日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『レイディ・ベス』感想(2026.03.01 13:00開演 日生劇場)

キャスト:
レイディ・ベス=小南満佑子 ロビン・ブレイク=手島章斗 メアリー・チューダー=丸山礼 フェリペ=松島勇之介 シモン・ルナール=高橋健介 スティーブン・ガーディナー=津田英佑 キャット・アシュリー=吉沢梨絵 アン・ブーリン=凪七瑠海 ロジャー・アスカム=山口祐一郎 リトル・ベス=横溝陽音 リトル・メアリー=馬場音羽

今季3回目の『レイディ・ベス』を観てまいりました。

今回はJR有楽町駅で下車して徒歩で日生劇場に向かったところ、晴海通りが東京マラソンのコースにつき交通規制されていたため横断できず、地下鉄出入口から一旦地下に階段で降りて移動しました。終演後の16時過ぎなら規制解除されているかも? と期待しましたが、規制は続いており、帰路も地下通路をぐるりと巡って駅に抜けました。どうも規制は18時頃まで続いていたようで、今日ばかりはJRを使わずに地下鉄で往復すべきだったと後悔しました。ただ、地下鉄もそれなりに混んでいたとは思われますが。

『レイディ・ベス』の話に戻しますと、この演目は題材が地味な上に、メインキャストの人選が若手や実力派中心で比較的地味。加えて東宝ミュージカルなので正価のチケ代は抜きん出てお高め。これらの三すくみのためか、はたまた東京マラソンと同日で宿が取りづらかったのかは分かりませんが、日生の1階席はそこそこ埋まっていたものの(但し満席ではない)、日曜の公演にも関わらず、GC席や2階席にはちらほらと空席が目立ちました。仕方ないとは思いますが、今回、初演・再演時よりも明らかにブラッシュアップされて良い舞台になっているので、迷っている方には、ぜひ等価以下譲渡サイトや得チケ等を探してでも観ていただきたい、と思っています。

前置きが長くなりました。本編の感想にまいります。

ベスは今回も小南さんでした。一時期喉が不調と聞いていたので心配でしたが、終始見事な歌を聴かせてくれました。やはり、「生まれながらのお姫様」の雰囲気が色濃くて良いですね。1幕の「秘めた想い」の魂の自由は誰にも奪わせぬ、と敢然と立ち向かい、2幕序盤の獄中で死の恐怖と向き合いつつ真実を悟る痛ましい姿、そして終盤の「傷ついた翼」の、引き裂かれそうな心と必死に戦って人生の重大な決断をする歌声が出色です。

今回はロビンとフェリペのキャストが初見でした。

手島ロビンは有澤ロビンよりも若干やんちゃで粗野な雰囲気で、これはこれで終始凛とした振る舞いが際立つ小南ベスと好対照で合っていたように思いました。序盤に登場するロビンたちの「自由気ままに生きる」という歌声は、物語のラストを知っていると、誰かの魂の自由は他の誰かの魂の自由と互いに尊重されてこそ成り立つのだ、という思いが新たになり、より深いものとして聞こえてきます。序盤のエピソードで手島ロビンががむしゃらに自由と正義を求める分、終盤の全てを心にしまい込み、ただ一つ手元に残ったイモーテル=永遠の愛を尊ぶ彼の心の変化と成長が、より強烈に伝わってきたように感じられました。

松島フェリペは、登場した瞬間からいきなり艶めかしい表情で色気満載で驚かされました。佇まいがどこかお若い頃の吉野圭吾さんを彷彿とさせるイメージです。

ちなみにフェリペとメアリーの婚礼の時、確か内海フェリペは極めて儀礼的ではあるものの、メアリーを言いなりにさせた後は一応微笑みかけていたような気がしますが、松島フェリペは露ほども笑いません。クールヘッドと言うよりブリザードヘッドだわこれは、と思いながら観ていました。

こちらを書きつつXのタイムラインを見ていて、そう言えば初演時は終盤の姉妹対面の後に、去りゆくフェリペとベスの対話場面があったと記憶が呼び起こされました。フェリペがあの色気で臨んで袖にされる所、観てみたかった気もします。

今回特に印象に残ったのは丸山メアリーです。メアリーはWキャストの有沙さんと丸山さんのお二人とも、懸命に孤独に耐えながら冷徹に振る舞っているのですが、特に丸山メアリーは「必死で虚勢を張って生来とは違う自分を演じようとしている」印象が強いように感じられます。そして終盤に、虚勢も虚飾もあらかた削ぎ落とされた生身の弱さを妹の前に全てさらけ出す姉。そんな姉から無茶ぶりされたら、大抵の妹は情にほだされて受け入れてしまうと思いますが、それでも徹頭徹尾妥協しないベスの強さは半端ないですね。

そして我らが祐一郎アスカム先生は、しつこいようですが今季はやはり、様々な心がせめぎ合っているように見えます。初演時から一貫して、
「星の運命も、学者としての知見も、ベス様こそが女王と言っている」
という構えではありましたが、今季はそれと同時に、
「ベス様に女王になってもらいたいが、なれないならそれでも良いから生きていて欲しい」
という、師弟愛と父性愛が入り混じったような心情が描かれており、より人間味が深いという印象を強く覚えています。「晴れやかな日」で瞳を潤ませて教え子を見つめる感無量な表情が実にたまらないのです。

ところでラストとカーテンコールで2回歌われる「晴れやかな日」で、2回ともアスカム先生の歌声の響きが識別できた! と思った瞬間があったのですが、気のせいでしょうか? たとえそれが贔屓の引き倒しだとしても、耳福として大事にしておきます。

最後に、カーテンコールの小南ベスのご挨拶は、
「本日開催の東京マラソンのランナーへの応援の声が聞こえてきて、もちろん自分にかけられたものではないとわかっていますが、それでも嬉しいです」
ということを仰っていました。可愛い☺️

というわけで、この演目の手持ちチケットは残り1枚となりました。次回は奥田ベス・手島ロビンの予定。大切に見届けたいと思います。

 

 

 

『レイディ・ベス』感想(2026.02.15 13:00開演 日生劇場)

キャスト:
レイディ・ベス=小南満佑子 ロビン・ブレイク=有澤樟太郎 メアリー・チューダー=有沙瞳 フェリペ=内海啓貴 シモン・ルナール=高橋健介 スティーブン・ガーディナー津田英佑 キャット・アシュリー=吉沢梨絵 アン・ブーリン=凪七瑠海 ロジャー・アスカム=山口祐一郎 リトル・ベス=横溝陽音 リトル・メアリー=上條日菜

今期2回目の『レイディ・ベス』を観てまいりました。

今回はベス、メアリー、リトル・メアリーが初日とは異なるキャストでした。

小南ベスは、良く伸びて広がる鈴の鳴るような歌声と、終始凜とした振る舞いとが印象的でした。王位に対しネガティブな姿勢は奥田ベスと共通ですが、若干気位は高めです。女王への糸が初めから結ばれていて、後は本人の覚醒だけを待つ状態、という、初演・再演の花總ベスの系譜に連なるイメージに作り込まれていたと思います。

有沙メアリーは、1幕で初登場してベスを徹底的に侮辱する時に、口元だけ酷薄に微笑んで眼が笑っていない能面のような表情を見せていて、ぞっとさせられました。彼女が大人ベスと対面する場面は作中3回ほどありましたが、1回目の恫喝、2回目の静かな動揺、3回目で本心を吐露、と変化した後に、最終的に独りで神に祈る時の表情が、まるで純粋な少女のような顔になっており、おお、これは! と客席から釘付けに。丸山メアリーとはまた違うアプローチでメアリーの人間味を掘り下げていて良かったです。

ロビン、フェリペ、アスカム先生は初日と同じキャストです(手持ちのチケットでアスカム先生はWキャストの片方しか確保していませんが……)。そして有澤ロビンと内海フェリペを観るのは今回がラストだったりします。

