日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『王家の紋章』感想(2016.8.13ソワレ)

キャスト:
メンフィス=浦井健治 キャロル=新妻聖子 イズミル平方元基 ライアン=伊礼彼方 ミタムン=愛加あゆ ナフテラ=出雲綾 ルカ=矢田悠祐 ウナス=木暮真一郎 アイシス濱田めぐみ イムホテップ=山口祐一郎

王家の紋章』2回目にしてマイ楽の観劇のため、再び帝劇まで出かけてまいりました。
今回は家族と一緒に帝劇まで直接、車という文明の利器で出向いたので、歩く距離も疲労度も最小限で済ませることができました。本当は自力で都内を運転できれば最高なのですが、残念ながら運転技術がその域には達しておらず、他力本願での移動となりました。

2回目の『王家』はプレビューの時から何らかの手直しが入ったためか、あるいは前回よりも体力が温存されていたためかは分かりませんが、観ていて圧倒的にイラッと感が少なかったです。各々の見せ場も無駄なくメリハリを持って終盤まで突き進んでいました。
例えば、プレビューでは1幕の宰相様の登場シーンで、宰相様が諸国からのお土産の手前で少々挙動不審、もとい、動き方に戸惑っている様子でしたが、今回はその辺りの動きがすっきり整理されていました。
全体的に、夏休み期間の公演にふさわしく、ドラマティックでありながら肩のこらないストーリーに素敵な音楽もたっぷりの、娯楽大作に仕上がっていると思います。

キャストの感想に移ります。
今回初見だった平方イズミルは、宮野イズミルよりも王子様度は高いという印象です。アプローチが宮野さんのようなオラオラ系男臭さではなく、宝塚の男役系の端正な男臭さで押しているように感じられました。
Twitterなどで、
イズミル王子がいつキャロルを好きになったのか分からん」
というツッコミを多数見かけたので、そう言えば宮野イズミル、ディープに振る舞っていた割にはその辺が分からなかったな、と思い、今回の平方イズミルをじっくり観察していましたが……やはり良く分かりませんでした(^_^;)。

話の展開からすると、鞭で引っぱたいても言うことを訊かないキャロルを目にして、王子に対してそんなままならない強い意志を持った人間と出会ったのは生まれて初めてだったので、惹かれたのだろうとは思います。
ただ、その流れはメンフィスがキャロルに惹かれたきっかけ―ただの奴隷だと思った相手から強烈なレシーブを返されて、何だこの見たことのない生き物は?ともやもや。しかも目の前で「アメリカに帰りたい」と弱みをさらけ出し号泣されておろおろ―とほぼ一緒なのですね。
しかもメンフィスは理屈よりもまず「珍しい黄金の髪」への興味から始まる動物的本能でキャロルに惹き付けられ、更に命を救われるに至って愛に目覚めていますが、イズミルはまず「あくまで利用価値のあるナイルの娘だから人質に取る」という理屈でキャロルをさらっておいて、結局後から理屈をすっ飛ばして惚れ込んでいる分、メンフィスの愛よりもある意味質(たち)が悪く、粘着力が強いと思うのです。

それから、前回書き忘れていましたが、この舞台では若手の役者さんが要所要所で大事な脇の役割を果たしています。
具体的には、矢田ルカ、木暮ウナス、そして工藤セチ。どの役も、物語を回すのに欠かせず、かつ少しでも演技が崩れたら成り立ちませんが、お三方ともに安定した演技で舞台を引き締めていました。
特に工藤セチ。キャロルを最初に見つけて保護しながらも引き離され、それでもキャロルを近くで守りたいという一心で志願兵となり敵の刃に斃れるというドラマティックな役どころで、しかもメンフィスのソロナンバーのバックダンサーまで務めるという大活躍ぶりでした。身体能力はかなり高いと思われます。
また、木暮ウナスは初舞台ということですが、それを全く感じさせない好演でした。
矢田ルカはかなり良い感じに動いて、主演を食わない程度の適度な見せ場を作って目立っていました。テニミュ出身だそうですが、そのうちまた別の東宝系演目でもお目に掛かれそうな予感がしています。

