

ちなみに同日ソワレの日直トークでは「22年前・男性キャスト編」が繰り広げられ、何と山口さんも登壇されたとか。もちろんあの方が易々と22年前を語るわけがありませんが、なかなか楽しい漫才になっていたようです。

日直トーク終了後の舞台本番ですが、セットリストは一曲を除いては初日と一緒であったと思います。
唯一異なっていたのは2幕の一曲、山口トートと万里生ルドルフによる「闇が広がる」。私、この2人が出演する『エリザベート』の本番舞台を観ましたが、その時よりも今回のデュエットの方が格段に素晴らしいと思いました。やはり万里生くんの深みが増したのでしょうか。

今回全体を通して改めて感じたのは、キャスト全員の歌やダンスに有無を言わせない説得力があるという点です。
何だかんだでキャストの皆さま各々には得意分野というのがあると思います。例えば圭吾さんや瀬奈さんのダンスや万里生くんの豊かな声量と言った技巧的な面のほか、岡田さんはどちらかと言えば白みのある歌に、今さんは黒みのある歌に持ち味が出るなど、そういうものも含めまして。
今回に限らずクリコレでは、皆さま「得意分野」の楽曲のみならず「そうでない」楽曲にも挑んでいますが、そうした「そうでない」楽曲においても自然と拍手を送りたくなる素晴らしい芸で魅せてくれる所に、歴戦のプロフェッショナルの持つ説得力を見たように思います。
しかし、その説得力を持ってしても、1幕ラストのあの「還暦アンジョルラス」は面白過ぎるわけですが(^_^;)。両脇に元アンジョルラス2名を従え、生き生きと「ワン・デイ・モア」を歌い上げるあの勇姿と満面の笑みとを、私は生涯の宝物として思い出の中で大事にしていくつもりです。

アンコールのあれも……もう言ってしまって良いですね。

仮面のない山口ファントムの登場。

今回、後方席だったのを良いことに、終始オペラグラスでガン見しておりました。前方席でじっと見るのはさすがに恥ずかしかったので(^_^;)。
長いこと遠く離れていたファントムが山口さんに降りてきている。あるいはイタコのように主体的に降ろしている。いずれであるかは不明ですが、とにかくファントムが、そして彼が執心するあの少女が、確かにそこに降臨していました。
天賦の才を持ちながらも愛を与えられず化け物と恐れられ、孤独で閉じ込められて歪み、怪人として人殺しに走る人物。その人物をかつて演じた、ファントムと異なり世界で色々な物を見て、愛も嘲笑も、人生の頂点も、そして演じる場を失う絶望も体験して60年を生きた男。その60歳の彼が再びファントムを歌い演じるのが、本当味わい深いし感慨深いしで、とてもたまらない心持ちに陥りました。

このファントムもまた、私の生涯の美しい宝物になると確信しています。

まだまだ思い出し感想が書けそうに思いますが、本日はひとまずここまでといたします。長々とお付き合いいただきありがとうございました。

『ビッグ・フィッシュ』感想(2017.2.18マチネ)

キャスト:
エドワード・ブルーム=川平慈英 ウィル・ブルーム=浦井健治 サンドラ・ブルーム=霧矢大夢 ジョセフィーン・ブルーム=赤根那奈 ドン・プライス=藤井隆 魔女=JKim カール=深見元基 ヤング・ウィル=りょうた ジェニー・ヒル鈴木蘭々 エーモス・キャロウェイ=ROLLY

日生劇場で上演中の『ビッグ・フィッシュ』を観てまいりました。

元はティム・バートンの映画で、映画の脚本家がこのミュージカルの脚本も手がけたとのことです。
若き日の壮大で不思議な冒険譚を一人息子に語り続けるが、どこかで息子と正面から向き合おうとしないエドワード。いつしか父親の言葉に耳を傾けることを止め、お喋りでいい加減な父親として疎む息子のウィル。ウィルの披露宴でエドワードは息子との約束を破ってしまい、大げんかになるが、その後エドワードと妻サンドラが隠していた病がウィルと新妻ジョセフィーンの知るところとなったのをきっかけに、ウィルは父親の真実を何も知らないことに気づいて……というのが、この舞台のストーリーです。

