日々記 観劇別館

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『華麗なるミュージカル音楽の世界ガラコンサート2012 〜サットン・フォスター来日記念スペシャル〜』感想(2012.9.16マチネ)

キャスト:サットン・フォスター 石井一孝 鈴木綜馬 玉野和紀 藤岡正明 彩乃かなみ 昆夏美 姿月あさと シルビア・グラブ 保坂知寿

新国立劇場で開催されたガラコンサートを鑑賞してまいりました。当日朝、同行する筈だった家族が体調不良のため急遽ネットで同行者を募る等してばたばたと出発したところ、オペラグラスを忘れるという大失態。1階上手センター通路寄り、真ん中からやや後方という比較的見えやすい席だったのでそんなに舞台から遠くはありませんでしたが、近視なのでオペラグラスがないと少々不便です。

実はサットン・フォスターがどういう方か全く下知識なしで臨んだのですが、『モダン・ミリー』(観てません)でアンダースタディから主役に抜擢されてトニー賞を受賞されたとか、レミゼのエポニーヌが当たり役の1つだということは、会場で買ったパンフレットを読んだり、司会者の説明を聴いたりして初めて知りました(おい)。
今回のステージトークで共演者が口々に「気さくな人」「自然体の人」と評してましたが、実際にステージを観た自分の印象も概ねそれと変わりません。舞台上の姿は、普通に美人で爽やか系のお姉さんがふわりと自然体にただ佇んでいて、そんなにオーラばりばりな感じでもないのですが、ひとたび歌い出すとその自然体なまま張りのある美しい歌声が全身から響いてきて、たちまちダイソンの掃除機並みの吸引力、もとい、求心力を発揮していました。
例えば、日本版レミゼのエポニーヌは、熱唱するとどうしても「要らぬ力み」が見え隠れする役者が大半だと感じていますが*1、サットンさん*2は熱唱しても全然力みが感じられませんでした。十二分に熱唱してるのに、まだ余裕綽々な印象。もっとも今回はあくまでコンサートなので、本公演だとまた歌い方が違うのかも知れません。

以下はサットンさん以外の要素について少しだけ辛口の感想です。
今回のガラコン演出、いくらサットンさんの出演作のナンバーからセレクトする、という縛りがあるとは言え、全体の構成としてはあまりバランスが良くないなあ、と思いました。ダンスも歌も腹八分目までいかない七分目辺りという印象で、今年5月の同じ主催者のミューコンは観ていませんが、昨夏のほぼ同時期に観たミューコンの方が鑑賞後の満腹度は高かったような気がします。
一例を挙げると、いみじくもステージトークでご本人も述べられていたとおり、知寿さんの出番が2幕に大幅に偏っていました。いくら2幕に『マンマ・ミーア!』メドレーがあったとは言え、1幕の出番がオープニング曲とエンディングの「ワン・デイ・モア」しかない、というのはどうなんだろう、と思ってみたり。
また、これは個人的な不満ですが、サットンの持ち役の歌は別として、レミゼとマンマ以外の演目の曲にも、持ち役の人に歌わせて欲しかった、というものがありました。何でシルビアさんも出ているのに「レベッカ」を歌うのはずんこさんなんだよ、とか、ジキハイの「時が来た」もカズさんや綜馬さんといった実力派男子がいるのに何故?とか*3。宝塚でかなみちゃんが演じたミーマイについてもちょっと同じことを思いましたが、あれは年齢的に若い子に回るのは仕方ないのでしょうか。
もっとも、「時が来た」は舞台上演版とは歌詞が異なっていたりした上、シルビアさんも東宝の方なので、権利関係の何らかの事情があったのかも知れない、と考えています。それから、今春に『道化の瞳』を観た時にも思ったのですが、単に玉野さんの演出が自分の好みに合わないだけかも知れません。ただ同じ玉野さん演出の『CLUB SEVEN』は未見なのでそこはもう少し評価を保留にしておきます。