前回観たキャストで印象が変わったのは濱田アイシスです。プレビューではアイシス様の行動が強烈かつ残虐過ぎて、哀れさよりも怖さの方が心に残ってしまいましたが、今回は弟への偏執だけではない切ない愛情をしっかり客席で受け止めることができました。ただ、ストーリー上、アイシス様のミタムン王女への仕打ちがあまりにとばっちりすぎて、気の毒なことには相違ありませんが……。
今回は2階席だったので、舞台の床に落ちる照明の美しさをじっくり堪能できたのですが、2幕のアイシス様とキャロルの恋敵ながら祈りの心が重なり合うデュエットでの照明が本当に美しくて。この2人が呪う者・呪われる者として出会ってしまったのは本当に不幸であったと思います。

前回より更に良くなったと感じたのは浦井メンフィスです。彼の美点は前回も書いたので繰り返しになりますが、「俺様」な性格よりも、凛として真っ直ぐで清潔な熱血漢としての性格の方が前面に打ち出されているのは好感が持てます。
プレビューの時はあまり気をつけて観ていなかったのですが、サソリ毒にやられた後の苦悶の表情が妙に色っぽくて、浦井くん、こんな表情もできるんだ、とはっとしました。
また、姉上の愛を拒む場面では、前回観た時よりも少し「揺らぎ」が見えたような気がしました。濱田さんとは声質が合っているようで*1、デュエットのハモりが実に綺麗でした。

浦井くんのダンスには普段、かなりスピード感がある印象ですが、『王家』で何度かある殺陣の場面でのダンスアクションは、スピード感だけでなく優雅さを漂わせていたのが良かったです。
そしてこの演目のクライマックスの戦闘ダンスシーン、やっぱり盛り上げ方が宝塚的だと感じました。とにかく男役トップ(メンフィス)と二番手(イズミル)それぞれの魅力を匂い立たせ、対決を華麗に盛り立てている!振付は宝塚系の方ではなく、TdVにも出てらした新上さんなのですが、やはり演出の力が物を言っているのでしょうか。

そして、宰相様。温厚で思慮深い知恵者ですが根っこは明るくポジティブで少々茶目っ気も覗かせる人物です。キャラクター自体は決して山口さんに当て書きされたわけではないのに、まるで当て書きであるかのようにしっくりはまった役だと思います。
出番は決して多いとは言えませんが、アイシス様にひざまづいて暴走を止めようとする場面*2、キャロル奪還戦の前に「戦いは争いのためでなくあやまちを正し取り返すためのもの」と戒めつつ温かく主君を見送る場面、それからラストのこの演目のテーマソング的な「二人をつなぐ愛」の場面など、登場すると途端に舞台を包む空気が一変するのは恐ろしいことです。

ほかにも、開幕前・幕間の青を基調とした照明が美しすぎるとか、ナフテラの出雲綾さんがさりげなく良い味を出しているとか、メインキャスト5名(メンフィス、キャロル、イズミル、ライアン、アイシス)の重唱が流石だったとか、細かい部分で良いと思った所がいくつかありましたが、ただでさえまとまっていない感想がもっとまとまらなくなりそうなので、感想はこのくらいにしておきます。
願わくば、意外に評判の良いらしい宮澤キャロルを観たかったですが、もう手持ちのチケットも、もう一度リピートするだけの体力も残っていませんので(観劇はただ座って観ているだけで、何故こんなに体力を使うのでしょうか?)、来年の再演時の楽しみに取っておきたいと思います。

*1:浦井くんのファーストソロアルバム「Wonderland」でも1曲デュエットしています。

*2:この場面の宰相様の静かな佇まいにすっかりロックオンされていました。