日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『ビリー・エリオット』プレビュー公演感想(2017.7.22ソワレ)

キャスト:
ビリー=木村咲哉 お父さん=吉田鋼太郎 ウィルキンソン先生=島田歌穂 ビリーのおばあちゃん=久野綾希子 トニー=藤岡正明 ジョージ=小林正寛 オールダー・ビリー=栗山廉 マイケル=城野立樹 デビー=夏川あさひ バレエガールズ=久保井まい子、大久保妃織、佐々木佳音、高畠美野、新里藍那 トールボーイ=小溝凪 スモールボーイ=岡野凛音

7月19日から赤坂ACTシアターでプレビュー公演が始まった(本公演は25日から)、日本版『ビリー・エリオット』を観てまいりました。

まさかここまで子役が、主役のビリーだけではなく、助演の少年少女達もセンターで本格的にハードに歌い踊る演目だなんて! というのが今回の最大の感想です。

物語の設定は1980年代前半のイングランドの炭鉱街。鉄の女・サッチャー政権下、不況にあえぎ、荒くれ炭鉱夫どもが雄叫びを上げ、労働争議が勃発している街の、閉塞し鬱屈した、しかし皆が必死に生きようとする、煮えたぎる闇鍋のようなエネルギーが、開幕の初っ端から舞台上にむせかえるほどに溢れていました。
街の労働者階級の人々の訛りは全て北九州訛りで表現されていました。恐らく日本の筑豊辺りのイメージを投影しているのだと思います。余談ながら、個人的に、元北海道民としては炭鉱のイメージは九州一色ではなく、夕張や歌志内辺りも混じっていたりするわけですが、やはり一般的に炭鉱と言えば九州なのでしょうね。

そんな沈み行く街で、無教養で不器用で頑固親父な炭鉱夫の父ちゃん(数年前の朝ドラでは炭鉱王だった鋼太郎さん!)や、若者の粗野さの陰に暖かさを宿した兄さんのトニー、時々物忘れするけど、内には若き日と変わらぬ熱いハートを秘めたおばあちゃん(久野綾希子さんの佇まいが良い!)、そして、恐らくあの時代ではまだ十分に理解を得られなかったであろう、ある秘密を持つ親友のマイケルらとともに、街の鬱屈した空気をやり過ごすように生きている少年ビリーの運命が、偶然にウィルキンソン先生のバレエレッスンに出会ったことで動き始めます。

歌穂さん演じるウィルキンソン先生の指導は実にエネルギッシュですが、鬱屈した夫、バレエの才能に乏しい娘のデビー(デビーもまた、薄汚れた街で悪態をつきながら強かに健気に生きている子供のひとりです)、そして場末でくすぶっている自分……やはり心のどこかにこの街で生きていく上での屈託を抱いているように見受けられました。
綺麗事だけではない人生の苦みを噛み締め、諦観を漂わせながら、ビリーのバレエの才に気づいて光の当たる場所へ送りだそうとする先生に、あまりに歌穂さんのダンスも歌唱力もはまり過ぎていて、Wキャストのもうお一方(柚希礼音さん)の想像が付かずにいます。

全体に、明るい未来や希望というものがとことん見当たらない世界の中で、とにかく子供達のダンスが大変なポテンシャルと瞬発力を持って、まさに「炸裂」してくれています。特に1幕はハードで華やかなダンスが手を変え品を変え繰り広げられるので、舞台上に視線を釘付けにし続けざるを得ません。

今回のビリーは、長期にわたるオーディションを勝ち抜いた最強の5人のうちの最年少、10歳という咲哉くん。名門バレエ学校を目指して意志を貫く、というストーリーから事前に想像していた以上に、バレエだけでなく、タップ、アクロバットと、ビリーの揺れ動く心を象徴するような荒々しさに溢れながらも技術の確かな安定したダンスを見せてくれて、決して客席を飽かせることがありませんでした。

とりわけ素晴らしかったのは、2幕の大人になったビリー(Kバレエの栗山廉さん)とペアを組んでのバレエです。2人で舞う「白鳥の湖」の美しさと言ったら! それまでの抑圧された魂の叫びのようなダンスの対極にある、泣きたくなるほどの優雅さに満ちていました。
これまでいくつかのミュージカルでバレエを取り入れた場面を見たことはありましたが、
「こんなに美しいのなら、いずれ本物のバレエの公演を観たい」
と思ったのは今回が初めてです。
このペアのバレエシーンの後にビリーの運命は急速に回り始めるわけで、だからこそこのバレエは究極に美しくなければならないのだ、と終演後に思いました。

ビリーの父親が労働争議に背こうとする理由を知った街の人々が、ビリーに抱いた思いの正体は一体何だったのでしょうか。「希望」……というほど甘いものではなさそうですし、「人情」と呼ぶのも何か違う感じがします。
私は、きっと街の人々は、仕事や生活の未来に何一つ確かに約束されたものがない最中に、何かを強く信じたかったのだ、と思っています。

少年は街を出て行きます。未来が見えなくとも、それでもいつものように逞しい背中を見せて坑道に下っていく大人達を見送り、幼年期に別れを告げて、厳しい学びと修練の世界に飛び込んで行くのです。
終盤、ウィルキンソン先生が、これからは自分のことも、自分が教えたことも忘れなさい、と、自身が赴くことが叶わなかった新しい世界に出て行くビリーに言い聞かせる場面が心に響きました。

なお、プレビュー公演は「スタッフが看板で指示したタイミングでカーテンコール撮影OK」でしたが、私、カーテンコールのキャストの皆さまの群舞に見とれて拍手を贈るのに精一杯で、結構ぎりぎりまで、スタッフさんが撮影OKのプラカードを出しているのに気づきませんでした。折角のチャンスに惜しいことをしたとは若干思っていますが、あのダンスを息をつく暇もなく堪能できたのだから、と全く後悔はしておりません。
……余談ですが、カーテンコールに登場した歌穂さんを見て、「あ、ロビンちゃん」と思ってしまいました。そんなことを考えるのは、きっと私だけ……ですよね(^_^;)。

ちなみに『ビリー・エリオット』のチケットは今回のプレビュー公演分しか手持ちがありません。
ビリーを残り4人全員とは言わないまでも、もう1人か2人ぐらい別のビリーで観たかった、と思う一方で、結構エネルギーを吸い取られる演目でもありますので、このぐらいにしておいた方が良いのかも知れない、と今は思っています。

