日々記 観劇別館

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『ダンス・オブ・ヴァンパイア』帝劇千穐楽感想(2019.11.27 13:00開演)

キャスト:
クロロック伯爵=山口祐一郎 アルフレート=東啓介 サラ=桜井玲香 アブロンシウス教授=石川禅 ヘルベルト=植原卓也 シャガール=コング桑田 レベッカ阿知波悟美 マグダ=大塚千弘 クコール=駒田一  ヴァンパイア・ダンサー=佐藤洋介

ダンス・オブ・ヴァンパイア』の帝劇千穐楽、舞踏会に参加してまいりました。

平日無理やりお休みをいただいて、当日も予定が目白押しでしたが、どうにか開演ぎりぎりに劇城に滑り込むことができました。

座席は1階補助席のすぐ後ろのA席最前列(S列サブセン)。通路際なので、伯爵ほかキャストが舞台から捌けていく時や一周回って舞台に戻るさまを大いに堪能できて、たまにヴァンパイアさんが目の前を駆け抜けて行くのも楽しめる、なかなか美味しいお席でした。

東京千穐楽と言うことでキャストの皆さまの演技も通常よりも若干アドリブやお遊びが入り気味に。例えばレベッカさんは教授のソロで登場する謎の妖精さん方にあんた達誰? と突っ込む時に「どこの事務所? 後で私の部屋まで来て!」などと言っていましたが、いつもは「事務所の力?」ぐらいしか言っていなかったような……。ただTdVは今期4回しか観ていないので、もし他の日にも見られたアドリブでしたらすみません。

あと、台詞は一字一句変えなかったにもかかわらず笑わせてくれたのが伯爵と教授の1幕クライマックスでの掛け合いです。教授が伯爵のモノマネで笑い声をたてた時に伯爵が露骨にしかめっ面をしてみたり、教授が名刺をパタパタさせるのを伯爵がしばし指で弄んだ後でおもむろにむしり取ってみたり、伯爵が「私は夜型なので、昼間は、何もできません」と口にする時に歌舞伎の女形の幽霊のような震え声を出してみたりしていました。

また、これは前から同じようにしていたか記憶が曖昧ですが、伯爵が「夢は、成長すれば叶うはず」の後で少しだけ背の高い東アルフをやや見上げ気味にしながら(「見上げ」は山口さんにはレアなシチュエーションです!)向き合い、一瞬手を伸ばして掌で胸元に触れてから、おでこをつついていました。あれは人間であるアルフの体温と若い鼓動に懐かしさを覚えたのかも? というのは単なる私の妄想に過ぎません。

強烈だったのはクコール。2幕の朝の場面でアルフに悲鳴を上げられてブチ切れ、お玉でポットからお湯をすくってアルフにかけまくった末に、自らポットのお湯を頭の上からぶちまけて「熱いっ!」「イヤーッ!!」と叫んで駆け去っていきました。その後も何事もなかったように雑事をこなし、騒々しいヴァンパイアカップルの棺を軽く投げ飛ばすたくましいクコール。しかしラストではあんなことに……😢。初演以来実は毎回TdVを観るたびに、あの後伯爵城の雑事はどうなるのだろう、と気になって仕方ありません。

なお、TdV名物「クコール劇場」は、千穐楽仕様で「蛍の光」の生オケ演奏とともにクコールが静かにお掃除を進め、最後に「クコール劇場千穐楽」、裏返して「名古屋に続く」のプラカードを掲げて去っていく、という内容でした。帝劇でのクコール劇場についてはTogetterで、観劇した皆さまの関連ツイートがまとめられているようなので、御園座公演も同じようにまとめが作られることを期待しています。

それから、この演目毎回恒例のアドリブと言えば、やはり2幕の教授とアルフの霊廟での二人芝居でしょう。千穐楽の東アルフは、教授が遭難しかけて助けを求めた際になぜか棺の陰に隠れて教授に「上から見えてるぞ!」と突っ込まれてみたり、屁理屈をこねたりしたあげく、上によじ登って教授に手が届きそうになった瞬間に、教授から「ひとりでやれ!」と言い渡され、「え? ここまで来たのに!」と文句を言いながら再度階下に降りていました。そして、失敗して教授に罵倒されるとやはり「でもできない!」と床に転がるなどして逆ギレする東アルフなのでした。

それにしても、改めて観ると、あの「魔法使い」(東アルフ談)の姿勢であの長い場面の掛け合いをこなす禅さんはやはり偉大だと思います。

ここまで書いていて気づいたのですが、そう言えばサラにはお遊びが全くないですね。多分、物語の軸となる役柄なので、動きの中に遊びを入れる余地もなく、そうすることを許されていないのだとは思いますが。

サラの動きについてもう1つ。2幕クライマックスで追い詰められた時、桜井サラが一瞬だけ、抵抗して伯爵のもとに駆け寄ろうとするそぶりを見せていて、「あれ? 今までも抵抗していたっけ?」と疑問だったのですが、きっと過去のサラ達も同じようにしていたのに私の視界に入っていなかっただけだと思われます。

というわけでアドリブ(的な何か)ばかりに触れてしまいましたが、東京千穐楽ということもあってか、全体に熱気に包まれた公演でした。

伯爵の我こそがお前が待ちわびた天使とうそぶきつつのサラ誘惑はより力強く、桜井サラはひたすら綺麗で愛らしく、そして東アルフは素直な一方、結構な駄々っ子で、でもサラにはまっすぐな本物の思いを手向けていました。

初日の頃はどこかに試行錯誤感のあった植原ヘルベルトも、すっかりTdVワールドに溶け込み、波打ち際の戯れをアルフに仕掛けてしまう、可愛いけれどちょっぴりコミュ障で暴走がちな息子さんをカーテンコールまで演じきっていました。

そして、1幕から2幕前半までひたすらコメディタッチで突っ走るTdVを一気に引き締めてくれるのが、やはり「抑えがたき欲望」です。千穐楽の伯爵は、佐藤影伯爵とともに、天使でも悪魔でも、そして人間でもない端境に、虚無と渇望と諦観と達観とを全部抱えて立っている存在であるように感じられました。ただただ、あの劇場全体を包む歌声にひれ伏すばかりで、伯爵様、貴方のどこが「虚しい存在」なんですか!? と問いたい気持ちです。

自分の筆力の乏しさが恨めしくなってきましたので、本編の感想はひとまずここまでにします。

カーテンコールでは、恒例の客席参加ダンスの前に伯爵から、

「さあ、諸君……。ディナーの時間だァ……。」

の口調で、

「さあ、諸君……。舞踏会の時間だァ……。」

のコールがありました。

しかも、続けて、

「一度やってみたかった……。」

の一言付き。これはテンションが上がらない方が無理というものです。

そして、狂乱の宴が終わったその後には、もう一つ大きなプレゼントが。

伯爵がセンターに全キャストを集結させたかと思うと、おもむろに両手で「ハート」の形を作り、それをふうっと客席に吹きかけて、投げキス拡散! 客席にヴァンパイアウイルスならぬ「LOVE❤️」が蔓延する状態になっていました。

もちろん、「LOVE❤️」をしっかり受け止めさせていただきました。伯爵様、ありがとう!

そしてもう一つ、千穐楽当日に、来年12月に山口さんと浦井くん、そして知寿さんが出演する舞台『オトコフタリ』が上演予定との情報が! これでまた、あと1年生きていく理由ができました。でもまずその前に、TdVの公演が無事大阪大楽まで挙行されること、そして『ヘアスプレー』の製作発表及び上演を待ちたいと思います。