日々記 観劇別館

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『王家の紋章』感想(2021.08.14 18:00開演)

キャスト:
メンフィス=浦井健治 キャロル=木下晴香 イズミル=大貫勇輔 アイシス朝夏まなと ライアン=植原卓也 ミタムン=綺咲愛里 ナフテラ=出雲綾 ルカ=前山剛久 ウナス=大隅勇太 イムホテップ=山口祐一郎

今期公演2回目の『王家の紋章』を観てまいりました。

何事にも万全ということはありませんが、出先での手洗いとアルコール消毒はこまめに実施し、帰宅後は速やかにうがい、洗顔、鼻洗浄、歯磨き、入浴を行っています。

今回は晴香キャロル・朝夏アイシス・大貫イズミルが初見でした。前山さんもルカ役を観るのは初めてです。
まず、晴香キャロル。綺麗に抜ける歌声が魅力的です。
私的には1幕のキャロルの最初のソロはアイドル声ではなく普通に歌って欲しい派なので、晴香キャロルの歌い方の方が好みだったりします。
また、古代と現代を行き来する過程でのキャロルがだんだん古代にいる方が自然になっていく変化は比較的沙也加キャロルの方が分かりやすいのですが、晴香キャロルは良い意味で終始キャロルの人物像がぶれないので、「私はやっぱり未来の人間だから歴史を変えてはいけないのにああ……」のようにうだうだと悩み始めてもなぜかウザいとは感じられず、逆に「うんうん、このキャロルなら仕方ないよね」と思わせられたのは不思議です。
次に朝夏アイシス。浦井メンフィスと相性が良いという印象を受けました。多分、朝夏姉と浦井弟、2人とも自分が受け継いだ血筋と役割を一個も疑わず極めて純粋に信じていることを前面に打ち出しているからだと思います。王様は強靭で時に冷酷であって当たり前。異母姉弟で結婚するのも幼い頃から信じてきた一本の道を素直に歩もうとしているだけ。
新妻アイシスを観た時は弟への執着と弟を奪おうとする者への嫉妬を強烈に感じたのですが、朝夏アイシスにはそうした負の感情はあまり見えなくて、「自分が信じてきた道を妨害しかき乱すものは許さず排除する」という意志とプライドの方が強く感じられました。浦井メンフィスも、これまで素直に信じてきた「当たり前」が通用しないキャロルという存在に揺さぶりをかけられ愛と信頼を教えられながらも、自身が王の役割と信じて歩む一本道から全く外れることはないので、ああ、この2人は本当に姉弟なんだなあ、としみじみ思った次第です。
そして大貫イズミル。これまで彼を唯一観たのがミュージカル『ロミオ&ジュリエット』の「死」で、歌声を聴いたのは今回が初めてでしたので、大変失礼にも「きちんと歌える人なんだ」というのが第一印象でした。そして意外に目力が強い。
なお大貫イズミル、歴代の中では最も野心が薄めで温厚篤実なイズミルだと感じられました。これまでのイズミルはエジプト攻めに当たって野心やプライドがばりばり、妹も何だかんだで偵察に送り出した手駒の一つなので彼女の死はただの口実に過ぎないイメージが強かったですが、大貫イズミルは妹の理不尽な死への憤りが最大の動機であり、むしろ野心の方が付け足しなのでは? という印象です。篤実な王子様だからこそキャロルの美しさと鼻っ柱の強さとにあっさりほだされてしまったのではないか? と想像しています。

そして前山ルカ。前山さん、ウナスの時も思いましたが、表情、特に視線の演技が印象的な役者さんです。お声も良く通りますので、この先も役に恵まれればもっと舞台で見る機会が増えるのではないかと期待しています。

ところで、おまえはこの演目を何回観てるんだ? というツッコミを覚悟の上で申しますと、2幕後半でキャロルが「自分の居場所は自分で選ぶ」という趣旨の歌詞を歌っているのを聴いて「ああ、これもまた、女性の自我の確立を強く推してくるウィーン・ミュージカルなんだ」と思いました。正確には脚本が荻田さん、音楽がリーヴァイさんなので半国産、半ウィーン産ですが。

あと、同じく2幕のセチの戦死の場面で彼が舟のオールの十字架にかかったような形になっているのを、これまではあまり深く考えたことがなかったのですが、これ、エジプト兵たちがキャロルを神の娘と信じ言わば殉教者として斃れていく事実を、恐らくクリスチャンであるキャロル自身が目撃することにより、彼女が神の娘を演じて生きる覚悟を促す役割を果たしているのでは? と気づいて目から鱗が落ちました。

これまで、人間ドラマの山場がたくさんある1幕はともかく、2幕はイズミルのソロは長いわ、逆に宰相様の出番や台詞は初演からどんどん削られるわであまり面白いと思ったことがありませんでしたが、今更ながら「なんだ、実は2幕も面白いんじゃないか!」と思い始めています。

ちなみにイズミルのソロが長い理由については、最近は「宝塚で言えば二番手スターの役どころだから見せ場が必要」と解釈しています。メンフィスとキャロルがトップスター、イズミルアイシスが二番手スター、ライアンとミタムンが三番手スター、イムホテップとナフテラは専科特別出演、という感じで。原作の主役はあくまでキャロルだと思いますが、舞台上の主役(ポスターでトップクレジット、カーテンコールでは最後に登場)はメンフィスという所も宝塚感が強いですよね。

そうそう、浦井メンフィスや、山口イムホテップ宰相様について書けていませんでした。

実はメンフィスというキャラクターへの愛がそんなに強くないので今ひとつ熱を入れて書きづらい所があったりするのです。ただ、浦井メンフィスはそうした理屈抜きでいつも「見た目もアクションも衣装も綺麗だなあ」と思いながら見惚れています。今回の衣装はマントがよりふんわり軽やかに広がるよう改良されているほか、1幕よりも2幕の衣装の方が太ももの絶対領域がやや広めなのも良いですね😊。凛と素直でたっぷりと響き渡る歌声もまた心地良くて……。

宰相様は観るたびに、この方は生まれた時から慈しみ向き合ってきた少年王と本当に相思相愛なんだなあ、とほっこりしています。激情家のメンフィスの知的好奇心や探究心が旺盛な一面はきっと宰相様が育んだのですよね。諸国漫遊……ではなく歴訪の旅から戻った時に必要以上にえっちらおっちらしながら船から降りる様子と、その後で包容力満載に歌い上げる姿、そしてメンフィスといつかは両手でハイタッチするんじゃないかという勢いで再会を喜び合うさまとのそれぞれのギャップの激しさもまた魅力であります。

浦井くんは今回の公演中にお誕生日を迎えてオーバーフォーティーになりました。宰相様の中の方もかなりの年齢不詳系ですが、浦井くんも実年齢を知ると衝撃が走る系の1人だと思いながら、メンフィスと宰相様がきゃわきゃわする様子を眺めて癒されておりました。

次回『王家〜』を観るのは帝劇千穐楽なので、浦井メンフィスは今回が見納めになります。海宝メンフィスがどのように魅せてくれるのか? こればかりは舞台レポートをいくら読んでも生舞台を観ない限りは体感できないので、帝劇公演が無事に千穐楽まで走り続けられるように心から祈っております。