キャスト:
レディ・ベス=平野綾 ロビン・ブレイク=加藤和樹 メアリー・チューダー=未来優希 フェリペ=古川雄大 アン・ブーリン=和音美桜 シモン・ルナール=吉野圭吾 ガーディナー=石川禅 キャット・アシュリー=涼風真世 ロジャー・アスカム=山口祐一郎 リトル・ベス=山田樺音 リトル・メアリー=石倉雫
『レディ・ベス』の今季上演3回目の観劇でした。初・平野ベスです。
実は今、ちょうど長引くひどい腰痛と脚の痛みに悩まされておりまして、痛み止めを飲み湿布をしこたま貼っての帝劇行きと相成りましたが、今回はそこまでしても「観て良かった」と思える舞台でした。
平野ベス、少女から大人の女性、手厚い庇護を受ける王女から国を背負って生きる女王への変化が大変に分かりやすいベスでした。和樹ロビンとの相性も良いように思います。
花總ベスの場合は何をしていても囚人の立場になっても全身から「生まれながらの女王」なオーラが漂っています。大変大雑把に例えて言うなら、旧演出レミゼで山口バルジャンがどんなに汚れようが苦悩しようが、無意識のうちに白い光に導かれて首尾一貫して神の道を歩んでいたようなものだと思います。
ところが平野ベスの場合は「人は女王に生まれるのではなく、女王になるのだ」という感じでした。善き大人達の愛情に包まれ知恵を育みつつも母への呪いに囚われていた少女が、死を覚悟したことにより母を理解し、更にただ心のままに恋愛に落ちるという経験を経る間に、本当ぐんぐん声や話し方も表情も変化していき、終盤で女王として生きる決意を恋人に告げる時には凛とした女王の居住まいになっています。
初演の時は、ああ、歌を頑張ったねえ、とは思いましたが役作りがここまで徹底していたという印象はなかったので、正直驚かされました。成長する若さって素晴らしい、と感じ入った次第です。
花總ベスと平野ベスについては「どちらが良い」という話ではなく「どちらも良い」です。それぞれの魅力があって、甲乙つけがたいところがあります。
未来メアリーは、たぶん今季お目にかかるのは今回で最後です。やっぱりネガティブ系の吉沢メアリーとは対照的に、ポジティブ系ですね。といっても決して明るいわけではなく、攻撃し前進することで自らの孤独を見なかったことにしようとする屈折の感じられる女王であると思いました。
ちなみに今回、メアリーのコミカルな演出も大幅に減らされて悲劇性がやや強調されているわけですが、その割に「想像!」で締めくくるあの曲が残っているのは謎です。あのシニカルな笑いで片付けようとして全く笑えない曲の後に、メアリーとベスの寂しすぎる対面に進むのは、結構いたたまれないものがあります。
ロビンとフェリペは前回と同キャストなので感想は省略します。
古川フェリペについては、1幕に吉野ルナールとの共演がありますが、来年の『モーツァルト!』でもこの2人の共演をちょっと見てみたかったな、惜しかったな、と少しだけ思いました。
ここで、今季のアスカム先生についてぜひ語っておきたいことがあります。
とにかくプロローグのラピスラズリのような星空を背景に、降り注ぐ無数の光の下に静々とアスカム先生が現れる、あの場面が美しくていつも見入ってしまうのです。……と、初日からずっと言いたくて書き損ねていましたが、やっと言えました!
また、2幕でアスカム先生が「ベスは必ず帰ってくる!」と思いを込めて自分に言い聞かせるように独白する場面があります。
史実のアスカム先生に関しては、「9日間の女王」ジェーン・グレイとも関わりがあり、彼女と対話した際にその聡明さに感心したという話があるらしいです。
『レディ・ベス』の物語に全くジェーンの影が見られないのは不自然な気もしますが、一方でベスの受難にジェーンのイメージも託しているような感じも見受けられます。
この作品の世界はもしかしたら「ジェーンの存在しない世界」なのかも知れません。しかし、もし彼女が存在した世界であるとすれば、
「ベスの才能こそは決して失われてはならぬ、 必ず生還して、彼女の星の運命である玉座に着くのだ」
というアスカム先生の思いもひとしお強いものであったのではないか? と、想像にふけりながら、先生の深い眼差しと切なくも真摯で愛情に満ちた歌声に浸っていました。
そういえば今更ですが、ちょっとした疑問があります。
2幕のアスカム先生とアンのデュエット「愛のため全て」で、アスカム先生がベスを「父上の娘」と呼んでいます。
他の曲や地の台詞では、アスカム先生の台詞も含めて、血筋より本人の能力や生き方が大事、という変更が結構なされているのに、この曲だけ唐突に「父上の娘」と出てくるのはやや不思議に思いました。
ただ、アンが途中でベスに、父上のことには拘らず貴女は貴女で良い、と諭す一方で、エピローグでは「獅子と呼ばれた」父上の強さを娘の貴女が受け継ぐ、と祝福の言葉を歌ってもいて、ああ、どちらも親の本音なんだねえ、と考えさせられたりもしたので、アスカム先生も心のどこかで偉大な父上と教え子を重ね合わせていたのかも知れないね、と思ってもいます。
『レディ・ベス』は実際のところ物語として好みか? と改めて問われると決してそうとは言えない点がいっぱいありますが、曲には「王国が現れる」や「大人になるまでに」など、いくつかメロディが好きな曲があります。そんなわけで、来年(2018年)5月に発売されるというDVDは、割といそいそと2枚セットで劇場にて予約いたしました(^_^)。まだ半年以上も先になりますが、楽しみにしています。
次回観劇は、少し間が空いて、帝劇千穐楽になる予定です。それまでには腰痛が少しでも緩和されていることを願っております。