妖しげに予言を告げる魔女、恐ろしげだが心優しい大男、あこぎだが意外と誠実な狼男。舞台上に描き出されるエドワードの冒険譚は、ミステリアスで美しくもどこか見世物小屋のようにごてごてと飾り立てられた作りもの感を醸し出しています。とりわけ、キッチュな幻想の極みであるサーカスの光景と、そこで歌い踊る少女サンドラと双子(?)の少女の美しくもチープな可愛らしさよ。
「パパの話に登場する美女は、いつもママなんだ」という2幕でのウィルの言葉のとおり、踊るサンドラが夢想の産物なのか、実際にエドワードが目にしたものなのかは分かりません。ただ、全くの作りものではなく、一片の真実が含まれていたのだろうと思います。

エドワードは夢の冒険譚ばかりを語り続け、肝心の真実は一言も話さない。ウィルと同じく、途中までは私もそう思っていました。
しかし、エドワードの冒険譚にはある重要な真実のヒントが隠されていました。ウィルが真実を辿る2幕の展開が、とてもドラマティックで、それまでのキッチュなファンタジー場面が見事に現実へと繋がって行きます。

この真実へウィルを誘導するキーマンの役割を果たすのが、蘭々さん演じるジェニーです。
失われて二度と戻ることのない、大切な宝石。しかし希望を持ち新天地を得ることにより守られた、かけがえのない大事なもの。たくさんの美しい幻想に包まれ守られてきた、隠された財宝。それらの存在をウィルに伝える重要な人物を、蘭々さんが好演されていました。2幕の3分の1以上は、彼女がかっ攫っていったように思います。

そして、真実を手に入れたウィルは、かつてたくさんの夢の冒険譚を聞いた者として、父親の若き日に魔女が予言した光景を実現させるために最初で最後の手助けをします。
エドワードからウィルへ、ウィルからその息子へと、バトンリレーのように繋がれて行く夢。この辺り、ちょっと『フィールド・オブ・ドリームス』的だと思いました。
舞台上の空間に、何度かホログラフの巨大な魚(ビッグ・フィッシュ)がゆったりと泳ぐ場面がありましたが、物語の冒頭で見たビッグ・フィッシュと、ラストに泳ぐビッグ・フィッシュとでは、全く印象が異なります。夢を抱いた者の肉体が消滅しても、それ(夢)を受け継ぐ者がいる限りはビッグ・フィッシュはどこまでも泳いでいくのです。

振り返るとこのお芝居、実はミュージカルでなくても良いのかも、という気もする一方で、慈英さんの地に足の付いたペーソス溢れる歌声と、少年期から老年期まで、様々な時代を瞬時に行き来する快活でポジティブな演技、そして浦井くんの要所要所を締める力強くも温かい歌声と徐々に解けて行く心の表現とがなくてはならないものとも感じたので、やはりミュージカルである必然性はあったのだろうと考えています。

そして、舞台上に表現されるキッチュな香り漂うファンタジー場面や、対照的に温かい光に満ちながら沈み行くエドワードの故郷、透明感溢れる湖水を湛えたウィルの故郷の美しさといった場面。これらの場面演出は見どころのひとつになっています。

最後に、あまりこういう話を身の回りの現実と結びつけるのは野暮かも知れませんが、日本ではここ数年、災害や事故により故郷の風景が失われる悲しい出来事が続いています。
ビッグ・フィッシュ』のエピソードは災害でも事故でもないので、単純に一緒くたにできるものではないかも知れませんが、故郷を失っても人は、別の居場所を見つけてでも、優しく輝く宝石を心に抱いて生きていく力を持っているのだ。そう思わせてくれる、哀しくも温かい、人が夢を抱いて生きる力を信じさせてくれるミュージカルだと思いました。

