日々記 観劇別館

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『モーツァルト!』感想(2021.4.24 17:45開演)

キャスト:
ヴォルフガング・モーツァルト=古川雄大 コンスタンツェ=木下晴香 ナンネール=和音美桜 ヴァルトシュテッテン男爵夫人=香寿たつき セシリア・ウェーバー阿知波悟美 アルコ伯爵=阿部裕 エマヌエル・シカネーダー=遠山裕介 アントン・メスマー=松井工 コロレド大司教山口祐一郎 レオポルト市村正親 アマデ=鶴岡蘭楠(かなん)

 

今季『モーツァルト!』の帝劇公演について、悲しいことに、新型コロナウイルス感染症拡大による4月25日からの通算3回目の緊急事態宣言発令に伴い、4月28日以降の公演が打ち切られることが、本日(4月24日)に発表されました。

これを持ちまして、私の手持ちチケット残り2枚のうち、GW中の1枚(古川ヴォルフ・涼風男爵夫人)が紙切れと化すことになりました。残念ですが、この状況下では粛々と従うことしかできません。

というわけで、宣言発令前夜となる本日の夜公演のチケットが手元に残っていたことに感謝しながら上京し、予定より早いマイ楽観劇に臨みました。

今季最初で最後の古川ヴォルフは、2018年に観た時よりもだいぶ歌が良くなった印象です。声量も猊下や木下コンスとかなり拮抗していました。発声や歌詞の聞き取りやすさで言えば、正直育三郎ヴォルフに一日以上の長があると思いますが(古川さんファンの皆さまごめんなさい)、恐らくかなりヴォーカルを修練されたのではないかと想像しています。

また、個人的にヴォルフガングに抱いている三大イメージは「無分別」「青くさい」「音楽バカ(と言いますか純粋過ぎて音楽以外の全部が(略))」なのですが、古川ヴォルフの場合はこれらが全て備わっていると勝手に思っております。その三拍子揃っているがゆえにパパもナンネールも猊下もあれだけ古川ヴォルフを放っておけずに気を揉んでいるのだろうし、コンスタンツェも心惹かれたに違いない、と。

……すみません、育三郎ヴォルフの一見そつないようでいて、実は色々と破綻している、というキャラクターも別に嫌いではないのです。ただ単に、自分に取っては古川ヴォルフのキャラ付けの方が分かりやすかっただけなのかも知れません。

さて、本日もコロレド猊下は、ぴったりした黒手袋がお似合いで、アイメイクもばっちり、お声も艶々、大変麗しくていらっしゃいました。

1幕の登場シーンで、心なしかマントばっさばさが少なかったような気がしましたが、単に気のせいでしょうか?

馬車の場面では、2週間前に観た時よりも馬車の揺れがひどくなっていました😃。猊下、あそこまでアルコに壁ドン状態になったり、休憩後に再び馬車が走り出した時にひっくり返りそうになったりはしていなかったと思います。

「お取り込み中」の場面では、何度見てもガウンを着せてくれる側女のお姉さん方に接する態度に温かさはあれど、ちっともいやらしさがないのが不思議です。

2幕の「神よ、何故許される」で、ヴォルフという不条理の塊のような存在に対する愛憎半ばする感情をほとばしらせる猊下の表情と、劇場空間に響き渡る歌声とに「驚異的だ……」と浸りながらふと、
「そう言えば16年前の夏、M!の再演時に山口猊下に出会い、雷に打たれたかのような衝撃を受けて沼に落ちたからこそ、今もこうして観ていられる。あの時に出会っていて本当に良かった。神様と、あの時劇場に連れてきてくれた友人たちよ、ありがとう!」
という心持ちになりました。

「謎解きゲーム」での猊下は、夢の中でヴォルフに問いかけた後に下手に捌ける時、ほんの一瞬アマデの頭を撫でてから去っていくのが良いですね。

それから「破滅への道」。この曲の古川ヴォルフとのデュエットバージョンを聴くのは今季初めてでしたが、事前の予想以上にヴォルフの声量が猊下と拮抗していて驚きました。

なお、今回この曲を聴きながら、神の代弁者たる猊下の警告を拒絶したヴォルフは、この時点で猊下だけでなく神様とも決別したのでは? とふと頭をよぎりました。

肉親から深い愛を向けられながら、ボタンの掛け違いから決別に至ってしまったヴォルフ。神様(猊下)からの愛、そして後には妻からの愛とも決別することで、孤独になってしまったヴォルフ。作曲には人間ヴォルフが受け取る「愛」が不可欠だったが、今のヴォルフは独りぼっち。それに才能の化身アマデが神様からもらっていたであろう美しいメロディーも、もう当てにできないし、当てにしてはいけない。だから自分の力でレクイエムを書くしかなかったけれど、それはまさに破滅への道であった……。と、そのようなことをまた妄想してしまいました。

なおカーテンコールでの祐一郎猊下、市村パパのお出ましの際に片手で口元を押さえてしばらく「ぷぷっ」と笑いをこらえる仕草をしていたので、なぜ? と思っていましたが、同じ回を観ていた方のツイートなどを見ると、どうもパパが猊下のお出ましの時の歩き方か何かの真似をされていたらしいです。笑っちゃうの、珍しいな、と思いながら見ていました。他の公演だと祐一郎さんより先輩かつ格上の方がご一緒されることは少ないので、そういう意味でも貴重な瞬間だったと思います。

 

(2021.4.25追記)

観劇後に、昼公演の途中にキャストに帝劇千穐楽前倒し決定が知らされ、カーテンコールで育三郎さんが涙したらしいとの話を聞きました。

しかし夜公演は本当に拍子抜けするぐらい普通のカーテンコールだったのです。でも、古川さんの「ありがとうございました!」の一言にはきっと万感の思いがこもっていたのではないかと想像しています。

 

今季の帝劇公演、観劇3回目にしてマイ楽となってしまいました。

本日、香寿さんの男爵夫人の凛々しさと包み込むような温かさとが漂う歌声を聴いて、色っぽく強かな涼風さんでももう一度観てみたかった、と改めて思っています。

また、2018年よりもぐっと役にはまって華も増してきていて、観るたびに「役が役者さんを作るんだな、楽しみだな」と思っていた遠山シカネーダーも、もっと見届けたかったです。

また、悪役ではあるものの、実は彼女の存在は当時の女性の抑圧の産物でもあると考えると違った見方ができそうなセシリアママも。

木下コンスも今回の「ダンスはやめられない」は鬼気迫っていましたし、祐一郎猊下と阿部アルコの元バルジャン・ジャベールコンビもこれからもっと息の合った場面を見せてくれそうなのに。

もう本当に、こういう感染拡大状況なので、特に大手興行主である東宝さんが何も対応しないわけにはいかないのだと分かってはいても、初日から半月が経ち良い感じに役者さん方の演技に脂が乗ってきたこの時期の上演中止(正確には地方公演もあるので「中断」ですが)はかなり残念ではあります。地方公演を追いかけようにも、今は遠征もかなり難しい状況ですし、そもそもその地方公演が無事に開催されるのかも定かではありません。

最後に。東京の寄席が「寄席は社会生活の維持に必要な存在」として興行継続を決めたことも、東宝さんが即日ではなく数日の周知期間を設けた上での興行中止としたことも、そして、多くの興行主が宣言発令当日からの興行中止という苦渋の決断をしたことも、それぞれにそれぞれの事情を踏まえた上での決定事項なので、その決定は最大限に尊重して受け止めたいと思います。しんどい闇が明ける日が1日でも早く訪れるように願い、そのためにできることはしていこうと思うばかりです。