日々記 観劇別館

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『ダンス・オブ・ヴァンパイア』名古屋大千穐楽感想(2016.1.17)

キャスト:
クロロック伯爵=山口祐一郎 アルフレート=平方元基 サラ=神田沙也加 アブロンシウス教授=石川禅 ヘルベルト=上口耕平 シャガール=コング桑田 レベッカ=出雲綾 マグダ=ソニン クコール=駒田一  ヴァンパイア・ダンサー=新上裕也

ありがたくも、名古屋の愛知県芸術劇場大ホールで上演された『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の大千穐楽を観てくることができました。

大楽では女性ヴァンパイア・ダンサーの松島さんが怪我のため休演、と掲示されていました。大阪公演で負傷されたのだろうか?と思っていましたが、後で演出家の山田さんのブログを拝読したところ、どうも大阪公演も休演されたようです。

座席は同行の友人のお蔭で1階の下手サブセン10列以内という良席で観ることができました。音響は、オケや歌声の聞こえ方は割と良いと思っていましたが、役者さんの地の台詞が聞こえづらい箇所が所々ありました。ただ階上席でご覧になった方の感想を読むと音響が微妙な上に目線に手すりが被って困ったというものもありましたので、あまり贅沢は申しません。
ちなみに前日の前楽上演時間帯に会場の下見に出向いたところ、オケの音とアンサンブルのコーラスはホールの外のロビーまでかなり聞こえていました。流石にソロの歌声までは無理でしたが。

以下、本編の感想にまいります。

1幕序盤でちょっとしたトラブルが発生しました。入浴中の浴室のドアをシャガールに開けられ驚いたサラが放り出したスポンジが、転がって隣のサラの部屋のドアの脇に落ちてしまったのです。
本来の段取りではその後アルフが浴室に入ってスポンジを拾い上げ、再度入室してきたサラが無言で「返して」と手を伸ばし、アルフが返したスポンジを手にサラは自室に戻ります。アルフが美少女サラに一目惚れする重要なエピソードです。
しかし、浴室に入った平方アルフはスポンジを見つけられないらしく、暫しウロウロ。ピンチ!と思ったその瞬間、沙也加サラがドアの脇のスポンジを拾い上げて浴室に入室し、「ここにあったわよ」と言う感じで無言で平方アルフの前に立ちました。それを見た平方アルフは沙也加サラに深々とお辞儀。客席のそこかしこからくすくす笑いが漏れ、沙也加サラもお辞儀をして自室に戻り、無事に場面が収拾したのでした。

同じ1幕終盤の伯爵とアルフの対話でも、ちょっと可笑しい場面がありました。
いつものようにすっと平方アルフのおでこを指で撫でる伯爵。何だかいつもより念入りに撫でているなあ、と思ったら、伯爵が指を振り、指先からはアルフの汗のしぶきがびしゃん!と飛んでいました。伯爵様、貴方という人は……。
ちなみに前後しますが、教授が伯爵に手をプルプルさせながら名刺を渡そうとする場面では、伯爵がなかなか手を伸ばさず、一瞬教授が「あれ?」と呟いていました。結局最後は伯爵が静かに手を出して受け取っていましたが、あれ、伯爵が受け取らなかったらどうなるんでしょうね?

幕間のクコール劇場は、「蛍の光」のメロディーに乗せて黙々とクコールがモップで掃除し続け、最後に「クコール劇場大千穐楽」のプラカードを掲げる、というものでした。プラカードを裏返すと「つづけたい」と書かれていて、客席から力強く同意しておりました。

2幕序盤。2ヶ月ぶりに聴く沙也加サラと伯爵のデュエットでしたが、今回は沙也加サラの歌声はあまり平べったくは聞こえませんでした。伯爵が過剰にリードするでもなく、バランス良くハモっていたと思います。

「夜を感じろ」。1幕のサラの幻想でもそうでしたが、新上さんのダンスは指先までしなやかで良いです。ヴァンパイア・ダンサーズの場面は全体のフォーメーションを眺めるのが好きなのですが、時々新上さんをオペラグラスで追って観ていました。

