日々記 観劇別館

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『レイディ・ベス』初日感想(2026.02.09 18:00開演 日生劇場)

キャスト:
レイディ・ベス=奥田いろは ロビン・ブレイク=有澤樟太郎 メアリー・チューダー=丸山礼 フェリペ=内海啓貴 シモン・ルナール=高橋健介 スティーブン・ガーディナー津田英佑 キャット・アシュリー=吉沢梨絵 アン・ブーリン=凪七瑠海 ロジャー・アスカム=山口祐一郎 リトル・ベス=横溝陽音 リトル・メアリー=馬場音羽

『レディ・ベス』から改題された9年ぶりの『レイディ・ベス』再演の初日を観てまいりました。

実は最近、本業が立て込んだタイミングで片方の耳の低音域が聞こえにくくなる難聴と、それに連動する内耳の違和感に一時的に襲われました。その後、難聴そのものは投薬治療で無事回復したものの、診察の際にあわせて「もう片方の耳が加齢により高音域がやや聞こえにくくなっている」件が判明。こちらは加齢によるものなのでもうどうしようもないと申しますか……。そんなこんなでダメージを受けつつも、とりあえずまだ仕事は立て込んでるけど何とか聞こえる状態になって良かった! ついでに初日前日に関東は大雪に見舞われましたが翌日には影響せず良かった! と気を取り直して日生劇場に出向きました。

さて今回の『レイディ・ベス』。以前の公演(2014年、2017年)の記憶はかなり薄れているものの、それでも場面の順序の入れ替え、登場人物の出番や台詞の追加・削除、曲の細部の差し替えが生じているらしいことは分かりました。
これらのシナリオや演出の変更により、例えば、あれ、ええと、ベスって、最初こんなにネガティブだったっけ? と戸惑うくらいには、同じ音楽と物語なのに受ける印象がだいぶ違っていて驚いています。
また、ベスを見守るアスカム先生とキャットのおとんおかん度が増したような……。特にキャット。初演再演時の涼風キャットの華やかな強気さがかなり好きではありましたが、吉沢キャットの強さと温かみに満ちたおかんなイメージも、大変しっくりとはまっていました。歌声も綺麗。「大人になるまでに」、この演目で一番好きな曲ですが、その思いは吉沢キャットに交代しても変わっていません。
アスカム先生については、先ほど書いた場面の順序の入れ替えの影響をかなり大きく受けています。詳しくは書きませんが、以前は物語の途中にあった場面が冒頭に変更、アスカム先生の出番が追加されたことにより、ロビンとの関係性が変わっていました。更に、以前は冒頭に置かれていたアスカム先生の場面が、今回は先生が冒頭で遭遇した出来事を踏まえながら不遇に心折れかけたベスを諭すとともに、観客に過去の経緯を説明する場面として置き換えられていました。

こうした大きな変更により、アスカム先生がベスに向き合う姿勢も初演・再演時から変化していると感じました。彼の役割が、前回まではどちらかと言えば、ベスこそ女王になるのだ、いや、なるべきだと星が告げている! というベス強火担だったと思うのですが*1、今回はそうした強火推しな所に「でもベスが幸せなのが一番ではあるんだよね」「でもやはり星の運命に従わないのは寂しい」といった葛藤がたっぷりと加味されていて、良きかな、良きかなです。

実は祐一郎さんの役として、アスカム先生、割と嫌いではありません。ソロやデュエットの曲もそれぞれに美しいですし、何よりも、こういう腕っぷしはさほどなさそうですが、飛び抜けた知力と星見の能力という強みがあって情熱と優しさに満ちた大人、素敵ですよね……。


全般の感想を申しますと、2幕に個人的にやや苦手な場面と曲は残っていたものの、端々で余計な物が削られて洗練された演出に仕上がっていたと思います。
また、キャストの平均年齢が(アスカム先生以外)全員が下がった分、ビジュアルも全体に割と地味になった感があります。その分、ベスとロビンの心の結びつきと変化を中心としたストーリーに集中して観られたような気がしました。

ちなみに奥田ベスの第一印象は「顔、ちっちゃ!」でした。歌は上手いけど、どこか青いな、と思っていたら、なんとまだ20歳だとは。子役時代から活躍されていたらしいですが、不覚にも存じ上げず、後からWikipediaを見て「ああ、あの辺りのドラマに出ていた子か!」と理解しました。物語の始まりでは過去の経緯もあってかなりネガティブだったベスが、試練を経て、誰でも自分の考えを言える社会を作るために自身の運命を、葛藤しつつ徐々に受け入れていくさまを、実にリアルに自然に演じられていたと思います。

対する有澤ロビンは、自由奔放な若者から最愛の相手とのロマンスを経て、最終的に陰からそっと見守れる大人の男へと変化していく姿がとても素晴らしかったです。終盤の様々な感情と思い出を飲み込んで、しかし心から恋人の門出を祝福する表情にぐっときました。

