日々記 観劇別館

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『モーツァルト!』帝劇千穐楽感想(2024.09.29 12:30開演)

キャスト:
ヴォルフガング・モーツァルト京本大我 コンスタンツェ=真彩希帆 ナンネール=大塚千弘 ヴァルトシュテッテン男爵夫人=香寿たつき コロレド大司教山口祐一郎 レオポルト市村正親 セシリア・ウェーバー=未来優希 エマヌエル・シカネーダー=遠山裕介 アントン・メスマー=松井工 アルコ伯爵=中西勝之 アマデ=星駿成

モーツァルト!』の帝国劇場千穐楽(京本ヴォルフ・香寿男爵夫人・駿成アマデ)を観てまいりました。

終演後のカーテンコールでの小池先生のご発言によれば、今回がM!の666回目の公演だったようです。

「えっ、666って悪魔の子?」と連想してしまいましたが、6という数字は本日のヴォルフの中の人つながりで喜ばしいものでもあったようで……短絡的な昭和脳ですみません。

というわけで感想にまいります。

京本ヴォルフは前回は1幕で子犬っぽく見えたのですが、今回はそうでもなく。子犬というよりは反抗期を迎えたヘタレ坊ちゃん感が満載でした。ああ、この坊ちゃんにはまだまだ保護者が必要だし、誰かの愛を実感しないと生きていけなさそうだけど、そのことに対する自覚すらないヴォルフなのです。

8月末に観た時よりは京本ヴォルフ、着実に手練れてきている一方で、やや息切れしてきているようにも見えました。まだどこか迷いながら演じている、と言ってしまうのは穿ち過ぎでしょうか。カーテンコールのご挨拶でも、
「『モーツァルト!』は大変だよ、と言われてましたが本当に大変です」
とコメントされていて、試行錯誤の真っ最中な印象を受けたので、今後も変化するに違いない、と楽しみにしています。

アマデは今回も駿成くんでした。しかし前回古川ヴォルフで観た時と全く演技が違う! 古川ヴォルフと組んだ時はきかん気で、若き狼なヴォルフと一心同体なイメージでしたが、京本ヴォルフに対しては依怙地である一方で「全くしょうがねえなあ」と上から目線で面倒を見てやっているように見えました。もしヴォルフによって演技を変えているとしたら、恐ろしい子

香寿男爵夫人は、京本ヴォルフとの相性は良いと思いました。ヴォルフにも、常に彼と共にあるアマデにも、着実に心の琴線に触れ続けているのが伝わってきて、だから彼の岐路においてイマジナリーで現れて導けるのだ、と納得できる存在です。

真彩コンスはずっと書けてませんでしたが、1幕のウェーバー家での、所在なげで独り浮いている少女の佇まいが抜群だと思っています。

コンスについては、そのままのあんたが好き、と意図せずヴォルフに殺し文句を伝え、その流れのまま一緒になって彼の傍らに居場所を求めていましたが、その後のヴォルフとの関係の変化は、改めて振り返るとなかなか辛いですね。真彩さんの絶唱もまた本当に痛々しさを湛えていて……。

最終的にヴォルフが「別にこのままの僕を愛してもらわなくても生きていける」と思ってしまったため(思っただけ)、自分はもう必要のない存在だと解釈したのだ、というのは今回観ていて気がつきました。

それから、レオポルトパパ。彼の愛情は文字通り鋳物のように強固で重く、息子も自身も苦しめ、すれ違ってばかり。それは不幸なことだとばかりこれまでは思っていましたが、昔の演奏旅行の時など互いに互いを必要として幸福だった時期もあったわけで、まあ、親子であることによる幸せも苦しみも表裏一体ってことなのではないでしょうか。……と、今回、カーテンコールで市村さんが、初演から22年間で実生活で父親になり、(只今売り出し中の)息子もいて、父親とはこういうものかと実感している、とコメントされていたのを聞いて考えています。

ナンネール。女性であるがゆえに未来を色々諦めさせられているのは、やっぱり見ていてしんどいですね。ああ、朝ドラ『虎に翼』のトラちゃんを呼んできて「はて?」と言わせたい! と何度も思いました(すみません、あの世界観にどっぷりはまってましたので、今、だいぶロスがきています)。

なお、コンスの母と姉妹も、誰かを頼らないと生きていけなかった当時の女性であるためにあのような生き方になったと思っています。迷惑な人たちには違いありませんが、少なくとも自分を押し殺していない点だけはナンネールよりも幸福な気がしてなりません。

そして……猊下。ヴォルフにはけんもほろろの扱いを受けていますが、アマデには、男爵夫人のように特別な存在ではないにせよ、よく見ると決して嫌われてはいないのです。人権は束縛するけれど、やはり音楽を最大限に評価して、庇護してくれようとする存在だから? だとすると何だか切ないですね。

祐一郎猊下と京本ヴォルフ、このペアがトートとルドルフを演じたことはなく、役どころも全く違う、しかも京本ルドルフで『エリザベート』を観たこともないというのに、なぜか一瞬「トートを一個も友だちと思わず真っ向から拒むルドルフ」に見えました。コンサートで良いので一度この2人で闇広を聴いてみたいですが……無理かな、やはり。

ところで2幕の「神なぜ」で、猊下、作詞していませんでしたか?
♪音楽の摂理に 神の摂理が敗北するはずがない~
と歌っていたように聞こえたのですが……。なお、空耳にせよ何にせよ、もちろん猊下は何事もなかったように最後の♪音楽の~魔術~! を見事に決めてくださいました。

今回は東京楽、しかも現帝劇では最後のM!上演、更に666回目ということで、特別カーテンコール的なものがありました。

京本さんのご挨拶の後、初めに書いたとおり、小池先生がご登場。(話が長くなるから)客席に着席を促すのもお約束。666回通しで出演した市村さんと祐一郎さんに挨拶を振る先生。市村さんのコメントは前出のとおりで、観客としてもM!の歴史と市村さんの変遷に深く思いを馳せておりました。
祐一郎さんは、ご挨拶の代わりに、自らの口元に両手をそっと持って行き、ふうっとして、なんと客席全方位に投げキス! 少し間があって、あの穏やかな口調でただ一言「ありがとうございます」と締めていました。ありがとう、思いをしかと心に受け止めました。こんな技がごく自然に使えるのはきっと貴方だけです。いつもカーテンコールでB席の方までくまなくしっかり目線を送ってくれるのも、嬉しく見守っております。
そう言えば『エリザベート』の1000回記念公演、祐一郎トートの最後の名古屋公演の時もこんな感じだったような? と一瞬連想しましたが、今はあまり深く考えないようにします。

その後、客電を点した客席を背景に、舞台上のキャストが記念撮影。最後はキャスト全員で上手から下手へと銀橋渡りで締め括られていました。この銀橋渡り、アンサンブルさんはとりわけ嬉しかったのではないでしょうか。残念ながら今回ご病気で降板されてこの舞台に立つことが叶わなかったキャストの方のことも、ふと頭をよぎりました。

今回が最後の現帝劇詣でになる可能性が高いので、幕間や終演後に場内のロビーの写真を撮りまくり、さよなら、さよなら! という気分にどっぷり浸りまくりました。
ただ、M!という演目はこれから地方公演も控えていますので、遠征こそしませんが、できれば配信できちんと大楽を見届けたいと思います。