蛇足な付け足し。浦井くんと子供の並びって、実にしっくりと似合うと思います(^_^)。

『クリエ・ミュージカル・コレクションIII』初日感想(2017.2.9ソワレ)

キャスト:
大塚千弘 涼風真世 瀬奈じゅん 保坂知寿 岡田浩暉 今拓哉 田代万里生 吉野圭吾 山口祐一郎
木内健人 福永悠二 松谷嵐 横沢健司 天野朋子 島田彩 堤梨菜 橋本由希子

シアター・クリエまでクリコレIIIこと『クリエ・ミュージカル・コレクションIII』を観に行ってまいりました。
なんと、これが2017年の観劇始めです。昨年まででは考えられないこのスロースタート……。

昨年まではセトリ(セットリスト)は記憶が頼りだったため、年寄りには厳しくなり始めていましたが、今回からセトリがロビーで配布されるようになったので、嬉しい限りです。
ミュージカル・コンサートの場合、未見の演目*1の楽曲が分からず困ることがありますが、セトリさえあれば後から「ああ、あの演目の歌! 再演したら観に行きたいかも」等と合点が行くという利点もあります。
しかし、今回まだ開幕から3日目と日が浅いですので、セトリや重要なネタバレはこの記事では書かずにおきます(軽微なネタバレは書く)。

ということで、非常にまどろっこしくなりそうな感想です。

今回のコンサートの舞台セットは、トランプカードをモチーフにしたものでした。カードのマーク部分にLEDが仕込まれていて、時々良い感じで光って綺麗です。

1幕は、キャストのオープニング・トークから始まりました。
初日の「日直」*2は万里生くん。最初が、自分のコレクションは『CHESS』の一曲(未見なので曲名失念)で、石井カズさんと中川アッキーさんの対局を審判する役で、色々な意味でなかなか大変でした、というお話でした。
その後は今回の楽屋話。クリエの楽屋でお隣のお二方(今さん&岡田さん)の楽屋から笑い声(今さんのは聞こえず専ら岡田さんの、らしいです(^_^))が聞こえてきて楽しそうなので、同じ楽屋の圭吾さんに、お隣と壁を取っ払いたいです、とこっそりお話ししたところ、圭吾さんが「じゃあ俺が言ってくるよ」と先輩らしく侠気を見せたと思いきや……というエピソードを、やられたー! という感じで楽しそうに語っていました。

トーク終了後、1曲目スタート。賑やかで楽しい、山口さんがリードして全員が登場するあの曲でした。
その後は、瀬奈さん、岡田さん、知寿さん、万里生くん、千弘ちゃん、涼風さん、圭吾さん、今さん、再び千弘ちゃんと万里生くん、そして知寿さんと山口さん、という順番で全員が次々に歌っていったのですが、曲目のセレクトが、
「あれ? この曲目をあの方じゃなくて貴方が歌いますか? じらしてる? でも、確実にこの選曲、誰かさんにリスペクトしてるよね?」
という印象だったので、こ、これは絶対何か隠し球があるに違いない! とどきどきしていたら、1幕の最後に大きな大きな隠し球の正体が明らかになりました。
アはアンジョルラスのア。アは赤色のア。
あの曲で、あれだけ狂喜乱舞した上に爆笑したことは、後にも先にも恐らくないと思います。
1幕はセトリによれば、計16曲演奏されたようです。

2幕でも、「そう、この曲はこの方でなくては!」というツボをしっかり抑えつつ、「おお、この曲を、この方(達)が歌いますか」という本舞台ではないコンサートならでの楽しみもあって、耳も目も大満足でした。

ここでちょっとまた「あれれ?」と思ったのは、長年当たり役として持ち歌にしてきたあの曲を歌われた山口さんの出で立ちでした。
役のカツラを付けていたのですが、髪の色などが、ご自身が演じられていた時のイメージとは異なっていました。あの役はもう若い者に譲ったから、今回歌っているのはあの役の復活ではなく、あくまでかりそめの姿なんだよ、ということをさしているのでしょうか? 考えすぎ?