有澤ロビンに関しては、これから手島ロビンを観たらまた変わるかも知れませんが、大人でソフトな雰囲気なので、今の時点では、どことなくあどけなさの残る奥田ベスよりも、気位高めな小南ベスの方がやや相性が良いような気がしています。

内海フェリペは、今回、チャラい遊び人の仮面を被りながら、実は油断ならなくて賢くて歌声涼やかな王子様キャラがしっかりと確立されていたと思います。前回「地味」などと申してしまい、本当すみませんでした。

そして、アスカム先生。やはり今回も、ベスに対する、「ぜひ女王に!」という星の運命を知る学問の師としての期待と、人間としての穏やかな幸せを願う父性愛との間での感情がなかなか激しくせめぎ合っておりました。

で、先生がそんなに葛藤していることは、ベスは恐らく知らないのですね。2幕のベスの夢に母アンとアスカム先生の幻影が現れた時には、アンは愛する人とともに生きることを、アスカム先生は「父上の娘」として生きることをそれぞれ突きつけてきていますので。ああ、アスカム先生、ベスが収監された後、あんなに滅茶苦茶心配して、とにかく無事生還することを祈っているのに、もしかしてベスには専ら王位ガーな人と思われていたりする?……と、不憫に思えてなりません。

全体を通してでは、この演目のコーラスの美しさが印象に残っています。エンディングやカーテンコールで披露される「晴れやかな日」のコーラスが最も好きではありますが*1、このほかに2幕のベスの移送場面で、しばらく影コーラスだけが聞こえた後に、声の主である民衆が姿を現し、引き続きロビンとともに歌う、というあの演出も好きです。……ポイントが伝わりづらい説明で申し訳ございません。

なお、カーテンコールでは小南ベスからご挨拶がありまして、
「リピーターチケットが長蛇の列と聞いて感動してます!」
という感じで、ぜひお時間のある方はリピートを、というアピールコメントだったのですが、真面目な小南さんが熱く語る程に感極まり、ついに選挙前日の最後の訴えのような様相に至り、客席にもじわじわと笑いが……というタイミングで、何と隣にいた祐一郎さんが舞台上で生声で「はっはっは!」と爆笑!
そこではっとなり、
「え、何で皆さん笑うんですか?」
と戸惑う小南ベスが何とも可愛らしかったです。

というわけで、とても癒やされて帰路に就いたのでした。自分は既にあと2枚ほど手元にチケットがあるためリピーターチケットは未購入ですが、若手中心の公演のためか、チケットの定価がそもそもお安くないためか、まだ結構残席はあるようですので、お時間とご予算に余裕のある方はぜひ観ていただきたいと思います。

 

*1:今回、比較的前方席だったこともあってか、アスカム先生の生歌声らしきものも聞こえてきました(耳が悪くなってもそこだけは識別できる辺りが……。)

『レイディ・ベス』初日感想(2026.02.09 18:00開演 日生劇場)

キャスト:
レイディ・ベス=奥田いろは ロビン・ブレイク=有澤樟太郎 メアリー・チューダー=丸山礼 フェリペ=内海啓貴 シモン・ルナール=高橋健介 スティーブン・ガーディナー津田英佑 キャット・アシュリー=吉沢梨絵 アン・ブーリン=凪七瑠海 ロジャー・アスカム=山口祐一郎 リトル・ベス=横溝陽音 リトル・メアリー=馬場音羽

『レディ・ベス』から改題された9年ぶりの『レイディ・ベス』再演の初日を観てまいりました。

実は最近、本業が立て込んだタイミングで片方の耳の低音域が聞こえにくくなる難聴と、それに連動する内耳の違和感に一時的に襲われました。その後、難聴そのものは投薬治療で無事回復したものの、診察の際にあわせて「もう片方の耳が加齢により高音域がやや聞こえにくくなっている」件が判明。こちらは加齢によるものなのでもうどうしようもないと申しますか……。そんなこんなでダメージを受けつつも、とりあえずまだ仕事は立て込んでるけど何とか聞こえる状態になって良かった! ついでに初日前日に関東は大雪に見舞われましたが翌日には影響せず良かった! と気を取り直して日生劇場に出向きました。

さて今回の『レイディ・ベス』。以前の公演(2014年、2017年)の記憶はかなり薄れているものの、それでも場面の順序の入れ替え、登場人物の出番や台詞の追加・削除、曲の細部の差し替えが生じているらしいことは分かりました。
これらのシナリオや演出の変更により、例えば、あれ、ええと、ベスって、最初こんなにネガティブだったっけ? と戸惑うくらいには、同じ音楽と物語なのに受ける印象がだいぶ違っていて驚いています。
また、ベスを見守るアスカム先生とキャットのおとんおかん度が増したような……。特にキャット。初演再演時の涼風キャットの華やかな強気さがかなり好きではありましたが、吉沢キャットの強さと温かみに満ちたおかんなイメージも、大変しっくりとはまっていました。歌声も綺麗。「大人になるまでに」、この演目で一番好きな曲ですが、その思いは吉沢キャットに交代しても変わっていません。
アスカム先生については、先ほど書いた場面の順序の入れ替えの影響をかなり大きく受けています。詳しくは書きませんが、以前は物語の途中にあった場面が冒頭に変更、アスカム先生の出番が追加されたことにより、ロビンとの関係性が変わっていました。更に、以前は冒頭に置かれていたアスカム先生の場面が、今回は先生が冒頭で遭遇した出来事を踏まえながら不遇に心折れかけたベスを諭すとともに、観客に過去の経緯を説明する場面として置き換えられていました。

こうした大きな変更により、アスカム先生がベスに向き合う姿勢も初演・再演時から変化していると感じました。彼の役割が、前回まではどちらかと言えば、ベスこそ女王になるのだ、いや、なるべきだと星が告げている! というベス強火担だったと思うのですが*1、今回はそうした強火推しな所に「でもベスが幸せなのが一番ではあるんだよね」「でもやはり星の運命に従わないのは寂しい」といった葛藤がたっぷりと加味されていて、良きかな、良きかなです。

実は祐一郎さんの役として、アスカム先生、割と嫌いではありません。ソロやデュエットの曲もそれぞれに美しいですし、何よりも、こういう腕っぷしはさほどなさそうですが、飛び抜けた知力と星見の能力という強みがあって情熱と優しさに満ちた大人、素敵ですよね……。


全般の感想を申しますと、2幕に個人的にやや苦手な場面と曲は残っていたものの、端々で余計な物が削られて洗練された演出に仕上がっていたと思います。
また、キャストの平均年齢が(アスカム先生以外)全員が下がった分、ビジュアルも全体に割と地味になった感があります。その分、ベスとロビンの心の結びつきと変化を中心としたストーリーに集中して観られたような気がしました。

ちなみに奥田ベスの第一印象は「顔、ちっちゃ!」でした。歌は上手いけど、どこか青いな、と思っていたら、なんとまだ20歳だとは。子役時代から活躍されていたらしいですが、不覚にも存じ上げず、後からWikipediaを見て「ああ、あの辺りのドラマに出ていた子か!」と理解しました。物語の始まりでは過去の経緯もあってかなりネガティブだったベスが、試練を経て、誰でも自分の考えを言える社会を作るために自身の運命を、葛藤しつつ徐々に受け入れていくさまを、実にリアルに自然に演じられていたと思います。

対する有澤ロビンは、自由奔放な若者から最愛の相手とのロマンスを経て、最終的に陰からそっと見守れる大人の男へと変化していく姿がとても素晴らしかったです。終盤の様々な感情と思い出を飲み込んで、しかし心から恋人の門出を祝福する表情にぐっときました。

