日々記 観劇別館

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『カム フロム アウェイ』感想(2024.03.09 13:00開演)

キャスト:
ダイアン&その他=安蘭けい ニック&その他=石川禅 ケビンT&その他=浦井健治 ボブ&その他=加藤和樹 ジャニス&その他=咲妃みゆ ボニー&その他=シルビア・グラブ ケビンJ&その他=田代万里生 クロード&その他=橋本さとし ビバリー&その他=濱田めぐみ ハンナ&その他=森公美子 ビューラ&その他=柚希礼音 オズ&その他=吉原光夫

日生劇場にて2024年3月7日に初日を迎えたミュージカル『カム フロム アウェイ』を観てまいりました。

この演目は、2001年9月11日に発生した同時多発テロ事件(所謂「9.11」)のとばっちりを受けてカナダの小さな町「ニューファンドランド」に緊急寄港した航空機の搭乗客と、突然彼らを迎え入れて支援することになったニューファンドランドの人たちが体験した実話を元にしたという5日間の物語です。

1幕物100分。休憩なし。開演前の御化粧室への立ち寄りは必須です。
また、12名の超豪華プリンシパルキャストにより演じられます。他よりもエピソードにスポットがやや多めに当たり、事態解決後の来し方も語られる人物こそあれど、基本は各々のキャストが何役も演じる群像劇なので、一人当たりの見せ場は決して多くないということを頭の片隅に置いてから観た方が良いと思います。

開幕して間もなく、これは人間が起こしたテロという名の災害に、間接的に被災した人々がいかにして対応したか? というお話なのだと気づきました。もちろん目的地ではない見知らぬ町に突然着陸された上に、安全上の理由によりろくに情報も与えられず長時間機内に待機させられた搭乗客たちが最も過酷ではありますが、非常事態宣言により仮宿泊所開設、支援物資調達などの災害救援体制に突入した町の住民たちもある意味で被災者です。

そのように突然の非常事態に巻き込まれたにもかかわらず、人間の老若男女、民族、国籍を問わず親身に受け入れに務め、さらに貨物として積み込まれたペットたちの世話も買って出る地元住民たち。当初理不尽な状況への憤りや不安に苛まれていたが、次第に自ら炊き出し、トイレの修理など仮宿泊所運営にも積極的にかかわっていく搭乗客たち。毎年何かの災害が起きている日本の人としてはつい劇中の当事者たちの災害対応の素晴らしさに感激していました。特にシルビアさん演じる動物愛護団体の女性の視点から語られたペット問題は、本年1月の羽田空港の航空機衝突事故により起きた悲劇が報道されたばかりでしたので、身につまされながら観ていました。

また、民族や宗教、そしてLGBTQの問題にもしっかり触れられているのは、さすがアメリカ製ミュージカルだと思った次第です。例えば、母語が異なるクリスチャンの搭乗客同士で、相手が見ていた(非英語の)聖書の節番号を通じて解り合う場面を描きつつ、ムスリムヒンズー教徒の乗客に祈りの場を提供する場面も織り込まれています。

一方で、9.11の事件の性質故に無関係のムスリムが理不尽な目に遭った事実も描かれていていて、なかなかの容赦なさを覚えました。

このほかに印象的だった場面としては、乗客のゲイカップルが現地の酒場に出向いてうっかり自分がゲイであると口を滑らせてしまい、迫害も覚悟した所に地元民が「うちの娘もゲイです」「うちのおじいさんもバイです」などと口々に言い出して救われるエピソードに心がほっこりしました。まあ、当該カップルの顛末は……でしたが。

物語には複数のカップルが登場し、同じ物を見聞きしている筈なのにある者は些細なことで心がささくれ立って離れていき、別の者は一時のつり橋効果と思いきや……というドラマがあり、これにも人生の陰影深さを感じました。

全体としては心温まる展開なのに、単純にハッピーエンドで済ませない、光にも陰にも手を抜かない作り手の姿勢が伝わってくる演目でした。

100分間ノンストップの演目。豪華キャストと書きましたが、これは決して人寄せパンダ的な何かではなく、「素晴らしい力量を歌も演技も余すことなく味わえる贅沢なキャスト揃い」という意味です。この12名の豪華キャスト(プラス陰で支えるスタンバイキャストの皆様も!)だからこそ、この演目は成り立っていると思います。

そしてキャスト共に観客も完走したような観劇後の満足感! 実際は観客として固唾を呑んで見守っていただけでしたが😅、極めて濃密な時間を劇場で過ごさせていただきました。

……で、実は来週もう一度、この演目を観劇予定なんですよね。観るだけで気力体力を使う舞台なので、できればコンディションを整えて臨まねば、と覚悟を決めているところです。頑張ろう。