2幕の17曲目(通しで33曲目)を、山口さん以外の全員(含むアンサンブル)で歌われた後に、アンコールで山口さん登場。
「えええ! これを歌う? こんなことがあっていいの?」
と息を飲みつつ耳を澄ませていたら、あっという間に1曲終わっていました。
ちなみに歌詞は英語でした。山口さんの英語の歌を聴いたのは、多分M.A.の帝劇初演楽動画で聴いたWhite Christmas以来。つまり、きちんと英語で歌うのを聴いたのは初めてでした。
歌い終えて、いつもの両膝に手を置く端正なお辞儀をする山口さんを見つめながら、所詮昔を知らない観劇新参者につき、泣く、までは行きませんでしたが、時が経てばこんな日が来ることもあるのだなあ、と感慨深かったです。そして、普通に「生きてて良かった」と思いました。

なお、日本語訳詞のある楽曲が英語詞で歌われる事情は、普通にとある劇団*3の版権の事情だと思っていましたが、Twitterで伺った限りでは、たまに許可が出ている場合もあるようです。ただ、今回のような公演では普通は許可が下りないだろうと思います。

ラストの2幕19曲目(通算35曲目)では、客席降り演出がありました。実は今回最前列でしたので、色々堪能することができました。ありがたや。
全員で踊る場面もありました。山口さん、軽くですが、普通にステップを踏んで踊っていましたよ(^_^)。

初日ですので、カーテンコールではご挨拶がありました。皆様爽やかに真面目な内容で、積極的に笑いを取りに行っている方はどなたもいらっしゃらなかったように思います(←何を期待しているのか)。

以下、今回のプリンシパルキャストに関する一言感想です。
千弘ちゃん。人妻になってもコケティッシュな可愛らしさは健在でした。
涼風さん。自称「妖怪」ですが、妖怪と言うより見る度に人外感に溢れた美しさが増しているように思います。
瀬奈さん。お歌に安定感が増して、私の中で徐々に「この人が舞台にいれば安心」要員になりつつあります。
知寿さん。涼風さんや山口さんと言った人外要素の強い華と、全く別のタイプの至高の華として対峙して中和して、最高の華を咲かせることのできる、数少ない人材だと思いました。
岡田さん。まさかその曲を貴方が歌うとは! とびっくりしましたが、考えてみたら岡田さん、何年か前に別の役ですがあの演目に出ていた、と後から思い出しました。以前も別のコンサートの時に思いましたが、歌だけで自分の世界空間を舞台上に作り出せる役者さんのお1人です。
今さん。男声デュエットや男声カルテットで強烈な光を放っていました。あの変態紳士にも久々にお目に掛かれて嬉しかったです(^_^)。
万里生くん。実は結構私の好みの歌声と歌い方になってきた感じがしています。ただ、別の席で観ていた友人が「万里生くんはちょっとおじさんになってきた」と言っていて、はっ、もしやその年輪が影響しているのか? とも思っております(^_^;)。
吉野さん。ダンスのちょっとした一挙一動で舞台を支配するのは、やはりこの方ならではです。でも、それだけでなく、お歌も本当に精進されているのだな、と今回改めて思いました。瀬奈さんとのデュエットが素敵でした(^_^)。
そして山口さん。この方がお元気で、キラキラとした笑顔で、サービス精神旺盛に舞台上にいてくださることは、とてもありがたいです。前回の舞台が大変シリアスだったので、より一層キラキラ笑顔が心に染みいるのかも知れません。これからも益々お元気で、そして華やかでありますように。

