日々記 観劇別館

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『モーツァルト!』御園座大千穐楽感想(2018.8.19 12:30開演)

キャスト:
ヴォルフガング・モーツァルト=山崎育三郎 コンスタンツェ=平野綾 ナンネール=和音美桜 ヴァルトシュテッテン男爵夫人=涼風真世 セシリア・ウェーバー阿知波悟美 アルコ伯爵=武岡淳一 エマヌエル・シカネーダー=遠山裕介 アントン・メスマー=戸井勝海 コロレド大司教山口祐一郎 レオポルト市村正親 アマデ=大河原爽介

ありがたいことに、M!の大楽のチケットを友人に確保してもらえたので、脚を引きずりながら新幹線で名古屋御園座まで行ってきました。
御園座は赤と金に彩られ、正にM!のためにあるような劇場だね! コインロッカーはちょい少なめで、若干段差も多めだけど、お土産コーナーが充実していて退屈しない劇場だね! などと考えながら、いざ開演。

熱い舞台でした。特に2幕が。

とにかくコロレド猊下の「神よ何故」での感情の弾け方が、尋常ではなく熱かったです。
憎むべきヴォルフが創る音楽への執着の強さ故にレオポルトにぶつけられる、絶望と怒りに満ちた眼差しと絞り出される言葉。
「(神に愛された音楽を)傲慢うぬぼれ、愚かな男が創り出す!」
と絶叫した刹那にもたらされる、長い長い沈黙から、音楽の魔術に敬服する美しいファルセットへ。そしてショーストップ。

その猊下の熱さで化学反応が起きたのか、御前演奏会でのレオポルトも、本音では多分誰よりも息子の栄誉を称えてやりたいのに、どうしても自分を裏切った息子を許すことができないジレンマに満ちた、凄まじい父親の情念が爆発していました。
更にそれに触発されたのか、望む愛を得られないと半泣きで絶叫するヴォルフも、強烈なインパクトを放っていました。

そして、偶然を装い帰り道でまちぶせしてヴォルフを捕まえ*1、お前の行く先には破滅が待つだけ、と説得する猊下には、帝劇で観た時と同様、やはりレオポルトとはまた異なる、力強い父性を感じました。ヴォルフと猊下。永遠に相入れることのない2人。決して報われることのない父性。

キャストの皆様、大千穐楽だから熱すぎたというわけでもなく、崩しすぎることもせず、皆様好演されていたと思います。

ただ、大楽ならでは、かどうかは不明ながら、お遊び要素は結構ありました。
猊下は馬車の上でよろけて思い切り、壁ドンか?という勢いでアルコ伯爵に寄りかかってましたし、レオポルトパパに心なしかいつもより強烈なデコピンをお見舞いされた育三郎ヴォルフは、本気で痛そうでした。
あと、今思い出しましたが、育三郎ヴォルフが1幕のプラター公園のコンスと2人きりになってからの対話場面で、延々と逆立ちを繰り返しながら喋っていて、コンスに「まだやる? おおーっ!」と驚かれていました。

ほかのキャストについても少し触れておきます。

涼風男爵夫人は何だか凛々しさが増していたように見えました。ヴォルフを慈母のように優しく包み込んだり背中を押したりするというよりは、社交界を強かに泳ぎ回るキャリア女性としてぐいぐい引っ張っていたように思います。精神的に大人な育三郎ヴォルフには、このくらい強い男爵夫人の方が合っているかも知れません。

あまり引っ込み思案には見えない平野コンスは、今回も愛に飢えてもがき苦しんでいました。「ダンスはやめられない」で過剰な程に息苦しそうなのです。
今期、帝劇でのチケット運が悪く、結局平野さん以外のコンスタンツェも、香寿たつきさんの男爵夫人も観られなかったのがとても残念です。

遠山シカネーダーは、6月に帝劇で観た時にはどうしても吉野さんの面影を追ってしまい辛かったのですが、そういえば今回はそのように感じることはだいぶ少なかったなあ、と思い起こしています。
久々に観て思ったのは、彼はかなり「ぶれない人」なのだということ。前述のとおり舞台の上で思いがけない化学反応と言うか奇跡が起きる瞬間に立ち会えると、観客としては「ありがたや」な気持ちになるのですが、そういう瞬間が「ありがたや」になるのは秒刻みで進行する舞台を、高い技量で自らに課された役割をしっかり果たして安定的に支える人がいてこそであり、彼は正にそういう役割を果たそうとしている人なのだ、と今回感じた次第です*2。願わくば、このM!という作品において、もっと、例えば阿知波さんのセシリアママのように、そこにいるだけで自然に舞台の質を保証してくれるような頼もしい存在になって欲しいなあ、と思います。

……まだまだ書き足りませんが、この辺にしてカーテンコールの思い出に移ります。

楽のご挨拶は山口さんと市村さんからありました。何故この2人?
山口さんは、レオポルトの愛の込められたデコピンに言及し、ヴォルフとの父子の仲をいつも羨ましく眺めていました、と語られていました。
市村さんは、旧御園座の時代、46年前(数字はうろ覚え)に萬屋錦之介さんと中村嘉葎雄さんの兄弟公演の舞台に立った思い出を語り、また、今度は願わくば「市村座」でここに帰ってきたい、ということを仰っていました。
なお、御園座には図書室が併設されているのですが、どうもここに公演期間、市村さん、山口さんらM!キャストのサイン色紙が展示されていたらしいと後から聞きました。図書室は気になるけどどうせ日曜休館だし、と立ち寄らなかったことが悔やまれます。

最後にエプロンステージを全キャストがウォーキングしてお別れのご挨拶をされていました。今回は2階席でしたが、「もちろん」山口さんのお手振りと目線ビームはしっかりと2階まで届いておりました!
そして、最後の最後、幕が完全に降りた後にヴォルフとアマデからもご挨拶がありましたが、不覚にも当日のアマデちゃんのお名前をチェックできておりませんでした。多分爽介くんか美空ちゃんだったと思うのですが……。教えていただけるとありがたいです。
(2018.8.24 23:53追記大楽のアマデは爽介くんです、とTwitterのフォロワー様に教えていただきました。ありがとうございました!

ああ、これで今季のM!は終わってしまった。次回再び現キャストで猊下とレオポルトには出逢えるだろうか、とちょっとしんみりしております。待つ再演!

*1:すみません、妄想です!

*2:スター役者の皆様が高い技量で舞台を支えていない、という意味ではなく、果たす役割が異なっている、という意味です。