フェリペは……初演・再演時の古川フェリペが非常に外連味なクールヘッドを打ち出していたので、内海フェリペ、地味? と思いましたが、過去を振り返れば平方フェリペは古川フェリペと異なりかなり穏健で、しかし食えないクールヘッドでした。Wキャストのフェリペがどんな作り込みをしているかを観てから、改めて今回のフェリペ像を考えたいと思います。なお個人的にフェリペには、あのクールヘッドハーレム(と勝手に名付けている)場面の爆音演奏と対等に張り合う歌声を聴かせてもらいたいです。

ルナールも、初演・再演の吉野ルナールの強烈な色悪ぶりが頭に焼きつけられてしまっていたので、「あれ、高橋ルナール、もう少し行けない?」と思ってしまいました。一方で、ルナールは悪知恵は働かせますが、本質は忠臣だと解釈しており、であればそんなに出過ぎなくても大丈夫かな、とも考えています。

津田ガーディナーも初演・再演の禅ガーディナーと比べるとおとなしい印象を受けました。ただ、ガーディナーも、ベス勢から見ると本当にとんでもない敵ではあるものの、彼は彼で病を隠しながら懸命に働いている一面があるので、あの顛末はかわいそうと言えばかわいそうではあります。禅ガーディナーにはあまり同情した記憶がないので、今回少しでも「かわいそう」という気持ちがわいてきたのは不思議です。

今回舞台で初見で気になったのは、メアリーの丸山礼さん、そしてアンの凪七瑠海さんでした。

丸山礼さんはテレビで見る機会はありましたが元々お笑いの方、ワタサバの人、初ミュージカルということで未知数でしたが、意外にもメアリーを好演されていました。丸山メアリー、ベスをあんなのは妹ではないと言いつつ、いざ彼女を始末するよう圧をかけられると無意識の情のかけらが表情にちらちら現れるのが上手いです。

凪七アンは、現れた瞬間、全身からこの世の者でないオーラを漂わせていて「えっ!」と叫びそうになりました。たとえ幻影であっても娘に向ける愛は本物。しかも美しい。まあ本当に濡れ衣だったんだろうな、と思わせられるひたむきさと同時に、この一途な母なら娘を盤石にするためにメアリーを侍女にするぐらいはやりそう、と納得できる堂々とした佇まい。

凪七瑠海さん、なんでここまでできる方がトップになることなく専科として退団されたんだろう、時の運が様々によろしくなかったのかな、等々と思いを巡らせながら、彼女が登場するたび注目せずにはいられませんでした。

『レイディ・ベス』初日、色々と考えるところはありましたが、エンディングのあの華やかなドレスと、感慨深げに見守るアスカム先生とキャットの表情を目にした時、心から「ああ、良かったねえ」な気持ちになれました。

初日ということで、カーテンコールでは主演の奥田さん、演出の小池先生、そして来日中のリーヴァイさんからもご挨拶がありました。

小池先生のご挨拶で「今、日本でリーヴァイさん関係の公演が3つかかっている」というお話がありました。ひとつは今回の『レイディ・ベス』、ひとつはシアターオーブの『Concert for LEVAY ~Happy 80th Birthday~』だけどもうひとつは何? と悩みましたが、梅芸の『エリザベート TAKARAZUKA30周年 スペシャル・ガラ・コンサート』を指していたようです。バースデーコンサートは軽くチケ取りチャレンジして諦めたので頭にありましたが、すみません、ガラコンの方は全くマークしていませんでした。

小池先生、さすがに以前に比べるとお年を召されたご様子で、リーヴァイさんもここ20年ほど変わっていないように見えて実は御髪の白さは増しているようにお見受けしました。そして当然、観ている自分自身もM!の祐一郎さんをきっかけに観劇を始めた20年の歳月を、見た目にも中身にも隠しきれないわけで。

奥田さんに祝福のキスを贈り、「私の長年の友だち、祐一郎さん!」と祐一郎さんとハグするリーヴァイさんをまぶしく見やりながら。舞台上から生み出される瞬間瞬間を堪能するミュージカルは諸行無常、私の心の抽斗も私が消滅すれば消え去るのみ。でもだからこそ、生まれる瞬間は掛け替えがないもの。その素敵な瞬間がこんなにたくさんの観客の心に今届いて染み渡るって、なんて素晴らしいことなんだろう。そんな柄にもない思いがずっと心を駆け巡っていました。

『レイディ・ベス』は幸いにもあと3回ほど観る機会があります。どうか全ての公演を無事に見届けられますように、そして全てのキャストが大過なく大千穐楽まで完走されますようにと祈っています。

*1:2幕のベスの夢の中でのアンとのデュエット場面にその名残があります。あれはあくまでベス自身の迷いの反映であり、アスカム先生本人ではないので整合性は取れている……と思います。

『国宝』感想(2026.01.31鑑賞)

映画『国宝』の封切りからはや7ヶ月以上。毀誉褒貶の激しさに、観るのをだいぶ躊躇していましたが、ふと時間ができたので思い立ち、近隣のシネコンの上映リストをチェックしたところ、なんとほぼ全てのシネコンでまだ1日1回は上映されているではありませんか。

そこで、上映開始時刻が早すぎず、かつ、ついでの買い物で回れる店も多そうな土浦のイオンのシネコンまで観に行くことにしました。以下、できるだけネタバレを避けて映画の感想を記してまいります。

まずお断りしておきますと、私は原作小説は未読です。上方歌舞伎の歴史についても戦後長らく不遇であり舞台以外の仕事で食いつなぐしかなかった、という程度しか存じません。その視点で観ても、全体として、登場人物の背景や「何がどうしてこうなった?」と言った細部の説明を全く掘り下げずに大胆にすっ飛ばし、豪快に早送り、特に後半では10年以上が爆速で過ぎていったという印象を受けました。

わかりやすいごく小さい一例を申しますと、割と物語の序盤で、極道の家の子なら入れ墨はまあわかるけど、何でこの女の子(春ちゃん)まで一緒になって入れ墨してるの? この子も極道の子なの? という疑問が生まれたのですが、その疑問が解消される瞬間は遂に来なかったわけで*1。そして、そうした小さい未解決細部省略早送り事案は複数存在したわけでして。

ただ、そうした事案が複数見受けられるにもかかわらず、困ったことに総合的に見ると面白かったです。

本編で3回ほど泣けた場面がありました。ひとつは、一度は「喉から手が出るほど渇望していた『血』がなくても、努力で身に付けた芸さえあれば生きていける」と信じた喜久雄が、そう信じさせた本人から、恐らく互いに望んではいなかったであろう最悪のオチでどん底に突き落とされる場面。ふたつ目は、喜久雄が屋上で舞う場面(これは後で書きます)。もうひとつは、喜久雄が紆余曲折あって切り捨てた「血」に、意外な場所で邂逅して思わぬ形で*2報われる場面。

私、喜久雄の「血」に関するコンプレックスとか、女性に不自由しないようでいて実は孤独な所とか、顔が綺麗だからより一層芸を高めることを強いられる苦しみとかはそれなりに理解したつもりでも、彼の役者魂以外の人間性への共感は難しかったので、逆に唯一の保険が「血」だった俊ぼんの哀しみの方に強く思うところがあったのですが、前出のどの場面も「血」に予想しなかった方向から刺されていたので、喜久雄の激しい心の動きについ共鳴してしまいました。まんまと作り手の掌で踊らされたようで、何か悔しいものがあります。

俊ぼんは、喜久雄とは全く異なる流れでの、「命がけ」と一言でかたづけるにはあまりにも凄絶な芸の昇華に至る軌跡をただ呆然と見守るよりほかありませんでした。アホぼんだった青年期から一連の事案を経た晩年への変貌がとてもリアルで衝撃的で、横浜流星さんという役者の実力は大河ドラマ『べらぼう』でもさんざん見知っていた筈でしたが、改めて驚かされました。

