日々記 観劇別館

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『モーツァルト!』感想(2014.12.6マチネ)

キャスト:
ヴォルフガング・モーツァルト井上芳雄 ナンネール=花總まり コンスタンツェ=ソニン ヴァルトシュテッテン男爵夫人=春野寿美礼 セシリア・ウェーバー阿知波悟美 アルコ伯爵=武岡淳一 エマヌエル・シカネーダー=吉野圭吾 コロレド大司教山口祐一郎オポルト市村正親 アマデ=日浦美菜子

モーツァルト!』のe+貸切公演を見てまいりました。諸事情で、今回がM!のマイ楽となりました。

初日以来の井上ヴォルフは、繊細で、本能と才能に突き動かされて生きていました。家族や配偶者の愛を理解しながら、何ものからも束縛を受けず自由に生きたいと願う魂の衝動を止められない青年。
育三郎ヴォルフの魂が束縛が利かず、世界を知らない故の天衣無縫な魂だとすれば、井上ヴォルフの魂は、この世の中の守らねばならない理を知りつつもそれらのただ中で窒息寸前になってやむを得ず飛び出していく魂です。
2幕でヴォルフがアマデに追い詰められ、お前が家族を引き裂いた!と叫んだ時、
「いいえ、貴方は才能に突き動かされた末のエゴと人間らしい愛情に満ちた人生を求める心とに引き裂かれていることを、ずっと心の奥底で分かっていたんじゃないの?」
と問いかけたくなりました。
この場面での井上ヴォルフの錯乱演技が好きなんですが……変ですかね?(^_^;)

前回、育三郎くんのヴォルフの場合は、自分を愛することでどんなにコンスが苦しむか生涯分からなかったのでは?と書きましたが、井上ヴォルフの場合はもう少しその辺が分かっている大人のような気がします。
自分が最終的に愛情ではなく音楽を優先して生きていくという宿命を悟っているからこそ、本心を押し隠してコンスをあえて冷たく捨てたわけで。
まあ、どんなに大人だろうと、奥さんを泣かせたには違いないのですが。

……と、ヴォルフについて語るのはこの位にしておきます。

今回少し印象が変わったのは春野さん。初日に観た時よりだいぶ役になっていたように思います。
前はヴォルフ達に対し、どこか心が閉じている感じがしましたが、今回はしっかり心がコンタクトしているように見えました。
香寿さんに比べるとどうしても硬さがあって包容力は薄いけれど、その分芸術や人間に向き合う真摯さは本当に強い男爵夫人だったと思います。

アマデは初日と同じ日浦美菜子ちゃんでした。彼女、ラストで一瞬口元で微笑んでから倒れていました。ああ、アマデもヴォルフと同じだけ苦しくて、やっと安らぎを得たのね、と感慨深く見届けましたが、この演技、初日からやっていたかどうか記憶が曖昧です。先日観たりんかアマデはやっていなかったような。もう一人のアマデは未見です。

ウェーバー家は変わらず強欲でしたが、何かする時の家族の結束は実に強かったりします。セシリアママ、最後の最後まで我欲の塊なのに、何だか憎めないのは不思議です。もっとも、一見崩壊しているモーツァルト家の方が、互いに失望しつつ思い合う心の結びつきはウェットかつ超強力ではあります。市村パパも、花總ナンネールも、息子(弟)への思いが頑なで深いほどに、相手に裏切られた(と思った)時の悲しみが本当に深いのですよね……。

そして猊下。しっかりと俺様で、決めるべき所ではどこまでも格好良くて、笑い所ではきっちりと笑わせてくれていながら、決して出過ぎないのはやはりプロだなあ、と思いながら観ていました。
人間以外の役を演じている時の虚実の狭間に立っている感が、猊下の時はほとんどありませんが、今季は演技も歌も、特に安定感たっぷりに虚の世界を支えている印象があります。ブレない頼もしさに溢れていて素敵です(^_^)。
あ、そうそう、1幕終盤でヴォルフが猊下に投げつけたカツラを、今回は猊下の向かって左側に侍るお姉さんがナイスキャッチしていました。どうやら先日、ある公演でお姉さんの顔にカツラが当たる事件があったらしいという噂を聞きましたが、もしかして同じお姉さんでしょうか?

カーテンコールでは、e+貸切ということで井上くんからご挨拶がありました。
「昨日12月5日はモーツァルトの命日で、明日(12月7日)は僕のヴォルフの250回目の公演で、今日は何の日でもないわけですが(笑)、皆さま観に来ていただきありがとうございました!」
という内容だったかと思います。
追い出し音楽の後は、美菜子アマデと幕前を駆け巡りご挨拶。小さな女の子に対する適度なぞんざいさがまた良い感じでした(^_^)。

こうして今季の私のM!は終わったわけですが、観に行く前日、M!のDVD発売予定の報が入りました。
どうせならアッキーヴォルフの時に出して欲しかった等、言いたいことがないわけではありませんが、まさか東宝が、しかも洋物、しかもクンツェ&リーヴァイ作品で出してくれるとは!井上くんや育三郎くんの歌はもちろん、これで安定の猊下も、あのシカネーダーのダンスも映像に残る!と、何だかんだでこれはやはり朗報です。
ということで、帝劇で井上くんVer.を予約してきました。手持ちの現金がなかったため、銀行振込で。発売は来春とのことです。実はその前に、個人的に色々越えなければならない山があったりしますが、DVD(と、その前のクリエのコンサート)を鼻先のニンジンに、粛々と頑張りたいと思います。