最後になりますが、ビリー達も、他の子役さん達も、そして大人キャストの皆様も、無事に千穐楽まで舞台を勤め上げられることを願っております。

NHK『ごごナマ』ご出演!(2017.7.13放映)

久しぶりのブログ更新です。
最近は、ブログのネタがあろうがなかろうが、気持ちが上に向かない時は無理して更新しなくても良いや、という心構えになりつつあります。ご容赦ください。

NHK BSプレミアムで7月9日から始まった、連続ドラマ『定年女子』。田渕久美子さんの脚本、山口祐一郎さんが助演ということで、もちろん見ております。

南果歩さん演じるヒロインの麻子さんのようにバリキャリとして働いたことも、ワーキングマザーの経験もなく、介護の悩みにもまだ直面していませんが、曲がりなりにも長年家の外で働いている中で、組織の事情による配置転換的なものも多少経験していますので、突然キャリアのハシゴを外された彼女の戸惑いにもイタさ加減にも「分かる」と感じる点をぽつぽつと見出しています。

ただ、あいにくと周囲に溝口くんのような若手爽やかイケメンや、丈太郎さんのような可愛い系で美声のアラ還は見当たりませんので、そこだけは今の所は「夢物語」として堪能しております。

というわけで、前置きが長くなりましたが、7月13日のNHK総合ごごナマ』に果歩さんと祐一郎さんがゲスト出演されたので、録画視聴いたしました。

週末に録画をゆっくり見るのを楽しみにしている方もいらっしゃると思いますので、あまりに子細なネタバレは避けます。
また、どうも自分は人様と若干萌えの勘所が違うような気がしますので、そこは見逃していただければと思います。

祐一郎さんはとにかく番組全体を通して、あの浮遊感のある独特の語り口でにこやかにハイテンションを貫いておりました。
「格好良かったんですね」等の発言に「過去形かよ」などとお約束のツッコミを入れていましたが、もちろん現在進行形でお綺麗です。

……で、ええと、そこの背の高いお客様。画面からはみ出しますので、ホスト役がボケるたびに立ち上がって突っ込むのはお止めください(^_^;)。
確か三回ぐらい立ち上がっていたような気がします。一度、自分より大きい人は珍しい、というようなことをホスト役の船越さんが発言されていました。

デビューのきっかけになったオーディションの話などもされていました。
このいきさつは結構有名ですが、私、ファンとしてはかなり新参者ですので、実はご本人の口で直に語られるのを聴くのは初めてでした。
改めて、某先生に「その時、よくぞ見落とさず拾ってくださいました」と感謝したい気持ちになりました*1

番組の中で『定年女子』に絡めて「人生は50歳からだと思っている?」という問いがゲストのお2人に投げかけられていたのですが、何故か祐一郎さんの答えは「No」。
何で? と思っていたら、その心は「(人生は)還暦過ぎてからが良い」というものでした。そして「えっ、還暦なんですか?」というお約束のボケがあり、それに当人が立ち上がって突っ込むというシチュエーションに(^_^;)。

私、まだまだ還暦には随分時間がありますが、祐一郎さんの「還暦を過ぎてから楽になった」「早く還暦へいらっしゃい」というご発言に、少し勇気づけられた感があります。
一方で「還暦に近づくと年間300日の舞台登板はちょっと無理」というようなご発言もあり、なかなか奥が深いな、と思ったりもしています。

それから、「仕事の息抜きは仕事」という括りで、昨年アメリカ旅行に行かれた時のエピソードを披露していました。

昨年某媒体で旅行のことを知り、何故アメリカ? と思っていましたが、今年に入ってから2018年春のお仕事の発表があり、ああ、と納得した経緯があります。
というわけで、「あ、あの橋の写真だ!」とか「私物のタブレットだ!」と浮かれていましたが、そこで写真に写り込んでいたご本人の服装が、何と申しますか、大変いつものテキトー感溢れる雰囲気でして(^_^;;)。
妙なポイントで和んでしまいました。何度も映像を巻き戻して確認したのは言うまでもありません。

……と、祐一郎さんのことばかりを語ってしまいましたが、果歩さんも実に堅実で素敵な雰囲気に包まれた方でした。
番組の最後の方でこのドラマのオファーを引き受けられた理由を、あえてご自身の苦悩(恐らくは、さり気なく番組側が触れるのを避けていた部分)に少々踏み込むことを厭わずに語られていて、ああ、しなやかに強い方だな、と感じ入った次第です。

次回のドラマ放送を心待ちにしています。

*1:離脱の時は、まあ、ごにょごにょ……。それでも見出していただいたのはありがたいことです。

『CLUB SEVEN ZERO』プレビュー公演感想(2017.5.27マチネ)

キャスト:
玉野和紀 吉野圭吾 東山義久 西村直人 原田優一 蘭乃はな 香寿たつき

いつかは見ておきたいと思った『CLUB SEVEN』。
今年、『CLUB SEVEN ZERO』の上演がある。しかも自宅最寄り駅から乗換無しで行ける北千住でプレビュー公演。ということで、シアター1010まで出向いてまいりました。

ただ、良く知らずに行ったのですが、今回はCLUB SEVENの集大成公演だったようです。
客席も長年見続けて応援しているリピーターさんが多いように見受けられました。
公演中、毎回恒例になっているらしい、お馴染みキャラと思われる扮装もしくは着ぐるみ姿の玉野さんと西村さんによる客いじりがあったのですが、話しかけられていた2名ほどの方のいずれも、複数シーズンを見続けている(お一人は初演から!)ということでした。

カンパニーの皆さま、当方は今回が初回な上、クリエの東京本公演は観る予定がなく本当に申し訳ございません……。

本公演初日がこれからであり、しかもネタが命な内容ですので、以下、お馴染みと思われる基本構成以外はネタバレなしでまいります。
ちなみに構成はAバージョンとBバージョンの2種類あるとのことですが、今回観たのはBバージョンでした。