*1:私の場合『42nd Street』、『モンテ・クリスト伯』等、非常にたくさんの演目が該当します。

*2:演出家山田さんのブログの表現を拝借。

*3:バレバレですがあえて書かない。

謹賀新年・2016年総決算

旧年中は大変お世話になりました
今年もどうぞよろしくお願い申し上げます

さて、新年早々恐縮ながら、旧年のやり残しということで2016年の観劇生活をざっくりと振り返ってみます。

昨年の観劇リストは下記のとおり。計11回の観劇でした。

楽しかったのは何と言ってもTdV
お腹を抱えて笑いっぱなしだったのはエドウィン
何の邪心もなしに世界を堪能できたのはジキハイ。
人生の一瞬の煌めきが切なくも美しかったのはアルカディア
娯楽への徹底に好ましい潔さを感じたのは王家。
そして頭と心をフル稼働させてもなお消化しきれないのは貴婦人。
どの演目も、それぞれ美味しく賞味いたしました。

我が身を振り返りますと、以前もご報告しましたように、昨年4月末から約3ヶ月ほど病気療養を余儀なくされました。病気の方は経過観察中ですが、気力と体力の回復度合いは療養以前の8割程度であり、加えて手術後の後遺症のためいまだに若干外出が不便な状態が続いています。

秋冬の公演では浦井くんの『ヘンリー四世』もとても観たかったのですが、全幕を見届けるだけの体力に自信がなかったため泣く泣く断念しました。もうしばらくは演目のハードさと体力の回復度合いとを天秤にかけながら劇場に通うつもりです。

実は最近、こちらのブログを続けるべきかどうか、何度か迷いました。
『貴婦人の訪問』の観劇の度に自身の感性の貧しさや教養の拙さに打ちのめされ、心に渦巻く思いを自らが充分納得の行く豊饒な言葉で紡ぎ出すことができない、と、自身の書き物にうんざりする時を過ごしていたのです。
しかし、ごく最近は、各々の演目への思いを私自身の言葉で書き綴り、それらをWebの端っこに載せることにより、同じ演目を観た誰か、観る予定の誰か、未来で過去の演目について知りたがる誰か、あるいは演目の作り手の誰かに伝わり、何かを受け取ってもらえさえすれば、それで良いのかも知れない、という考えに少しずつ至っています。

……とは言え、このような考え方は自意識過剰過ぎるかも知れません。新年はブログに限らず、もう少し、ゆるゆるとしたスタンスで臨めれば、と思います。皆さま、引き続きよろしくお願い申し上げます。

『貴婦人の訪問』東京千穐楽感想(2016.12.4マチネ)

キャスト:
ルフレッド・イル=山口祐一郎 クレア・ツァハナシアン=涼風真世 マチルデ・イル=瀬奈じゅん マティアス・リヒター=今井清隆 クラウス・ブラントシュテッター=石川禅 ゲルハルト・ラング=今拓哉 ヨハネス・ライテンベルグ=中山昇

『貴婦人の訪問』東京楽を観てきました。
クリエに向かう途中で山手線が、秋葉原駅での乗客線路立ち入りや品川駅でのモバイルバッテリー発火騒ぎで一時運転見合わせになり、慌てて京浜東北線に乗り換えるも有楽町駅は通過する時間帯のため、結局東京駅で下車し、日比谷まで20分ほどかけて、ステッキを突きつつ歩く羽目に。何とか無事開演に間に合いましたが、少しだけ『貴婦人』の終盤でやはりステッキを突いて市民裁判の会場に駆けつけるクレアの気持ちが分かったような気がします。