教授とアルフの霊廟の場面での掛け合い漫才は、大楽ということでやや尺が増し気味になっていました。
平方アルフ、最短距離で降りられなくなった教授に「はい、どうぞ(階段です)」と片手を差し出し、怒られたら今度は両手を差し出して「ほら、ぴろりんぱ!と(乗ってください)!」と促していました。ぴろりんぱ!って何やねん(^_^;)。
しかし教授が下に降りるというシナリオはあり得ないのでついに「こうなったら仕方ない。思い残すことはないか?……ひとりでやれ!」と宣告されていました。そして伯爵を討ち損ね「できません!」「できない!」とキレるアルフを「反抗期かお前は」とぶったぎる教授。
良知アルフ以上に使えないぼんくら感の漂う平方アルフの本領がふんだんに発揮されていたと思います。

2幕のシャガールのアドリブも最後まで健在でした。
「何がぴろりんぱ!だよ!」と登場し、伯爵の棺を覗きに行き、「何かスケスケのを着て、スポンジ抱いて寝てた」と報告していました。「スケスケの」が実は息子とお揃いの黒レースだったりしたら笑います。

そう言えば平方アルフを観るのは実は帝劇初日以来でした。
ぼんくらだったアルフの頼りない顔つきが、ハードなお城探索の末にようやく見つけたサラに拒絶され、「それでも」と彼女への思いを再確認した後にきりりと凛々しさを増す一瞬の表情。なのに襲い来るヘルベルトからはただ逃げ回るしかなかった後の情けなく打ちひしがれた顔。平方アルフに愛おしさを覚えるとともに、初日から2ヶ月を経て、本当にアルフという役どころは彼の内面にも肉体にも馴染んだのだな、と感じた瞬間でした。

舞台は順調に進み、墓場から這い出したヴァンパイア達も去り、伯爵の「抑えがたき欲望」へ。
この歌、思い切り歌詞の内容を端折ってまとめますと、懺悔と居直りの繰り返しで生きていく者共の歌であり、吸血鬼だけでなく人間も同じである、と考えさせられる一曲です。しかし、どういうわけか今回の自分には、この歌が「祈り」のように聞こえました。それぐらい、伯爵の歌声が厳かで何らかの思いの込められたものであったということでしょうか。

そしてその後ド派手に登場して居直りシャウトするキラキラと麗しい伯爵を見て、軽くうるっと来ていました。自分があの時何を感じていたのかは実のところさっぱり分かりませんが、多分「ああ、私のTdVが終わってしまう」、「この美しい伯爵様が、もう明日はいないのだ」などと惜しむ思いで胸が一杯になっていたのだろうと思います。
これについては、例えば伯爵の中の人に「何考えていたんですか?」と問うたとしても、「それは、観客として受け止める貴方のお気持ち次第ですよ」とのみ返されるに決まっているので、あまり深く考えないことにします……。

エンディングは、アンチハッピーエンドなのにやはり高揚感で満たされます。実に不思議なミュージカルです。

カーテンコールでは、大千穐楽につき、駒田さんの仕切りで平方くん、沙也加ちゃん、禅さん、山口さんの4名からご挨拶がありました。
平方くんのご挨拶は、細かい内容は忘れてしまいましたが、何だか本当に大変だったけどいっぱい勉強することもあったんだね、という印象でした。
沙也加ちゃんは言葉の端々からTdVという作品への愛が伝わってくる内容でした。大変なこともあったけれど出演できて良かったし、次に出られなかったとしてもTdVという作品を好きでいたい、という気持ちが饒舌に伝わって来るご挨拶でした。
禅さんのご挨拶は、「良い初夢を見させてもらいました。ありがとうございました」という内容でした。個人的に、教授という役どころには自由度もたくさんありますが、人間の暖かさ、エゴ、無邪気さ、貪欲さ、などを色々と体現しつつぶれてはいけない役でもあるので、演じるにはかなりのエネルギーが必要だという印象を受けています。お疲れ様でした。
そして伯爵。爽やかにあっさりと挨拶された後、すっと振付教室に繋いでいました(^_^;)。
そのままヘルベルトの振付教室&全員のヴァンパイアダンスでエンディングとなりました。その後も3回位拍手&キャスト呼び出しが続いたと思います。
最後の最後に、前日一足先に千穐楽を迎えた舞羽さん、それから休演していた松島さんも肩を貸してもらってカーテンコールに参加されていました。

……ああ、これで終わりなんだ。私のTdVが終わってしまった。クコールのプラカードにもあったとおり、続けて欲しい。でも今は終わってしまった。そんなことをぼんやりと考えながらお土産を買い、新幹線で名古屋を後にしたのでした。
またいつか必ず、麗しい伯爵に再会できることを祈っております。