日々記 観劇別館

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『エニシング・ゴーズ』感想(2013.10.13マチネ)

キャスト:
リノ=瀬奈じゅん ムーンフェイス=鹿賀丈史 ビリー=田代万里生 オークリー卿=吉野圭吾 ホイットニー=大澄賢也 ホープ・ハーコート=すみれ アーマ=玉置成実 ハーコート夫人保坂知寿 船長=武岡淳一 ルカ=照井裕隆 ヨハネ=小寺利光

帝劇にて『エニシング・ゴーズ』を観てまいりました。
自分はウィーンミュージカルから観劇にはまった口なので、BW発の演目にはあまり馴染みがありません。ドラマ性より歌とダンスの煌びやかさを重視したミュージカルの楽しみ方が今ひとつ分かっていない所があります。
そんなわけで、実はエニシングの1幕はあまり入り込んで楽しむことができませんでした。

まず、人物相関図がえらく複雑なのでそれを理解するのに追われたのが1点。それから、身分を偽って他人のチケットで乗船したビリーとその協力者であるムーンフェイスが、正体がバレないように取り繕った嘘が巡りめぐって騒動を呼び、阿鼻叫喚に……というギャグの応酬に馴染めなかったのが1点。
最大のもう1点は、基本的に歌っている間はドラマの進行が止まる上、ヒロインのリノ以外のソロナンバーが少なく、男女がデュエットしては踊るパターンのナンバーが多いこと。
「ああ、またデュエットかよ……。歌って踊ってないで早く次進もうよ」
と思いながら観ていたような体たらくでした。
しかも舞台が序盤を除いては全て豪華客船内なので、大体踊るのはデッキか大広間に限られるという(^_^;)。一応曲もデュエットするキャストも、照明などの演出効果も全部異なってはいましたが、男女が愛を語らってはデュエットして群舞して……が1幕の間に2回も3回も繰り返されると少々厳しかったです。
劇中曲は確かに名曲揃いですが、そのことと場面が単調であることとは無関係です。

しかし。2幕の船内パーティーシーンのリノのショーステージ以降、不思議なことに、
「いいじゃん、これ!」
と思えるようになりました。
私的盛り上がりはオークリー卿とリノのデュエット、そしてタンゴに乗せたセクシーなダンスでピークに。ここ、ストーリー的には最も「おいおい、それはないだろ」なツッコミ所満載な筈なのに、瀬奈さんと吉野さんのショーアップがあまりに素晴らしすぎて説得力がありすぎて、デュエットが終わる頃にはツッコミ所が既にどうでも良くなっていました。
ラストも、細かいネタバレは避けますが、世知辛く何につけても単純ではない現実に生きている身からすると、複雑な人間関係が一気に解きほぐされて、皆が幸せになった瞬間に明るく終わるのはいいなあ、と思いました。物語の途中で、
「罪もないのに殺された?ひどい!」
とかなり本気で思っていたとあるキャラクターも、無事帰ってきましたし(^_^)。

個人的には、知寿さんの歌が好きな者としては、彼女が歌う場面が少なかったのは残念です。一応軽く恋愛ドラマにこそ関わってきますが、準主役の若い娘さんのお母さん役という地味ポジションなので仕方がないと言えばそうなのですが。
東宝において知寿さんが少しずつ、年輩女性役ポジションに移行しつつあるような気がしてなりません。まだ『TATTOO14』のようにもう少し若いお姉さんの役が余裕でできるので、「まだ早い!」と思ってしまうわけですが。
と言っても、知寿さんも含め、プリンシパルに踊れる役者さんを多く起用しているので(除く鹿賀さんとすみれさん)、群舞シーンは綺麗で迫力があり楽しめました。

