日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『レディ・ベス』初日感想(2014.4.13マチネ)

キャスト:
レディ・ベス=平野綾 ロビン・ブレイク=山崎育三郎 メアリー・チューダー=未来優希 フェリペ=平方元基 アン・ブーリン和音美桜 シモン・ルナール=吉野圭吾 ガーディナー石川禅 ロジャー・アスカム=山口祐一郎 キャット・アシュリー=涼風真世

既に帝劇でプレビュー公演は行われてましたが、本公演初日に行ってまいりました。プレビューは観られなかったので、今回が全くの初見です。
以下、所々ネタバレありなのでご注意ください。

プロローグは天球儀風星空を背景にしたベスの教育係、アスカムが時代背景とベスの立場を説明するソロから始まります。初っ端にアスカムのシルエットが現れた時、心の中で「でけぇ!」と叫んでしまいました。やはり他の人とどこか縮尺が違う気がします(^_^;)。
アスカムのソロの照明、うまく言えないけれど何だか妙に薄暗かったり急に点いたりしてもやっとするなあ、と思っていたら、カーテンコールでの小池先生のご挨拶で、実は照明のコンピュータ制御にトラブルがあったと言うザンゲがありました。これで公演やり直しかと焦っていたら、山口アスカムが動じずにそのまま演技を進めてくれたのでありがたかった、とも仰っていました。山口さん、グッジョブ!

ちなみにアスカムのソロナンバーは何曲かありましたが、いずれも「これだ!」という曲はなかったように思います。これはアスカムのナンバーに限りませんが、この演目のナンバー、節回しが複雑で歌い手の実力が試される曲ばかりという印象を受けました。
ただ、一つ一つの曲を聴いていて、ああ、凝った曲ばかりだねえ、とは思いましたが、では、この演目を代表するナンバーっていったいどれだろう?と耳が悩んでしまったのも事実です。『レ・ミゼラブル』の「民衆の歌」や「星よ」、「彼を帰して」、あるいは『エリザベート』の「最後のダンス」、「私だけに」、その他数々の名曲に該当するナンバーがどれなのか、まだ掴みきれずにいます。きっと、あと何回か観れば心に落とし込まれる曲があるに違いない、とは思いますが、問題はあと3回しかこの演目を観る予定がないという点でして……(^_^;)。こういう時は自分の耳の悪さを呪います。

アスカムのビジュアルはポスターの写真とはかなり違っていました。髪は短め、頬髭に口髭と、どこかバルジャン風味のかなりお父さんな感じです。キャラクターも温厚篤実、沈着冷静、心の中に大きな知的宇宙を持ったお父さんな雰囲気なので、このビジュアル変更は正解だと思います。

今回のベス王女は平野綾さん。歌が上手いからまあ、大丈夫だろう、とは見込んでいましたが、今回観て、事前の予測以上にやってくれた、と良い意味で驚かされました。
一方で、華がもう少しあれば、とも思いました。舞台にはやはり映像の世界とは違うビジュアル要素が求められる所があります。
とは言え、1幕の頭が良くて王女としての高いプライドも持ち合わせているけれど小さな世界しか見ていなくて世間知らずなベスと、2幕の投獄に幽閉、そして恋愛を経験して人間的にプラスアルファされたベスとをきちんと演じ分けているのは、流石平野さんです。これから長丁場の公演期間で、もっと凄いものを見せてくれるのではないかと期待しています。

ロビンは、今回は育三郎くんでした。ベスに庶民の世界と人を恋う心とを教えた、自由を愛する純粋な吟遊詩人を、ひたすら甘く優しく演じていました。
ロビンとベスの関係が「何かに似ている」とずっと引っかかっていましたが、「そうだ、ピーター・パンとウェンディだ!」とはたと思い至りました。もっともロビンはピーターほど武勇には長けておらず、「色男金と力はなかりけり」を象徴するような人物ですし、ベスも「子供達の温かいお母さん代わり」だったウェンディとは異なり、多くの人々に期待され慕われ見守られながらもどこかで孤独を極めている複雑な存在であるなど、細かい点は全く異なりますけれども。

2人の別離はとても切ないですが、大人になり国の運命を託されたベスを見送り、またロビンは旅する自由な人生に戻るのみ。至極当然の成り行きすぎて、だから実はあまりベスもロビンも可哀想とは思えないのです。

事前の予測より見せ場が薄いと感じたのは、吉野さんのルナールと涼風さんのキャットです。舞台上にはそれなりの時間上がっているにもかかわらず、あまり印象に残らないと申しますか……。
逆に意外に見せ場が多かったのは、フェリペ王子。平方くんが片肌脱いでハーレム状態で現れた時は一瞬「……お、花魁?ヘロデ王?」と驚きましたが(^_^;)、その一場面でしっかり、「こいつできる」と観客に悟らせる造りになっています。
フェリペ、民の声を聴いてベスを助ける道を選ぶ、地獄に仏な人なのですが、政略結婚の妻であるメアリーにはとことん冷たいという点や、一見何を考えているか分からない振る舞いから、この人の高貴さと一筋縄でいかなさが伝わってきます。平方くん、好演していたと思います。

