日々記 観劇別館

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『モーツァルト!』感想(2021.4.11 12:30開演)

キャスト:
ヴォルフガング・モーツァルト=山崎育三郎 コンスタンツェ=木下晴香 ナンネール=和音美桜 ヴァルトシュテッテン男爵夫人=香寿たつき セシリア・ウェーバー阿知波悟美 アルコ伯爵=阿部裕 エマヌエル・シカネーダー=遠山裕介 アントン・メスマー=松井工 コロレド大司教山口祐一郎 レオポルト市村正親 アマデ=深町ようこ

この情勢下に県境を越えて上京することの是非に頭を悩ませながら、空き気味の電車で再び帝劇まで出向いてまいりました。

本日のキャストは、ヴォルフは初日と同様育三郎さん。男爵夫人は香寿たつきさん、アマデは深町ようこさんでした。

今季はあと2回観劇予定ですが、育三郎ヴォルフは本日で見納めになります。育三郎さんの声は帝劇の広い空間に響き渡り、木下コンスとのバランスもぴったり。また、猊下とのデュエットでも声量が拮抗していて心地よいです。

今回は2階席の前方列でしたので、高みから舞台全体を見渡せて良かったです。ただ、それは舞台後方から階段を昇ってくる役者さんが見切れるということでもありまして。例えば2幕後半でヴォルフがアマデにヘッドロックかけられた後で救いの女神のように現れる男爵夫人の幻影。2014年までの演出では上手上方に登場していたのが、2018年以降は普通に上手後方からえっちらおっちら階段を昇って現れるので、あまり幻影っぽくないのです……。それが演出家の狙いなのかも知れませんが。

キャストの中でも猊下は身分の高さを象徴するためか立ち位置が高いことが多いので、マント翻しも、揺れる馬車で豪快に足を上げる姿も、お姉様方とのお取り込みシーンも、オペラグラスでじっくりと堪能いたしました。初日の感想で、男爵夫人は観客を物語に引き込む重要な存在、と書きましたが、猊下もまた、「どこだ、モーツァルト!」の叫び一つでヴォルフたちとの関係性を印象づけ、観客に一発で物語世界を理解させてくれる強力な役割を果たしていると、本日改めて実感したところです。

今回、まだアマデについて語れていませんでした。アマデはヴォルフにとっては大事な分身でもある一方で恐ろしい存在でもありますが、時折見せる音楽の申し子としての仕草、例えばヴォルフが恋愛に悩みぶん投げた楽譜を慌てて拾い集めて抱きしめるなどのちょっとした仕草が本当に可愛らしくてときめきます。 今回のアマデは全員小学4~5年生の女の子。初日に観た蘭楠さんもようこさんも、そしてまだ出会えていない乃愛さんも、どうか無事完走できますように願っています。

以下、今回の公演というよりは登場人物に関する妄想交じりの考察となることをお許しください。

今季、やはりどうもヴォルフに優しくなれず、彼に振り回される周囲の人々の方にばかり心が寄ってしまいがちです。

と申しますか、彼を本気で庇護しようとぶつかるパパや猊下が、いずれも肝心の所が噛み合っていないがために敗れ去っていくさまを眺めるのが毎回結構辛かったりします。

特に猊下。恐らく、領主と臣下としての関係だけでなく、自分は神に仕える崇高な立場なので(生臭坊主ですが😓)、神が遣わした奇跡の子を責任を持って庇護するのが自身の役割であり、それゆえに奇跡の子の行動もきちんと管理すべき、自分が奇跡の才能を独占するのも神の思し召し、と本気で考えているように思われます。

なので多分、猊下は自分が神の意向を実現する者としてヴォルフに良かれと行動しているだけであって、そこに悪意はひとつもないのですよね。問題は奇跡の子自身の意思を完全に置き去りにして束縛するのは、現代の観点から見てかなりどうかというだけで……。子供の意思の件に関してはパパについても同じです。

そこへ行くと、男爵夫人はヴォルフの幼少のみぎりに一生分の信頼度を稼いでいるので、だいぶ得してるよなあ、と思うのです。

ただ、香寿さんの夫人には揺るぎない篤実さがあります。「星から降る金」ひとつを取っても、涼風夫人はヴォルフを引っ張り上げて背中をどんと押している印象がありますが、香寿夫人の場合は穏やかに、しかし懇々とヴォルフとその家族を諭しているというイメージです。きっと、香寿夫人は2幕の夜会も自分の社交のためというよりは、ヴォルフを売り込むためにわざわざ企画しているに違いない! と妄想しています。

涼風夫人も香寿夫人も、それぞれのたまらない魅力があって、それぞれに好きです。

なお、私がどうもヴォルフに優しくなれない理由としては、初日の感想にも書きましたが、やっぱり自分のことしか考えていないからかも知れません。

特に育三郎ヴォルフは初日感想にも書いたとおり、割とメンタルが大人なので、その分、魔笛執筆中の田舎の場面で、
「だから何でコンスタンツェに『あなたが愛しているのは自分の才能だけよ!』と言われた時に、たとえ図星でも『そんなこと言わせてごめんな』とか言って優しくしてやらないんだよ。嘘をつくのがいやでも言ってやれよ」
と心の中で胸ぐらを掴みまくっています。

とは言え、自分自身が芸術家にも、四六時中頭の中でメロディーが奏でられている絶対音感の持ち主にもなったことがないので、ヴォルフの本当の苦しみは生涯分かり得ないように思います。

……と、ぐだぐだ語るのはこの辺でやめにしておきます。なんだかんだ言ってもまたこの演目を観に行ってしまうのは、やはりヴォルフや彼を思う周囲の人々の姿を見て、人を愛することについて考えたいし、勇気づけられたいからかも知れません。

次回は4月24日、古川ヴォルフを今季初見の予定です。