日々記 観劇別館

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『王家の紋章』再演初日感想(2017.4.8ソワレ)

キャスト:
メンフィス=浦井健治 キャロル=宮澤佐江 イズミル宮野真守 ライアン=伊礼彼方 ミタムン=愛加あゆ ナフテラ=出雲綾 ルカ=矢田悠祐 ウナス=木暮真一郎 アイシス濱田めぐみ イムホテップ=山口祐一郎

めでたく再演と相成りました『王家の紋章』の初日公演を見てまいりました。
しかし、ちょっと困惑しています。何故なら、再演に付き物の脚本の手直しや演出のテコ入れにより、物語の色合いが全く別物になっていたためです。

それでも1幕を見終えた時には、あれ? あのシーンもこのシーンもカットされた? と思いながらも、余分な細部を刈り込むことによりストーリーにメリハリが付いて分かりやすくなった、とそれなりに評価していました。
しかし。2幕を観た後には、
「刈り込み過ぎてつるっつるになってしまったんじゃないか、これ」
と当惑する自分がおりました。

カットされたシーンは、例えばメンフィスがキャロルに「腕ポキ」する場面。
キャロルについては、「私は未来から来たのだから歴史を変えてはいけない」などと逡巡して散々「面倒くさい女」ぶりを発揮する場面が細かく削られて、一途さや気の強さを発揮する局面が増えたような印象です。
あとセチ母子とキャロルの絡む場面も減っていたように思います。

もちろん場面の整理と料理のし直しで良くなったと感じた所もありましたし、ここ、残してくれてありがとう! と思った場面もありました。
前者の例は、1幕序盤のライアン兄さんの居方。エジプトとは異なる地のオフィスビルにいることがビジュアル面で分かりやすくなりました。それからルカの工作活動。彼が2幕のキャロル拉致に至るまでいかに動いたかが、初演より明確に伝わるようになっていたと思います。
後者の例は、2幕で戦闘に向かう前のメンフィスのソロと、セチのダンスとのコラボです。立場は違えど「キャロルを救いたい」という思いは一緒で、しかし対照的な結末を迎える2人の共演場面を残してくれたことは評価したいです。

残念なのは、メインのカップル+イズミルの3人以外の人物像の描写が全体に薄めになってしまったことです。
特に宰相様。確か初演では、戦いに赴く主君や軍勢に、初期の戦いの目的を見失うな、という言葉を贈っていた筈ですが、その場面が削られていました。
それから、王家には新たな血を加えるべきと考える宰相様が姉弟婚にこだわるアイシス様に苦言を呈する場面もカットされていました。
この対話場面なしに宰相様が嫉妬するアイシス様を眺めて、
アイシス様も恋をすると愚かになられる」
と嘆くので、宰相様がいくらキャロルの才覚を買っているとしても、何故アイシス様とメンフィスの結婚に反対するのかが見えづらくなってしまった気がします。
2人の対話の場面があってこそ、終盤の宰相様の祝婚歌が深みを持って伝わっていたと思うのですが……。

恐らく新しい演出の意図としては、初演のように多彩な登場人物にスポットを当てて見せ場を作るのではなく、メンフィスとキャロルの恋物語を太いうねりとして見せるために、メリハリを付ける方向性に持って行こうとしているのだろうと分かります。
ただ、その割には2幕でイズミルのソロが延々3曲分ぐらい続く場面は初演からそのままなのですね(^_^;)。
エジプトに妹を惨殺されたイズミルの恨みの深さを示すことは、その後のキャロルにまつわる心境の変化と対比させる意味で大事とは思います。それでも、ちょっとイズミルに費やす尺が長すぎる、と感じました。
ラストに追加されたメンフィス&キャロルのデュエットも……良い曲なのですが、ええと、何か存在感が薄いような?
金ピカの婚礼衣装をこのラストナンバーで身に着けていないのも謎です。そして何故か婚礼衣装はカーテンコールで着てきます(^_^;)。

私、オギーさんの演出は3、4作ぐらいしか観ていないのですが、多分彼の演出の真骨頂は、割り切れそうで割り切れない、観客を突き放して「え? これで終わり?」と戸惑わせつつしっかり余韻を残す所にあると考えています。
ところが今回の『王家』では、恐らくは若い世代に伝わりやすいよう、枝葉末節の綺麗な剪定を試みるあまり、本来の持ち味である、観た者の心にこびり付く澱のようなものが薄まってしまったように思うのです。
とは言え、観に行く予定はありませんが、大阪公演ではまた少し変わるかも知れませんね。
とりあえず、帝劇でもう一度観る予定がありますので、その際に少しでも印象が改善されることを期待します。