日々記 観劇別館

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『ダンス・オブ・ヴァンパイア』感想(2011.12.3ソワレ)

キャスト:
クロロック伯爵=山口祐一郎 サラ=知念里奈 アルフレート=浦井健治 アブロンシウス教授=石川禅 ヘルベルト=馬場徹 シャガール=コング桑田 レベッカ阿知波悟美 マグダ=Jennifer クコール=駒田一 ヴァンパイア・ダンサー=新上裕也

初日以来待ち焦がれた、浦井アルフをようやく観ることができました。
浦井アルフ、開演前のナレーションから臨場感たっぷりで、物語の世界に引き込んでくれます。初日に聞いた育三郎アルフのナレーションが割と棒読み淡々朗読系だったので、余計に浦井アルフの楽しい語りが嬉しかったのかも知れません。
そして開演。初日は2階席でしたが、今回は1階R列下手サブセンブロック中央という、キャストの皆さんが真後ろを通り、客席降りのアクションをチェックしやすいお席でした。
下手センター通路を涙目でヒーヒー言って駆け抜けるアルフを見送り、第一声からヘタレ度満載、でも劇場の隅々まで朗々と通る歌声を、静かな感慨とともに堪能。
浦井アルフの細やかな演技からは、ちゃんとおぼこな初恋の香りが漂ってきていました。純朴で人を疑うことを知らなくて、気弱で頼りないけれど、愛さえあればいつか報われると強く信じている少年。そして酷い目に遭わされるたび、文字化不可能な悲鳴をヒーヒー上げてくれるのが可愛いのです。
彼の「サラへ」からも、そんなアルフの人柄が込められて健気さが伝わってきていました。
育三郎アルフのように、おぼこでも何でもない普通の子が異郷の地で事件に巻き込まれることにより、本人の思いもよらなかった性格ーーヘタレ、幼さ、そして純情ーーが剥き出しになっていく、という展開も悪くはありません。でも自分としては、ほんわかとしつつひたむきに、ヘタレながら必死に不測の事態に立ち向かっていく浦井アルフの人物像が好きです。
終盤、客席に下りて退場していく浦井アルフが実に満ち足りた表情で、本当幸せそうなのが嬉しくて、この物語は少なくとも浦井アルフにとっては間違いなくハッピーエンドなのだと実感しました。
浦井アルフ絡みの小ネタとしては、1幕でサラが宿屋セットとオケピとの間にスポンジを落としてしまい、それをさっと手を伸ばして拾い上げていました。

知念サラも今季初鑑賞でした。「無邪気」で「純粋」ではあるけれど「純朴」ではない18歳の少女。実は知念サラの、2幕でアルフを「あたしはあんたと違って大人なのよ!」と露骨に蔑むのではなく、伯爵により与えられた欲望の対象としての厚遇を無邪気に喜んで受け入れた結果、舞い上がってアルフがどうでも良くなっている、少女の浅はかさと残酷さに満ちたあの態度が好きです。アルフが邪魔をすることに鬱陶しさこそ覚えていても、決して蔑んではいないので、ラストへの流れが自然なのですね。

禅教授は2009年公演よりも若干マッド感が薄まって、その分おとぼけ感が増した様な気がします。ふわふわの銀髪と髭は「帝劇のゆるキャラ」とでも呼びたいような可愛らしい風貌なのに、俗物で自分のことしか考えていない変人なので、そんな彼に健気に尽くす浦井アルフに感情移入すると、たまに教授が恨めしくなります(^_^;)。
今回の教授は、アルフ襲撃の去り際に散々悪態をつきまくったバカ息子さん(笑)に「負け吸血鬼の遠吠え」と言い放っていました。1ヶ月だと少々時間が足りない気もしますが、この辺の教授との掛け合い、もっとパワーアップすることを願っています。

そのバカ息子こと馬場ヘル、今回は幕間のクコール劇場に登場していました。クコール劇場は「200回おめでとう!」と客席から声を掛けられて(どうもそうだったらしい)、クコールが「オレそんなにやってんの?」と反応。大半の紙吹雪を掃除し終えた直後、バカ息子さんがサングラス&日傘姿で登場し、紙吹雪を大量に撒き散らして退散していました(笑)。そしてクコールは「バカ息子ー!」と絶叫。「でもあいつ出る前結構緊張してたんですよ」と締めてました。頑張れ馬場ヘル!彼の歌声は割合と聴き取りやすくて好きです。

阿知波さんはエリザの時も書いた気がしますが、良く通る声に綺麗な滑舌、舞台に立っているだけで安心する役者さんのお一人です。あのママの存在があるからシャガールのダメっぷりが際立つというものです。
コングシャガールは高音が出ないという不満をよく目にしますが、私は必ずしもそうではありません。何故なら初演の時の佐藤シャガールの歌声を聴いてしまっているので(^_^;)。
ジェニマグダは、実は見た目はこれまでのマグダの中では私的に一番イメージぴったりなのですが、エンディングの歌の歌詞が聴き取れませんでした(T_T)。また、日本語が若干弱いかな、というのは否定できません。でも頑張っているとは思います。

そして伯爵。
客席の隅々まで響き渡る歌声と、一挙手一投足に漂う異形の華やかなオーラについては今更語るまでもありません。
今回は、本当、声の引き出しが豊富な人だなあ、と思ってずっと聴き入っていました。
風呂場でサラを誘惑する時の歌声の悪辣さと張りのある強引さ。1幕終盤、お城でアルフレートに語りかける時の、露骨な下ネタ演技をさらりとこなしつつ、対サラの数十倍も艶っぽさに満ちた歌声。
2幕初めでの自信に満ちた歌声。そして「抑えがたい欲望」の歌声に込められた、ドラマティックに揺らぐ感情。一転、舞踏会での欲望を全肯定、開き直ったどこまでも派手派手しく悪徳に満ちた、でもサラにはどこまでも紳士的な声色。
何度も劇城に通う観客(自分は今季は僅か2回目ですが)の目も耳も毎回見張らせるような歌と演技は、本当流石だ!と思います。
ちなみに伯爵、クコールにすりすりされた時に一瞬「ああっ!」と色っぽく叫んでました(^_^;)。いいぞクコールもっとやれ。

そして、今回の入場時から配布が開始されたハンカチ。白地に赤でTdVロゴが印刷されています。
カーテンコールで特にクコールから「必ずこれを使って」という種類の言葉はありませんでしたが、全員ダンスで手に持ち踊っていました。伯爵が一旦幕が下りた後に両手を上に挙げてハンカチを振り回す姿を見てしまうと、使わずにはいられないでしょう、あれは。

なお、その伯爵のハンカチ、最後にメインキャスト4人で登場時、客席で待機していたクコールに向けて投げかけていました。そしてクコールの手から投げられたハンカチは、幸運な誰かの手に渡っていたようです。いいなあ。