初めて観た者として内容を総括しますと「う〜ん、体育会系!」でした。

1幕は、実力派揃いのメンバーによるハイレベルなレビューで決めたかと思えば、コントあり、大喜利あり。衣裳も男装、女装、コスプレ、着ぐるみなど実に豊富です。
身体を張って爆笑させてくれた1幕と対照的に、2幕は人情ドラマなミニミュージカルでしんみりさせてくれます。
その後は一転してスピード感溢れる怒濤の五十音順ヒットメドレー、そして爽やかにエンディングへと突入。

キャストの体力、アドリブ力、そして豊かなショーアップ精神が隅々まで尽くされていて、色々な意味で「役者殺し」な演目だと感じました。
観客としても、過去最高の平均年齢(パンフより)にもかかわらず全力で持ち芸を炸裂させてくるキャストのパワーを受け止めるのに、相当の体力と精神力を要求されます。
ちなみに、私、半年前の体力だったら、多分パワーに撃ち倒されていたんじゃないかと思われます。体力がだいぶ回復していて本当に良かった(^_^;)。

この演目は、スタッフの皆さまもさり気なく良いお仕事をされているという印象です。
例えば照明さんが、あの場面転換が目まぐるしい舞台できっちり仕事し、あまつさえ歌の出だしで失敗して進行がだれた時にもしっかり対応しているのは、本当に凄いことだと思います。

何よりも、キャストもスタッフも全力な舞台というのは、視点を変えれば作り手や演じ手の汗水を包み隠さず見せることなので、一歩間違えると自己満足に終わりかねないのですが、『CLUB SEVEN ZERO』はそうではなく、「全力であること」も含めて質の良いエンターテインメントとしている所に好感を持てます。

レビューあり、涙と笑いありのエンターテインメントと言えば、基幹キャストのうち玉野さんと吉野さんとが重なる『ダウンタウン・フォーリーズ』を思い出します。
あちらも『CLUB SEVEN』シリーズと同様、大人が大人のために弾け、時に下ネタも厭わず、芸を尽くしておしゃれに楽しませてくれるショーですが、『CLUB SEVEN』にはおしゃれ感よりは疾走感、そして隠し味としてペーソスが感じられました。

なお、これはお芝居と無関係な部分ですが、原田優一くんの出演舞台を観たのは大変久しぶりでした。
しばらく彼を見なかった間に、何だかヒアルロン酸たっぷりぱつぱつ艶々なほっぺになっていたので、彼が登場するとまずほっぺが気になりまして(^_^;)(優一くんごめんなさい)。そんなわけで、今回の1日を表す私の漢字三文字*1は「艶福頬」に決定しました。

現在のところ、この演目を観るのは今回のみなのですが、Aバージョンも少し気になるところです。

*1:注:今回の本編に登場したネタです。

『王家の紋章』感想(2017.4.22マチネ)

キャスト:
メンフィス=浦井健治 キャロル=新妻聖子 イズミル宮野真守 ライアン=伊礼彼方 ミタムン=愛加あゆ ナフテラ=出雲綾 ルカ=矢田悠祐 ウナス=木暮真一郎 アイシス濱田めぐみ イムホテップ=山口祐一郎

王家の紋章』再演を、今回は聖子キャロルで観てまいりました。
手持ちのチケットは今の所これが最後です。もう一度観るかどうかは定かではありません。

前回のブログに再演版の演出について文句ばかり書いていますが、今回改めて観て、
「初演版で削られた箇所を初めからなかったものとして、まっさらな気持ちで観れば、意外と素直に楽しめるかも」
と思い直しました。

観たものの感想や考察を書こうと思いますが、あまり気合いが入っておりません。
聞く所によれば2.5次元ミュージカル界(そんなものがあるのか)では「板が出るまでネタバレ厳禁」という掟があるらしいですが、そこまで書く気力が湧いてこない……。

とは言え、DVDは帝劇にて購入を予約しました。もう一度観たい、というよりは今後の舞台作品の映像化の継続に繋がれば、という思いから、投資のつもりで2バージョン予約しています。

では、以下、感想+考察にまいります。
前回初めて佐江キャロルを観て、カワイイ! 声も出ている! と思ったのですが、今回聖子キャロルを観たら、声の伸びが遙かに尋常ではありませんでした。
別に歌唱力だけで評価するわけではなく、聖子キャロルの方が気の強さにプラスしてキャロルの必死さや面倒くささの含有率が高いような気がして、個人的には好みです。さすが「王族」。

宮野イズミルは2回目でしたが、今回はあまり「うぜえ」とは思いませんでした。既に公演日程の中日が近かったためか、何と言うか、声の出し方とか、表現が洗練されてきたような印象です。
イズミルがキャロルに惹かれたタイミングが分かりづらいとか、イズミルの歌唱の出番が続きすぎるとか、全く役者さん方の責任ではない要素において、心境の変化の色づけをしていくのは本当大変だろうと思います。
ついでに、あのずるずるした衣裳で殺陣をこなすのもかなり苦労が多いのではないかと……お疲れ様です。

それにしても全体の物語の中で、アイシスとライアンとイズミルは本当に報われないですね。節目節目の出番も多くてこんなに頑張っているのに、弟は結婚は政治的駆け引きだから思い入れも何もない、みたいなことを言っておいてナイルの娘に走るわ、妹はやっと発見されたと思ったらまた失踪するわ(しかも存在だけは伝わってくる!)、戦争は撤退を強いられて思い人が手に入る見込みもないわで。
特に2幕で、せっかく目の前で眼福・耳福なデュエットやカルテットが披露されているのに、繰り広げられるストーリーは叶わぬ愛や末端の兵士の死、という鬱展開なのは結構辛いです。
これは別に、2幕のカルテットで自分が眠ってしまった言い訳ではありません(^_^;)。でも本当に疲れてしまったのです。

そんな中で、宰相イムホテップ様が、出番が少なくなったにもかかわらず、ダイソンの掃除機並みの吸引力、もとい求心力を発揮し、しかも癒しパワーまで発揮していたのは救いです。
Twitterでどなたかも指摘されていましたが、最初の登場で大階段を老人らしくえっちらおっちらと杖を突いてゆっくり下りてくる姿とか、その後王様と再会して本当に嬉しそうな姿とか、終盤で愛を確かめ合っているカップルを横目に見て実に嬉しそうにしている姿とか、あとカーテンコールで隣のライアン兄さんにちょっかいを出しているさまとか、色々と眼福な癒し要素はございます。
何だか「エジプトの知恵」というよりは「エジプトの癒し」になっているような気がするのです。

