日々記 観劇別館

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『シャボン玉とんだ 宇宙までとんだ』感想(2020.1.26 17:00開演)

キャスト:
三浦悠介=井上芳雄 折口佳代=咲妃みゆ テムキ/フジ=畠中洋 マスター=吉野圭吾 春江/ウメ=濱田めぐみ 早瀬/ゼス=上原理生 里美/レポーター=仙名彩世 ミラ=内藤大希 清水=藤咲みどり 久保=照井裕隆 ピア/キク=土居裕子


シアタークリエにて、ミュージカル『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』を観てまいりました。

元々音楽座の作品であることだけは知っていたのですが、それ以外の予備知識はゼロの状態で、公式サイトの解説やキャストのコメントにもほとんど目を通さないまま観劇に臨みましたので、1988年に土居裕子さんをお佳代のオリジナルキャストとして初演されたこと、今回の出演者のうち音楽座出身のキャストが6名いらして(土居さん、畠中さん、吉野さん、濱田さん、藤咲さん、照井さん)、照井さんを除く5名の方がかつてこの作品に出演されていたことは全く存じませんでした。今回に限ってはもう少し予備知識を持って観た方が楽しめたと不勉強を悔やんでいます。

以下、結末には触れないようにしますが、内容に言及していますので、未見の方はくれぐれもご注意ください。

親に捨てられた上にヤクザでスリの親玉でもある義父に育てられ、スリを生業として裏社会で生きてきたお佳代。気弱で貧しく不器用だが音楽の才能と周囲の人間に恵まれ、独学で学んだ作曲で身を立てようとしている「ゆう兄ちゃん」こと悠介。この2人が偶然出会ったことから物語は展開していきますが、実はお佳代には本人も自覚していないある秘密があり……というのがこの作品の基本の物語です。

物語の舞台は一応現代ではあるようですが、少なくとも前半は遊園地の迷路アトラクションや地上げ、黒電話といった、2020年にはレアと化している事物が登場しますので、恐らくこの作品が初演された頃、昭和末期のバブルの時代がモデルでしょう。ただ、SFファンタジーの要素の強いお話ですので、あまり具体的な時代を深く考える必要はないと思います。

ゆう兄ちゃんとお佳代、序盤では住む世界があまりに違いすぎて、本当見ていてイラッとするぐらいに噛み合わないのですが、逆にそれゆえに、そんな2人の心がお佳代の悲しい過去の告白等を経て次第に強く結びついていく様子を、ごく自然に受け入れることができました。そう言えばその告白の場では、観察者も含めて少々きわどい台詞のやり取りがありましたが、一見気丈なお佳代が心に抱えた闇を理解するために必須な場面とは言え、客席にいた小学生ぐらいのお子さんは大丈夫だったんだろうか? と要らぬ心配をしております。

この2人を吉野さん、濱田さん、土居さん、畠中さんらベテラン勢が脇に回り、役どころの上でも温かく見守りサポートしていくのが良かったです。

なお自分は途中まで、土居さんと畠中さんを個体識別できておりませんでした。これは下調べしなかったからではなく、単なるボケです😅。いくら皆様のコスチュームの事情があったとは言え、あんまりだろう、自分……。

ストーリー展開は結構何回か急展開やどんでん返しがあり、初見ゆえに緊張しながら見守りました。あまりにどきどきしすぎて、実はあまり楽曲の記憶がありません。しかしそのような中でも、ゆう兄ちゃんがとある事情で離れ離れになったお佳代にリモートで語りかける歌は本当に聴いていて切なくて、印象に残っています。また、ラストの合唱も素晴らしかったです。

最後の最後まで緊張感溢れる展開ではありましたが、トータルではちょっぴりユーモラスで大変にハートフルでハッピーな後味のミュージカルでした。タイトルだけの印象から悲恋を連想していたので、なおさらそう思いました。

お佳代の「ゆう兄ちゃん」呼びも良いですね。「ゆう」にこっそり「祐」の漢字を当てると妙に嬉しくなるのです(何を言っているのか)。

ただひとつ疑問が拭えないのですが、終盤の「10年待てますね?」は、あれ、10年待つ必要はあったんでしょうか? いや、ウラシマ効果で生まれた年の差の帳尻を合わせたかったのかも知れませんが、良い人達だけれどもポンコツな香りもするあの異星人さん達、もしまた何かのアクシデントできっちり時間通りに戻せなかったらどうするつもりだったんだろう? と考えると眠れなくなりそうです。