日々記 観劇別館

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『ダンス・オブ・ヴァンパイア』帝劇千穐楽感想(2011.12.24マチネ)(2幕)

承前

というわけで引き続きTdV千穐楽の2幕の感想にまいります。今更ながらネタバレありまくりですので、舞台を未見の方は読むのはお避けください。

2幕最初の「愛のデュエット」では、伯爵が相手に過剰に声量を合わせる必要もなく歌っていて心地良かったです。いけない理性を持て!♪の我慢する演技は、サラ役者に関係なく、大仰でマンガチックなのでした。
「夜を感じろ」の悪夢ダンスで、再び開次さんほかを中心としたダンサーズ登場。振付は新上さんの時と多分まるきり一緒なのですが、何というか開次さんのダンスってやっぱり闇にごく自然に溶け込んでいると思いました。アルフダンサーやサラダンサーとは、明らかに違う世界に住む人の動きをしていました。

さて、悪夢が終わった後、朝食ワゴンを運んできたクコール。浦井アルフに悲鳴を浴びせられて、お鍋からスープをおたまで掬ってアルフにぶっかけてました(^_^;)。これは前楽でも育三郎アルフがやられていました。

この後一口もスープを食べられず霊廟に向かった浦井アルフ、「本当に怖い!」と歌いながら手で教授の裾をぎゅっと掴んで、可哀想に教授にぴしっと払いのけられてました。霊廟で身動き取れなくなった教授を浦井アルフがまた上階床にぶら下がって伝って行き、マフラーを片手で投げつけて助けようとしますが、失敗。そこで教授、前日同様「思い残すことはないか?」と階下のアルフに一言。そうしたら浦井アルフ、両手で自分のマフラーの端と端を掴んだかと思うと、何と胸の前でカウボーイのロープのようにぶんぶんと高速回転!教授の足元にロープならぬマフラーを投げつけますが、当然ながら無力(^_^;)。聞く所によると、このマフラー回しはどうやら22日の前々楽当たりから既に試みていたようです。
伯爵串刺しに失敗した後、いつもの「でもね、できないなぁ〜!」で締めて、階上へ帰還した浦井アルフに、教授は「お手!」「おかわり!」「反省!」と立て続けに命令。反抗もせず素直に全部こなす浦井アルフ(笑)。全部こなしたのに、こなした故に、お前は犬か猿だー!と教授に罵倒されて更に可哀想なことに(^_^;)。それでも、「私の跡を継ぐのは百年早い!」と言われたら「百年経ったら死んじゃいますよ!」と反論するのは忘れませんでした。この場面の直後にシャガールが登場してまた「五月蠅いよ!」と文句言われてましたが、五月蠅さでは前日の育三郎アルフの方が勝っていたかと思います。別に浦井アルフと違ってギャーギャー悲鳴上げたりしないのに。

次の場面で浮かれきっているサラに再会した後のアルフのソロ「サラへ」。ここで浦井アルフ、力強く熱唱するのではなく、切々と語るように歌っていました。一言一句、丁寧にサラに語りかける歌い方なのに、しっかりと全身から響く歌声。この子、いつの間にこんなに上手くなったの!?と『オペラ座の怪人』のクリスティーヌを眺めるメグのような気持ちで呆然と見守っておりました。
この後、馬場ヘル登場。彼の黒いキャミソールから見える胸元の筋肉は適度にたくましく綺麗です……って、どこ見てるんでしょう自分。ヘルに襲われて客席を逃げ回る浦井アルフの台詞は、今日もまた「△※●□▽○*■!」という感じで、文字化不能でした。
浦井アルフが戻って再度追い回される場面で、「鏡に映ってなーい!」の指摘に馬場ヘルが「映るかバーカ!」と答える流れは一緒でしたが、確か今回はその後に「お前がバカだー!」とか浦井アルフが絶叫していた気がします。まあ、反論しても追い詰められる結果は一緒なわけですが(^_^;)。
救出に来た教授に指十字架攻撃されて、捨て台詞を残して去っていく馬場ヘルに、教授、「まだまだだな!To be continuedだ!」の言葉を浴びせてましたが、これはやはり大阪まで戦いは持ち越し、ということだったのでしょうか?
浦井アルフ、ここで思わず笑顔になっていたらしく、教授に「何笑ってるんだよ!」と突っ込まれていました。この場面で浦井アルフ、心底へとへとな風情でバルコニーに登って行くので、バルコニーでコウモリ伯爵にロックオンされるのが本当に気の毒でなりません。

