日々記 観劇別館

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『ビッグ・フィッシュ』感想(2019.11.18 12:00開演)

キャスト:
エドワード・ブルーム=川平慈英 ウィル・ブルーム=浦井健治 サンドラ・ブルーム=霧矢大夢 ジョセフィーン・ブルーム=夢咲ねね ドン・プライス=藤井隆 魔女=JKim カール=深見元基 ヤング・ウィル=佐田 照 ザッキー・プライス=東山光明 人魚=小林由佳 ジェニー・ヒル鈴木蘭々 エーモス・キャロウェイ=ROLLY

シアタークリエにてミュージカル『ビッグ・フィッシュ』(おけぴ観劇会)を観てまいりました。

2017年に日生劇場で上演された演目の再演ですが、今回は“12 Chairs Version”ということで、キャスト12名のみでの上演版でした。パンフレットの演出家白井晃さんのコメントによれば、初演のキャストは22名とのこと。10名少ないキャストで、しかもキャパシティも小さい劇場で上演。初演にて、日生劇場の広い舞台を惜しみなく使った水辺の風景や、空を泳ぐ光り輝く「ビッグ・フィッシュ」がとても印象に残っていたので、今回はイメージががらりと変わるかも? と思っていましたが、さにあらず、今回もため息の出るような美しさと癒やしに満ちた空間が出現していました。

この演目は、2年前の初演観劇時の感想にも書いたとおり、父エドワードを演じる慈英さんのペーソス溢れる歌声とポジティブな持ち味の活かされた役どころ、そして息子ウィルを演じる浦井くんの抑制をきかせつつ真摯さと温かさに満ちた演技と歌声とがなくてはならないものです。

今回、この2人のデュエット曲が新たに追加されていました。初演にはあった西部劇にまつわる冒険話の場面が今回はなかったので、恐らくデュエットと差し替えになったと思われます。この曲追加により、父子がそれぞれに対し抱く葛藤と思いとがより深く伝わるようになっていたと思います。

そして、ウィルの母サンドラと妻ジョセフィーン、真相解明へのキーとなる人物であるジェニー、といった女性達のそれぞれのエドワードへの向き合い方が印象に残りました。自分が何一つ父親のことを知らぬ、と動揺し葛藤するウィルに対し、彼女らはそれぞれに揺るぎない愛情と信頼をエドワードに向けると同時にウィルの心をも支えるのです。

サンドラは今回ソロ曲も追加されています。初演から続くエドワードのサンドラへの強いリスペクトに加え、サンドラがエドワードに寄せる思いもより深く伝わってくるようになりました。

ジェニーの物語は……やはり切ないです。ただ、1人ではありますが決して孤独ではなく、心にかけがえのない温かな光を抱く、彼女自身が宝石のような存在で、エドワードもウィルも救ってくれてありがとう! と心から思いました。

なお物語の展開上、どうしてもサンドラとジェニーに注目しがちで、ジョセフィーンに関しては、初演時はさほど気にならなかったのですが、実は彼女の役どころも非常に重要だったのではないかと、今回気がつきました。彼女は職業がケーブルテレビのニュースキャスターということで、職業柄、すぐ目の前に見えるものだけが全てではなく、相手と向き合い掘り下げることにより真実は見えるのだと身をもって知っていたのだと思います。そんな彼女だからこそ、義父に向き合って信じ、夫と義父との和解に向けて後押しできたのではないでしょうか。ねねさんの浦井くんとの息もぴったり合っていたと感じました。

それから、2幕の例の水没場面ですが、重ねてはいけないと思いつつ、どうしても8年前に3.11のニュース映像で繰り返し見たあの風景とだぶってしまい、ジェニーを初めとするエドワードの故郷の人々への思いも重なり、泣きそうになりました。新天地に移転しても、人々の心の中に残る故郷の風景や故郷での掛け替えのない思い出があればそこを新たな故郷として生きていける、というこの場面に込められたメッセージは、クライマックスでエドワードが愛する家族とともに最期に見たであろう幸せな光景につながっていると思います。

つながる思い、つながる命……。今回もまた、この演目を観て癒やされ、心が洗われた気持ちになりました。ミュージカルになじみのない人にもぜひ観ていただきたい舞台です。