日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『エリザベート』1000回記念公演感想(2012.8.4マチネ)

キャスト:
エリザベート春野寿美礼 トート=山口祐一郎 フランツ・ヨーゼフ=岡田浩暉 ゾフィー杜けあき ルドルフ=平方元基 少年ルドルフ=山田瑛瑠 マックス=今井清隆 ルドヴィカ=春風ひとみ

前回書いた1000回記念カーテンコールの詳報が、以下に掲載されていました。
『エリザベート』上演回数1000回を達成! - げきぴあ
流石安定のげきぴあ、各キャストの発言も余すことなく記録してくれていて、写真も美しい良記事です。それにしても囲み取材での山口さんのご発言に、
「大道具のほうも僕になんか親しみを感じてくださったのか、暗転の中で抱擁していただき素敵な初日でした(笑)」
というのがあったのですが、一体どんなハプニングがあったんでしょう(>_<)。

というわけで、この観劇後、別の用事を済ませて月曜深夜には帰宅していたにも関わらず、何だか気力が湧かずに感想を放置していましたが、少しずつ書いてみることにします。と言っても、ごく簡略なものになりそうです。

全体に、記念公演ということもあってか、キャストの皆さん、暴走したりはみ出したりすることは一切なく(普段も滅多にそのようなことはありませんが)、基本に忠実に端正に演じられているという印象でした。

その中で、実は帝劇の山口トート初日以来拝見する機会のなかった杜ゾフィー。その時にも覚えた凛々しさだけでなく、地に足の付いた貫禄がプラスされていると感じました。お歌もかなり安定。
また、杜ゾフィー、国家とハプスブルク家を守るという大きい目的のために、どこかで自分を押さえ込んでいるという印象が大変に強いです。
例えばスパルタ教育から逃れ母を恋しがる幼いルドルフを叱りつける時、寿ゾフィーの場合は内面のぐらつきは0ではないもののおくびにも出しませんが、杜ゾフィーはほんの一瞬揺れる表情を見せてから、いつもの凛々しく厳しいお祖母様に戻ります。基本、母性は薄くて皇太后という立場を演じることを徹底的に優先させる人なのですが、どこかに「揺らぎ」がある感じです。その意味で、常に自分の境遇を受け入れず不平不満を抱いているような岡田フランツとは「親子」だなあ、と思いました。

その岡田フランツは、だいぶ軍服姿と老けが板に付いてきましたが、青年期から壮年期に至るまでずっと苛立ちと神経質さ、情けなさが前面に出ていて、あまり貫禄はないのでした(^_^;)。禅フランツが地位の重さと自由の無さをポジティブに受け入れているためシシィと相容れない*1のに対して、岡田フランツは受け入れるというより常にネガティブに諦めているので、そこが一層シシィの絶望に拍車を掛けているように思います。
ところで帝劇の時は、2幕で朝のご挨拶だけしてさっさと立ち去ろうとするルドルフを、可哀想になるぐらい「待て、ルドルフ!」と怒鳴りつけていて、どうしてそこまで?と疑問でしたけれど、もう少し穏やかな呼び止め方に変わっていました。相容れないのは一緒でしたが。

平方ルドルフは、今回も凛とした真面目さに満ちていました。歌声も力強く、常に強くあろうと自分を駆り立てている姿が、杜ゾフィーと正しく血が繋がっていると感じられました。シシィに心理的にも思想的にも寄り添っているにも関わらず受け入れられない理由が、何となく伝わってくるルドルフなのです。

春野シシィ。彼女の歌よりも演技が好き、というのは変でしょうか?歌は未だに時々高音で無理している感じがありますが、彼女のシシィの沈鬱で、しかし意志の強そうなキャラクターが、今回自分的にしっくり来ました。
特に1幕の「エリザベート、泣かないで」。フランツへの最後通告の時の、腹の底まで覚悟を決めており、全てをそれに託し、懸命に立っている表情が何とも憂いに満ちていて良かったです。そしてそれを受けて退廃的な陶酔の世界へ引き込もうとする山口トートが作り出す、広がる闇もまた。

そして、山口トート。歌はちょっとエコー効き過ぎかな?と感じる所がありましたが、まだまだ好調を保っていました。とにかくキラキラに美しいのです。彼の名古屋初日、しかも1000回公演ということもあってか、そんなに弾けた印象はなく、かなりクール系トートでしたが*2、丁寧に、聴かせ所では俺様に圧倒して、見せ所ではしっかり美しく振る舞っていたと思います。
1幕のカフェの場面の決めポーズでいつも長い前髪がばさっと目に掛かるのですが、今回は前髪で良い具合に右眼だけ隠れて憂いに満ちた雰囲気になっていました(^_^)。
あと平方ルドとの「闇が広がる(リプライズ)」がこれまで自分が聴いた中では出色だったと思います。意志的な平方ルドと、そのエネルギーを受けてクールに滅びへの歯車を動かす山口トート。2人の歌声が見事に融け合って劇場中に力強く響き渡っていました。
前出の「げきぴあ」のとおり、どうも大道具関係で何かあったようですが、どの辺りで発生したのかは良く分かりませんでした。自分は2階席から観ていましたが、前方席の方には分かったのでしょうか?

……以上、何だか薄い感想ですみません。とにかく1000回目公演に立ち会えたことが嬉しくて、また、カーテンコールのワクワク感が大きくて、本編観察が二の次になってしまったかも知れません。ちょっと反省中です。

*1:と、私は思っています。

*2:元々春野シシィ相手にそんなに弾けることはありませんが。