なお前回、エンディングを変更するなら、いっそもっと婚礼衣装などでゴージャスにならないものか? という趣旨のことを書きましたが、今回観て、
「最後にメンフィスが羽根背負ってポーズを決めながら大階段を下りてきて、キャロルと踊るなどすれば良かったかも。ついでにイズミルとミタムン(あるいはイズミルとルカでも可)がデュエットダンスを踊って、そして全員集合したら宰相様とアイシス様とライアン兄さんとウナスとセチがシャンシャンを持って……」
と不謹慎なことを考えてしまいましたすみません(^_^;)。

というわけで消化不良気味ですが、この辺で失礼いたします。

『王家の紋章』再演初日感想(2017.4.8ソワレ)

キャスト:
メンフィス=浦井健治 キャロル=宮澤佐江 イズミル宮野真守 ライアン=伊礼彼方 ミタムン=愛加あゆ ナフテラ=出雲綾 ルカ=矢田悠祐 ウナス=木暮真一郎 アイシス濱田めぐみ イムホテップ=山口祐一郎

めでたく再演と相成りました『王家の紋章』の初日公演を見てまいりました。
しかし、ちょっと困惑しています。何故なら、再演に付き物の脚本の手直しや演出のテコ入れにより、物語の色合いが全く別物になっていたためです。

それでも1幕を見終えた時には、あれ? あのシーンもこのシーンもカットされた? と思いながらも、余分な細部を刈り込むことによりストーリーにメリハリが付いて分かりやすくなった、とそれなりに評価していました。
しかし。2幕を観た後には、
「刈り込み過ぎてつるっつるになってしまったんじゃないか、これ」
と当惑する自分がおりました。

カットされたシーンは、例えばメンフィスがキャロルに「腕ポキ」する場面。
キャロルについては、「私は未来から来たのだから歴史を変えてはいけない」などと逡巡して散々「面倒くさい女」ぶりを発揮する場面が細かく削られて、一途さや気の強さを発揮する局面が増えたような印象です。
あとセチ母子とキャロルの絡む場面も減っていたように思います。

もちろん場面の整理と料理のし直しで良くなったと感じた所もありましたし、ここ、残してくれてありがとう! と思った場面もありました。
前者の例は、1幕序盤のライアン兄さんの居方。エジプトとは異なる地のオフィスビルにいることがビジュアル面で分かりやすくなりました。それからルカの工作活動。彼が2幕のキャロル拉致に至るまでいかに動いたかが、初演より明確に伝わるようになっていたと思います。
後者の例は、2幕で戦闘に向かう前のメンフィスのソロと、セチのダンスとのコラボです。立場は違えど「キャロルを救いたい」という思いは一緒で、しかし対照的な結末を迎える2人の共演場面を残してくれたことは評価したいです。

残念なのは、メインのカップル+イズミルの3人以外の人物像の描写が全体に薄めになってしまったことです。
特に宰相様。確か初演では、戦いに赴く主君や軍勢に、初期の戦いの目的を見失うな、という言葉を贈っていた筈ですが、その場面が削られていました。
それから、王家には新たな血を加えるべきと考える宰相様が姉弟婚にこだわるアイシス様に苦言を呈する場面もカットされていました。
この対話場面なしに宰相様が嫉妬するアイシス様を眺めて、
アイシス様も恋をすると愚かになられる」
と嘆くので、宰相様がいくらキャロルの才覚を買っているとしても、何故アイシス様とメンフィスの結婚に反対するのかが見えづらくなってしまった気がします。
2人の対話の場面があってこそ、終盤の宰相様の祝婚歌が深みを持って伝わっていたと思うのですが……。

恐らく新しい演出の意図としては、初演のように多彩な登場人物にスポットを当てて見せ場を作るのではなく、メンフィスとキャロルの恋物語を太いうねりとして見せるために、メリハリを付ける方向性に持って行こうとしているのだろうと分かります。
ただ、その割には2幕でイズミルのソロが延々3曲分ぐらい続く場面は初演からそのままなのですね(^_^;)。
エジプトに妹を惨殺されたイズミルの恨みの深さを示すことは、その後のキャロルにまつわる心境の変化と対比させる意味で大事とは思います。それでも、ちょっとイズミルに費やす尺が長すぎる、と感じました。
ラストに追加されたメンフィス&キャロルのデュエットも……良い曲なのですが、ええと、何か存在感が薄いような?
金ピカの婚礼衣装をこのラストナンバーで身に着けていないのも謎です。そして何故か婚礼衣装はカーテンコールで着てきます(^_^;)。

私、オギーさんの演出は3、4作ぐらいしか観ていないのですが、多分彼の演出の真骨頂は、割り切れそうで割り切れない、観客を突き放して「え? これで終わり?」と戸惑わせつつしっかり余韻を残す所にあると考えています。
ところが今回の『王家』では、恐らくは若い世代に伝わりやすいよう、枝葉末節の綺麗な剪定を試みるあまり、本来の持ち味である、観た者の心にこびり付く澱のようなものが薄まってしまったように思うのです。
とは言え、観に行く予定はありませんが、大阪公演ではまた少し変わるかも知れませんね。
とりあえず、帝劇でもう一度観る予定がありますので、その際に少しでも印象が改善されることを期待します。

『クリエ・ミュージカル・コレクションIII』(2017.2.9、2017.2.25)セットリスト

こんにちは。大変に今更感がありますが、備忘録(主に自分の後からの反芻用(^_^))として『クリコレIII』のセットリストを記しておきます。
改めて見直すと、このキャストとセットリストで1ヶ月近く通し興行だなんて、本当ゴージャスで贅沢で素敵です。「反芻」と書きましたが本当に思い出すだけで何年も心の栄養補給ができそうに思います。
なお誠に残念ながら、最終週のセットだけは聴けておりません。観たかったし聴きたかったなあ……。

