日々記 観劇別館

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『ダンス・オブ・ヴァンパイア』大千穐楽感想(2020.1.20 13:00開演)

キャスト:
クロロック伯爵=山口祐一郎 アルフレート=東啓介 サラ=神田沙也加 アブロンシウス教授=石川禅 ヘルベルト=植原卓也 シャガール=コング桑田 レベッカ阿知波悟美 マグダ=大塚千弘 クコール=駒田一  ヴァンパイア・ダンサー=森山開次

ダンス・オブ・ヴァンパイア』の大千穐楽を、友人の厚意により大阪は梅田芸術劇城にて無事見届けてまいりました。

何度観てもそのたびにストーリーが変わるなんてことはなく、いつ観ても楽しいけどカオスな内容だと思いながら観ているわけですが、舞台は一期一会、「次も同じキャストで上演され、また同じように観ることができる」とは決して思わないことにしています。特にTdVの日本版は、上演時期の旬の若手俳優をその都度起用してきたという以上に、山口祐一郎という稀代の(と、あえて言わせていただきます)ミュージカル俳優の輝きあってこその演目であると思うわけでして。

今回、久しぶりに、と言っても2ヶ月も経っていないのですが、色彩豊かに様々な顔を見せる伯爵ボイスーー例えばウィスパーボイス、人外感溢れるボイス、そして大人の男性の渋い低音ボイスーーにたちまち心を絡め取られてしまいました。声の持つ力だけで客席を取り込む空気を作り出し、舞台空間を支配できる唯一無二の方だと考えています。

山口さんよりも歌の技巧や演技に秀でた役者や、容姿に優れた役者は他にもいるかも知れません。また、今後の成長が期待される若手や伸び盛りの中堅どころの方もたくさん控えている筈です。しかしどうしても、日本で彼以外の誰かがクロロック伯爵を演じる姿を想像することができずにいます。あえて誰かが演じるならば、全く別物として一から再構築が必須な役だと思います。

……という印象は劇城では全て横に置き去り、ただ頭を空っぽにして、幸せな音とダンスのシャワーを受け止めていました。ああ、楽しかったなあ。

 

以下、感想とレポートが混在してしまいますが、順不同で記してまいります。

大楽にして初見だったのは、帝劇、御園座では休演されていた、サラの化身役ダンサーの花岡麻里名さん。少女っぽく愛らしい雰囲気を漂わせながら、清楚でしなやかでアクロバティックなダンスを見せてくれて好感が持てました。森山影伯爵との息もぴったりだったと思います。

その森山影伯爵。確かTdVに初出演した頃祐一郎ボイスを「彼の歌声は背中から響く」と評していて、あのダンスは難易度も高そうだけど、あの声を背中側で聴きながら踊れるっていいなあ、と羨んだことを、今回「抑えがたい欲望」のシンクロ度最高の伯爵様と影伯爵様を観ながら改めて思い出していました。

神田サラ。何だかんだでサラは彼女のはまり役、当たり役になったと思っています。特に今季、桜井サラが無垢ゆえに怖いもの知らずなイメージでしたので、それとの対比としても神田サラの好奇心いっぱいの天然小悪魔キャラは生き生きとTdVワールドで息づいていたと感じられました。

東アルフ、今回は霊廟でのアドリブが長かったです。箒に乗った魔法使い状態で助けを求める教授に「手を貸せ!」と言われて右手ですか、左手ですか、指だけですか、貸したら手がなくなるじゃないですか、等とごねていて、お前は「不良少女白書」(さだまさし作詩・作曲)か! と思いましたが、結局は教授に「ひとりでやれ」と申し渡され、できないと逆ギレしてました。実は歴代アルフで精神年齢は最年少ではないでしょうか。なお東アルフ、霊廟で上に上がってきてからも教授を助ける前にアドリブを仕掛けてましたが、教授、「もういい!」と弟子の手を借りず自力で復活していました😅。

禅教授。アルフのアドリブを活かしつつ、進行の手綱を握るのは本当大変に違いない、と特に今回強く思った次第です。見せ場では1幕のソロでの超音波ロングトーンをいつもより少し長めに決めて、ショーストップ。伯爵との対面シーンではいつもよりも余計に名刺をプルプル振り、それに応えて伯爵もいつもより力強く名刺を奪い取っていました。

植原ヘルベルト。今日は何だか声が宝塚の男役さんみたいに聞こえました。そしていつもよりたくさんの水でアルフと戯れていたような。凛々しいのに残念なイケメンくんです。なお教授に追い出された時の最後のアルフへの愛の叫びが印象的でした。父上とも随分良い関係が築けた様子で、教授一行のお出迎えでは背中で擦り合い、舞踏会では歓喜し合っていました。

駒田クコール。幕間のクコール劇場もついに千穐楽を迎えました。淡々とモップで掃除を済ませたクコールがぱっとプラカードを出すと「クコール劇場 大千穐楽」、裏返すと「再演希望」の文字が! 駒田さん、スペインからトランシルヴァニアに飛んでの連続登板お疲れ様でした。

コングシャガール。実はコングさんの歌声の伸びの良さ、結構好きだったりします。伯爵の寝間着が紫のスケスケ〜とか細かい笑いを入れつつ崩し過ぎず暴走しないのは、いつもさすがと感服していました。

阿知波レベッカ。1幕で芝居を締める役目を果たしているのは多分この方。ダブルキャストだったシーズンもありますが、私は阿知波さんのママがやはり良いです。

 

カーテンコールでは伯爵様から観客やスタッフへの温かくて深い謝意を示すご挨拶が。感謝しなければならないのはこちらの方です、と思いながら耳を傾けておりました。

伯爵様の「さあ諸君、舞踏会の時間だァ……」のコールを合図に、すっかり手慣れたヘルベルト先生の振付指導による客席参加のヴァンパイア・ダンスがスタート。クコールがことのほかノリノリでした!

そしてキャストの退場と呼び戻しが3回ぐらい繰り返された後だったでしょうか。幕が上がると何と伯爵様が1人きりで舞台のセンターに佇んでいました。一瞬だけですぐに他のキャストを呼び出していたとは言え、レアな瞬間だったと思います。

今季のTdV、素晴らしい内容の大楽まで見届けることもできて、本当に大満足、悔いはない! という気持ちでいっぱいですが、一方でクコール劇場のプラカードに深ーく同意してしまう抑えがたい欲望に満ちた自分もいて、その辺りは結構複雑です。しかし、今年はあと4ヶ月半待てば教授と伯爵様がパパとママになって戻って来るわけで。少し先ですが、その間に気持ちを切り替えゆっくりと次のステージを心待ちにしたいと思います。