ちなみに喜久雄と俊ぼんのふたりと密接に関わる某女性については、パンフの中の方インタビューによれば制作側が悪女に見えないかと心配していたようですが、少なくとも映画において全くそれは感じませんでした。目の前の一刻も早く救わないといけない堕ちた人間に寄り添うのは当然の選択だと思うので。

あとは、一身に尊敬を受ける人間国宝である万菊の一見穏やかそうで実は人の本質どころか運命をも見通すような鋭い心眼を持つ化け物ぶりと、若者たちを圧倒する表現者としての説得力がただ事ではなかったです。たとえ煌びやかな舞台から退いてどんなにうらぶれていても、ただそこにいるだけで「国宝」。

ここまで色々と人間の話ばかり書いておいてあれですが、この映画で何といっても記憶に刻み込まれたのは、やはり「歌舞伎」や「舞踊」の場面なのです。

この物語には宗教色はないのですが、それなりの代償を払うと申しますか、何らかの受難を受けなければ芸道の極みの景色を見ることは叶わないというシチュエーションがこれでもかと描かれます。

喜久雄をクズと書きましたが、恐らく彼がいわゆる一般のご家庭に生まれなかった時点から、既に平凡な市井の幸せは知らなかったがゆえに自分がそうなる道を歩むという選択肢はなかったでしょうし、歩めない宿命が定まっていたのだろうとも思います。

彼が受難の果てにたどり着いた場所での、吹きさらされて血も乾ききり、全てのしがらみから解放されたかのようなあの舞は美しいなんてものではなかったです。しかも彼に与えられる試練はそこで終わりではないという……。

ラストに彼がたどり着いた「景色」の解釈は様々に分かれているようですが、自分としては、彼はあそこで決して真っ白に燃え尽きたわけではなく、むしろあの景色にもう一度出会うために、限界まで舞台に立ち続けるのではないかと思っています。

――と、これを書いている段階では原作を読了できていないので、読了してから再度映画のラストを振り返るとまた異なる解釈になるかも知れません。

今は、いつか「鷺娘」を正式な歌舞伎の舞台で生で観てみたいと願っております。

 

*1:映画鑑賞後に原作小説を読み始めて、春ちゃんの入れ墨その他諸々の件はある程度解決しましたが、同時に「喜久雄、彼氏や夫としては本当クズやな」という思いも強まっています。春ちゃんの初期の捨て身の行動には生活のためとか恋愛感情とか色々理由はあっただろうけど、喜久雄、止めろや。

*2:「思わぬ形」はあくまで喜久雄側の視点であって、相手はその機会を得るため何年も努力してきたと思います。

『Yuichiro & Friends 2』感想(2025.11.30 13:00開演 シアタークリエ)

キャスト:
山口祐一郎 駒田一 今拓哉 吉沢梨絵 大塚千弘

またまたクリエにユーフレ2を観に出かけてまいりました。これで3日連続です。実は2日目夜のチケットはさすがに体力が保たないと思い、手放しました。そして、本業の関係であまり何度も平日は休めないので、今回が多分マイ楽になります。

1幕開演の時、前日公演での様々な祐さま(駒田さんの呼び方は『祐ちゃま』(笑))事案がありましたので何となく見守りモードになっていましたが、
「良かった、今日はちゃんと『こんにちは』って言えたのね!」
「よしよし、よく衣装デザイナーさん渾身の素敵な衣装の上着を脱ぐのを我慢しました。偉い!」
ということで、チェックポイント(何の?)は無事に通過しました。

今回が既に4公演目で慣れてきたためか、それともゲストが初日と全く同じメンバーだったためかはわかりませんが、ホストな方の緊張の糸がだいぶほぐれてきたように見えました。千穐楽まで見届けられないのが実に残念です。

祐一郎さん、どうも前日の夜公演で竹内さんとトークにジェネレーションギャップがだいぶあったらしく、「相手は日本語を話しているのにわからなかった」と述懐されていました。それもあってか、今回の全員昭和生まれメンバー、特に駒田さんには何かと「仲間!」なアピールをしまくっていました。「ちひろりん」もかなり容赦なく袈裟斬りにしてくれていますが、暴走もボケも堂々と受け止めて程良く制御してくれる、少しだけ下の世代も本当にありがたいと思います。

ありがたいと言えば今さんもそうですね。今回もまた年齢ネタという禁断の領域に踏み込んでいじられていました(2幕のトークではだいぶ学習されたらしく、巧妙に地雷原を回避)。それにしても「日本の地殻は大丈夫か?」とか「アミノ酸の構造は?」とか急に無茶ぶりされてもそれなりにきちんと答えが出てくる今さん、何て賢いんだろう。

ちなみに今回のトークテーマ。1幕最初は固定で「ミュージカル」の筈なのですが、駒田さんや千弘さんが血圧の話をしたことがきっかけで、実質的に「血圧」がテーマになっていました。祐一郎さんが「僕は首の辺りまでしか血が上ってこない。だから自分はいつも良くわからずに歌っているのだ」と謎の主張をしたのに対し、「ああ、運動を司る部分はこの首の後ろの辺りにあるそうですよ」と事実を述べる今さん。かみ合っていそうだけど何か違うような💦

その後のサイコロトークのテーマは1幕が「アクシデント」、2幕が「オススメの差し入れ」でした。
「アクシデント」ではホストな方は自分が突っ込まれたくない一心なのか、妙に駒田さんや今さんへの無茶ぶり暴走が激しかったような……。でもご本人もリラックスして楽しそうで、ゲスト一同も(進行を気にしつつ)めちゃめちゃ盛り上がっていたので、いいぞもっとやれな気持ちで見守っておりました。
「オススメの差し入れ」では千弘さんが唯一「差し入れる方」の視点でトークされていたのが印象的でした。確かに差し入れを考えるのって楽しいので何だか共感します。ちなみに徳島の名産品がオススメのようです。また、吉沢さんが「博多通りもん」を挙げていましたが、祐一郎さんが「え、通りもんって?」みたいな反応をされていたのが意外でした(多分、製品名を言わせたかったのだろうとは思いますが)。白あん系のお菓子が吉沢さんのお気に入りのようで、福島銘菓「ままどおる」にも言及されていて、甘党な祐一郎さんも心が動かされたように見えました。余談ながら私自身もどちらも大好きなお菓子、とりわけままどおるは本コンサートの2日目の帰り道にも買った所でしたので、取り上げていただいてとても嬉しかったです。

コンサートのネタバレを回避しようとするとどうしてもトークの話題になってしまいがちなので、曲は特定せずに書いておきます。

11月30日公演に関して言えば、ホストもしくはゲストの皆様のそれぞれの代表作、例えば『WSS』や『オペラ座の怪人』、『ラ・マンチャの男』や『ミス・サイゴン』からのセレクトが多かったです。ホストとゲストの誰かとの共通出演作である『TdV』や『ケイン&アベル』、『エリザベート』や『レ・ミゼラブル』からもセレクトされていました(レミゼは顔ぶれの割には曲数が少ない上、出演者でない方が歌ってましたが……)。但し共通出演作であっても、実際に歌われた曲はそのゲストの配役の歌とは別のものであったり、あるいは共通出演者とは異なるゲストが歌ったりしています。『ファニー・ガール』やディズニー・ミュージカルなど、ゲストが出ていなくても定番曲として歌われたものもありました。

……しかし。2曲ほど、どうしてもわからなかった曲が! 吉沢さんの1曲(2幕で歌ったもの)と、今さんが2幕でソロで歌った、結構正義感溢れる感じの曲の名前が思い出せないのです。言われたら「ああ、あれ!」となりそうですが、切実にセトリが欲しかったです。せめて終演後に配るかSNSに貼っていただきたく。

セトリの件で消化不良な上、書き忘れが山ほどありそうなのでもやーっとしていますけれども、ひとまず3日連続のクリエ詣では終了し、今回で見納めとなりました。まだまだ地方公演、1010公演と続きますが、キャストの皆様、そして舞台上に出ずっぱりのオケの皆様の息災と完走を心より願っております。

 

 

『Yuichiro&Friends 2』感想(2025.11.29 13:00開演 シアタークリエ)

キャスト:
山口祐一郎 保坂知寿 吉野圭吾 大塚千弘 竹内將人

初日に引き続き、通称『ユーフレ2』を観てまいりました。

今回のゲストは知寿さん、圭吾さん、千弘さん、竹内さん。千弘さん以外は全員が初日です。

昨日も数々のアクシデントやハプニングが起きていましたが、なんと今回は開始早々、ホストである祐一郎さんの登場タイムで、本来昼公演につき「こんにちは」でご挨拶する所を「こんばんは」と言ってしまう事案が発生。更に、後からご本人曰く、言い間違いで頭の中の段取りが飛んで真っ白になってしまったらしく、その前に一回行っていた最前列への客席降りを再度繰り返していました。負けるな古希!

