日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『WE MUST GO ON』

ご無沙汰しております。

今年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡がりという「流行」を飛び越した「災害」に伴い、2月末から演劇が次々に上演中止に見舞われています。

あっという間に事態は悪化し、私が3月以降に観に行く予定だった演目も次々に上演中止となりました。本業にもじわじわと様々な影響が出て心身ともにしんどさが増す状況下、これまでなら観劇で気持ちを奮い立たせてきたのにそれが叶わないという、なかなかに心が折れる日々が6月上旬現在もなお続いております。

そのような中、この演劇界の非常事態に最前線で直面している役者さんやスタッフの方々のインタビュー本の企画がクラウドファンディングで立ち上がっていることを、発起人のお一人でいらっしゃる平野祥恵さんのツイートで知りました。普段自分がクラウドファンディングに乗らせていただく際には、ある程度の資金を投じることもありかなり吟味あるいは逡巡しますが、この企画への投資は即決! でした。

そして先週、上記の経緯で制作された書籍『WE MUST GO ON』が手元に届けられました。石川禅井上芳雄、伊礼彼方、上口耕平、ソニン中川晃教……インタビューを受けられた役者さんのお名前や、「よくぞOKを!」というスタッフさん方のお名前を見ただけでもこの書籍を企画された皆さまのご尽力がしのばれます。詳述はいたしませんが、この辺りのご苦労は同封の小冊子でも紹介されていました。

個々のインタビューに関する細かい感想は省略しますが、事態がここまで深刻になる前の時期のインタビューも含まれているとは言え、役者、プロデューサー、振付家などの立場の別を問わず例外なく、意外な程に演劇界の、そして各々の活動の今後についてポジティブかつ強靭に向き合っていることに心を打たれました。

個人的には伊礼くんの初々しかった頃のルドルフを観ているので、現在二児の父親でもある彼が強かに逞しくショービズ界を泳ぎ渡ろうとしている姿に、勝手に姉のような心持ちになっています。

また、東宝で今回急遽上演が打ち切られた『天保十二年のシェイクスピア』の今村プロデューサーのインタビュー。元々東宝Twitterでレポートされたお稽古の様子からも天保カンパニーの一体感は伝わってきていましたが、千穐楽直前の上演打ち切り、無観客でのDVD・Blu-ray用映像収録という過酷な状況に直面したカンパニーの底力とエネルギーとが強烈に伝わってくる内容であったと思います。

この書籍を読み、 「日本のミュージカルは、演劇は、このままでは終わらないし、終わるわけがない」と確信しました。

エンターテインメントは、地震津波、火災や水害と言った他の災害とは全く性質の異なる感染症という災禍においては、最も不要不急で容易に折られる存在であることが、今回のCOVID-19で身にしみています。復活は簡単ではないかも知れませんが、演劇界にはぜひ乗り越えてもらいたいと願っています。また、自分自身においても、時に喝采を送り、たまに文句をたれつつもわくわくしていたあの日々が徐々にでも少しずつ取り戻せることを心待ちにしつつ、引き続き今日から生きていきたいと思っています。