東京楽の座席は、3列目の下手サブセン。キャストの生声が伝わってくる良席でした。

今回観ていて、アルフレッドとクラウスとの対話に何とも言えない悲しみを覚えました。
ルフレッドは1幕〜2幕の序盤では周囲の変貌にすっかり怯えきっていて、クラウスの思いやりの言葉さえも策略と信じて心を閉ざしています。2幕の雑貨店で市民に罵られた後の対話でやっとクラウスの優しさと、善い人が故の苦悩と絶望に気づくのですが、時既に遅し、でした。
それはたとえ集団心理の前で2人が無力であったとしても、もっと早く分かり合えていればもう少し展開が違ったのではないか、と、大変に悲しいエピソードです。しかし恐らくこの2人の対話があったからこそ、次の場面、マティアスとゲルハルトの裏切りを経て、アルフレッドの諦めと決意に結びついたのではないか、と、千穐楽でようやく思い至りました。
禅さんの演技からは毎回、クラウスの「どうしようもない心持ち」が伝わってきていましたが、この千穐楽ではそれが際立っていたと思います。
また、万感の思いを込めて去りゆく友に手を振る山口アルフレッドの背中も、何とも静謐でありながら、果てしない切なさを漂わせていました。

今季初めて怒りを覚えたのは、1幕で瀬奈マチルデが貴方を守るわ、と山口アルフレッドに語りかける場面でした。
ジェスチャーで感謝らしきものは示しているものの、マチルデの温かい言葉に返事を返すこともせずただ黙って甘えるばかりで、なのに2幕最後には妻を打ち棄てるアルフレッド。私、滅多に山口さんの役に腹を立てることはないんですが、急にむらむらとタコ殴りにしたい衝動にかられました。瀬奈マチルデがひたすら奥ゆかしく可愛らしく夫を信じて尽くそうとしているのに、まるで豆腐に針を刺しているようで、ちょっといらっとくるのです。

そして、東京楽という場ゆえでしょうか。山口アルフレッドと涼風クレアの演技の反射とぶつかり合いも、鬼気迫るものがありました。
特に1幕終盤。相手を撃ち損ね、撃たれ損ねたアルフレッドとクレアは、この時互いへの激しく深い愛を確信したのだと受け止めています。ただし、クレアのそれは、あの時アルフレッドの裏切りで失われた純愛を取り戻し昇華させるには、やはり彼を赦さず断罪し息の根を止めねばならぬ、というものであったと思いますが……。
あと、涼風クレアと、若クレア飯野さん。2幕の「世界は私のもの」での表情、感情のシンクロぶりが半端なかったです。2人のクレアから、彼女の受けた心と身体の痛みが二重に伝わってきて、息詰まる思いでした。
その傷ついてどん底に落ちて、大富豪の老紳士の死後に7人夫を取り替えても癒えることなく元カレと故郷への復讐心を燃やし続けてきたクレアが、アルフレッドと新たな人生を生きることではなく、やはり復讐の成就によってしか救いを得られなかったのは、何とも皮肉で苦過ぎる展開です。

ルフレッドが死を受け入れた――彼女に命を差し出す決意をした――ことにより生まれた、愛という名の永遠の命は無論尊いものではありますが、クレアは心のどこかで自らの陰謀が覆ることを望んでいたのかもしれない、と、最後のクレアの「人殺し!*1」の叫びと壮絶な微笑みを眺めながらどうしても考えずにはいられませんでした。

カーテンコールでは、楽ということで、瀬奈さん、涼風さん、山口さんの順番でご挨拶がありました。
瀬奈さんのご挨拶には、
「毎回酷い捨てられ方をして、毎回魂を揺さぶられる作品でした」
という一言が。この「酷い捨てられ方を」のくだりで、捨てた夫・山口さんが捨てられた妻・瀬奈さんにペコリとお辞儀してました(^_^)。

瀬奈さんの挨拶が終わり、涼風さんにそのまま振るのかと思っていたら、何故か振らず、山口さんが軽くあわあわしながら涼風さんに振っていました。
涼風さんは「昔妖精、今妖怪」のいつものフレーズの後に、昔から、馬、かぼちゃ、妖精*2、宝塚に入ってからは男性を、退団後は女性に戻って、様々な役を演じてきましたが、と前置いて、
「クレアは、私の一番の女性です」
「命続く限りクレアを演じたいと思います」
と言っていました。
「プロデューサーの岡本さん、服部さん、アルフレッド役の山口祐一郎さま、そして愛する共演者の皆様のおかげでクレアを演じることができました」
とも。はい、祐一郎さま別格(^_^)。
最後の山口さんのご挨拶は「いつもの」でしたが、何故か先に共演者の皆様と手を繋いでから、
「皆様とひと時を過ごすことができました。本当にありがとうございました」
と言っていました。観客のみならず共演者への温かい感謝の念も込められていたのでしょうか。