  1. エドウィン・ドルードの謎』より「ようこそ」(山口祐一郎&全キャスト)
  2. 『三銃士』より「帰ってきたミレディ」(瀬奈じゅん
  3. 風と共に去りぬ』より「葉巻き」(岡田浩暉&男性アンサンブル)
  4. サンセット大通り』より「As If We Never Said Goodbye」(保坂知寿
  5. 『CHESS』より「アンセム」(田代万里生&アンサンブル)
  6. マイ・フェア・レディ』より「ラブリー」(大塚千弘&男性アンサンブル)
  7. 『She Loves Me』より「好きになってくれるかしら」(涼風真世
  8. 『42nd Street』より「42nd Street」(吉野圭吾&アンサンブル)
  9. 『ウエストサイド物語』より「マリア」(今拓哉
  10. ローマの休日』より「ローマの休日」(大塚千弘&田代万里生)
  11. 『パイレート・クイーン』より「フィナーレ」(保坂知寿山口祐一郎
  12. 『シラノ』より「栄光に向かって」(岡田浩暉&今拓哉&田代万里生&吉野圭吾&男性アンサンブル)
  13. 『エニシング・ゴーズ』より「フレンドシップ」(瀬奈じゅん&吉野圭吾)
  14. モンテ・クリスト伯』より「地獄に堕ちろ!」(今拓哉&田代万里生)
  15. 『グッバイ・ガール』より「I Think I Can Play This Part」(岡田浩暉)
  16. レ・ミゼラブル』より「One Day More」(全員) (Act1終了)
  17. 『天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜』より「さあ、声を出せ!」(大塚千弘涼風真世瀬奈じゅん保坂知寿&女性アンサンブル)
  18. 『シラノ』より「独りで」(田代万里生)
  19. モーツァルト!』より「終わりのない音楽」(大塚千弘今拓哉
  20. 『パイレート・クイーン』より「ひとを愛する女こそ」(涼風真世保坂知寿
  21. エリザベート』より「最後のダンス」(山口祐一郎
  22. 『ニューヨークに行きたい!!』より「地獄からのメッセージ」(アンサンブル)
  23. アンナ・カレーニナ』より「待ち焦がれて」(瀬奈じゅん&岡田浩暉)
  24. ミー&マイガール』より「ミー&マイガール」(大塚千弘&吉野圭吾)
  25. エドウィン・ドルードの謎』より「おかしくなる」(今拓哉
  26. 『天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜』より「天国へ行かせて」(瀬奈じゅん&アンサンブル)
  27. 『ロミオ&ジュリエット』より「エメ」(涼風真世&岡田浩暉&アンサンブル)
  28. サンセット大通り』より「サンセット大通り」(吉野圭吾)
  29. レベッカ』より「夢に見るマンダレイ」(大塚千弘&アンサンブル)
  30. レベッカ』より「何者にも負けない」(涼風真世
  31. レベッカ』より「レベッカI」(保坂知寿
  32. エリザベート』より「私が踊る時」(瀬奈じゅん山口祐一郎)(2月9日)*1/『エリザベート』より「闇が広がる」(田代万里生&山口祐一郎)(2月25日)*2 *3
  33. 『ニューヨークに行きたい!!』より「未来は今、始まる」(大塚千弘涼風真世瀬奈じゅん保坂知寿・岡田浩暉・今拓哉・田代万里生・吉野圭吾・アンサンブル)
  34. オペラ座の怪人』より「Music of the Night」(山口祐一郎
  35. ミー&マイガール』より「ランベス・ウォーク」(全員)

*1:2月9日〜16日まで同曲(公式サイトより)

*2:2月17日〜25日まで同曲(公式サイトより)

*3:未見ですが2月26日〜3月5日(千穐楽)までは「私が踊る時」(涼風真世山口祐一郎)であったと思われます。(曲目&歌い手は公式サイトより)

『クリエ・ミュージカル・コレクションIII』感想(2017.2.25マチネ)

キャスト:
大塚千弘 涼風真世 瀬奈じゅん 保坂知寿 岡田浩暉 今拓哉 田代万里生 吉野圭吾 山口祐一郎 木内健人 福永悠二 松谷嵐 横沢健司 天野朋子 島田彩 堤梨菜 橋本由希子

再びクリコレIIIを観てまいりました。杖なしでクリエまで行けるようになった体力に感謝!
今のところ、これがマイ楽の予定です。ああ、山口×涼風ペアの「私が踊る時」も聴きたかったなあ……。

今回の日直さんは涼風さんでした。
以下、自分の脳みそだけでは追いつかなかったので、Twitterのフォロワーさんから教えていただいた内容で補完しまくった日直レポートです。

黒いレースのロングドレスで登場した涼風さんの「コレクション」なナンバーは、22年前に出演した『シー・ラブズ・ミー』の「好きになってくれるかしら」とのことでした。
演目の話題に進むかと思いきや、「22年前」にちなんで袖から知寿さん、千弘ちゃん、瀬奈さん(あさこちゃーん! と呼んでました(^_^))を呼び出し、お三方に「22年前は何をしてましたか?」というインタビューを開始。

まず、知寿さんは、22年前っていつだっけ? としばらく数えて遡った後に、22年前は申し訳なく思いながら子供の役をやってました! と回答されていました。涼風さんが「ショートパンツをはいた役?」と訊くと、はい、と肯定。
私は四季時代の演目は観ていないのですが、恐らく『夢から醒めた夢』辺りのことと思われます。でも同時に子供のいるお母さん役もやってました! とご回答。『マンマミーア!』かな? と思いましたが、複数の方から22年前なら『アスペクツ・オブ・ラブ』のことだろう、と教えていただきました。
『アスペクツ・オブ・ラブ』はロイド・ウェバー作曲のミュージカル、四季で石丸幹二さんや堀内敬子さんも共演されていたとのことで、ううん、これは観たかった! CDも出ているようですが、やはり生舞台で。

続いて千弘ちゃんは22年前は小学2年で徳島でハナ垂らして棒振り回して遊んでました! とご回答。知寿さんのほか、瀬奈さんも「22年前」を思い出すには一瞬考え込んでいましたが、千弘ちゃんの場合はすんなり「22年前の年齢」が出てきてました(^_^)。
小2でした、を受けて涼風さんが、もう携帯はあったの? という問いを投げかけると、ポケベルがありました、と千弘ちゃんが返答。その答えを聞いて何故こちらも安堵してしまうのか……。

