日々記 観劇別館

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『カム フロム アウェイ』感想(2024.03.16 18:00開演)

キャスト:
ダイアン&その他=安蘭けい ニック&その他=石川禅 ケビンT&その他=浦井健治 ボブ&その他=加藤和樹 ジャニス&その他=咲妃みゆ ボニー&その他=シルビア・グラブ ケビンJ&その他=田代万里生 クロード&その他=橋本さとし ビバリー&その他=濱田めぐみ ハンナ&その他=森公美子 ビューラ&その他=柚希礼音 オズ&その他=吉原光夫

前週に引き続き、2回目の『カム フロム アウェイ』、観てまいりました。

「おけぴ観劇会」貸切ということで、ポストカードのほか、おけぴさん恒例の人物相関図の配布がありました。開演前にその相関図を眺めていて、初回観劇時はストライキ中に搭乗客の輸送対応をすることになったスクールバスドライバーさんたちの動きをだいぶ見落としていたことに気がつき、今回はその辺りに目配りしてチェックすることができました。感謝です!

合計100名以上の人物が入れ替わり立ち替わり登場するステージは、ビジュアル要素が最小限に削ぎ落とされ、その場で瞬間的に管制塔にも航空機内にもバスにも、町役場にも町のカフェやバーにも何にでも早変わり。シンプルな分、身体表現も音楽表現もごまかしが効かず、直球で客席に響いてきます。

前回は、あらすじと素早く役変わりするキャストの動きを追うだけで精一杯でしたが(そして全ての動きは追い切れず……)、今回の公演では12名のキャストが豊かな歌声、そして手練れのバンドメンバーがアイリッシュケルト楽器を駆使して一体になり生み出す「音楽の底力」的なものを感じて受け止めることができたように思います。

歌は特に万里生くんとモリクミさんの美しいデュエットと、黙祷の場面での浦井くんのソロの優しい歌声が印象に残りました。以前『ゴースト』の時にも同じようなことを感じましたが、本作のような「普通の人」の役に回った時のモリクミさんは、意外にも深い味わいの歌声と繊細な演技を見せてくれるのが良いです。

また、毎回心に響く場面は少しずつ異なりますが、やはり「思い煩うことなかれ」は外せないです。この聖書のピリピ書の言葉は地元のスクールバスドライバーと外国人搭乗客の間で交わされたものですが、意味を調べた所、
「今の境遇を思い煩うよりもまず神に祈り願い、人知を超えた存在に心を委ねることで、自分の心に安らぎを見出しましょう」
ということのようなので、まさに受け入れた側と迎えられた側の両方に通じる言葉だと思いました。

特に受け入れる側では町民がクリスチャンかそうでないかに関わらず、思い煩うよりも先に相手の気持ちや立場に寄り添うことに尽力したというのが本作の肝だと考えています。そうしてそのように努力してはいても、異教徒、特に9.11の事件で針のむしろに座らされた無関係のムスリムと心から打ち解け合えるには多少の紆余曲折があったり、ケビンJのようにマイノリティとして受けてきた心の傷に起因する繊細さゆえにコミュニティに溶け込むことの難しさを抱えていたり、といったエピソードを容赦なく描いているのもまたこの物語のリアルなのです。

航空会社の人々については、濱田めぐみさん演じるアメリカン航空の女性パイロットの草分け的存在の方の、積年の苦労に根ざした毅然とした振る舞いも心に残りました。ムスリムの搭乗機への乗務を拒否したCAを見てどう思ったのでしょうか……。あと、ちょこちょこ出てきて地元の女性町民の心に爪痕を残した人たらしのパイロットについて、あまり人物像は深掘りされていなかったので、一体どういう方だったのかが少し気になりました。

観れば観るほどに、この作品について軽々しく語るのがどんどんおこがましいような心境になっていますが、エンディングでとても感慨深い気持ちになれるのは何回観ても変わりありません。ミュージカルで定番のツッコミネタにされる「なぜ全員で大合唱する?」が、この作品においてはとても重要な意味を持っていて、舞台に登場したのべ100名以上の人物全員の思いがこのエンディングに込められていると感じられました。

カーテンコールでは、貸切公演ということで、橋本さんの仕切りのもと、当日が誕生日だった「ゆうみちゃん」こと咲妃さんからご挨拶がありました。この舞台が終わってほしくない、というようなことを仰っていて、ハードな演目に日々挑戦している手練れのキャストの皆様の結束の強さが言葉の端々に顕れていたように思います。

以下は余談です。

今回の観劇ではちょうど目の前が車椅子用スペースでした。出入り口最寄りの端席とは言え比較的前方の席で、付き添いの方の補助席設置も考慮したスペースになっていて、観劇前後のスタッフの対応もスムーズであったように見えました。以前に自分が体調を悪くしていた時にも感じましたが、日生劇場はこの辺りの対応が本当行き届いていて良いです。劇場の作り自体が空間に余裕があり、配慮しやすいというのもあるかも知れません。最近、シネコンでの車椅子ユーザ鑑賞拒否問題があったので、全ての施設で同じような対応を一律に行うのは現実問題なかなか難しいでしょうけれど、それでも対応できるような環境作りは進めてほしいな、と思いました。