日々記 観劇別館

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『タイトル・オブ・ショウ』感想(2014.8.2ソワレ)

キャスト:
ジェフ=浦井健治 ハンター=柿澤勇人 ハイディ=玉置成実 スーザン=佐藤仁美 ラリー(ピアニスト)=村井一帆

シアタークリエで8月1日に開幕した『タイトル・オブ・ショウ』(ToS)を観てまいりました。
アルバイトをしながら暮らす音楽家ジェフと脚本家ハンターの親友コンビが、自分達がミュージカル作品を創作する過程そのものを、演劇フェスティバルのコンテスト応募作品として作り上げ、そして……というのがこの作品のメインストーリー。
実は観劇前には、
「観ていて寒くていたたまれないコントみたいになったらどうしよう」
と密かに危惧していましたが、全くの杞憂でした。

以下、ネタバレありですので未見の方はご注意ください。

序盤、携帯電話で他愛ないゆるい会話を交わすジェフとハンター、特にジェフの表情や姿勢から本当にうだつが上がらない雰囲気が立ち上ってきていました。流石、浦井くん。
そして、柿澤くんのマシンガントークに「ここまでやれる人だったんだ!」と感服。ダンスシーンでも柿澤くん、基礎からしっかり鍛えられたダンスを見せてくれていました。同じ振付で踊っている筈なのに、浦井くんの奔放系ダンス(基礎がないのではなくあくまで「奔放系」)と全く文法が異なっていて面白かったです。
女性達の好演も見逃せません。野郎どもだけだと夢想に終わりそうな所で、彼女らはままならない現実を体現していて、でも一度決めたら意志を持って物事をやり遂げる、素敵な女性達でした。
それから、ピアニストが芝居の一員として引き摺り込まれるという設定は、私、実はこまつ座の音楽劇でしか観たことがなかったのですが、他のミュージカル作品でもちょくちょくあったりするのでしょうか。村井さん、カッコ良かったです。

そして、途中ちょくちょく織り込まれるミュージカルネタ、ショービズ界や時事ネタのパロディがもう本当に面白おかしくて……と言ってもブロードウェイの業界ネタ、特に人物は半分以上分からなかったわけですが(サットン・フォスターは来日時に生歌を聴いたので流石に把握)、かなり爆笑させられました。
楽屋落ちネタや、キャスト全員による時事ネタ(浦井くんの「号泣○議」は見ものでした)や、浦井くんによる、誰かさんのトートのモノマネやアマ○人形虐待はともかく、柿澤くんの開口法ネタや、『○のめざめ』、『レディ・○ス』ネタは、ここまでやって大丈夫かしら?と心配になるレベルで(^_^;)。
しかも浦井くんの「待っていた!」や「台車に乗って笑いながらスモークの中を駆け抜ける仮面の男」が必要以上にノリノリで、もう爆笑が止まらず。
あと前半で柿澤くん、汗凄いなー、と思っていたら後半で、
「俺は緊張すると左腋の汗が凄いんだ」
と上半身裸になる場面(ファンサービス?(^_^;))がありましたが、あの場面はオリジナルにもあるのでしょうか?

でも、そんなパロディネタがただの一発ギャグに終わるのではなく、
「オン・ブロードウェイを目指すかも知れない作品に、こんなことまで書いてしまって良いかしら?」
という創作者達の心に巣食う迷い、そしてそんな迷いを吹き飛ばす魔法の言葉「くたばれバンパイア!」に繋がっていくのがこの作品の面白い所です。
作品と自分達をメジャーに売り出したい!という彼らの思いに付け込むように、様々な誘惑が彼らを襲い、それらに対する彼らの葛藤と克服が後半の2幕(本来1幕物らしいですが2幕物として上演されています)の見どころでした。

最も印象に残ったのは、
「100人の人が9番目に好きな作品よりも、9人の人が一番好きな作品を作りたい。その9人が口コミで作品の面白さを広めることで次に繋がるのだから」
という内容のハンターの台詞です。
ショービズ界における安定的な商いとしては、前者のように安打を生産し続けてメジャーの支持を得ることがもちろん大事ですし、それこそがプロフェッショナルとしての最も困難ではありますが堅実な道であると思います。
でも、ToSの彼らが、恐らくその考え方を頭では理解しながらも選んだ、メジャーに迎合しない道―誰か分かる奴だけが作品を理解して熱狂してくれて、その「分かる奴」が別の「分かる奴」に伝えてくれれば良い、という道―も、クリエイターの道の一つとしては「あり」だと思うのです。様々な選択肢の中で、たまたま彼らがその道を選び取っただけであると。

本当、観劇前の期待が良い意味で裏切られたお芝居であったと思います。こういう作品を、巧みに日本向けに翻案できる演出家(福田雄一さん)で上演してくれた興行元に、今回は感謝します。