しかし、それでも。これは書いておかねば!といういくつか印象に残った場面がありました。
中でも大きい1つは、1幕終盤のレミゼナンバー5連発。サットンさんの『オン・マイ・オウン』、綜馬さんの『星よ』、シルビアさんの『夢やぶれて』、藤岡くんの『カフェ・ソング』、そして石井さんの『彼を帰して』。
私が初めてレミゼを観たのは6年半前の2006年4月。その時のバルジャンは山口さん、ジャベールは綜馬さん、ファンテーヌはシルビアさん、マリウスは藤岡くん、エポニーヌは笹本玲奈ちゃんでした。つまり、今回の5曲中3曲までがその時のキャストによる歌唱ということになります。大変個人的な思い出ではありますが、そんなわけで、とても懐かしく今回の3人の歌を聴きました。
『星よ』の、本編ではジャベールが跪いて祈りを捧げる歌詞の部分で、綜馬さんが一瞬ふっと目を瞑って祈るような表情になったのが心に残っています。
シルビアさんは今回はファンテーヌという役としてではなく、あくまで1つの曲として歌っていたように思います。
藤岡くんの『カフェ・ソング』は昨年8月に、岡田さんが何の変哲もないステージを歌の力だけでレミゼの盟友達の幻影が見えるかのようなカフェに変身させた瞬間を目にしてしまっていて、正直、その凄さを超えてはくれなかったのですが、熱く激しいマリウスを見せてくれました。
今回初めて聴いた石井さんの『彼を帰して』。実に情熱的でディープな思いに溢れかえったバルジャンでした。実際の所、私的なバルジャンのベストイメージとは異なるのですが、慎ましく生きるバルジャンの奥底にたぎる熱い心を表現しているという意味では、これはこれでバルジャンとして「あり」だと思います。
もう1つ大きく印象に残ったのは、2幕での知寿さんの『マンマ・ミーア!』メドレー。披露されたのは「スリッピング・スロー・マイ・フィンガーズ」、「マンマ・ミーア」、「ダンシング・クイーン」の3曲。四季のマンマは観る機会がないうちに知寿さんが退団されてしまわれたのですが、思いがけず聴けて嬉しかったです。どちらかと言えば小柄な知寿さんがセンターに立ってパワフルに歌い踊ると本当大きく見えました。
最初に、サットンさんの「求心力」について書かせていただきましたが、今回のキャストでそれと同様のものを感じさせられたのは、綜馬さんと知寿さんだったと思います。これは決して、自分の好きな人と所縁の深い方達への身贔屓などではありません。ごく自然に柔らかく舞台上にいて、それでいて動き出すと何とも言えない存在感を醸し出してくれる所に、お2人のただならぬ力を実感しました。
細かい所では、1幕の2曲目だったと思いますが、『You’re the Top』でのサットンさんとカズさん、綜馬さんの掛け合いが楽しかったです。サットンさんとカズさんのデュエットの時、お尻ふりふり踊っている綜馬さんの可愛いこと(^_^)。
ちなみにカズさんは、サットンさんに「自分のことを『サッチャンです』と自己紹介して欲しい」と、英語のメモを渡してお願いした、とステージトークで仰っていて、後からサットンさんが司会者に促される形ではありましたがご自身のことを「サッチャンです」とご挨拶されていました。
一方綜馬さんは、初対面でいきなりサットンさんにハグするなど、元々の英語力もあってのことと思いますが、大変フレンドリーに接されていたようで、ああ、綜馬さんキャラ健在だ〜、とにやにやしながらその件のステージトークを聴いていました。
そして、今回初めて知って、これからこの人の舞台を観る機会があったら是非観てみたい、と思ったのは彩乃かなみちゃんです。元宝塚の娘役トップ、ということで、見た目からもっと可愛い系で押すタイプなのかな、と勝手に思い込んでいましたが、全くそうではなく、やや低めの声質で、それでいて広い声域と声量のある歌声を見事に劇場に響かせていて、驚かされました。そしてトークでの受け答えを聞いた印象では、他の元娘役さん方の例に違わぬ芯の強いイメージで。瀬奈じゅんさんが月組トップ時代、かなみちゃんの退団後、ついに固定の娘役トップを指定しないままであった、と聞いたことがありますが、そのエピソードに何となく得心の行く実力派だと分かりました。舞台の世界では、例え元トップであっても娘役より男役が優遇される傾向にあるように感じていますが、こういう実力派の元娘役がもっと大きい役で活躍できる場があっても良いのに、と思います。

そんなわけで、多少のいちゃもんがなかったわけではないものの、3時間(1幕:1時間30分、休憩:15分、2幕:1時間15分)大いに楽しめたコンサートでした。
この後、銀座に移動して、松屋で開催中のベルばら展を見たりなどもしましたが、その話はまた書けたら書きます。

(付け足し)
確か『シュレック』の昆さんがメインを歌ったナンバーだったと思いますが、子役の女の子4人が登場していました。しかも全員とても歌がお上手。リトコゼ・リトエポで出てくれないかしら?と思いましたが、そう言えば四季はともかく東宝系のミュージカルでは、レミゼ以外に子役の女の子が歌う作品って意外と少なかったような気がします。M!のアマデは女の子も演じますが台詞はありませんし、M.A.のマリー・テレーズもあまり歌っていた記憶がないですし。東宝以外なら『アニー』とか『ピーターパン』とか『サウンド・オブ・ミュージック』とかあるのですが。……あ、もしかしたら『王様と私』辺りは該当するかも?と思いましたが、すみません、観ていませんm(_ _)m。

*1:但し歌穂エポは例外中の例外。聖子エポは最後の頃情景(「情感」の誤字ではなく本当に情景が見えるような歌だと感じたのです)豊かな歌い方で割と好きでしたが、果たして自然体だったかは疑問です。

*2:余談ですが最初司会者やキャストの皆様が「サットンさん」と発音する度、どうも「佐藤さん」と聞こえて仕方ありませんでした(笑)。

*3:決してずんこさんの歌を非難しているわけではありませんので念のため。「ビギン・ザ・ビギン」も渋くて良かったですし、「ワン・デイ・モア」での影コーラスで披露したアンジョルラスのソロ、格好良かったですよ。