日々記 観劇別館

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『家族モドキ』感想(2023.07.30 13:00開演)

キャスト:
高梨次郎=山口祐一郎 木下渉=浦井健治 高梨民子=大塚千弘 木下園江=保坂知寿

シアタークリエにて、2回目の『家族モドキ』を観てまいりました。

今回はイープラス貸切公演。サイン入りプログラムプレゼントの抽選は当然のように外れました。

再見すると「あの台詞はあの場面の伏線だったのか」というのが結構わかります。例えば園江さんが初登場場面で「(病院までの)道に迷ってしまって……」と言うのは、初見時は救急で運ばれた病院だからかな? と思っていましたが、多分そうではないだろう、など。

あと、初日よりもキャストの手探り感は薄れた感じです。特に祐一郎さん。特に1幕で初日よりも演技のノイズが削ぎ落とされ、観客が次郎さんという人物を受け止めやすくなったように思います。

この演目は、SNSを見る限りでは、2幕後半の園江さんと次郎さん、とりわけ後者の物語の結末での言動が、観た人の間で議論を呼んでいるようです。

2人は全く同じことを望んでいるように見えて、実はそれぞれに異なる切実な想いの下に望みを口にしています。その想いの切実さは理解しますが、私自身、
「ここまで『本当の家族でなくても助け合い、わかり合い、優しく思い合える』という話をさんざん描いておいて、なぜ今さら家族の形にこだわって再構築しようとするの?」
という疑問を抱きましたし、また、あの次郎さんの発言が多くの人の賛同を得るのは難しいだろうと思っています。

ただ、その場面の直前に「戸籍上の家族でないと対応できないことがある」ことも示唆されているので、そこは次郎さんの価値観が古いというよりは、日本の法律上の限界から彼が導き出した結論だったのかも知れません。

また、考えてみれば、いくら年長者2人の想いが切実かつ深いものであったとしても、かれらの想いに応えるかを選ぶのは、若年者2人なのですよね。まあ、渉くんはかなり背中を押されてしまった感がありますが、相手の想いを突っぱねるのではなく、黙って温かいお気持ちだけありがたく頂戴した上で、それでも我々は違う道を選びたい、と言うこともできるわけでして……。

なお、次郎さんに関しては作中で民ちゃんから、過去の妻を蔑ろにした行状がぼろかすに非難される一方、素直さには欠ける頑固オヤジでありつつも実は非常に愛情深い人物であるという真実が、観客には早々に明らかにされています。この物語は、次郎さんがそういう人物であるからこそ園江さんとわかり合い、結論の是非はともかくとして彼女から信頼を受けて「後を託された」のだとすんなり納得できる作りになっていますし、また、園江さんと2人での対話場面も、息の合った役者さん同士ならではの、暖かな空気と優しさに溢れた非常に味わい深いものになっていると思います。結論の是非はともかく(しつこい)。

ここまでほぼ次郎さんの話しかしていないですが、もう一言だけ。2幕後半、渉くんと民ちゃんに「お父さんまだかなー?」とさんざん待たせた上で満を持して登場する銀髪次郎さんが、「美老人」と言うのも憚られるほどめちゃくちゃ素敵なので、それだけでも観る価値はあります。

そう言えば、次郎さんの年齢設定は演じる方とほぼ同世代、60代半ばから後半と思われますが、渉くんっていったい何歳ぐらいなの? というのがひっそりと気になっています。娘の民ちゃんが20代後半、最終的に30歳前後とすると、渉くんは恐らくそれより3歳ぐらい上とは推測されますが、特に物語の前半で、彼のちょっとした表情や仕草に、年齢に似合わぬ絶妙な老け感や世帯じみた感が滲み出ていたように思います。そのような雰囲気は、物語の終盤ではだいぶ薄れているので、多分年の離れた園江さん(実はこの人の年齢も結構謎です。40代後半ぐらい?)との暮らしで身につけたものであろうと察せられます。浦井くん、演技に情報量多すぎです!

で、物語の締めくくりにおいて、渉くんは次郎さんがかけた言葉に対し、ただ黙って深々と頭を下げるのですね。ここでの彼の心境は観る者の想像に委ねられていますが、個人的には、
「いや、この子、一見穏やかな天使に見えるけど、内心で提案に賛同していたとしても、人に背中を押されたからそのまま素直に行動する子じゃないよね。動くならあくまで自分で判断した上で、そうしたいという鉄の意志を持って動いて、誰が何と言おうと貫き通すんじゃないかな。でなけりゃ実のお父さんとも対立しないでしょう(恐らく園ちゃんとの結婚に当たりそうなったと勝手に想像)」
と、彼の人物像を解釈しているので、まあ、彼なら簡単に流されないだろうと信じています。そもそも民ちゃんもとても流されるとは……(以下略)。

……今回、女性陣についてあまり語れていませんが、ぐだぐだと長くなってしまったので、この辺にしておきます。

なお、今回はイープラス貸切公演で、キャスト全員からカーテンコールでの舞台挨拶もあった筈ですが、上記のようなことをもやもやと考えていて、ごめんなさい、ほとんど内容を覚えておりません😣。ただ祐一郎さんは「いつもの通り」であったと記憶します。

チケットはあと2公演分確保しています。次回はちょっとでももやもやせずに観られますように。