日々記 観劇別館

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『シラノ』感想(2013.1.19マチネ)

キャスト:
シラノ・ド・ベルジュラック鹿賀丈史 ロクサーヌ濱田めぐみ クリスチャン・ド・ヌーヴィレット=田代万里生 ル・ブレ=戸井勝海 ラグノー=光枝明彦 ド・ギッシュ伯爵=鈴木綜馬

レミゼの件からまだ浮上できていませんが、日生劇場で『シラノ』を観てまいりました。初演は観なかったので今回が初見です。ついでに今年の観劇始めでもあります。

『シラノ』、初っ端から音が華やかだ、と思いました。もちろんワイルドホーンさんの曲自体が生オケの迫力を存分に生かして造られているというのもありますが、塩田さんの指揮がとにかくイケイケ(主観です)なのも大いに影響していると思われます。
楽曲は、ソロよりもアンサンブルの重唱の方が印象に残りました。ラグノーのカフェ(?)や戦場での近衛部隊(ガスコン青年隊)の重唱や、修道女達の重唱がとても美しかったです。
あと、場面転換がミュージカルにしてはかなり少ない方だと感じました。1幕が3場、2幕が2場。物語展開がかなりシンプルで、一つ一つの出来事にたっぷり時間をかけているからだとは思いますが、その割にあまり冗長な感じは受けませんでした。1幕は哀愁を帯びつつもコミカルにテンポ良く、2幕はうって変わって人情劇メインという構成でした。2幕後半は、かなりストプレに近かったです。
ラストシーンは、「ジキハイに似ている」と思いました。もちろん物語ではなくそれ以外の要素を見てそう感じたものです。どこが、を書くとネタバレになるのであえて書きません。

続いて物語と役者さんの感想にまいります。
主人公シラノは、貴族でありながら権力におもねない反骨精神と審美眼、そして素晴らしい詩才と武勇の持ち主で、歯に衣着せぬ辛辣な物言い故に権力者からは憎まれる一方、同僚からは愛される人物。そして権力者にはずけずけものを言うのに、ただ一人の想い人に対しては容貌の醜さを気にして「従兄のお兄ちゃん」でしかいられず、でも相手の愛情をひっそり期待してしまう含羞と屈折に満ちた人物。鹿賀さんがこの人物を愛情を持って演じていることが、舞台から伝わってきました。
鹿賀さん、滑舌が独特なので、いくつか観た演目では歌詞や台詞が聞き取りづらい所もありましたが、今回は不思議とそういう印象は受けませんでした。単に以前観た役の歌詞が発音しづらかっただけでしょうか。
主人公だけでなく、恋敵クリスチャンの人物像も魅力的でした。美青年なのにアホで、その癖向こう気が強くて喧嘩っ早く、屈託のない熱いハートの持ち主で。シラノが、恋敵としてクリスチャンを羨みつつロクサーヌへの恋の成就を助けたのは、騎士道やロクサーヌを泣かせたくないというためだけではないと納得するに足る人物を、万里生くんが熱くキラキラと演じていました。初演では確かこの役、浦井健治くんが演じたのですよね。浦井くんもかなり似合っていたのではないかと想像しています。
ところで、クリスチャン、シラノのいる近衛隊に入隊して喧嘩を売った時、あれだけ「鼻」の懸詞で挑発できたのだから、決して本人が思い込んでいる程ボキャブラリー貧困じゃないのですよね。そしてシラノも問題は顔と財産だけで、それ以外は、一応貴族の身分もあるし詩心もあるし剣もできるし、決して能力的に劣っているわけではありません。彼ら、コンプレックスを埋めるに足る十分なものを持っているにも関わらず、コンプレックスに囚われ続けているという点で、実は結構似た者同士。もしロクサーヌの件がなくてもお友達になっていたような気がしないでもありません。1幕のシラノ&クリスチャンのデュエット、息が合っていて素敵に笑わせてもらいました。
ロクサーヌは濱田さん。可愛らしく天然だけど清潔で誇り高い立ち居振る舞いと爽やかな歌声は、ジキハイでルーシーを演じていたのと同じ役者とは思えません。役の幅の広い方です。
所謂シラノ・ド・ベルジュラックの物語において、ロクサーヌは愛を語られる側につき、あまり血の通った人間としてのイメージがありませんでしたが、『シラノ』においては計3人の登場人物から惚れられるに足る内面的な美しさを有した女性として描かれていて、好感が持てました。
ただ、彼女がこのお芝居以外の人生を送っている所があまり想像できないのでした(^_^;)。クリスチャンが生きて帰ったら帰ったで、例えシラノとの秘密に気づいたとしても、そのままシラノに乗り換えることはしなかったんじゃないかな、と勝手に妄想しています。
もう一人、感想を書いておきたいのは、ド・ギッシュ伯爵。リシュリューの義理の甥、ということで、一昨年帝劇の『三銃士』で観たあのロックンリシュリューと仲良く語らっているさまを想像せずにいられなかったのはさて置き(^_^)。やっていることは誰がどう見ても権力を笠に着た嫌がらせな上、クリスチャンの死の遠因を作ったのもド・ギッシュなわけですが、何故か憎めませんでした。行動や心根がベルばらのジェローデルに似ている、と思ったのは私だけかも知れません。いえ、ジェローデルは別に、恋敵を戦地に送り込んだりはしませんが。2幕前半で白いスカーフを振り回して敵に(囮であるシラノ達の隊を攻撃する)サインを送るポーズが無駄に格好良かったです。

最後に。カーテンコールで、シラノとド・ギッシュが年を取ってからの装束で登場していましたが、あれ、若い時の装束で出てきてくれれば良いのに、と少しだけ思いました。特にド・ギッシュは若い頃のキラキラ衣装が結構美しいのに対し、年寄り姿は些か地味なので……。ささやかに贅沢な希望です。