日々記 観劇別館

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『COLOR』感想(2022.9.10 17:00開演)

キャスト:
ぼく=浦井健治 母=柚希礼音 大切な人たち=成河

久々に初台の新国立劇場小劇場に出向き、ミュージカル『COLOR』を観てまいりました。

ある日突然、バイク事故のため、過去の思い出だけでなく、一切の生活記憶までも失った、大学で美術を学ぶ青年「ぼく」(草太)が、困難と絶望を克服し、揺るぎない愛を向ける母や、彼に著書の執筆を促す編集者らに見守られながら、草木染め作家として独立するまでのストーリー。と、書くとお涙頂戴なお話みたいに読めてしまうかも知れませんが、実際はもっとたくましい物語でした。

また、一応「ミュージカル」ではありますが、作品の公式サイトに「言葉と音が密接に繋がり合う楽曲」とあるとおり、どの曲も言葉、メッセージを伝えることを重視した作りになっているという印象です。

今回の公演では「ぼく」と「大切な人たち」は浦井くんと成河さんが交互に演じていますが、今回は浦井くんの草太で観劇しました。

浦井くんの草太について、序盤の新たな人生の記憶を身につけようと、子供のように疑問を口にし続ける姿を観て、『アルジャーノンに花束を』のチャーリィを思い出しました。

もっとも、チャーリィが知能を獲得して新たな人生を歩むと同時に、知らなくても良かった人の心の闇や絶望をも知ってしまったのに対し、草太は彼の中から消えずに残された芸術家魂を足がかりに新しい人生の目的を見出して、希望の火を再度灯すことができたので、真逆の役どころではありますが……。

途中で観ていて身につまされたのは、草太が事故の影響で失った数々のものを克服し取り戻そうと、言わば異世界に放り込まれた状態で必死に足掻く中、周囲の日常は変わらず、草太が元の日常サイクルに戻ることを無意識に要求してくるという事実に気づき、絶望の底に突き落とされる場面です。

事実に気づけるということは、そうできるだけの社会性と知性を、草太が努力で身につけたということでもあると思うのですが、もしここで、心配しながらも彼を独り立ちさせようと見守る柚希母さんや父さん(演じるのはこちらも成河さん!)の支えと、何よりも彼自身の芸術の才能がなかったら、草太の人生は一体……? と考えるだけで鬱になりました。

今回の舞台では、役者さん3人の歌声と演技の巧みさが物を言っていたと思います。

何と言っても、浦井草太の、事故直後の真っ白な状態から始まり、UFOキャッチャーのぬいぐるみと共鳴したりしながらも次第に生活記憶や社会性を獲得し、「自分のいのちの色」を手に入れていくさまを歌と全身を駆使しての表現が素晴らしかったですが、それだけではなく。

柚希母の何が起きても揺るがず、息子の苦難と堂々向き合う凛とした姿。そして成河さんの、編集者、草太父、親友、モブの学友、大学教員等々、冗談抜きで七色の歌声を駆使して何役も演じ分ける実力。これらがあってこそ成り立つ演目と思います(はまめぐさんの母さん、浦井くんの演じ分けは観ていませんが多分同様)。

一つだけ言いたいことがあるとすれば、草太がいのちの色を手に入れようと考え始めるきっかけになった「絵画専攻から染色専攻への変更」がさらりと描かれていた点でしょうか。もちろん、彼の描く絵の画風が事故以前から変化したこと(以前のようには描けなくなったこと)や、草木染めに生きた花や実や葉は使わずに専ら木から落ちたものや枯れ枝を使うに至った理由は語られていましたが、どうして染色だったんだろう? というのはあまり作中で説明されていないので、そこら辺が観ていて頭の片隅にもやっとした状態で残ってしまいました。

とは言え、草太が事故直後のモノクロームと線で構成された世界から二次元、立体(くまのぬいぐるみ)、空間(空の星)などを経て、自然の草木の色、自らのバイクで駆け抜けるカラフルな街並みの色など、彼の世界が充実するとともに次第に豊かな色彩で満たされていく演出は、とても美しかったです。とても85分1幕ものという短い時間とは思えないような密度の濃い演目でした。

カーテンコールでは盛大な拍手のもと、キャストの皆様が4、5回のお出ましに答えてくださいました。

濱田めぐみさんの母さんや、成河さんの草太、浦井くんの1人複数役も観て比べてみたいとは思うものの、ちょっと時間がないですね💦

なお、『COLOR』を観ての帰宅後、『モダン・ミリー』の土~月の公演や『ピピン』の向こう1週間の公演の、感染者発生による中止のニュースを知りました。無事『COLOR』の公演が完走することを願っております。

次の観劇は『ヘアスプレー』東京楽の予定です。こちらも無事の上演を祈るばかりです。