あと、1幕でお召しのアンシンメトリーなセットアップの上着を、祐一郎さんは初日一つ目のトークの際に「暑い」と脱いでまして、今回も同じことをしようとしたのですが、

千弘さん「昨日脱いでそのまま着なかった」

竹内さん「昨日客席で観ていた時、隣にいた衣装デザイナーさんが、(祐さんが)上着を脱いだ瞬間『あっ……!』と叫んでいた」

等々とツッコミを受けた結果、結局一旦脱いだ上着を再度着直してました。しかも上着を脱いだ時には圭吾さんが下のベスト(ジレ)が乱れたと言って直し、上着を着直した時には今度は知寿さんが駆け寄って襟を整えてあげて……みんな優しい! ちょっと「介護?」という単語が私の頭をよぎり、いかんいかん! と打ち消してました。

圭吾さん。ロックなナンバーの熱唱もさることながら、大人の色気満載のダンスバリエーションをたっぷり堪能できて、とても眼福でした。まあ、そんなにカッコ良いのに、2幕の決めで扇子を落とすとか(突然空から降ってきたとか😃)、杏仁豆腐を取り損ねたとか、前半に出た杏仁豆腐の賽の目の数を忘れた?とか色々あったわけですが……。

それよりも問題なのは、祐一郎さんとトークで絡むと、美形の「父上」と「息子」で息は最高に合っているのですが、ボケ同士でどこまでもボケ倒してしまうことでして……。本日はいつもの女性陣の他、竹内さんも容赦ないツッコミ役を務めてくれていて、本当良かったです。

知寿さん。ホストの暴走を抑える重石のお一人。トークテーマへの回答を逃げがちなホストをさり気なく誘導していました。

千弘さんが以前も語った未知との遭遇ネタ繋がりで、自らの存在を隠している宇宙人に逢いたいと発言されていました。その話をちゃんと聞いていたかどうかは定かではありませんが(注)、続けて祐一郎さんが「僕ね、自分が実は宇宙人じゃないかと思ってるんですよ」みたいな発言をされていて、皆をどうリアクションして良いかわからない状態に陥らせてそのままトークエンドへ! いや、貴方、絶対、隠れていない宇宙人でしょう? と思いながら爆笑していました。

(注:その前に、若き日のポートレートトークで、圭吾さんが『この写真は27歳の時です』と一通り語ったのに、数分後に『これ何歳の時?』と訊いて、全員から人の話を聞いていない! とツッコまれる事案があったのです)

知寿さんは、『エビータ』の曲だと思いますが、2幕で歌唱した曲が、何と申しますか、愛が溢れていて最高でした。

千弘さん。今回は何とご夫君が客席にいらしたとのこと。最前列で祐一郎さんが若干多めに絡んでいた方がいて、もしや? と思いましたが確証はありません。今回も大きなお腹を守りつつ、ホストを遺憾なく制御していました。

竹内さん。前日の吉沢さん同様、子役からの活動で、しかも四季にも出演経験あり、ということを初めて知りました(無知ですみません)。圭吾先輩から軽くいじりを受けていましたが何のその、かなり頑張って暴走ホストの軌道修正に務めていたと思います。

そして声量が素晴らしいです! 2幕最初のあの曲のパートも見事に務めていて、また違う舞台でも観てみたいと思いました。

ああ、これからまたクリエ3日目昼公演を観るので時間がない……! また思い出したら追記します。

『Yuichiro&Friends 2』初日感想(2025.11.28 18:00開演 シアタークリエ)

キャスト:
山口祐一郎 駒田一 今拓哉 吉沢梨絵 大塚千弘

シアタークリエにて、コンサート+トークショー『Yuichiro&Friends 2』の初日を観てまいりました。

昨年のコンサートではジャズのスタンダードナンバーやJ-POPも取り混ぜた構成になっていましたが、今回は専らミュージカル曲が披露されていたようです。

「いたようです」というのは、明らかにミュージカル曲ではありましたが、トークの直前・直後に披露された一部曲を除き、大半の曲名が紹介されなかったためです。実際に本舞台で聴いたことのない曲は、別のコンサートなどで聴いていても曲名や作品名までは覚えていなかったりするので……。セットリスト公開を待ちたいと思います。

今回のステージのコンセプトは、「ライブハウス」だそうで、おしゃれなステージングになっていました。このコンサートシリーズのこぢんまりしたバンド編成はかなり好きです。今回もサキソフォン奏者として近藤淳さんが参加されています。

そして、主に祐一郎さんの十八番曲について、ちょっと変わったアレンジが加えられていて楽しかったです。
「ああ、この曲は昔のように声量たっぷりに歌うよりは、こうしてしっとり大人なジャズアレンジでゆったりと言葉を紡ぐような歌い方の方が断然良いな」
「こっちの曲は今回は日本語詞だ! もしかして東宝さん結構頑張ってくれた?」
「それにしても祐一郎さん、袖から入る時の横顔とシルエットが本当に美しい……」
「持ち歌でない歌も良いセレクト。今年朝ドラでちょっと話題になってたかな」
等々と、心の中でかなり沸き立っておりました。3つめの感想は歌と関係ないですね……すみません。

しかし、2幕最初に男性トリオで歌唱したあの曲だけは、ビジュアルの趣向と相まって完全に客席の驚きと笑いをかっさらっていました。「ビジュアルの趣向」の具体的中身はここでは伏せておきます。

なお、その曲はトリオでパートを分けて交代で歌っていたのですが、祐一郎さんのパートに切り替わるや否や高音かつ大音量の「○○にむかーってー」で始まるものがあったので(微妙にネタバレでごめんなさい)、「前後のフレーズを歌わずに、いきなりこのすごい声が出せるなんて!」と妙な所で感銘を受けていました。

ここからはゲストキャストの方についてです。まずは駒田さんから。
このコンサートシリーズはトークは毎回アクシデントだらけですが(と申しますか、メインMCなお方のトークそのものが、有り余るサービス精神の成せるアクシデントの塊だと思っています😃)、本日は珍しく歌唱パートで、駒田さんが歌い始めてすぐに歌詞を間違えてそのまま詰まってしまい、バンドに申し出て最初からのやり直しをお願いするという事案がありました。

ところで、今回の公演のトークコーナーは、舞台上のボードにあらかじめ1~6番までのテーマ入り小袋を用意し、昔懐かしいお昼の番組で見たようなサイコロクッション(通称:杏仁豆腐)を転がして出た目のテーマでトークする、という趣向でした。
上記の事案直後にもトークコーナーが設けられておりまして、杏仁豆腐が転がされたわけですが、そこで選ばれ、駒田さんが読み上げたトークテーマがなんと「アクシデント」! 客席は爆笑の渦に包まれておりました。