あさこちゃーん、こと瀬奈さんは、私寅年生まれで、他2人も寅なんですよ! と話を逸らすも先輩に引き戻され、22年前は「男性」でした、とご回答。宝塚の研3か研4辺りだったそうです。袖から突如男性アンサンブルの木内健人くん(観劇直後、お名前を失念してました。すみません)が呼び出され「当時はこのくらいのカッコよさで」と突然のサンプル化。さぞ驚かれたことと思います。
木内くんにも22年前は? の問いが振られ、5歳でした、と回答されていました。若い! なお瀬奈さん、当時は「このくらい」でしたが、その後頑張ってもっとカッコよくなったそうです(^_^)。

なお肝心の日直さんの思い出は、時間がないので、とほぼ割愛されていました。ただし今回の『シー・ラブズ・ミー』の曲のお衣装は当時の物を着用、とのコメントが。さすが妖精、何と素晴らしい体型維持! と驚愕しておりました。ちなみに後から登場したお召し物は綺麗なピンクのコートで、全く違和感のない可愛らしさでした。細身のコートって二の腕や背に肉が付くと意外と入らなくなるんですよね(自虐)。

ちなみに同日ソワレの日直トークでは「22年前・男性キャスト編」が繰り広げられ、何と山口さんも登壇されたとか。もちろんあの方が易々と22年前を語るわけがありませんが、なかなか楽しい漫才になっていたようです。

日直トーク終了後の舞台本番ですが、セットリストは一曲を除いては初日と一緒であったと思います。
唯一異なっていたのは2幕の一曲、山口トートと万里生ルドルフによる「闇が広がる」。私、この2人が出演する『エリザベート』の本番舞台を観ましたが、その時よりも今回のデュエットの方が格段に素晴らしいと思いました。やはり万里生くんの深みが増したのでしょうか。

今回全体を通して改めて感じたのは、キャスト全員の歌やダンスに有無を言わせない説得力があるという点です。
何だかんだでキャストの皆さま各々には得意分野というのがあると思います。例えば圭吾さんや瀬奈さんのダンスや万里生くんの豊かな声量と言った技巧的な面のほか、岡田さんはどちらかと言えば白みのある歌に、今さんは黒みのある歌に持ち味が出るなど、そういうものも含めまして。
今回に限らずクリコレでは、皆さま「得意分野」の楽曲のみならず「そうでない」楽曲にも挑んでいますが、そうした「そうでない」楽曲においても自然と拍手を送りたくなる素晴らしい芸で魅せてくれる所に、歴戦のプロフェッショナルの持つ説得力を見たように思います。
しかし、その説得力を持ってしても、1幕ラストのあの「還暦アンジョルラス」は面白過ぎるわけですが(^_^;)。両脇に元アンジョルラス2名を従え、生き生きと「ワン・デイ・モア」を歌い上げるあの勇姿と満面の笑みとを、私は生涯の宝物として思い出の中で大事にしていくつもりです。

アンコールのあれも……もう言ってしまって良いですね。

仮面のない山口ファントムの登場。

今回、後方席だったのを良いことに、終始オペラグラスでガン見しておりました。前方席でじっと見るのはさすがに恥ずかしかったので(^_^;)。
長いこと遠く離れていたファントムが山口さんに降りてきている。あるいはイタコのように主体的に降ろしている。いずれであるかは不明ですが、とにかくファントムが、そして彼が執心するあの少女が、確かにそこに降臨していました。
天賦の才を持ちながらも愛を与えられず化け物と恐れられ、孤独で閉じ込められて歪み、怪人として人殺しに走る人物。その人物をかつて演じた、ファントムと異なり世界で色々な物を見て、愛も嘲笑も、人生の頂点も、そして演じる場を失う絶望も体験して60年を生きた男。その60歳の彼が再びファントムを歌い演じるのが、本当味わい深いし感慨深いしで、とてもたまらない心持ちに陥りました。

このファントムもまた、私の生涯の美しい宝物になると確信しています。

まだまだ思い出し感想が書けそうに思いますが、本日はひとまずここまでといたします。長々とお付き合いいただきありがとうございました。

『ビッグ・フィッシュ』感想(2017.2.18マチネ)

キャスト:
エドワード・ブルーム=川平慈英 ウィル・ブルーム=浦井健治 サンドラ・ブルーム=霧矢大夢 ジョセフィーン・ブルーム=赤根那奈 ドン・プライス=藤井隆 魔女=JKim カール=深見元基 ヤング・ウィル=りょうた ジェニー・ヒル鈴木蘭々 エーモス・キャロウェイ=ROLLY

日生劇場で上演中の『ビッグ・フィッシュ』を観てまいりました。

元はティム・バートンの映画で、映画の脚本家がこのミュージカルの脚本も手がけたとのことです。
若き日の壮大で不思議な冒険譚を一人息子に語り続けるが、どこかで息子と正面から向き合おうとしないエドワード。いつしか父親の言葉に耳を傾けることを止め、お喋りでいい加減な父親として疎む息子のウィル。ウィルの披露宴でエドワードは息子との約束を破ってしまい、大げんかになるが、その後エドワードと妻サンドラが隠していた病がウィルと新妻ジョセフィーンの知るところとなったのをきっかけに、ウィルは父親の真実を何も知らないことに気づいて……というのが、この舞台のストーリーです。

妖しげに予言を告げる魔女、恐ろしげだが心優しい大男、あこぎだが意外と誠実な狼男。舞台上に描き出されるエドワードの冒険譚は、ミステリアスで美しくもどこか見世物小屋のようにごてごてと飾り立てられた作りもの感を醸し出しています。とりわけ、キッチュな幻想の極みであるサーカスの光景と、そこで歌い踊る少女サンドラと双子(?)の少女の美しくもチープな可愛らしさよ。
「パパの話に登場する美女は、いつもママなんだ」という2幕でのウィルの言葉のとおり、踊るサンドラが夢想の産物なのか、実際にエドワードが目にしたものなのかは分かりません。ただ、全くの作りものではなく、一片の真実が含まれていたのだろうと思います。

エドワードは夢の冒険譚ばかりを語り続け、肝心の真実は一言も話さない。ウィルと同じく、途中までは私もそう思っていました。
しかし、エドワードの冒険譚にはある重要な真実のヒントが隠されていました。ウィルが真実を辿る2幕の展開が、とてもドラマティックで、それまでのキッチュなファンタジー場面が見事に現実へと繋がって行きます。

