日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『ダンス・オブ・ヴァンパイア』帝劇前楽感想(2011.12.23マチネ)

キャスト:
クロロック伯爵=山口祐一郎 サラ=高橋愛 アルフレート=山崎育三郎 アブロンシウス教授=石川禅 ヘルベルト=馬場徹 シャガール=コング桑田 レベッカ阿知波悟美 マグダ=Jennifer クコール=駒田一 ヴァンパイア・ダンサー=新上裕也

育三郎アルフ、高橋サラ、新上VDの楽日を観てきました。座席は1階G列センター。死角ゼロの見やすい席でした。
というわけで、楽日を迎えたお三方の感想からまいります。

まず、育三郎アルフ。初日に観て以来でしたが、かなり軽佻浮薄な第3のアルフ像を確立しているという印象を受けました。純朴さは薄いですが、端々でカッコつけようとして滑りまくる、若気の至り故の数々の行為が痛々しく(別名:中二病)、オーバーアクションなアルフ。まあ、こんなアルフもありだろう、と思います。
カーテンコールでのご本人の発言に「(最初目指していた)体育会系アルフでなく反抗的なアルフになった」というのがありましたが、本人の筋力、瞬発力をいかんなく発揮した舞台上でのアクションは十分体育会系です。
ちなみに、初日に聞いて「淡々と読み過ぎててつまらん」と思った開演前のアルフのアナウンス。今回、初日と違うバージョンに聞こえたのは気のせいでしょうか?今日聞いたら棒読み感が薄れていたように感じました。

ところで育三郎アルフ、楽日ということで、周囲(特に教授)に散々いじられ、本人もかなり遊びを入れていました。以下、ちょっと長いですが、覚えている範囲で記します。
まず、シャガール(実はマグダ)の串刺し前恒例(?)の教授のクイズ「杭を刺す場所は?」に「肋骨っ、ろっこつです!」とハイテンション、早口で答えていました。対して教授、「お前テンション高いな!」と返すや否や、「ではヴァンパイアの苦手な物は?(1)十字架 (2)ニンニク あと一つは?」と切り返し、詰まるアルフ。「はーい、正解は日の光!」とちゃっちゃと肋骨カウントに移行する教授。大変だね、アルフ。

アドリブがかなり長かったのは、2幕の伯爵家霊廟の場です。地下に下りたアルフが、階上で身動きの取れなくなった教授を救助に行く時、まずは飛び上がって教授の足先に手が届いたものの及ばず、1回目は懸垂ぶら下がりで進んで落下、2回目は「豚の丸焼き」ポーズでぶら下がって前進し、硬直。教授に「ナマケモノかお前は!」と突っ込まれていました。これで終わりかと思いきや、教授に「アルフレート、思い残すことはないか!?」と煽られ、もう一度ナマケモノぶら下がり前進にチャレンジする羽目に。
その後、教授に台本通り「(伯爵串刺しを)1人でやれ!」と命じられたアルフが伯爵達の棺桶台座に駆け上がると、勢いが良すぎて台座が大揺れした上、台座からベキッと不穏な音がして、再度教授に突っ込まれてました。「安普請だな」と教授(^_^;)。
そして、伯爵の棺桶を覗いてギャーギャー騒ぎながら暴れるうちに、何故か伯爵の棺桶に背中から転落するアルフ……。ええと、あまり事故で落ちたようには見えなかったんですが、育三郎くんってばそんなに棺桶に入りたかったんでしょうか?「伯爵は起きそうになりましたがまた寝ました!」と言っていました。
なお、その昔の吉野ヘルベルトよろしく、伯爵が次の登場場面で、もしかしたらおでこに大きな絆創膏を貼って出てくるのではないか?とちょっぴり期待しましたが、もちろんそんなことはありませんでした*1
そんなこんなで串刺しが未遂に終わり、怒鳴られたアルフは何故か上手花道に逃げ込み「できないっ!」と逆ギレ。階上に戻ると教授に「正座!」*2と2度ほど命じられるも、ふて腐れて無視。3度目に教授がキレて「ぶつよ!」と怒鳴りつけてやっと正座する始末でした。怒る教授と悄然とするアルフ。2人が一旦退場し、長い長い、しかもかしましい霊廟の場がようやく終了と相成りました。確か次の場面で起きてきたシャガールが「ああ、五月蠅かった」とぶつぶつ言っていました。