ちなみに駒田さん、先の方の歌詞をうっかり歌ってしまったので、取り戻そうとしたものの敵わずにやり直しを申し出たそうですが、実は次に歌う予定だった今さんもうっかり上着を忘れてスタンバイするというアクシデント未遂状態だったらしく、「その姿が見えたからやり直したんだよ!」と駒田さんがオチをつけていました。件の曲は本来は途中でデュエットが入る所を一人二役スイッチしながら歌唱するという、難易度高めの趣向だったので、なおさら一旦つまずくと収拾がつかなかったんでしょうね……。

他のゲストの方についても記しておきます。

千弘さんは、あれ、お腹がだいぶふっくらしてる? と思ったら、もうすぐ二人目のお子様を出産予定とのこと(おめでとう!)。祐一郎さんが今回も「彼女に初めてあった時は高校生で、お父さんお母さんも一緒で……」と定番の紹介をして、その話何度目ですか? と思っていたら千弘さんが同じツッコミを入れて、客席に「この話知っている人ー!」と呼びかけ、拍手多数、という流れになっていました。この他にも祐一郎さんが自分のお腹をつまんで「肉が」をアピールしてきたのに対して、「それベルトですよね?」と容赦なくぶった切るなどしていました。色々な意味で祐一郎フレンズになくてはならないメンバーだと思いますので、諸事が落ち着かれたタイミングでのこのコンサートシリーズへのご復帰を、心よりお待ち申し上げております。

今さん。今回「理系の大学に進学してバイテクなど勉強していたが、実は自分は理系ではないと気づいてしまったため演劇の道へ」というお話の後、延々と理系ネタでいじられていたような……。それから、確かトークテーマ「過去と未来どっちへ行きたい?」の時だったと思いますが、うっかり「70歳の自分が見たい」と発言してしまい、来年リアル古希を迎えるメインMCな方に滅茶苦茶いじられ、遂にはエアハイキックを入れられる羽目に😅。個人的には今さんも十数年後にストイックな趣味人系のステキな古希になられることを期待しています。

吉沢さん。3歳で演歌「帰ってこいよ」を披露して児童劇団に入団して以降、子役から長く活動されていたことを、今回初めて知りました。実のところ来年の『レイディ・ベス』でメアリーからの役変更でキャットを演じられると知り、涼風さんのイメージが鮮烈だった役なので若干不安に思っていましたが、今回のコンサートで『ロミオ&ジュリエット』のジュリエットの乳母の人間味溢れるソロを聴いて、そんな失礼千万な思いは吹き飛びました。吉沢キャット、楽しみにしています。

最後に。既に本公演の公式Xなどでも呼びかけられているように、今回、赤いハンカチは必須アイテムです。忘れたら、品切れにならない限りは劇場やシャンテの売店でも購入できます。

そして、入場時にとある目的のためにサイリウムが配られますが、うっかり開演前に折ってもちゃんと光は「その時」まで保ちます。ご安心ください。

……というわけで、明日と明後日もクリエに通い、各1公演ずつ観る予定です。予定どおりの上演と、キャスト・スタッフの皆様が無事に日程を完走されることをお祈りします。そして頑張れ、私の体力!

 

『CLUB SEVEN another place II』初日感想(2025.10.04 12:00開演 有楽町よみうりホール)

キャスト:
玉野和紀 吉野圭吾 東山義久 西村直人 原田優一 内海啓貴 蒼木陣 北翔海莉 妃海風

有楽町よみうりホールにて毎年恒例のエンターテインメント・ショー『CLUB SEVEN another place II』の初日公演を鑑賞してまいりました。

今回はA・Bの2つの公演パターンのうち、Aパターンでの鑑賞でした。毎回どちらか片方しか観られていないので、「もう片方も観たい」と思うのですが、大体時間がないのです……。

CLUB SEVENシリーズは何度か観ていますが、いつもキャストの身体を張ったエンターテインメント、特に年長者4名(玉野さん、吉野さん、東山さん、西村さん)のタフさ加減を目の当たりにすると、我が身から生きる力が湧いてくる感触を覚えます。

皆様プロフェッショナルである一方で、決して一滴の水も漏らさぬパーフェクトではなく、人間味溢れる姿もたっぷり見せてくれる所が良いのです。しかも、公演内容がA・Bの2パターンあって覚えることも多くてハードな筈なのに、皆様、演じることが実に楽しそうなので、観ている方もうれしくなります。

今回、特に印象に残ったのは、北翔海莉さん&妃海風さんという元宝塚星組トップコンビのお二方でしす。セルフパロディ的なガイズ&ドールズ風カップルを華麗に魅せてくれたと思えば、別の場面では見事なハーモニーでデュエットを披露したり、お二人それぞれに豪快なコメディエンヌぶりを発揮したりと、そこかしこで魅力を振りまいていました。

星組コンビとは違う意味で時々目が釘付けにさせられたのは、東山さん。ダンスも演技もちょっとした身のこなしがいちいちダイナミックで美しいので、感嘆の声を上げていました。

……と、書きかけていたら、東山さんがご負傷のため10月7日昼公演から一部演出変更の発表が! くれぐれもご無理なさりませんようにお願いします。

www.tohostage.com

 

それにしても毎回思うのは、
「これ、映像化は難しいよね」
ということです。

アンディーママやツタン仮面とスフィンクスの爆笑コントや、足ツボマットなわとびはともかく。

いっくんやヨシオさんのものまねネタはともかく(本気で笑いすぎて窒息しかけましたが)。

海賊王とか紅白けん玉とかもともかく(これも爆笑し過ぎてお腹が痛くなりました)。

純粋に、五十音順メドレーなどの曲の版権の関係で無理だろうな、とわかっています。

なので、1幕の「奇跡」も、2幕の某さんの明菜ちゃんも別の某さんの聖子ちゃんも劇場限りのお楽しみ、眼福ということで、謹んで心の神殿に奉ることにいたします。

ちなみに、フリートークでのご発言によれば、玉野さんも西村さんも、初日を迎えての心の色は偶然にも同じ「虹色」だそうです。吉野さんも「虹色」らしいですが、それはさすがにネタかと……。また、どなたかが、「原田さんの色気がすごい」と仰っていて、確かに! と納得していました。

最後に、よみうりホールという会場ですが、何と申しますか、あの昭和感が良いですね。個人的にはクリエ辺りよりも、CLUB SEVENの狙った下世話さも麗しさもごった煮な世界観に絶妙に合っている気がしています。

既に怪我人は出てしまっていますが、せめてキャストが全員欠けることなく大阪公演まで完走されることを、心よりお祈り申し上げております。

 

『ある男』感想(2025.08.16 12:30開演 東京建物Brilliaホール)

キャスト:
城戸章良=浦井健治 ある男・X=小池徹平 後藤美涼=濱田めぐみ 谷口里枝=ソニン 谷口恭一=上原理生 谷口大祐=上川一哉 城戸香織=知念里奈 小見浦憲男/小菅=鹿賀丈史

日本初演のミュージカル『ある男』を、池袋のBrilliaホールで観てまいりました。

この演目は、オケピが客席側にはないので、舞台と客席との距離は結構近いです。今回の座席は前から10列目でしたので、生声も聞こえてきました。

物語は、戸籍のすり替えによる別人へのなりすましという裏社会が関わる犯罪がキーになっているので、原作未読民としてはもっとおどろおどろしい展開と勝手に思っていましたが、全くそんなことはなく、心にしみ入るヒューマンドラマとして作られていました。

一方で、戸籍のロンダリングというのは裏社会を潤わせることにも繋がる結構な犯罪で、だからこそ小見浦も罪人として収監されているわけです。Xがそこまでのことをしなければならなかった動機は十分過ぎるぐらいわかりましたが、果たして大祐は本当にそこまでする必要があったのかは最後までどうにも納得できませんでした。だからこそ「後悔している」という台詞があるのだとは思いますが……。