その後は何回か全員お出ましがあった後に、山口さんと涼風さん2人だけでお出ましが3回くらい。
2回目くらいに、演出の山田さんをはさみ打ちで拉致してきてご挨拶。途中で山田さんを舞台前方に無理やり押し出しもあり。
そして、3回目には涼風さんが軽くターンした後、何と山口さんが一回転ジャンプしていました。ああっ、もう還暦なのだからご無理なさらず!と心で叫びながら、でも嬉しかったです。

瀬奈さんや涼風さんがご挨拶でも触れていましたが、これから福岡、名古屋、そして大阪へと貴婦人カンパニーの巡演の旅はまだ続きます。しかし、私自身の貴婦人との旅は、東京楽が最後。今、ちょっと、腑抜けになっております(^_^;)。
どうかまた、涼風さんの言葉のとおり、クレアとアルフレッドにまた出会える日が巡ってきますように。

*1:この「人殺し」にはクレア自身も含まれていると解釈しています。

*2:かぼちゃと妖精は忘れていたのでTwitterのフォロワーさんに教えていただきました。シンデレラの舞台でしょうか?

『貴婦人の訪問』感想(2016.11.20マチネ)

キャスト:
ルフレッド・イル=山口祐一郎 クレア・ツァハナシアン=涼風真世 マチルデ・イル=瀬奈じゅん マティアス・リヒター=今井清隆 クラウス・ブラントシュテッター=石川禅 ゲルハルト・ラング=今拓哉 ヨハネス・ライテンベルグ=中山昇

『貴婦人の訪問』(2回目)を観に、再びシアタークリエに出向いてまいりました。

この作品に関する思いは、もっと気の利いた言葉で語りたくて、でも自分の文学的素養や知性ではとても太刀打ちできない所があり、また、舞台の隅々まで目も行き届かず、たまにTwitterなどで秀逸な感想や鋭い観察を見かけると「ちくしょー!」と羨望と悔しさにまみれたりしています。相変わらずの乱筆乱文となりますことをお許しください。
※ネタバレあります。

オープニングでギュレンの市民がとことん先の見えない不況にあえぎ、かつてぼろ雑巾のように社会的に抹殺したクレアにすがろうとしている姿を見るといつも、
「おまえ達の中で罪を犯したことがない者だけが、この女に石を投げよ」
というフレーズが脳裏に浮かんできます。市民のクレアやアルフレッドに対する所業についてだけでなく、観客として市民に対し、さて、石を投げられるだろうか?と考えてしまうのです。

今回、クラウス校長の指揮で市民合唱団が歓迎の歌を披露する場面で、アルフレッドがひっくり返った音程に驚いてめまいを起こし、ヨハネス牧師に倒れかかっていたことに気がつきました。山口さんのアルフレッド、1幕ではこの他にも、警察署に駆け込む場面でのゲルハルト署長との掛け合い漫才など、結構笑いで攻めています。
1幕でアルフレッドのお芝居がコントであればあるほど、黒豹の死以降の展開がより重たく胸を打つように思います。
特にゲルハルト署長。クラウス校長以外の友人3名は1幕で既に物欲に走っていますが、うちマティアス市長は市の平和と自ら保身のために、ヨハネス牧師も市民の幸せと正義のためにそれぞれアルフレッドとの友情を切り捨てているのに対し、ゲルハルト署長は友情を維持することと、自ら信じる正義の下に友人に引導を渡すこととをどちらも矛盾無く両立させています。*1それ故に、「永遠の友達」のデュエットで歌われる篤く美しい友情は、観ていて心底ぞっとします。曲と2人のハーモニーにはあんなに堪能させられるというのに。

