日々記 観劇別館

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『家族モドキ』初日感想(2023.07.26 18:00開演)

キャスト:
高梨次郎=山口祐一郎 木下渉=浦井健治 高梨民子=大塚千弘 木下園江=保坂知寿

7月26日にシアタークリエで開幕したストプレ『家族モドキ』の初日に行ってきました。

日本史(幕末史)専攻の大学教授である高梨次郎が、妻の死を機に仲違いしていた実の娘民子の3年ぶりの帰省を待っていたところ、民子の大学の同窓生と称する青年渉が訪れ、ほどなく民子も帰省。更にある出来事を経て、渉の年上の妻園江までが次郎の暮らしに乱入するが……? というのがこの作品のあらすじです。

物語は前半はかなり賑やか、後半は少々苦みのある人情喜劇です。全体を通して、いくつかのあまり幸福とは言えないシチュエーションが織り込まれています。

一言にて感想を申しますと、
「人生にはままならないことも回り道もたくさんあるが、それもまた人生」
となるでしょうか。

物語の主役である次郎さんは本質的には情愛に満ちているものの、本編開始以前の所業に「それはいかんだろう」と説教を喰らわせたくなる人物、身内への情愛を素直に表現できない人物として描かれています。

家族に対して罪深い所業を為した上に社会的にも進退極まった彼を攻撃し、批判するのは実に容易いのですが、ではそういう罪深い人間が人生をやり直すことは許されないのか? ということで、「やり直しのチャンス」が与えられたのが今回の物語なのではないか? と、個人的には考えているところです。

次郎さんでひとつ気になったのは喫煙シーン。恐らく彼の穏やかならぬ胸中を表す意図があるとは推測しますが、点きそうで点かない火や、(恐らく中の人のタバコへのなじみが薄いことにも起因すると思われる)口元の微妙な落ち着きなさ加減が気になるので、無理して入れる必要はないように思います。

園江さんに関しては、彼女があのような行動を取った心の流れは、自立心強く生きてきた人間としてごく自然なもののように受け止めています。ただ、彼女が愛する夫の渉くんに実現を望んだのは、世間的に両手を挙げて受け入れられるとは言い難い選択肢でした。そして終盤で、その選択肢をあえて再度渉くんに提示するのは次郎さん。園江さんが次郎さんにバトンを渡したのは、彼の一度どん底に堕ちてもひっそりと輝きを放ち続ける愛情深さを目にしたゆえでしょうか。次郎さんが、研究対象として以上に大好きな勝海舟について講談調に生き生き、朗々と語り、それに対して園江さんが絶妙な合いの手を入れる場面は、演じるお二人の呼吸が絶妙で、大人な2人が男女関係ではなく人間同士として分かり合った感があって好きです。

それから民子ちゃん。若いなりに山ほどの苦悩と後悔を抱え込んだ女の子なのですが、後半のエピソードが重すぎて彼女の抱えた心の闇の問題が若干霞んでしまったような……。そもそも何で学生時代に「彼」を受け入れなかったのかの事情は分かりませんが、いっぱい傷を負った人なのでその分幸せになってもらいたいです。

なお、詳細は省きますが、父娘の子守唄は最高です!

そして渉くん。三次元の男性で何の不自然感もなくあのように無邪気な笑顔で天使として振る舞える、実年齢40代の浦井くんは、つくづく貴重だと思う次第です。とある場面でとある人の発言として出てきた「(渉くんには)闇がないから」については、ピュアであり過ぎることもまた罪なのか? でもそれって彼のせいなの? とかなり心に引っかかっているので、次回の観劇後にまた考えたいと思います。

最後になりますが、実は今回の公演の事前ビジュアルを見て、
「さしもの祐一郎さんもだいぶ実年齢相応になってきたか……」
と不届き千万なことを考えていました。

ところが実際に舞台上のすらりとしたお姿を見てしまうと、
「こんな60代後半はやっぱり希少種だ」
とあっさり再認識せずにはいられないのは不思議なことです。