フェリペは……初演・再演時の古川フェリペが非常に外連味なクールヘッドを打ち出していたので、内海フェリペ、地味? と思いましたが、過去を振り返れば平方フェリペは古川フェリペと異なりかなり穏健で、しかし食えないクールヘッドでした。Wキャストのフェリペがどんな作り込みをしているかを観てから、改めて今回のフェリペ像を考えたいと思います。なお個人的にフェリペには、あのクールヘッドハーレム(と勝手に名付けている)場面の爆音演奏と対等に張り合う歌声を聴かせてもらいたいです。

ルナールも、初演・再演の吉野ルナールの強烈な色悪ぶりが頭に焼きつけられてしまっていたので、「あれ、高橋ルナール、もう少し行けない?」と思ってしまいました。一方で、ルナールは悪知恵は働かせますが、本質は忠臣だと解釈しており、であればそんなに出過ぎなくても大丈夫かな、とも考えています。

津田ガーディナーも初演・再演の禅ガーディナーと比べるとおとなしい印象を受けました。ただ、ガーディナーも、ベス勢から見ると本当にとんでもない敵ではあるものの、彼は彼で病を隠しながら懸命に働いている一面があるので、あの顛末はかわいそうと言えばかわいそうではあります。禅ガーディナーにはあまり同情した記憶がないので、今回少しでも「かわいそう」という気持ちがわいてきたのは不思議です。

今回舞台で初見で気になったのは、メアリーの丸山礼さん、そしてアンの凪七瑠海さんでした。

丸山礼さんはテレビで見る機会はありましたが元々お笑いの方、ワタサバの人、初ミュージカルということで未知数でしたが、意外にもメアリーを好演されていました。丸山メアリー、ベスをあんなのは妹ではないと言いつつ、いざ彼女を始末するよう圧をかけられると無意識の情のかけらが表情にちらちら現れるのが上手いです。

凪七アンは、現れた瞬間、全身からこの世の者でないオーラを漂わせていて「えっ!」と叫びそうになりました。たとえ幻影であっても娘に向ける愛は本物。しかも美しい。まあ本当に濡れ衣だったんだろうな、と思わせられるひたむきさと同時に、この一途な母なら娘を盤石にするためにメアリーを侍女にするぐらいはやりそう、と納得できる堂々とした佇まい。

凪七瑠海さん、なんでここまでできる方がトップになることなく専科として退団されたんだろう、時の運が様々によろしくなかったのかな、等々と思いを巡らせながら、彼女が登場するたび注目せずにはいられませんでした。

『レイディ・ベス』初日、色々と考えるところはありましたが、エンディングのあの華やかなドレスと、感慨深げに見守るアスカム先生とキャットの表情を目にした時、心から「ああ、良かったねえ」な気持ちになれました。

初日ということで、カーテンコールでは主演の奥田さん、演出の小池先生、そして来日中のリーヴァイさんからもご挨拶がありました。

小池先生のご挨拶で「今、日本でリーヴァイさん関係の公演が3つかかっている」というお話がありました。ひとつは今回の『レイディ・ベス』、ひとつはシアターオーブの『Concert for LEVAY ~Happy 80th Birthday~』だけどもうひとつは何? と悩みましたが、梅芸の『エリザベート TAKARAZUKA30周年 スペシャル・ガラ・コンサート』を指していたようです。バースデーコンサートは軽くチケ取りチャレンジして諦めたので頭にありましたが、すみません、ガラコンの方は全くマークしていませんでした。

小池先生、さすがに以前に比べるとお年を召されたご様子で、リーヴァイさんもここ20年ほど変わっていないように見えて実は御髪の白さは増しているようにお見受けしました。そして当然、観ている自分自身もM!の祐一郎さんをきっかけに観劇を始めた20年の歳月を、見た目にも中身にも隠しきれないわけで。

奥田さんに祝福のキスを贈り、「私の長年の友だち、祐一郎さん!」と祐一郎さんとハグするリーヴァイさんをまぶしく見やりながら。舞台上から生み出される瞬間瞬間を堪能するミュージカルは諸行無常、私の心の抽斗も私が消滅すれば消え去るのみ。でもだからこそ、生まれる瞬間は掛け替えがないもの。その素敵な瞬間がこんなにたくさんの観客の心に今届いて染み渡るって、なんて素晴らしいことなんだろう。そんな柄にもない思いがずっと心を駆け巡っていました。

『レイディ・ベス』は幸いにもあと3回ほど観る機会があります。どうか全ての公演を無事に見届けられますように、そして全てのキャストが大過なく大千穐楽まで完走されますようにと祈っています。

*1:2幕のベスの夢の中でのアンとのデュエット場面にその名残があります。あれはあくまでベス自身の迷いの反映であり、アスカム先生本人ではないので整合性は取れている……と思います。