墓場でのヴァンパイア達の群舞と合唱の後は、伯爵のソロ「抑えがたい欲望」。前日の前楽でこの歌の完成形と言えるものを聴いてしまったけど、今回はどうかなあ?と思っていましたが、そんな心配は無用で、今回も文句の付けようのない完璧な歌を聴かせてくれました。感情豊かにドラマティックに展開され、最後は劇場の隅までふくよかにかつ力強く響き渡るロングトーン。歌い終え、退場する伯爵の背中に向けても拍手は続き、軽くショーストップ状態になっていました。
それだけ長い上に体力を消耗するソロを歌いきった後に、間に1シーン挟んだだけですぐ登場して、舞踏会の開会宣言をパッション全開、しかも楽日なので殊の外放出しまくりで歌いまくる伯爵はただ者ではないと思います。
ちょっと前後しますが、「抑えがたい欲望」での開次さんのダンスの、伯爵のソロで激しく起伏する感情とのシンクロぶりもただ事ではなかったです。闇の存在としての伯爵の内面を見事に裏打ちし、伯爵の影としてごく自然に一体化しているように見えました。新上さんと基本の振付は一緒なのに、一体何が違うのかと不思議でなりません。

舞踏会に戻りますと、ここでもう一度、伯爵とサラの短いデュエットがあります。くどいようですが、デュエットは安心して聴ける方が良いに決まっています。特にこの場面だと、個人的にはサラはどこか伯爵と男女として対等な所があって欲しいと思っているので、歌も伯爵にリードされる一方ではないのが好みです。その意味で知念サラ、ちゃんと対等だったと思います。
アルフ達の逃走の際のヘルベルトの行動は、確か初演の頃のものと同じです。2009年再演の時に吉野ヘルが大変残酷な振る舞いをしてましたが、馬場ヘルは今季初日からずっとそれはやっていません。どちらが良いとか好きとかではなくて、あれは吉野ヘルに合わせた演出だったのだと今季気づいた次第です。

終盤、上手からは「……悪くないね!」の時のアルフの表情がやや見えづらかったのですが、多分、やっぱり新しい世界に生まれ変わった雛鳥状態のお顔だったんではないかと想像しています(^_^)。
エピローグのヴァンパイア達のダンスでの、影伯爵(どなたかがTwitterでこの呼び名を使われていましたがぴったりだと思います)のソロでは、新上さんは紙吹雪をふりまきながら綺麗に高速回転を決めていましたが、開次さんはあまり回りませんでした。ここは新上さんの方が好みです。ただ、後で聞いた所によると、千穐楽で開次さんの肩紐が片方外れてしまい、口に紐をくわえて踊っていたらしいので(遠くから見て肩紐がないのは分かりましたが加えている所は見えませんでした)、いつもと違うダンスだった可能性もあります。

カーテンコールは、例により公式映像が上がっているので、細かい所は省いて、簡単に感想のみ記します。
皆さん今回は素敵なご挨拶ばかりでしたが、特に印象に残ったのは、最年少(23歳!)馬場くんのご挨拶でした。やっぱり前任の方からあの役を引き継いだプレッシャーは相当なものだったんだね、と納得するとともに、周囲のキャストやスタッフに向けられたどこまでも謙虚で素直な言葉に、彼の人柄を垣間見た気がいたします。吉野ヘルのゴシックなダークさと妖艶さも忘れられませんが、可愛くまっしぐらにアルフを求めていた馬場ヘルもまた見てみたい!と今回思いました。
それから浦井くん。実は、突如天皇陛下のお言葉を引用した時に「いきなり何を肩肘張ったことを言い出すの、この子は!」と動揺してしまいました(^_^;)。しかし、動画で改めて彼の言葉を聞き直した所、「心の重い」この年に、大の大人が真面目に考えて娯楽を作り出す事の素晴らしさを真摯に語っていたので、ちょっと反省。浦井くんらしい素敵なご挨拶だったと思います。

そして山口さん。この方のご挨拶は、ご自身が主演の時は本当シンプルに短く済ませてしまうのですが、「二度とないというくらいの素晴らしい夢のひととき」という言葉に、万感の思いを感じました。

また、今回は帝劇百周年の大千穐楽でもあり、フィナーレに皆でサイリウムブレスレットを振りながらヴァンパイア・ダンスを踊った後、記念の大看板が天井から下りてきました。
ここ、今にして思えば山口さんが口上を述べられても良い所のように思いますが、今回は駒田さんが引き続き口上を述べられていました。
この口上の後、客席の両脇からラメモールが打ち上げられました。この時、他のキャストが普通にお手振りをする中、山口さんだけはキラキラ光る客席上空を微動だにせずじっと見つめていたのが印象に残っています。一体どんな感慨が脳裏をよぎっているのだろう?と彼の心の深淵に思いを馳せた瞬間でした。

……というわけで、これで今回のTdVは見納めです。次に伯爵達にお目にかかれるのはいつになることでしょう。山口さんの舞台も、来年3月のウィーンミュージカルコンサートまではしばらく観る機会がありません。もちろん山口さんの出ない舞台やライブを観に行く予定はありますので、エンタメに飢えることこそありませんが、今しばらくは魂が抜けたような気持ちが続きそうです。