全体の構成としては、個人的に1幕は後半で多少の中だるみ感を覚えました。もちろん、女性陣(香織と里枝)の美しいデュエットや、城戸とX、追う者と追われる者とがカッコ良く決めるナンバーなど、見所・聴き所は散りばめられていましたが、結局、重要人物の一人である筈の大祐の消息もビジュアルイメージも1幕では観客に提示されないので、どこか雲を掴まされているような、と申しますか、置いてきぼりにされたような心情に陥ってしまいました。1幕のエンディング、浦井・小池ペアが目の前で歌い踊っているというこの上ない状況で「眠い」と思ったのは初めてです。

しかし、その分(?)2幕では全ての真相が怒濤の勢いで回収され、登場人物たちとともに心を覆っていたもやが晴れて心洗われるような心境に至ることができました。軽く調べたところ、特に城戸の結末は原作よりも未来への希望を感じさせるものに変更されているようなので、そこは「変えてくれてありがとう」という心持ちです。

音楽は、割と複雑なメロディーの曲が多くて後から思い出して口ずさめる感じではないものの、良かったと思います。個人的には見せ場を盛り上げる感じのナンバーよりは、登場人物の心境に寄り添うナンバーの方に魅力を感じました。

ここからは、キャストの印象にも少しずつ触れておきます。

浦井くん演じる城戸は……大変申し訳ありませんが、佇まいがあまり弁護士には見えません。但し、依頼に真摯に向き合う凜とした表情はとても良かったので、あのきっちりしていないカジュアルなジャケットなどの見た目に引きずられた所があるのは否めないです。
とは言え、この物語では、その職業に見えるかどうかよりは、事件の登場人物の真相究明に強く引き込まれてしまう彼の内面の方が重要なので、「まあ、いいことにしよう」と思いながら観ていました。

城戸という男は、在日朝鮮人から帰化した(両親の国籍は恐らくそのまま)という事情もあって「今の自分は本来の自分とは違う」的な思いが拭い去れておらず、その影響で最愛の筈の妻子にもどこか真剣に向き合えていません。前年の震災(このお話の舞台は2012年)でも、城戸は仕事とは言え家族より依頼人を優先したために、ひっそりと知念さん演じる妻の香織が不満を燻らせていることにも気づかず、ひたすら自分自身に対して葛藤し続けています。

浦井くんは、そんなもやもや男の翳りも、謎の多い案件にのめり込む情熱も、そしてのめり込むと周りが何も見えなくなる「家庭を持ってはいけない人」の典型のような欠点も、何のてらいもなく舞台上でぽろぽろとさらけ出していきます。あの自然体はなかなか出せるものではない、というのは彼の舞台を20年近くゆるゆると見届けてきた人間の贔屓目でしょうか。

そんな城戸の所属事務所に訪れ、「長く音信不通だった実弟の大祐の訃報が届き、彼の妻と名乗る里枝の家を訪問し、仏壇の遺影を見たら弟とは全くの別人だった」ことを告げる上原さんの恭一。彼はかなり自己中であり「差別主義者」(美涼談)でもありますが、「どこにでもいるちょっと強引で嫌な人」でもあります。しかし、昨今SNSにはびこる大衆迎合主義の台頭などと比べると彼は全然普通に見えるので、それはそれで怖いものがあります。

城戸は以前に離婚調停の依頼人でもあった里枝のもとへ大祐の元カノだった美涼とともに赴き、Xの正体と大祐(本物)の行方を突き止めようとします。しかし、2人について調べるほどに、城戸はアイデンティティを見失いかけていた自分と彼らをシンクロさせてしまい、徐々に家族との約束を度々すっぽかすほどにのめり込み、取り残された妻の香織は不信と孤独を深めていき……というのが1幕までの展開でした。

この1幕で里枝が登場した時、あまりにも、どこから見ても片田舎の幸薄そうな生活にくたびれた女性だったため、実は素で演じているキャストがわからずに戸惑いました。なんならこんな元宝塚の娘役さん、いたかしら? ぐらいに思ったぐらいでして。幕間にキャスト表を確認して、「ああ、ソニンちゃん、貴方でしたか!」とようやく腑に落ちた次第です。

このソニン里枝が、愛児の死、離縁、そして「夫」の疑惑と幸薄さを漂わせながらも静かに前を向き続けようとする健気さ、「夫」や子供たちへの愛の深さに根ざした意思の強さが滲み出ていて、大変に良かったです。小池さんのXとも息が合っていたと思いますし、何より「夫に欺かれた」と嘆くよりも息子(前夫の子)の「(戸籍が偽りでも)お父さんはお父さんだ」という言葉を全肯定する強さと、2幕で全ての真相が明らかになった後の迷わず未来へと歩む力強い歌声とに、こちらも励まされたような気持ちになりました。

『ある男』には里枝の他に、香織、美涼の2人の女性が登場しますが、いずれも関わる男性に大なり小なり何らかの形で人生を翻弄されている人たちです。

香織は他の2人に比べると背負っているものは決して重くありませんが、その分観客との心理的な距離は近いように感じられました。心に壁を造り立入を許してくれない上に、あそこまで周りが全く見えないわ約束は複数回すっぽかして反省もしないわな夫がいたら、そりゃ普通はああなりますよね、と思います。知念さんが引きの演技で香織という人物像を堅実に作り上げていました。それにしても城戸には全く同情できないのだけど、やっぱり許しちゃうのかな? 許しちゃうんだろうな……。

もう1人の女性、濱めぐさんの美涼は、「ああ、いい女だなあ」という印象です。何でこんないい女を振り切って逃げたんだ、大祐! という疑問はありますが、同時に安易に復縁するなどの展開でなくて良かったと思いました。徹頭徹尾弱いところを見せない女性で、2幕のソロナンバーでもしっかりと地面を踏みしめていますが、実は一見触れたら折れそうな里枝の方が強い柳の枝なのかも? とも考えています。

その美涼の元カレであった大祐。上川一哉さんは『ケイン&アベル』のジョージ(アベルの盟友)でも観ていましたが、あまりにもイメージがかけ離れていたので観劇中は全く結びつかず……。大祐は1幕には回想も含めて出番がなく、その後の展開もXの方に重点が置かれており、結局大祐の人物像があまり深掘りされないまま2幕まで来てしまったため、そこはもう少し何とかして欲しかったように思います。一応ソロナンバーはあるものの、役どころの立ち位置が微妙なので、せっかくの上川さんの持ち腐れという印象です。

それから、御大、鹿賀さん。これ、二役にする必要あった? とは思いましたが、二役に全く違和感はありませんでした。小見浦はいかがわしさの塊のような人物で関西弁話者、小菅は善意と誠実が服を着ているような人物で標準語話者という大きい違いはありますが、どちらも舞台に登場した瞬間に空気がさっと変わります。それでいて悪目立ちしないのはさすがだと思います。

最後に、小池さんの「X」。『砂の器』を連想しましたが、あちらとは異なり「X」の場合は野心や才能の実現のための「なりすまし」ではなく、元の自分から解放されて初めて「何でもないけど幸せ」な時間を手に入れられた人です。観ていて大祐を「何もそこまでしなくても……」と思ったのに対し、「X」に関しては「生き延びるために、よくぞそこまでやりました!」な印象を受けました。

多分、「X」が最終的に選択した手段以外にも、例えば別人の顔に整形するとか、元の家族から受け継いだもの全てを棄てるなり封印するなりするとか、彼が「別人」になる選択肢はあったと思うのですね。でも彼はそうしなかった。元の人生の属性にあれほど苦しめられて解放されたかったにもかかわらず、完全には棄てきれなかった。上手く言えないのですが、人生は平凡な日々を送っている者には思いも寄らないほど難儀なのかも知れない、と考えさせられております。ただ、「X」に取ってあの選択がベストであったことだけは確実なので、彼の魂が末永い愛に包まれて救済されているならそれで良いと思います。

