日々記 観劇別館

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『モーツァルト!』感想(2014.11.22マチネ)

キャスト:
ヴォルフガング・モーツァルト=山崎育三郎 ナンネール=花總まり コンスタンツェ=ソニン ヴァルトシュテッテン男爵夫人=香寿たつき セシリア・ウェーバー阿知波悟美 アルコ伯爵=武岡淳一 エマヌエル・シカネーダー=吉野圭吾 コロレド大司教山口祐一郎オポルト市村正親 アマデ=日浦美菜子

帝劇に、今季2回目の『モーツァルト!』を観に行ってまいりました。
今回は座席がかなり前方でしたので(1階C列センターブロック席)、殆どオペラグラスを使わずに鑑賞しました(除く猊下登場シーン)。

育三郎ヴォルフとは、2010年以来、4年ぶりの再会でした。
初めて彼のヴォルフを観た時には、まだ彼の中にはヴォルフが染みこんでいないなあ、と感じたものです。
しかし、本日観た育三郎くんは、やんちゃさと素直さがすっかり身体に馴染んでおり、ああ、彼自身のヴォルフを確立できたのだな、と思いました。
育三郎ヴォルフに特に思い入れがあるわけではない筈ですが、舞台のパンフで育三郎くんが語っている、4年前の初ヴォルフの際の過酷な稽古の最中、山口さんが耳元で時折「大丈夫、大丈夫」と囁いて励ましてくれた話と合わせて、ちょっとじーんとしています。

素直であるが故に喜びも苦しみも真正面からまともに受け止め、鋭い感性と才能故に目の前の快楽にためらいなく耽溺し、常人以上に人生が翻弄されてしまうヴォルフ。
これではレオポルトパパも心配せずにはいられまい、と納得。
ダンスやちょっとした所作が型どおりではなく、少しずつ軽く遊びが入っているのがやんちゃっぽくて良いのです。

本日初見だったのは、ソニンコンスタンツェでした。「ダンスはやめられない」などで孤独の表現がドラマティックで、すんなり心の中に届いてきました。

実はこれまで歴代コンスを観てきた中で(但し松さん、千弘ちゃん、西田さんは未見)、コンスの愛に未熟であるがための苦しみを哀れに思いこそすれ、コンスに共感したことはあまりなかったのですが、今回のソニンコンスには深く共感、同情せずにはいられませんでした。
ヴォルフという超人的才能(アマデ)を同道した相手をパートナーとして愛し続けるには相当強靱な意志が必要だろうと想像します。
ヴォルフは「このままの僕を愛して欲しい」と願い続けた人で、だからこそ「そのままのあんたが好き」と言ってくれたコンスを受け入れたのでしょう。
でも、「このままの僕」への愛を貫くことが、現実にどれだけ相手に負担を強いるか?ということは、生涯理解し得なかったのだろうと思います。
自分的にこれまでは、コンスの愛し方を「一方的な幼い愛」と受け止めることが多かったような気がしますが、今回はコンスは耐えうるぎりぎりまで夫を受け容れようとしているのに、ダメじゃんヴォルフ!という気持ちになりました。これはソニンコンスの力でしょうか。

それから、男爵夫人は今回は香寿さんでした。
やっぱり、芸術への思い入れとか、際立った才能へのリスペクトとか、そういう心がじんわり伝わってくるのは彼女ならではだと感じました。香寿さんの「星から降る金」は、ヴォルフの挑戦心を掻き立てるだけでなく、観客の気持ちを惹き付け包み込んで納得させるだけの説得力に溢れていると思います。誉めすぎでは……ないですよね?

そして今回の猊下。絶好調な雰囲気が伝わってきました。
1幕の馬車の場面では、猊下、アルコ伯爵の手を取りながらじっと「アルコ……」と熱い眼差しを投げかけていました。しかし、情熱の源は激しい尿意なわけで、それはどうなのかと(^_^;)。
今回、前方席を良いことに2幕の「神よ何故許される」での猊下の演技をじっと観察していましたが、レオポルトが「また天才を作り出してご覧に入れます!」と語っている時の一瞬の表情が本当に深い哀しみに満ちていて……。「人間は教育できる、猿でも!!調教できる!」の叫びが、レオポルトの愚直さに怒るでもヴォルフを取り戻せないことを嘆くでもなく、ただ、自らが信じ仕えている筈の神の御業を不条理と感じること、そして自らの手の内でどうしようもできないことに対する悲鳴のように聞こえました。
余談ですが、この「神よ何故〜」で猊下が持っている譜面、真っ白ではなくきちんと記譜されているものなのですね。多分、実際にあの場面のBGMで流れているモーツァルトの曲の楽譜なのだとは思いますが、読めないのでそこまでは未確認です。
あと、終盤の「モーツァルトモーツァルト!」での男爵夫人との二重唱も、実はかなり好きだったりします。香寿男爵夫人と猊下の「彼の音楽に潜む 目には見えぬ事実(永遠に輝く真実)」のパートのハモりの美しさと言ったら!
……どうしても猊下に対しては無条件で甘くなってしまいます。いえ、今季の猊下は本当に良いと思いますが。

市村レオポルト、吉野シカネーダーはもうぴたりとはまりすぎていて、言うことがないです。まさに、このお2人、そして山口猊下の誰が欠けても、M!という演目は成り立たない、と思いました。
花總ナンネールは前回観た時よりだいぶ馴染んでいる雰囲気でした。育三郎ヴォルフのコントラストの強さと、花總ナンネールのメランコリックさは好対照のように感じられます。

というわけで、今季のM!を観るのも残り1回となってしまいました。次回のマイ楽、大事に見届けたいと思います。