日々記 観劇別館

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『モーツァルト!』初日感想(2014.11.8ソワレ)

キャスト:
ヴォルフガング・モーツァルト井上芳雄 ナンネール=花總まり コンスタンツェ=平野綾 ヴァルトシュテッテン男爵夫人=春野寿美礼 セシリア・ウェーバー阿知波悟美 アルコ伯爵=武岡淳一 エマヌエル・シカネーダー=吉野圭吾 コロレド大司教山口祐一郎オポルト市村正親 アマデ=柿原りんか

帝劇11〜12月公演『モーツァルト!』の初日を観てまいりました。

感想を正直ベースで書くのは止めておこうと思ったのですが、自分よりもっと歯に衣を着せないことを仰っている方は大勢いらっしゃいますので、抑えつつも書いてみたいと思います。以下は、あくまでこれを書いている人間の主観で、かつネタバレありなのでご了承ください。

4年ぶりのM!は演出の大筋は前の公演(2010年)から大きく変わっていなかったと思いますが、微変更はありました。
あ、ここ違う!と気づいたのは猊下の「お取り込み中」のシーンです。今まではどこかでヴォルフへの歩み寄りが見られましたが、今回の猊下、最初から最後まで美女達のいる寝台から離れようとしないどころか、ヴォルフとの対話の合間にも美女といちゃついてみせてます。
この場面に限らず、今回の猊下はヴォルフに対して少なくとも表面上は情にほだされる態度は見せず、ひたすらヴォルフの大きな障壁の一つであり続けている印象でした。山口猊下の演技と歌声も凛とした威圧感満載で。もちろんヴォルフの才能にはどっぷり惚れ込んでいますが、手前の傍若無人な振る舞いなど絶対に許さぬ、という態度を、徹頭徹尾崩していない感じです。ツンデレで可愛い……。

さて、初日の最大のポイントは「祝・市村さんご復帰」でした。
実は、1幕プロローグ辺りからしばらく音響調整のバランスの問題なのか、マイク音量が大きすぎて、市村レオポルトが登場し第一声を発した時に「おめでとう!」と思うより先に「ボリュームでかいな!」と思ってしまった自分(^_^;)。
しかし、マイクの音量以上に存在感を発揮して明晰に響き渡る市村さんの歌声を聴いて、「ああ、もう大丈夫だ」と思いました。
パパはやっぱり市村さん以外の役者さんで市村さん以上の演技を見せてくれる方が想像つきません。これは山口猊下、そして吉野シカネーダーについても同じように感じています。

その吉野シカネーダーは、今回も華やかで才気といかがわしさを全身に漂わせていました。M!という重いテーマの演目の中で、数少ない一服の清涼剤となってくれるのがシカネーダーのソロなのですが、吉野さん、安定していてそれでいて予定調和にならず見る度楽しい気持ちにさせてくれるのは、いつ見ても凄い!と思います。

女性陣は今回の新キャストの方が3名。
春野男爵夫人。歌は流石で上手いのですが「星から降る金」が何だか自分しか見えていない感じの歌い方で微妙……。ヴォルフ(と、彼の中のアマデ)を説得し、彼の後半生まで心に残る言葉の筈なのに、あまりヴォルフの心に届こうとする気合いが、少なくとも私には見えてきませんでした。

花總ナンネール。前回までの高橋由美子さんのナンネールよりも、大人しくてお嬢様な雰囲気でした。前半の娘時代にあまりお侠さ、朗らかさがないので、弟と一緒にきゃっきゃしているというよりは見守っている感じで。ただ、物語後半でヴォルフへの複雑な感情が剥き出しになっていく辺りでは、逆に大人しさが功を奏していたように思いました。

平野コンス。ちょっときつい印象を与えるメイクでしたが、お歌は期待通りでした。個人的には、ベスより合っている役柄だと思います。

ああ、そう言えばもう1人大事な女性のことを忘れるところでした。アマデの柿原りんかちゃんです。
りんかアマデ、もう本当に可愛い!今季のM!は計3回しか観る予定がなく、そのうち2回分のアマデ役は違う子なのですが、もう一度ぐらいりんかアマデで見たかったです。

そして、主役の井上ヴォルフ。
束縛を嫌い、未熟者のままで様々なしがらみを振り切ってアマデとともに突っ走ろうとする、激しくそして痛みに満ちた、凄まじい生き方を見せてくれていたと思います。
私は、M!の中では猊下が登場する場面の次ぐらいに、1幕でママが息絶えて馬車が走り去り、イントロとともに暗転してヴォルフが深い悲しみの中「残酷な人生」を絶唱する場面、それから、2幕の「何故愛せないの?」から「フランス革命」までの間にヴォルフが絶望、混乱、そして自らの才能(アマデ)に命を奪われる恐怖を味わった末に狂気の淵を経て、芸術家としての真の目覚めに至る展開が、大好きなのですが、今回、これらの場面での井上ヴォルフが、何とも言えずドラマチックで、人間的深みを感じました。
かつて、アッキーヴォルフがいた頃はアッキーのいないM!というのが想像が付きませんでしたが、今や、井上くんのいないM!が考えられなくなっています。

自分がヴォルフとアマデの最期に対して抱く印象は、M!を観る度にいつも少しずつ異なっています。今回は、「幸せな心中」だと思いました。ヴォルフの死は即ちアマデの死。人間ヴォルフも天才アマデも魂ごと解き放たれ、安らぎを得たように感じられました。

さて、最後にカーテンコールですが、例によりあまりきちんと覚えていません。
井上くん、今回が舞台復帰だった市村さん、演出の小池先生、そしてリーヴァイさんの順に挨拶されていましたが、初っ端に井上くんが、一旦拍手を煽ってからパン!と一本締め、というアクションをしたところ、市村さんもその真似で拍手を煽り止め。そして、最後のリーヴァイさんがそのアクションを覚えてしまったようで、ご自身の挨拶の最中に2、3度に渡り拍手を一本締めで止める、を何度か繰り返していました(^_^;)。
ご挨拶の中で初耳で驚いたのは、小池先生の、M!の初演は最初にヴォルフを演じる筈だった役者さんが出られなくなったので、井上くんが出ることになった、というお話でした。そうだったんだ!
初演で初日を迎えた井上くんの仕上がりは先生に取って満足の行くものではなく、だからその時は井上くんとのハグを拒否したが、今の成長した井上くんとならできる、というお話もなかなか衝撃的でした。それは井上くんが「アッキーと比べて自分は……」と悩んでも仕方ないな、と納得。
あとリーヴァイさんのご挨拶で、キャスト、スタッフ、ミュージシャンへの謝意を述べられていましたが、その中で「イチムラさん、ヤマグチさん」への感謝の言が。多分「年配組」への謝意であろう、とは思いますが、それでも名前を呼んでいただけるのは嬉しいものです。
追い出し音楽が終わった後にはヴォルフ&アマデのペアが幕前に登場し、ご挨拶していました。最後、ヴォルフにおんぶされて退場するアマデはやっぱり可愛いかったです(^_^)。

今季観ることのできるM!は残り2回。育三郎ヴォルフと井上ヴォルフで1回ずつです。ムダにせず、大切に観たいと思います。