この真実へウィルを誘導するキーマンの役割を果たすのが、蘭々さん演じるジェニーです。
失われて二度と戻ることのない、大切な宝石。しかし希望を持ち新天地を得ることにより守られた、かけがえのない大事なもの。たくさんの美しい幻想に包まれ守られてきた、隠された財宝。それらの存在をウィルに伝える重要な人物を、蘭々さんが好演されていました。2幕の3分の1以上は、彼女がかっ攫っていったように思います。

そして、真実を手に入れたウィルは、かつてたくさんの夢の冒険譚を聞いた者として、父親の若き日に魔女が予言した光景を実現させるために最初で最後の手助けをします。
エドワードからウィルへ、ウィルからその息子へと、バトンリレーのように繋がれて行く夢。この辺り、ちょっと『フィールド・オブ・ドリームス』的だと思いました。
舞台上の空間に、何度かホログラフの巨大な魚(ビッグ・フィッシュ)がゆったりと泳ぐ場面がありましたが、物語の冒頭で見たビッグ・フィッシュと、ラストに泳ぐビッグ・フィッシュとでは、全く印象が異なります。夢を抱いた者の肉体が消滅しても、それ(夢)を受け継ぐ者がいる限りはビッグ・フィッシュはどこまでも泳いでいくのです。

振り返るとこのお芝居、実はミュージカルでなくても良いのかも、という気もする一方で、慈英さんの地に足の付いたペーソス溢れる歌声と、少年期から老年期まで、様々な時代を瞬時に行き来する快活でポジティブな演技、そして浦井くんの要所要所を締める力強くも温かい歌声と徐々に解けて行く心の表現とがなくてはならないものとも感じたので、やはりミュージカルである必然性はあったのだろうと考えています。

そして、舞台上に表現されるキッチュな香り漂うファンタジー場面や、対照的に温かい光に満ちながら沈み行くエドワードの故郷、透明感溢れる湖水を湛えたウィルの故郷の美しさといった場面。これらの場面演出は見どころのひとつになっています。

最後に、あまりこういう話を身の回りの現実と結びつけるのは野暮かも知れませんが、日本ではここ数年、災害や事故により故郷の風景が失われる悲しい出来事が続いています。
ビッグ・フィッシュ』のエピソードは災害でも事故でもないので、単純に一緒くたにできるものではないかも知れませんが、故郷を失っても人は、別の居場所を見つけてでも、優しく輝く宝石を心に抱いて生きていく力を持っているのだ。そう思わせてくれる、哀しくも温かい、人が夢を抱いて生きる力を信じさせてくれるミュージカルだと思いました。

蛇足な付け足し。浦井くんと子供の並びって、実にしっくりと似合うと思います(^_^)。

『クリエ・ミュージカル・コレクションIII』初日感想(2017.2.9ソワレ)

キャスト:
大塚千弘 涼風真世 瀬奈じゅん 保坂知寿 岡田浩暉 今拓哉 田代万里生 吉野圭吾 山口祐一郎
木内健人 福永悠二 松谷嵐 横沢健司 天野朋子 島田彩 堤梨菜 橋本由希子

シアター・クリエまでクリコレIIIこと『クリエ・ミュージカル・コレクションIII』を観に行ってまいりました。
なんと、これが2017年の観劇始めです。昨年まででは考えられないこのスロースタート……。

昨年まではセトリ(セットリスト)は記憶が頼りだったため、年寄りには厳しくなり始めていましたが、今回からセトリがロビーで配布されるようになったので、嬉しい限りです。
ミュージカル・コンサートの場合、未見の演目*1の楽曲が分からず困ることがありますが、セトリさえあれば後から「ああ、あの演目の歌! 再演したら観に行きたいかも」等と合点が行くという利点もあります。
しかし、今回まだ開幕から3日目と日が浅いですので、セトリや重要なネタバレはこの記事では書かずにおきます(軽微なネタバレは書く)。

ということで、非常にまどろっこしくなりそうな感想です。

今回のコンサートの舞台セットは、トランプカードをモチーフにしたものでした。カードのマーク部分にLEDが仕込まれていて、時々良い感じで光って綺麗です。

1幕は、キャストのオープニング・トークから始まりました。
初日の「日直」*2は万里生くん。最初が、自分のコレクションは『CHESS』の一曲(未見なので曲名失念)で、石井カズさんと中川アッキーさんの対局を審判する役で、色々な意味でなかなか大変でした、というお話でした。
その後は今回の楽屋話。クリエの楽屋でお隣のお二方(今さん&岡田さん)の楽屋から笑い声(今さんのは聞こえず専ら岡田さんの、らしいです(^_^))が聞こえてきて楽しそうなので、同じ楽屋の圭吾さんに、お隣と壁を取っ払いたいです、とこっそりお話ししたところ、圭吾さんが「じゃあ俺が言ってくるよ」と先輩らしく侠気を見せたと思いきや……というエピソードを、やられたー! という感じで楽しそうに語っていました。

トーク終了後、1曲目スタート。賑やかで楽しい、山口さんがリードして全員が登場するあの曲でした。
その後は、瀬奈さん、岡田さん、知寿さん、万里生くん、千弘ちゃん、涼風さん、圭吾さん、今さん、再び千弘ちゃんと万里生くん、そして知寿さんと山口さん、という順番で全員が次々に歌っていったのですが、曲目のセレクトが、
「あれ? この曲目をあの方じゃなくて貴方が歌いますか? じらしてる? でも、確実にこの選曲、誰かさんにリスペクトしてるよね?」
という印象だったので、こ、これは絶対何か隠し球があるに違いない! とどきどきしていたら、1幕の最後に大きな大きな隠し球の正体が明らかになりました。
アはアンジョルラスのア。アは赤色のア。
あの曲で、あれだけ狂喜乱舞した上に爆笑したことは、後にも先にも恐らくないと思います。
1幕はセトリによれば、計16曲演奏されたようです。

2幕でも、「そう、この曲はこの方でなくては!」というツボをしっかり抑えつつ、「おお、この曲を、この方(達)が歌いますか」という本舞台ではないコンサートならでの楽しみもあって、耳も目も大満足でした。

ここでちょっとまた「あれれ?」と思ったのは、長年当たり役として持ち歌にしてきたあの曲を歌われた山口さんの出で立ちでした。
役のカツラを付けていたのですが、髪の色などが、ご自身が演じられていた時のイメージとは異なっていました。あの役はもう若い者に譲ったから、今回歌っているのはあの役の復活ではなく、あくまでかりそめの姿なんだよ、ということをさしているのでしょうか? 考えすぎ?

