日々記 観劇別館

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『王家の紋章』帝劇初日感想(2021.08.05 18:00開演)

キャスト:
メンフィス=浦井健治 キャロル=神田沙也加 イズミル平方元基 アイシス新妻聖子 ライアン=植原卓也 ミタムン=綺咲愛里 ナフテラ=出雲綾 ルカ=岡宮来夢 ウナス=前山剛久 イムホテップ=山口祐一郎

止まる気配の全く見えない重大な感染症の流行、そして猛暑。外出に決意が必要な毎日が続く中、皆様いかがお過ごしでしょうか。

迷いつつも『王家の紋章』再々演の帝劇初日を観てまいりましたのでレポートいたします。

『王家~』は演目として大好きか? と問われると決してそうではないのですが、実は5年前の8月、病気で休んでいた仕事に3ヶ月ぶりに復帰し、直後にひとりで杖を突いて帝劇に出向き観劇したのが初演のこの作品の初日でした。5年後のほぼ同じ時期、同じ帝劇で同じ作品をだいぶ元気になった状態で観るのはやはり感慨深いものがありました。

 

初めに主なキャストの印象から。

まずは初演・再演ではキャロルを演じていた新妻聖子さんのアイシス。1幕はのっけから新妻アイシスに度肝を抜かれました。歌唱力もさることながら、存在感が際だっており、時にはヒロインよりも輝いている? と思ったほどで。アイシスの妄執の恐ろしさだけでなく、裏返しの可愛らしさも発揮されていると感じられました。

沙也加キャロルは、現代の場面と古代エジプトの場面とで表情が全く違っていて、古代にいる時の方がより生き生きしているように見えました。ベースの声質はアニメ声と言うかアイドル声なので、たまにそれが耳についたり歌詞が聞き取りづらかったりする時もありますが、正統派に歌うべき所ではしっかりと聴かせてくれていたのはさすがです。

植原ライアン。上の2人と同じく、今回からのキャストです。前回までの伊礼彼方さんに比べるとだいぶ線が細い印象でした。まだ少し、妹の運命に振り回されつつも強い意志の持ち主である筈のライアン兄さんのキャラクターが安定していないようにも見えました。今後の変化に期待。

平方イズミルは、これまでよりもぐっとプリンスらしい気品とプライドが増していたように思いました。でもやはり、どの時点でキャロルへの感情が復讐のための手駒以上の感情に変わったかが分からない……。ただこれは役者さんではなく脚本や演出の問題だと思っています。

また、これも役者さんは悪くないのですが、初演の頃からずっと2幕のイズミルのソロは「長い、長すぎる!」と思っています。とは言え2幕では既に主人公カップルが成立していることもあり、1幕に比べるとどうしてもストーリーが薄いので、そこをイズミルの見せ場でたっぷり、という演出意図はまあ分からないでもありません。

浦井メンフィス。初演からのキャストでもおり、メンフィスという人物の気品も剛毅さも純粋さも、完全に全身に染みついているという印象を受けました。沙也加キャロルとの息もぴったりだったと思います。

そして山口イムホテップ=宰相様。……すみません、眉毛、過去の公演の時より薄くなりました?

宰相様の出番は本当に少ないです。『王家~』は再演を重ねる中で若いカップルの出会いから門出までの物語としてブラッシュアップされてきているので仕方ないのですが、再演で削られた出番は今回も削られたままでした。

それでも、宰相様の存在は心を癒します。今回、1幕でキャロルが未来へ帰りたいと騒ぎまくり「キャロルうぜえな」と思い始めた頃に登場した時、彼の美しい歌声と満面のチャーミングな笑顔で自分の黒く汚れた心が急速に浄化されていくのを体感しました。ソロナンバーが1幕と2幕とでそれぞれ1曲ずつしかないのは本当にもったいないと思います。

なお、他には前山ウナスがフレッシュで可愛かったことと、綺咲ミタムンの亡霊が焼け焦げていない代わりに血の涙を流して怖かったこととを書き添えておきます。

作品全体としては、物語展開自体は2017年の再演時とそんなに変わらないという印象を受けました。2幕に時々冗長に感じられた箇所があるので、もっとその辺は刈り込んでくれても良かったのよ、と思ったぐらいです。

ただ、舞台の演出はとても美しかったです。1幕序盤から鮮やかなナイルブルーの星空や河面をイメージしたビジュアルに圧倒され、そこにダンサーを従えたアイシスやメンフィスが颯爽と登場するので、瞬く間に現実世界からロマン溢れる古代エジプトの世界に引き込まれます。

1幕終盤から2幕序盤にかけてのキャロルの現代への送還と古代への帰還、そしてとこしえの愛を誓い合う大団円と言った重要な場面が、ナイルの悠久の流れと太陽の光に包み込まれるようなビジュアルで作られていて、その点は本当に良いと思います。

また、この作品のダンスシーンには実は結構見所が多いです。エジプトとヒッタイトとの戦いにキャロルを守るために一兵卒として身を投じ、ひっそりと命を落としていく少年セチ(かつてアマデや少年ルドルフを演じた坂口湧久くん!)のソロダンス、クライマックスの戦闘シーンでの群舞、ラストの祝福のバレエダンスなど、数々のダンスに心を惹きつけられました。

終演後のカーテンコールでは、初日ということで浦井くんからご挨拶がありました。スタッフや共演者、客席への感謝の念、そして客席にいらした原作者の細川智栄子先生へのリスペクト。……と来て、なぜか最後に突然「祐さん、ありがとうございます!」と祐一郎さんをリスペクトしていました。さて、彼に当日何があったのでしょうか。と言うかどれだけ祐一郎さん好きなの、浦井くん😅

次回はもし公演が予定通りであれば、8月14日に浦井メンフィス&木下晴香さんのキャロルで観る予定です。海宝直人さんのメンフィスは千穐楽までお預けなので、何とか東京公演がそれまで無事に続いていて欲しいと願っています。