鹿賀さんは、ムーンフェイス役、別に鹿賀さんでなくてもいいんでないかい?と思いながら観ていました。
ただ、要所要所で時にくすぐり、時に引き締める、物語になくてはならない役なので、ベテランでないと務まらないのは確かです。
また、鹿賀さんが良い意味で「何を演っても鹿賀丈史」状態だったのは流石だったと思います。そして、舞台上での居方というか、場面ごとの空気感のコントロールが絶妙でした。

瀬奈さんはやはり立ち姿とダンスが綺麗でした。役柄はマイペースにイケイケドンドンなアネゴなのですが、ご本人のお人柄もあってか、爽やかな気っぷのよさと可愛らしさが嫌味なく同居する、気持ちの良いヒロインだと感じました。
万里生くんは、歌はもちろん完璧ですし、演技も堂に入っているのです。コミカルな場面もお手の物の器用ぶり。でもどこか王子様の殻が破れていないなあ、と観る度に感じてしまうのです。

それから吉野さんのオークリー卿。ギョーカイ用語もどきの怪しい言語を操る、頭のネジが1本飛んだようなおバカキャラコメディリリーフ……と思わせておいて、2幕後半で彼の真実の心が明かされた時には、心底あっと言わされました。
改めて、どんな演目においても、自分の役どころのキャラクターの個性を、登場した瞬間に一発で観客の心に強烈に焼き付ける吉野さんの力は凄いと思います。先に述べたセクシーダンスでも、しっかりオークリー卿という役として踊っていましたし。
ついでに申しますと、白のノースリーブの下着とトランクス姿があんなに美しい人も珍しいのではないかと思われます(^_^)。
あと、劇中で何故か時々「ティーバック野郎」と呼ばれてた気がしますが、あれを聞いて某吸血鬼の息子さんを思い出さずにはいられなかった自分なのです(^_^;)。

玉置さんはそう言えば10年近く前にガンダムの主題歌を歌っていた頃、まだ中学生じゃなかった?と思って調べたら、現在まだ25歳でした。
アーマ、最初てっきりムーンフェイスの情婦と思い込んでましたが、違ったんですね*1。歌、ダンス、演技、全方向で頑張ってる感が強かったです。

賢也さんのホイットニーさんは、旧知のハーコート夫人エヴァンジェリン)に恋する役でしたが、そう言えばハーコート夫人とどういうご縁なのか、あまり深く掘り下げられていなかったように思います*2。恐らくは亡くなったハーコート氏とビジネス上の繋がりがあり、その関係で資産運用や遺産管理の相談に乗っていたのだろう、と想像してはいますが。
また、公式サイトのキャスト&スタッフリストを良く見ると、振付スタッフの欄にもお名前が!賢也さんと吉野さんのダンスは、もう安心して観ていられます。

そして、準ヒロインのすみれさんには、『二都物語』以来の再見でしたが、やはり歌詞が微妙に聴き取りづらいです。多分、歌に集中すると、歌詞の発音がどこかへ行ってしまうのではないかと推測しています。見映えも良く、そしてお人柄も良さそうなので、このまま終わらずもっと伸びて欲しいと思います。伸びしろ、もっとある筈です。
ホープちゃんについては、当主を失ったわが家のために結婚しようとするような健気な親孝行娘だけど、つまらんことですぐ怒って、母親以外の人の気持ちへの配慮があまり伝わってこないなあ、という印象を受けてあまり共感できずじまいでした。

こういうBWカラー全開な演目が好みか?と言うと、必ずしもそうではありませんが、こうした陰惨さの欠片もなく、後味良く、100%ハッピーに終わってくれている作品は最近は貴重だと思います。
今回、帝劇の2階下手前方席から観ましたが、2階の全体を振り返ると、S席とB席はそこそこ埋まっているものの、A席辺りには空席が目立ちました。自分で最初あまり好印象を抱かずに観ておいてあれですが、もったいなかったです。

*1:そもそも一緒に乗船する筈だった彼氏が来なかったからビリーが……という展開だったわけですが。

*2:序盤の台詞を聞き逃しただけかも知れません。