日々記 観劇別館

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『ナイツ・テイル』感想(2021.10.10 12:30開演)

キャスト:
アーサイト=堂本光一 パラモン=井上芳雄 エミーリア=音月桂 牢番の娘=上白石萌音 ヒポリタ=島田歌穂 シーシアス=岸祐二 ジェロルド=大澄賢也

初演時に気になりつつも「どうせジャニーズが絡むしチケットも取りづらいだろう」と決めつけて何となく観劇を見送っていた『ナイツ・テイル』。

初演の好評を聞いて、ではちょっと観てみようか、と今回初めて帝劇公演を観てまいりました。

自分が初見で基本設定を掴むのに精一杯で気持ちに余裕がなかったせいもあり、舞台上に初っ端から登場する人間の数、背景説明、音楽……とにかく情報量が多くて追いかけるのが大変で、設定を理解するまで少し時間がかかりましたが、このお芝居において、騎士物語は劇中劇であり、常にステージ上の観客(という役を演じる人々)により見守られながら進行します。

主人公はテーベの騎士で従兄弟同士のパラモンとアーサイト。伯父でもある王の命に従い心ならずも侵略戦争に身を投じながら良きライバルとして友情を誓い合っていたが、敵国アテネの大公シーシアスに伯父が倒され、共に捕虜として獄に繋がれた時、獄窓から見えたシーシアスの妹エミーリア姫にほぼ同時に一目惚れしてしまう。不本意ながら恋敵となった2人は、やがて決闘する運命に、というのが物語の骨子です。

……と、このように書くと一見悲劇にも見えますが、実際は人情喜劇であり、ちょっぴり風刺も利かせた大人の寓話でした。

「プライドと固定観念に囚われた男たちに女たちが振り回されながら、最後は知恵を尽くして彼らの固定観念をひっくり返し、ハッピーエンドに導く」

というストーリーは、これって女性を持ち上げすぎなのでは? と多少感じる一方で、男性陣が主人公2人も、そしてシーシアスも、演じる役者さん方の好演もあってそれぞれ愚かしいながら魅力的な人物として生きていたので、そこはしっかりバランスが取れていたと思います。

そう言えばこれの原作ってどんな話なんだっけ? と、後からシェイクスピアの『二人の貴公子』のあらすじをさっとWikipediaで確認しました。
……ええと、このお話、面白いの? というのが率直な感想です。一応喜劇に分類されるようですが、一部登場人物(アーサイトとか牢番の娘とか)に全く救いがない上に、現代の価値観に照らすと色々とキツそうなので、ミュージカルは完全なハッピーエンドに翻案して正解だったと思います。

音楽ですが、実は主人公2人のナンバーよりも牢番の娘のソロや女性三重唱の方が印象に残っていたりします。やはり「騎士物語」というタイトルの一方で、物語の重要なテーマとして女性がどう行動するかに重きが置かれているためでしょうか。もちろん、パラモンやアーサイトの歌もしっかり光っていたとは思うのですが……。

ダンスは女性アンサンブルでたまに振りが揃ってなくて、それでいいの? と思う瞬間はありましたが(うわ、偉そう)、全体的には大澄さんを中心に群舞が綺麗に決まっていました。後述しますが光一くんや萌音さんら主役級がしっかり踊って好演していたと思います。

役者さんの感想も一言ずつ記しておきます。

堂本光一くんは今回初めて見ましたが、ダンスで見せる動きのキレがやはり群を抜いていました。加えて、長年帝劇で座長を務め、演出もこなしているだけあって、舞台への居方が半端なく自然なのです。

井上くんは「一見軽薄で口が悪いが、実は心優しく情に厚い貴公子」という役どころがここまで似合うか! と思いました。

なおアーサイトとパラモン、ポスターなどのビジュアルでは結構華麗に決まっていましたが、実際のお芝居では格好良さよりも「おバカ」にスポットが当たっているので注意が必要です。でもおバカの貴公子2人がわちゃわちゃしているのは楽しいですね。

エミーリアの音月桂さん。華奢であまり長身ではなく(堂本くんよりやや小さいぐらい)、そんなに元男役なイメージがありません。エミーリアという役は2人の貴公子に惚れ込まれる割に、ヒポリタや牢番の娘に比べるとやや影が薄い印象を受けましたが、癖のない綺麗な歌声で好演されていました。

牢番の娘、上白石萌音さん。初恋のために大胆不敵な行動に走った結果、運命の悪戯に翻弄され、一時正気を失う目に遭う少女。

何年か前に東宝芸能コンサートで映画『舞妓はレディ』の主題歌を披露していたのを観て、その頃から歌の上手さは知っていましたが、2幕で披露していた大公に奉納するダンスも綺麗で驚かされました。調べたら小学一年生からミュージカルスクールでレッスンを受けていたとのことで、納得です。

牢番の娘さん(本名があるのに失念)はエミーリアとのやり取りを見ると単に純粋なだけではなく、植物などの知識も深く聡明な娘であることが分かりますが、そんな娘があれほど恋に翻弄されてしまうわけで。……恋って怖いですね😓。

アマゾネスの女王、ヒポリタは島田歌穂さん。故国に妹姫たちを残し、戦で負けた相手シーシアス大公に嫁がされるというかなりハードな立場のお后様なのですが、少しもめげることなく自分を駆け引きの道具に使うことすら厭わず、ついには夫のプライドを保ったまま固定観念をひっくり返すことに成功する女性。私がこの演目の中で最も好きな登場人物を選ぶならば間違いなく彼女です。

実はヒポリタの終盤のどんでん返しについては「え、そんな都合の良い展開ってあり!?」と一瞬だけ思いましたが、岸さん演じるシーシアスの、建て前を重んじて女性の意思は二の次にしがちな一方で根っこは人情に厚く善良、という人柄が序盤から随所で示されていたので、まあ、彼ならば皆がハッピーになる道を選ぶだろう、と納得しています。

ちなみにシーシアスは開演前の注意アナウンスも担当しています。本編を観る前はなぜこのお方が? と思っていましたが、なんとも愛すべき大公だったので納得! です。

最後に大澄さんですが、1幕の序盤の独裁的な君主と、舞踊団のダンスの師匠とを演じているのが同じ方だと最初分からなかった自分……。それほどまで両者の雰囲気は全く異なっていました。今回はリピート予定はありませんけれど、再度観る機会があるならばじっくりこの二役を観察したいところです。

ちなみに今回の上演中、埼玉のJR変電所火災で鉄道が止まるハプニングが発生し、幕間でニュースを知り、迂回路を必死に検索するなどしていたところ、カーテンコールでも光一くんが言及し、客席の皆の帰りの足を気遣ってくれていました。私の乗る路線はたまたま早めに復旧したので迂回路も使わずに帰宅できましたが、恐らく当日観ていた方でお家に帰り着くのが遅くなった人もいらしただろうと気になっております。