黒豹の死は、正義と街の平和のためなら命を奪うことは赦されるという既成事実を市民に与える分岐点になっています。
でも、アルフレッドは単にクズかっただけで、市民の命を脅かしたわけでもないのに、罪人として黒豹ちゃんのように死を悼んでもらえないのは、何だか不条理ですね。

1幕ラストの「愛の嵐」で思ったのは、アルフレッドは所業だけ見ると本当にクズ男なのに*2、それでもキスされてクレアが一瞬でもぐらついてしまうのは、クレアが憎悪と表裏一体な濃厚な愛情を抱くに値する何らかの魅力を彼が有していたからなんだろうな、ということです。それでも、残り火で塞がるには傷はあまりにも深すぎたということでしょうか。傷の深さは2幕の「世界は私のもの」で徹底的に語られ、息切れしない涼風さんにいつも感嘆しています。

2幕の前半は、私的には観ていてかなりつらい展開です。「元気でアルフレッド」から「モラルの殿堂」を経て、ゲルハルト署長が引導を渡しに来るまでの場面(除く「世界は私のもの」)。もちろんアルフレッドが市民や友人に対して色々と諦め、気持ちを固めるには必要な展開だと分かってはいるのですが、それまでの間のクラウス校長の葛藤がどこまでも辛くて演じる禅さんの歌声もか弱く負け犬感たっぷりで、市民や友人達の行状はこれでもかとえげつなさ過ぎるので。

それだけに、アルフレッドのソロ「もう恐れない」は実に甘く心に染みいるのです。それまで罪ともかつての恋人とも、そして共に暮らす妻とすら正面から向き合ってこなかった男の声色も目つきも、死を前にして水を得た魚のように生き生きしていくのは皮肉なことです。その代わりにマチルデのある意味自業自得とは言え報われなさ加減が際立つわけですが。

ルフレッドとクレアが迎えた結末。普通であればどちらかの死は2人を分かつものですが、この愛は死により永遠が約束されたのだと思います。しかも片割れの死によってしか成就し得なかった愛。
元彼と故郷に対し、策略を巡らして巧妙に復讐を完成させたのは他ならぬクレアであり、彼女にまんまと踊らされた街の人々が導いた状況でもあります。

復讐によってもたらされた結末の凄まじさと裏腹に、成就する愛の構図があまりにも美しすぎるのは、本当に皮肉です。
ルフレッドとクレアの哀しくもしっとりと大人の愛を歌い上げるデュエット「愛は永遠に」の、山口さん&涼風さんの滋味と深味のある歌声。そして、終盤で時が止まったような現在の2人の頭上で幸福そうに抱き合い駈けていく若い2人の輝くような姿。

ストーリーだけ見ると正に2chまとめなどでよく見かける「後味の悪い話」ですし、ラストにクレアが「人殺し!」と吐き捨てたり、マチルデに凄みのある微笑みを向けたりもしますが、やはり自分がこのミュージカルは「愛の成就の物語」であると感じるのは、上に記したような描かれる構図の美しさ故であると思いました。

……ああ、やはりまだ思いをすっきりと語り切れません。この演目、あと1回しか観るチャンスはないのですが。ちなみにクリエ楽がマイ楽になります。

なお、カーテンコールで腕を組んで登場する山口さん&涼風さんが本当に可愛らしくて、オタク用語的意味合いで「尊い」です(「尊い」の参考記事)。あと1回しかこの2人を観られないのが本当に残念で、香水の瓶に詰めて取っておきたいぐらいです(それは違う作品)。

*1:この辺りはゲルハルト役の今さんも作品パンフで言及しています。

*2:あの所業について、彼の人間の器が小さかった以外の拠ん所ない事情があったのかどうかは劇中では一切説明されないので不明です