日々記 観劇別館

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『レディ・ベス』感想(2014.4.27マチネ)

キャスト:
レディ・ベス=花總まり ロビン・ブレイク=加藤和樹 メアリー・チューダー=吉沢梨絵 フェリペ=古川雄大 アン・ブーリン和音美桜 シモン・ルナール=吉野圭吾 ガーディナー石川禅 ロジャー・アスカム=山口祐一郎 キャット・アシュリー=涼風真世

2回目のベス観劇でしたが、今回はアスカムを除き、Wキャストは初日とは全部違う役者さんで観ました。

プロローグで、初日はトラブルのためかどこかタイミングがずれているようで不自然にも感じられた、アスカムを照らすスポットや床に投影される照明効果が、今回は綺麗なタイミングで入っている*1のを観て、ああ、照明トラブルが起きている中でも堂々と演技を続けた山口さんはやはり偉大だ、と改めて思いました。
前回から半月を経てコンビネーションに磨きが掛かっていたのは、吉野ルナールと禅猊下。2幕の彼らの謀議場面で、実力派のお2人がかなり積極的に受けを取りに行っていました。この演目の数少ないお笑い場面なので、いいぞ、もっとやれー!と思いながら見入っておりました(^_^)。

花總ベスは、事前に期待していた通り、全身から気品が滲み出ていて美しく、舞台映えしていました。そして、実はそんなに歌には期待していなかったんですが、意外に聴ける!と思いました。
平野ベスがどちらかと言えば高貴さよりも聡さや精神的強さ、そして人間的青さゆえの揺らぎと迷いを前面に出していたのに対し、花總ベスは女王の座に向けて引かれた真っ直ぐな一本の道を歩む方が当たり前で、たとえ一時的に疑念や気の迷いが生じたとしても、最後は元の道に戻ることが宿命づけられている王女を、ごく自然に演じていたという印象です。もっと直球で申しますと、花總ベスがロビンと逃げる姿が全く想像付かなかったりします。
加藤ロビンはシャツの胸をはだけているなど、育三郎ロビンより幾分アダルトな雰囲気でした。個人的にはロビンは、ベスと対等よりも少し大人なキャラクターの方が、ベスの高貴でひたむきな純粋さに惹かれる展開に説得力があって好きです。でも身のこなしは育三郎ロビンの方が軽いような気もしますけれど(^_^;)。
吉沢メアリーは未来メアリーよりもベスに対して見えない壁を作っていて取り付く島もないという印象です。どちらのメアリーも妹に真正面から向き合わず存在を否定しようとしている所は一緒なのですが、未来メアリーが妹への思いを無意識に否定するために攻撃的に拒絶しているのに対し、吉沢さんは妹を冷たく遮断して、思い入れをやはり無意識に避けようとしているように見えました。どちらも、拒絶が強ければ強い程に、終盤のベスとの対話での哀れさがより一層際立ちます。

古川フェリペは、平方フェリペの役の作り込みとあまりぶれがないように思いましたが、キャラクターが少しだけ頽廃系よりもヤンチャ系寄りで、また、同じくクールビューティー系でありながら少しだけ表情が豊かだったような気がします。フェリペについてはTwitterで「遠山の金さん」という感想を見かけて大受けしましたが、かなり時代劇的位置付けのキャラクターですね。

そして、前回全く感想を書けておらず、今回もどういう見方をすれば良いかと困惑したのは和音アンです。
別に和音さんに文句があるわけではなく、むしろ逆で、彼女は上手いなあ、文句の付け所がないなあ、というのが正直な所です。でも、彼女自身に文句がない代わりに、アン・ブーリンという役に対して何かを語るための取っ掛かりも見つからないのでした。
1つ言えるのは、アンという役はこの世の者ではないという点で、よく『エリザベート』のトートや『モーツァルト!』のアマデになぞらえて言及されているのを見かけますが、彼女、彼らほど押しも引きも強くないのですね(^_^;)。1幕で「私は濡れ衣で処刑された」とベスに訴えてマジギレされたり、ベスが母親の処刑の幻覚に苦しんだりという緊張感溢れる場面こそありますが、基本、温かく見守り系なので、トートやアマデほど強烈に焼き付くプレイがないと申しますか。
アンに関連して、前回涼風さんのキャットの陰が薄いと書きましたが、今回観た印象はまた少し違っておりまして、むしろ、1幕後半のベスを思う歌は今後この演目を巡演していくうちに演目を代表するスタンダードナンバーとして記憶されるようになるのではないか?と思ったぐらいです。
ただ、キャットもアンも母親的視点でベスを見守っているので、母性がこの2人に分裂してしまっていて何だかなあ、と考えてしまいました。父性的な視点は一貫してアスカムにまとめられており、特に1幕中盤でのベスとの対話場面など温かく愛に溢れていて、私もこんな先生の大きな愛に見守られて期待されたい!と思わせてくれるのに、母性的視点がばらけてしまっているのは惜しいなあ、と思います。
あと、ベスの夢の中とは言え、ベス以外でアンとデュエットしている唯一の登場人物がアスカムなわけで、ああ、やはりアスカム先生、普通の人間じゃなかったのね、と恐れ入った次第です(^_^)。まあ、偶然にも所々ハモっているだけで、2人の視点は全く異なっており、決して対話しているわけではないのですが……。

以上、観劇2回目の『レディ・ベス』の感想でした。
改めて、同じ演目でもキャストが変わると、細部の印象ががらりと変わるということを実感させられています。
観客の心をがっちり鷲掴みにする曲があるか?と言うと今の所そうではないのですが、作中でアンが繰り返す「愛しいベス」という言葉に少しずつ洗脳され、気づいたら観客の立場からもベスという存在が徐々に愛しくなり始めているのは不思議なことです。

*1:いえ、単に演出に目が慣れただけかも知れませんが。