2幕の17曲目(通しで33曲目)を、山口さん以外の全員(含むアンサンブル)で歌われた後に、アンコールで山口さん登場。
「えええ! これを歌う? こんなことがあっていいの?」
と息を飲みつつ耳を澄ませていたら、あっという間に1曲終わっていました。
ちなみに歌詞は英語でした。山口さんの英語の歌を聴いたのは、多分M.A.の帝劇初演楽動画で聴いたWhite Christmas以来。つまり、きちんと英語で歌うのを聴いたのは初めてでした。
歌い終えて、いつもの両膝に手を置く端正なお辞儀をする山口さんを見つめながら、所詮昔を知らない観劇新参者につき、泣く、までは行きませんでしたが、時が経てばこんな日が来ることもあるのだなあ、と感慨深かったです。そして、普通に「生きてて良かった」と思いました。

なお、日本語訳詞のある楽曲が英語詞で歌われる事情は、普通にとある劇団*3の版権の事情だと思っていましたが、Twitterで伺った限りでは、たまに許可が出ている場合もあるようです。ただ、今回のような公演では普通は許可が下りないだろうと思います。

ラストの2幕19曲目(通算35曲目)では、客席降り演出がありました。実は今回最前列でしたので、色々堪能することができました。ありがたや。
全員で踊る場面もありました。山口さん、軽くですが、普通にステップを踏んで踊っていましたよ(^_^)。

初日ですので、カーテンコールではご挨拶がありました。皆様爽やかに真面目な内容で、積極的に笑いを取りに行っている方はどなたもいらっしゃらなかったように思います(←何を期待しているのか)。

以下、今回のプリンシパルキャストに関する一言感想です。
千弘ちゃん。人妻になってもコケティッシュな可愛らしさは健在でした。
涼風さん。自称「妖怪」ですが、妖怪と言うより見る度に人外感に溢れた美しさが増しているように思います。
瀬奈さん。お歌に安定感が増して、私の中で徐々に「この人が舞台にいれば安心」要員になりつつあります。
知寿さん。涼風さんや山口さんと言った人外要素の強い華と、全く別のタイプの至高の華として対峙して中和して、最高の華を咲かせることのできる、数少ない人材だと思いました。
岡田さん。まさかその曲を貴方が歌うとは! とびっくりしましたが、考えてみたら岡田さん、何年か前に別の役ですがあの演目に出ていた、と後から思い出しました。以前も別のコンサートの時に思いましたが、歌だけで自分の世界空間を舞台上に作り出せる役者さんのお1人です。
今さん。男声デュエットや男声カルテットで強烈な光を放っていました。あの変態紳士にも久々にお目に掛かれて嬉しかったです(^_^)。
万里生くん。実は結構私の好みの歌声と歌い方になってきた感じがしています。ただ、別の席で観ていた友人が「万里生くんはちょっとおじさんになってきた」と言っていて、はっ、もしやその年輪が影響しているのか? とも思っております(^_^;)。
吉野さん。ダンスのちょっとした一挙一動で舞台を支配するのは、やはりこの方ならではです。でも、それだけでなく、お歌も本当に精進されているのだな、と今回改めて思いました。瀬奈さんとのデュエットが素敵でした(^_^)。
そして山口さん。この方がお元気で、キラキラとした笑顔で、サービス精神旺盛に舞台上にいてくださることは、とてもありがたいです。前回の舞台が大変シリアスだったので、より一層キラキラ笑顔が心に染みいるのかも知れません。これからも益々お元気で、そして華やかでありますように。

*1:私の場合『42nd Street』、『モンテ・クリスト伯』等、非常にたくさんの演目が該当します。

*2:演出家山田さんのブログの表現を拝借。

*3:バレバレですがあえて書かない。

謹賀新年・2016年総決算

旧年中は大変お世話になりました
今年もどうぞよろしくお願い申し上げます

さて、新年早々恐縮ながら、旧年のやり残しということで2016年の観劇生活をざっくりと振り返ってみます。

昨年の観劇リストは下記のとおり。計11回の観劇でした。

楽しかったのは何と言ってもTdV
お腹を抱えて笑いっぱなしだったのはエドウィン
何の邪心もなしに世界を堪能できたのはジキハイ。
人生の一瞬の煌めきが切なくも美しかったのはアルカディア
娯楽への徹底に好ましい潔さを感じたのは王家。
そして頭と心をフル稼働させてもなお消化しきれないのは貴婦人。
どの演目も、それぞれ美味しく賞味いたしました。

我が身を振り返りますと、以前もご報告しましたように、昨年4月末から約3ヶ月ほど病気療養を余儀なくされました。病気の方は経過観察中ですが、気力と体力の回復度合いは療養以前の8割程度であり、加えて手術後の後遺症のためいまだに若干外出が不便な状態が続いています。

秋冬の公演では浦井くんの『ヘンリー四世』もとても観たかったのですが、全幕を見届けるだけの体力に自信がなかったため泣く泣く断念しました。もうしばらくは演目のハードさと体力の回復度合いとを天秤にかけながら劇場に通うつもりです。

実は最近、こちらのブログを続けるべきかどうか、何度か迷いました。
『貴婦人の訪問』の観劇の度に自身の感性の貧しさや教養の拙さに打ちのめされ、心に渦巻く思いを自らが充分納得の行く豊饒な言葉で紡ぎ出すことができない、と、自身の書き物にうんざりする時を過ごしていたのです。
しかし、ごく最近は、各々の演目への思いを私自身の言葉で書き綴り、それらをWebの端っこに載せることにより、同じ演目を観た誰か、観る予定の誰か、未来で過去の演目について知りたがる誰か、あるいは演目の作り手の誰かに伝わり、何かを受け取ってもらえさえすれば、それで良いのかも知れない、という考えに少しずつ至っています。

……とは言え、このような考え方は自意識過剰過ぎるかも知れません。新年はブログに限らず、もう少し、ゆるゆるとしたスタンスで臨めれば、と思います。皆さま、引き続きよろしくお願い申し上げます。