アルフの話がえらい長くなりましたが、続いて高橋サラについてです。
前回観た際(12月11日)よりも歌声に力がなく不安定のように感じました。伯爵とのデュエットでは、かなり伯爵が彼女に合わせ声量レベルを落として歌っている印象でした。長丁場の本格的舞台への初挑戦で、喉がちょっとお疲れ気味なのかも知れません。
あと、今季のTdVでは何だか、サラの落としたスポンジが宿屋のセットから下に転がり落ちる率が高い気がするのですが、既定の演出なんでしょうか(^_^;)?今回は、育三郎アルフがセットから飛び降りて拾い上げ、セットの床にそのまま2人で座り込んで「それ、あげるわ。2つあるから」「スポンジ最高!」の演技をしていました。

そして新上さん。
改めて、この方のダンスは本当端正ですね。伯爵の内面を静謐に表現していると申しましょうか。この印象は初日からほとんど変わっていません。
ダンスの風のような疾走感から言えば開次さんの方に軍配が上がりそうですが(あくまで2009年の開次さんの印象)、丁寧に、でも時々さりげなくアクロバティックに踊っているのは新上さんなのかな、と思います。

本日楽を迎えられた方達の感想はひとまずここまでとして、以下、伯爵の感想を語りたい所ですが、アルフが絡まない部分で禅さんのアドリブを1つ思い出しましたので書いておきます。
1幕の必殺渡り鳥撃墜シャウトで上手く高音が出せなかった禅さん。シャウトの直後に「低いっ!」と自己突っ込みを入れてました。それが「じんるいのためぇーーーーーー、ひくいっ!」と立て続けだったので、客席は大爆笑。当たり前ですが、それでも鳥は見事に撃墜されていました。

気を取り直して、伯爵の感想にまいります。
本日は終始歌声に張りがあり、ぐらつくことなく終演まで走り通してくれていました。

バスルームでの「お前を招待しよう」の誘惑も力強く、オレ様度満載で良かったです。でもサラと向き合う時の目線はいつものように伏し目がちでしたが(^_^)。
ただ、前出のとおり高橋サラとのデュエット時には声量を落とし、節回しも彼女にそこまで?というくらい丁寧に合わせていました。

前回観劇時のドキドキの種であった「抑えがたい欲望」も、今回は第一声から漆黒のような深みと重厚さに満ちていて、「あ、今回は大丈夫だ」という安心感を与えてくれました。今日の「抑えがたい――」は伯爵の感情の揺らぎと自己肯定と達観との表現バランスが絶妙で、もしかして、現在自分が聴いているこれが、今季山口さんが到達したこの歌の完成形なのではないだろうか?と思わせるものがありました。もちろん、前回のように揺らぎまくる感情を剥き出しにして、聴く者の心をかき乱してくれる歌声も素敵なのですが、今回のように質量たっぷり、聴く者が気づいた時には引き込まれている強烈な引力を持った歌声にはただ感服するばかりです。
とは言え、山口さんは歌に関してはきっと、毎回「これでゴール」と思わず様々な表現を試みる方なので、今回の歌声が次回以降も聴けるとは限らないと思います。実に罪作りなお方です。

カーテンコールの大筋については省略します。公式ブログに映像が公開済みだから、ではなくて、育三郎アルフも高橋サラも至極真面目にご挨拶していて突っ込み所がありませんでしたので。
なお、新上さんは「この方は喋らない方が良い」(駒田さん談)ということで、発言はなく深々としたお辞儀のみのご挨拶となりました。

個人的にカーテンコールで笑撃だったのは、主要キャストのみのお出ましの際に伯爵の頭にサイリウムブレスレットを繋げた輪っかが載っていたことです。昔はイバラの冠、今はサイリウムの冠ですか(^_^)。そのサイリウム輪っかは例により、客席に投げ込まれ、幸運などなたかの手に渡っていました。
また、伯爵がすっとかがんで小さな高橋サラを押し出す姿を目撃し、1人で癒されておりました。

明日(もう「今日」ですが)はいよいよ千穐楽。こんな時間まで感想を書いてしまいましたが、明日の朝は頑張って起きて、千穐楽に臨みたいと思います。

……書き忘れ。クコール劇場にはヴァンパイア・ダンサーズの皆様が登場されていました。集団でうちわを持ってお掃除して、クコールの仕切りの下、EXILE(?)状態で2度ほどウェーブを決め、最後はあー、疲れた、やってらんねー、とばかりにうちわを舞台上に放り出して去っていき、うちわはクコールがブツブツ言いつつせっせとお片付け、というオチでした。

*1:吉野ヘルベルトは泉見アルフが霊廟でヘルベルトの棺桶にハンマーを落とした時、確かバスルームで頭をさすりながら登場するなどしていました。

*2:彼らが暮らしていたプロイセンに、懲罰としての正座が存在するのかは謎です。