『ある男』、東京公演は自分が観たのが前々楽でして、既に翌日8月17日に千穐楽を迎えています。今後は広島、愛知、福岡、大阪とツアー公演となるようです。初演ということで前述のように練れていない所もなくはないですが、お話としては面白いですし、ストプレではなくミュージカルとして作られた意味がある作品と思いますので、興味のある方はぜひどうぞ。

 

『ダンス・オブ・ヴァンパイア』感想(2025.07.27 13:00開演 博多座)

キャスト:
クロロック伯爵=山口祐一郎 サラ=フランク莉奈 アルフレート=太田基裕 シャガール芋洗坂係長 レベッカ明星真由美 ヘルベルト=ジュリアン マグダ=青野紗穂 クコール=駒田一 ヴァンパイア・ダンサー=伯爵の化身=佐藤洋介 アブロンシウス教授=武田真治

関東から博多座に遠征してTdVを観てまいりました。

様々な日程の都合で前々日の金曜日に友人とともに九州入りし、しかし確保チケットは27日昼公演分のみ、ということで、金曜日から土曜日にかけては門司港で遊んだり、太宰府天満宮に参詣したり、「九州国立博物館 - 特別展「九州の国宝 きゅーはくのたから」」で志賀島の金印や「圧切長谷部」などの刀剣、埴輪等々を鑑賞したりして、いい感じにテンションが上がったところで、いざ、博多座へ! と臨みました。

今回が実は初・博多座でしたが、上演が始まってまず、舞台と客席の距離のあまりの近さに驚愕。特にダンスシーンでのダンサーさんたちの肉体の躍動感の伝わり方が迫力満点! しかも、舞台中央から役者さんの歌声や台詞がクリアに通って聞こえてくるではありませんか。

舞台中央からクリアに、というのがどういうことかと申しますと、劇場や座席によっては、左右のスピーカーの音ばかりが強くて肝心の舞台からの音がいまいちパワー不足で不満を覚えることがあります。しかし今回、比較的前方席であったことを差し引いても、役者さんの肉体とそこから発せられる声がしっかり存在感を示していて、いや、博多座すごいな、これは遠征する価値のある劇場だな、と感慨に浸っておりました。

ちょうど、博多座公式Xで、まさに舞台の近さと音響の良さの秘密について解説しているポストがありましたので、以下、引用します。基本は、劇場が歌舞伎の上演を念頭に置いて造られていることが大きいようです。

さて、そんな素晴らしい博多座で観たTdVですが、とにかく
「楽しかった~!」
という一言に尽きてしまいます。

今期はブリリア城も含めて、観た公演の全てで教授を除くキャストが全て一緒だったので、他キャストについては改めて書くことがあまりなかったりします(祐一郎さんは例外)。ただ、ここで感想が終わってしまってもあれですので、今回のキャストで唯一初見だった武田教授について書いておきます。

武田教授……まさか禅教授よりじじむさいとは予測できませんでした。しかもクソジジイ度がダントツに高かったです。しわがれ声で、一見傘をステッキ代わりにしたりしてよぼよぼしている? と思わせておいて、動作は実に機敏、まだまだ若い者には負けておられんぞ感が満々でした。加えて良く喋りやかましい😅 1幕のお城への道行きでの客席降りで、アルフよりも喋るしゃべる、喋りまくる。とてもエネルギッシュな教授で、初代の市村教授のイメージがふと頭をかすめました。

また、地方公演ということで、ご当地ネタがあるかも? と期待していましたが、初日や楽日のように特別な公演でもなかったこともあり、そんなにふんだんにはなかったです。2幕で太田アルフが霊廟で教授を救助した時に「よかよ~」と言ったぐらいでしょうか。もし見落とし・聞き落としがあったらすみません。

書くことがないと言いつつ、これだけは書きたいのがクコール劇場。緞帳の奥からはかすかに掃除機の駆動音が聞こえる中、モップ2本遣いで早々にお掃除を済ませたクコール。そこへ舞台下手から日傘とサングラスを装着して現れたのはヘルベルト。無言でクコールに風船をプレゼントしたと思ったら、突如その風船がクコールの手の中でバーンと破裂! 満足げに優雅に下手へと去って行くヘルベルトと悔しがるクコール。さて、ヘルベルトへの逆襲は実現したのでしょうか?

ということで、今回の祐一郎伯爵について語ります。長いです。

祐一郎伯爵、かなりグレーのアイメイクが濃くて、妖しい雰囲気を漂わせていました。昔、具体的には初演の2006年頃は公演を重ねるごとにどんどん化粧が薄くなっていくのを感じていましたが、今はそんなことはありません。武田教授との組み合わせで観るのは初めてでしたが、対禅教授の時と特に対応の違いはなかったように思います。

何と申しましても、ブリリア城では一度も1階席で観られていなかったので、今回、たっぷりと1階席の特権を堪能しました。下手通路を入場してくる時も、上手通路を退場する時も、伯爵が近い近い。伯爵の移動は滑車でもついているのかというぐらい静かで滑らかかつ高速でした。改めて、どうして歩くだけであそこまで人外感を醸し出せるのかと不思議です。あんなのが爆音の美声とともにマントを翻して突然現れたら、そりゃ宿屋の狭い浴室も異空間になりますし、サラもぞっこんになります。「艶やかな女になーれー」と歌った瞬間、艶やかなのはあなたですよ伯爵、と思いました。

また、くどいようですが音が良い劇城なので、伯爵の歌声も取れたての新鮮なものをノンストレスでそのままいただけます、という感じで、とてもありがたかったです。1幕のエンディングのロングトーンも聴いていて気持ち良く、「抑えがたい欲望」でも佐藤影伯爵の体重の全く感じられないダンスと祐一郎伯爵のドラマチックな歌声のシンクロの堪能に、安心して目も耳もゆだねることができました。

なお、今思い出したので書きますと、1幕エンディングで太田アルフ、伯爵が投げたスポンジをブリリア城では観劇した2回とも受け取れずに落としていましたが、博多座城ではしっかりキャッチしていました。もし成長なら嬉しいですが、そうではなく演出変更でキャッチできるようにしたのであれば、「そんな所を演出してどうする?」な気持ちです。

今回しみじみ思ったのは、自分は舞踏会に思い切り颯爽と現れる伯爵の、マントを脱いだ状態の衣装が好きだということでした。薄手なので、ぴんと伸びた首から背中のラインがとても綺麗に見えるのです。目的を成し遂げた後、その姿で息子ヘルベルトと向き合ってあおーん! とやる姿もまた良き。

そしてクライマックスで一瞬伯爵が見せる、(恐らく想定内の流れとは言え)遠くを見やる少し寂しそうな表情もしっかり見届け、心の中にあるその瞬間の舞台写真に「ここポイント!」と赤丸を付けていました。

カーテンコールではいつもの客席全員での赤ハンカチを使ったヴァンパイアダンスが特に説明なしに始まりましたが、周囲を見る限り客席の誰も戸惑うことなくダンスしていたのはさすがです。私は……始まってから何とか振り付けを思い出して事なきを得ました。

その後、キャストが退場して拍手で再度お出まし、が何度かあり、最後は祐一郎伯爵、武田教授、駒田クコールの3人で登場されていました。こういう時、伯爵がクコールも教授も前面にどんどん押し出すのが良いですね。

ということで、初・博多座遠征は無事完了いたしました。

今期で祐一郎伯爵が見納めになるかも? と思い、たとえ大楽は観られなくとも見届けたい! と遠征を決めたのですが、終わってみると、
「ええと、これだけ最高の伯爵を魅せてくれているのに、これで見納めなんて、そりゃないよね?」
という心持ちになっています。

その後博多座TdVは7月30日昼の前楽で祐一郎伯爵楽、夜に城田伯爵で無事大千穐楽を迎えたようです。おめでとうございます。そして今期も素晴らしい時間をありがとうございました!