そして見せ場はあるものの、あまり報われないのが禅さんのガーディナー猊下。『パイレート・クィーン』で成長後のベスに仕えていたビンガム卿*1を彷彿とさせる振り回されぶりと報われなさぶりでした。
ただ、2幕のルナールとの悪巧みペアダンスには一見の価値があります。もう見ていて可笑しくてたまらなかったのですが、周囲に笑っている人がいなかったので抑え込みました。今後、吉野さんと禅さんのコンビネーションがどんどん練られていくのではないかと楽しみです。

ベスの最大の敵役たるメアリーは……前半はもう本当に怨念と憎しみをエネルギーに変えて生きているような女王なのですが、どんなに異母妹を痛めつけても寒々しさがなくどこかに情があるのは、やはり終盤の伏線なのでしょうか。
未来さん、押し出しがあって雄々しくて歌声も力強くて、そのまま『エリザベート』のゾフィー太后も演れるよ!と思いましたが、実は既に宝塚時代に雪組初演の新人公演と2007年の雪組公演との二度にわたりゾフィーを演じていらしたそうで。いずれ、東宝ミュージカル版にもキャスティングされるかも知れませんね。

『レディ・ベス』の2幕には何重もの畳みかけるようなクライマックスが仕掛けられていますが、そのうちの1場面で、アスカムがかなり美味しい所を持って行っていました。大きな知的宇宙に漂い、可愛い教え子ベスが投獄の試練に遭った際も冷静に時が来るのを待ち続けていた彼が、ただ一度、声を荒げて迷えるベスを一喝します。ベスが、その一言で迷いを捨てて重い決断をする場面を見届け、ああ、そうだね、このお父さんがここまで真摯に自分の可能性を信じてくれるなら、迷いなんてすっぱりと捨て去れるよね、と思いました。こんなにも深く期待され信頼され、愛されるベスって何て幸せなのだろう、と、この演目で唯一ほろりとさせられた場面でした。

書き忘れていましたが、今回は2階前方、XB列の最上手席からの観劇でした。
ロビン達の客席降りが堪能できなかった一方で、舞台装置がとても良く見渡せる席で、天球儀を基調にした美しいイメージをたっぷりと堪能することができました。ステージはかなり傾斜のある八百屋舞台な上に回り盆。しかも傾斜が一方向ではなく時々変わるので、演じる役者さんはかなり体力を要求されると思われます。
実際、サンスポの記事に初日会見での平野さんの、
「普段から高めのヒールで家の近くの坂を上る練習をしろ、と演出の小池先生にいわれて毎日、夜やっていました。腰に来ないように気をつけないと」
というコメントが載っていて、足腰虚弱な人間としてはかなりぞっとしましたが(^_^;)。

本編終了後のカーテンコールの司会は山口さんでした。
失礼にも「え?大丈夫?」と思ってしまいましたが、よくキャストの序列を考えてみると、小池先生とクンツェさん&リーヴァイさんのご挨拶の進行はやはりこの方じゃないと、格として無理があるだろう、と気がつきました。

小池先生のコメントはこの文章の最初の方で述べたとおりです。
クンツェさん達のご挨拶の細かい内容は東宝公式の初日カーテンコール映像をご覧いただきたいと思いますが*2、リーヴァイさんが指揮者の上垣さんをリスペクトしていたのが印象に残りました。
多忙なお二方はもう翌日にはヨーロッパに戻られるとのことでした。そして、山口さんの締めのコメントによれば、公演終了後早速直し稽古が行われるとのこと。
帰宅後に先程のサンスポの記事で山口さんご自身が、
「(プレビュー公演後に)私はスコアでいえば32小節なくなりました」
と手直しの多さを語っているのを読み、そのハードさを垣間見て、ああ、どうぞキャストの皆さま、ご無事で長期公演を乗り切られますように!と改めて祈った次第です。

帝劇の出口では読売新聞の号外が配られていました。と言っても載っていたのは「本日初日」の看板が掲げられた帝劇入口に集う観客の写真とクンツェさん&リーヴァイさんの写真のみで、舞台写真などがなかったのは少々残念です。

次回の観劇は少し空いて4月27日の予定。アスカム以外のキャストは全て今回とはがらりと変わるということで、心待ちにしています。

*1:名前を忘れていたので調べました(笑)。

*2:長いので私はまだ見ていません。