日々記 観劇別館

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『貴婦人の訪問』シアタークリエ初日感想(2016.11.12ソワレ)

キャスト:
ルフレッド・イル=山口祐一郎 クレア・ツァハナシアン=涼風真世 マチルデ・イル=瀬奈じゅん マティアス・リヒター=今井清隆 クラウス・ブラントシュテッター=石川禅 ゲルハルト・ラング=今拓哉 ヨハネス・ライテンベルグ=中山昇

『貴婦人の訪問』(再演)のシアタークリエ初日公演を観てまいりました。
以前の自分なら観てきた夜のうちにそのテンションのままにブログを更新していたように思いますが、今は無理です。
杖を突きつつ電車に1時間ちょっと乗って劇場まで歩いて、お芝居を観て、ごはんを食べてまた電車に乗って家に帰るという行程をやり遂げただけでも偉いぞ自分!という感じです。
でも同じことを来週もまたやろうとしているんですよね(^_^;)。……大丈夫か自分。

さて、お芝居の感想にまいります。
…‥いやあ、昨年初演を観たばかりなのに、お芝居のストーリーは覚えていても、演出や小道具の細かい所って意外と覚えていないものですね(^_^;)。
例えば、私は一応そごう西武でお馴染みの「おかいものクマ」ファンなのですが、この演目の2幕のとある場面におかいものクマ(お座りver.)がさりげなく登場することを綺麗さっぱり忘れていました。後半の最も重要な場面(雑貨屋さんのソロあり)なので、初演の時はそっちの展開に気を取られていたのかも知れません。そんなわけで再演なのにストーリー以外は割と新鮮な気持ちで観ることができました。
ただ、クレアのお供の黒豹さんについてのみは、流石に変更が分かりました。初演時にはいかにもぬいぐるみさんな丸みを帯びたお姿でしたが、今回はだいぶ精悍なお姿にリニューアルされていましたよ(^_^)。

かく言う状況なので、演出の細かい変更があったかは分かりませんが、今回、メインキャストのほとんどが続投であったこともあり、初演時よりも役者さん方の登場人物の作り込みと動かし方にメリハリがあって、お芝居の緩急がグッと良くなっていたような印象を受けました。
アンサンブルさんは東宝組ベテランの方を除いて全員を把握できているわけではありませんが、台詞のあるキャストの交替は多分マチルデとレーナちゃん(子役)だけだと思われます。
前回春野マチルデが好演していたので、瀬奈マチルデはどう出てくるだろう?と気になっていましたが、やはり好演であったと思います。
マチルデの基本的な性格はもちろん初演時と一緒なのですが、瀬奈マチルデは過去に夫とクレアとの間に起きた事件の真相を知りつつも明るく朗らか、「私が信じて尽くせば、言葉にしなくてもあの人も応えてくれる筈」とポジティブ・シンキングな人物でした。
彼女は、ポジティブかつささやかな夫への期待が決定的に裏切られた後でも少し葛藤しているのですが、結局は裏切りが覆らずに審判を下す決断をした挙げ句、去り際のクレアに「これであの人は私だけのものよ」とばかりに凄みのある微笑みを向けられてしまいます。これは果たして、このくせ者揃いのお芝居の中で最も共感しやすい人物として彼女に同情すべきなのか?それとも彼女を襲った因果応報に打ち震えるべきなのか?と迷いながら、あえて動くことのない彼女の最後の表情を見守っておりました。

特筆すべきはやはり主人公2人、アルフレッドとクレアでしょうか。
ルフレッドは再演でもやはり不器用なクズ男でしたし、クレアはやはり自分ではどうしようもない業を山ほど抱え込んだ悲しくも愛情深い女でした。
そして、演じる山口さんも涼風さんも「ぶれない」人であり、お2人がこの演目において強い求心力を担っていることを今回改めて実感しています。
山口さんが地の台詞との境目なしにすっと歌の世界に入り、様々な歌声を使い分けることによるアルフレッドの心境の変化のドラマティックな表現。涼風さんの絶唱で容赦なく舞台上に吹き荒れるクレアの深い孤独と哀しみ。こうしたお2人のプロフェッショナルという次元を超えた演技を生の舞台で観られることはやはり「眼福」と言わずにはいられません。

それから、アルフレッドのお友達のおじさま方4人。
1幕ではあらゆる真実と向き合わずにただ逃げ回るだけであったアルフレッドが、2幕で徹底的にそれらと正面から向き合い、最終的に自らの真実をクレアに捧げて悔いの無い人生を全うするのに対し、おじさま方は、人間なら誰でも抱く本音を、それぞれの立場において建前として推す正義で覆い隠して正当化していく様子が非常に怖かったです。
この構図についてインタビューで山口さんが、「アルフレッドだけが私人で、他の4人は公人」と発言しているのを読んで非常に納得することができました。一般市民はストレートに欲望を剥き出しにしますが、市長、警察署長、教師、牧師という「公の顔」を持つおじさま方は、悲しいかな、「私」としての生き方そのものが既に公人なので、建前を前面に出して生きることが長年の慣わしになってしまっているのだと思います。
1幕のおじさまカルテットによる「とんでもない」は本当に力強く、格好良くて素敵なナンバーなのですが、実はその辺りの一見格好良い建前が丸出しの歌でもあるような、と今回改めて聴いて感じました。

そしておじさま方の誰一人として、「罪人」という立場からも昔の良き友情からも切り離された、裸のアルフレッドには向き合おうとしないと言う……。
クラウス校長は恐らく4人の中で唯一、公人としてではない良心あるいは公私のボーダーの心境でアルフレッドに向き合いかけた人なのですが、悲しいかな、財政逼迫の真相(全てはクレアの掌の出来事であったこと)と大衆心理への絶望とで折れてしまって流されてしまいました。心が荒む前の1幕での校長の歌声がレミゼのマリウスそのものの危なっかしく澄んだ歌声で、人はパンのみでは生きられないが、モラルだけでも生きられない、という現実をまざまざと見せつける人物でもあります。

再演初日を見終えて抱いた印象は、初演の時と大きくぶれのない、
「救いのない結末なのにアルフレッドは救われている」
「クレアは一見悲劇にも見えるが、彼女の愛は変則的な形ではあるものの明らかに成就している」
というものでした。そしてマチルデとクラウス校長はクリティカルダメージを喰らい、他の人々も一見財産を手に入れながら誰一人救われているようには見えない……。

カーテンコールでは、山口さんのリードで瀬奈さん、涼風さんから短めのご挨拶がありました。そして締めに山口さんからも本当に一言。救いが少ない結末ですが、山口・涼風ペア、石川・瀬奈ペア(何故?)でにこやかに舞台から捌けて行くお姿にはかなり救われました(^_^)。

さてさて、この演目は東京公演をあと2回観る機会がありますが、公演期間の間にキャストの皆様はどう変化してくださるでしょうか?楽しみです。