日々記 観劇別館

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『ジキル&ハイド』感想(2012.3.25マチネ)

キャスト:ヘンリー・ジキル/エドワード・ハイド=石丸幹二 ルーシー・ハリス=濱田めぐみ エマ・カルー笹本玲奈 ガブリエル・ジョン・アターソン=吉野圭吾 サイモン・ストライド、市民、客=畠中洋 プール、患者(ジキルの父)、市民=花王おさむ ダンヴァース・カルー卿=中嶋しゅう

今回は2度目の観劇だったのと、友人が一緒だったのとでかなり気が緩んでおりまして(笑)、結構細部にツッコミを入れながら観ていました。

例えば、「どん底」でルーシーのダンスを堪能した後に、アターソンは店のお姉さんと奥の間にしけ込み、一方ジキルはルーシーの言葉から「自分で試す」という天啓を受け、ルーシーに名刺を渡して立ち去ったわけですが、次の場面でジキルはアターソンに送られて自邸に戻っています(笑)。ジキル、貴方一体どこでアターソンを待っていたんですか?(^_^;)
他にも、司教様、法服のまま娼館に行くの?とか、その変身薬・解除薬・封印薬の派手派手しい蛍光色(左から順に赤・緑・青)を飲むなんて石丸さん気の毒!とか*1、ハイド、何故ルーシーを殺りに行く時も封印薬の試験管を持ち歩いている?とか、アターソン、何故親友の結婚式の場に銃を携帯?とか*2、細かいツッコミ所は満載です。
で、ツッコミを入れている割に、役者さんの演技のあまり細かい所には目配りできていなかったので、後から「しまった」と思っております。

何とかならないものか?と前回から思っているのはイリュージョン過ぎる殺しの場面。
あの桃太郎侍のように(あくまで私見)登場するハイドと、火刑イリュージョンを見るだけでどうしても笑ってしまうのですが……。ついでに首飾りで締められた後何故か口に花をぐさりと生けられる夫人や、背後のポスターが破られて首締めされる伯爵の場面も「面白きゃいい」的な根性がチラ見えて違和感を覚えてなりません。

逆に今回特に素敵だと思ったのは、随所に挿入されるアンサンブルの重唱と群舞でした。
KENTAROさんらベテラン勢から、寺元さん、二宮さん(牧師様が美声!)、吉田さんといった若手に至るまで、とにかく一人一人の歌声もハーモニーも綺麗。ジキハイの半分はアンサンブルでできていると言っても過言ではないと思います。それだけに……それだけに、エマパパのお歌が残念で……ええ。

それから、ジキルとハイドのカツラが、前回観た時のストレートヘアからウェービーヘアに変わっていました。前回はジキルとハイドが葛藤するナンバーで髪がばっさんばっさんしていた覚えがありますが、ウェービーヘアだと髪がまとまり易いのか、今回はだいぶ落ち着いていました。
石丸さんはやはり見事ですね。「時が来た」で最後少し声の伸びが良くない?と感じた所もありましたが、残りはジキルとハイドの2人を少しの違和感もなく演じられていました。ただ、どうしてもハイドの時の色気は鹿賀ハイドに数歩譲ってしまうのですけれど。

玲奈ちゃんは、今回観て改めて成長したな、と実感しました。ラストでピエタのように夫の亡骸を膝に抱く表情が、聖母の慈愛と哀しみの表情そのもので。いつからこんな表情を見せられるようになったのでしょう。

アターソンは、幕開けで登場しただけで、結末を知っている者としては泣きそうになってしまいます。途中でジキルとエマをにこやかにからかう様とか、ハイドの正体を知る場面とか、随所でもういちいち。吉野さんは悪役も似合いますが、こういう善人の役も本当ぴったりはまります。パブで足を組んで腰掛け、タバコをくゆらせたり、銃を構えたりと言った何気ないポーズが決まっているのも長所です。

ストライドは前回以上に嫌な奴全開で攻めていました。表情筋や小さな仕草一つにも込められたジキルへの妬み憎しみ。あれはああいう結末を迎えても仕方ないと納得させられるものがありました。

ルーシーについて、友人と幕間などに話していて疑問だったのは、何故ハイドが歪んだ愛の対象として選んだのは、ジキルと固い愛情と信頼で結ばれている筈のエマではなくルーシーだったのか?という点でした。ジキハイ本編にはハイドがエマをどう思っているかを示す場面や台詞は登場しません。なので想像するしかありませんが、私は、エマはハイドにとって手出しをしてはいけない聖域だったのではないか?と考えています。その代わりに、一見楚々としたお嬢様でありながら実はめちゃめちゃ芯の強いエマとは対照的に、強気で蓮っ葉なようで実はガラスのような心に虚勢を張って生きているルーシーの、愛するに足る純粋な心根に惹かれて行ったのだと思います。一途で純粋な心根は、「その目に」のエマ&ルーシーのデュエットにも見受けられるように、2人に共通の徳なのですけれどね。
その「可愛いルーシー」(脅し文句ではなく本気でそう思っていた筈)の命を自らの手で奪ってしまったハイドに取って、だからのうのうとジキルがエマと幸福になるのが許せなかったのではないでしょうか。でもそんな自分を誰よりも憎んでいて……と考えると泣けてしまうのです。

あまりまとまりがなくて申し訳ありませんが、以上、ジキハイ2回目の感想でした。
なお、席は偶然にも前回と同じGC階。前回より4、5席分上手寄りなだけでしたが、ステージ上手のバルコニーで演技する石丸さんが見えたので、だいぶお得感が増しました。

*1:同行の友人の観察によれば試験管の口に飲まなくて良い仕掛けがあるような?とのことですが、真相は不明です。

*2:これは友人の指摘で謎が深まりました