日々記 観劇別館

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『ゴースト(GHOST)』感想(2018.8.25 18:00開演)

キャスト:
サム=浦井健治 モリー秋元才加 カール=平間壮一 オダ・メイ=森公美子

シアタークリエで『ゴースト』を観てまいりました。

元の映画『ゴースト ニューヨークの幻』が大変有名な作品であるにもかかわらず自分は観たことがなかったため、ストーリーを知らずに観劇しましたが、ラブコメとしてもホラーアクションとしても、そして人情話としても良くできていて面白く観ることができました。
観劇後に映画のネタバレあらすじをチェックしたところ、舞台と骨幹のストーリーは一緒ながら細部の展開にかなり異なる点もありましたので、きっと映画を観たことのある方も楽しめる舞台だと思います。

ただ、箱のキャパシティに対して音響効果が強すぎるのか、全体的に音が強すぎたり響きすぎたりして、かえって音楽や歌詞が聞き取りづらい印象を受けました。声量のあるキャストが多かったのも影響したのかも知れません。

以下、例により、まだ公演期間中なので核心に触れるネタバレは避けますが、主人公の重要な設定と、それから物語の結末にも若干言及しますので、未見の方はご注意ください。

まず『ゴースト』、様々なジャンルの要素はありますが基本はラブストーリーなので、メインのサムとモリーがかなりしょっちゅうハグやらキスやらでぎゅうぎゅう、チュッチュとやってます😊。

サムは彼女の前では肝心なことをなかなか口にしたがらない、やや古風でテレ屋で純粋な「男の子」な雰囲気で、銀行マンとして働く姿は真面目で熱心でキラキラしていて、でもごく普通の男性。浦井くんには合った役だと思います。ただ浦井くん、あれ?😅 こんなにスーツ似合わなかったっけ? と少し違和感を覚えてしまいました。『デスノート』で高校のブレザー制服を着ていた時はそんな風に思わなかったのですが。親友カール役の平間さんが割としっかりスーツ姿が決まっていたこともあり、意外な銀行マン・サムの印象でした。
とは言え浦井サム、演技と歌はもちろんバッチリで、シリアスもコメディも見事にこなし、モリクミさんがアドリブを仕掛けたと思われる場面でも、たまに耐えられず吹いたりはしていましたが基本はうまくいなしていて、いや、場数をこなして対応力が本当成長したなあ、と思いながら観ていました。……すみません、10年以上前の若手時代を知っているので、どうしても子供の成長過程を見守るような気持ちになってしまうのです。

秋元さんは初見でしたが声量もあり、悲劇に見舞われた中、懸命に自らを奮い立たせ、陶芸アーティストとして腕一本で健気に独りで生きていこうとする女性を好演していました。時々高音部で声が枯れたり詰まったりするのが気になりましたが、モリーは力強く歌い上げるナンバーが多いので、まあWキャストとは言ってもそろそろ疲れが出ているのかも知れないね、と考えながら聴いていました。

意外にも、と言っては失礼ですが良かったのはモリクミさん。
実は他の作品では悪目立ちしていると感じる時もありますが、今回の霊媒師オダ・メイははまり役だと思います。ケチな悪事を繰り返してきた似非霊媒師が突如として霊力に覚醒してしまった戸惑いと、そのために声はすれども姿は見えぬ、ゴーストと現世の人間とを媒介できる唯一の存在である彼女に逃げられぬよう必死のサムや、他のゴースト達にまで取り憑かれ振り回される恐怖、そしてセレブになれるかも? とぬか喜びする束の間の華やかな夢と妄想。どの姿のオダ・メイもオーバーアクションで大いに笑わせてちょっぴりしんみりさせてくれました。
サムとオダ・メイの、たまにどこまでがアドリブでどこまでが台本通りか分からなくなりそうな、ドタバタの掛け合いも楽しかったです。オダ・メイの耳元でノイジーな甲高い声で蚊の飛ぶ音やクレイジーな歌を囁き歌い続けるサムを演じる浦井くんがどこか楽しそうに見えたのは気のせいでしょうか。

この物語の、善玉は強い愛情とたゆまない努力とを重ねて奇跡を引き起こし、悪玉は同情の余地もなく徹底的に懲らしめられ滅びる、という展開は好き嫌いがあるかも知れません。
サム自身や病院のゴースト、はからずもサムの恩人(恩地縛霊?)となる地下鉄のゴーストのように理不尽に命を奪われ現世と冥界との間に留まる存在となったゴースト達と、私利私欲のために人の命を軽んじた結果地獄送りにされたゴースト達。どちらも市井に生きてきた普通の市民であり、紙一重な存在であるというのは何だか切なかったです。

しかし、そうは申しましても、クライマックスからエンディングに至る一連の幻想的な演出にはただ圧倒され目を奪われるばかりでした。
カップルの「再会」を彩る優しい青い光。一転して怒りで激しく燃え立つ青い炎と、悪党に襲いかかり容赦なく飲み込む闇の奔流。全てが終わった後にカップルと霊媒師を鮮やかながら再び優しく包み込む青い光が、ラストに向けて白い光に変わっていきます。
ラストの舞台装置を目にして、何故か井上芳雄くんと浦井くんが共演した『二都物語』を連想しました。『二都』では浦井くん演じるチャールズを守るために井上くん演じるシドニーが、星々の美しい光に照らされながら階段を昇りますが、今回は浦井くんが白く優しい光に包まれながら階段を昇っていきます。その時の浦井サムがまた、哀しくも愛に満たされた、何とも良い表情をしているのです! そして秋元モリーもまた同様。

最初に書いたとおり若干の音響の問題はありますが、真夏にふさわしい涙と笑いとスカッとするアクションたっぷりで、歌唱されるメロディも美しく、3時間近く、じっくり楽しめる舞台だと思います。
なお、最初のカーテンコールの後にもう一つお楽しみがあるので、これから観劇される方はカーテンコールが終わってもすぐに席を立たれないようお気をつけください。