日々記 観劇別館

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「輝ける皇妃エリザベート展」を見てきました

8月18日に、日本橋三越で「輝ける皇妃エリザベート展」を見てきました。
今年4月〜6月に、同じ展覧会が福岡市博物館で開催されています(展覧会公式サイト)。
三越の会場でアッキーこと中川晃教くんが出演する、シシィの星の髪飾りについて紹介する10分程度の映像が流れていて、何故アッキー?と思ってましたが、上記の福岡の展覧会のサイトに『輝ける皇妃エリザベート 〜星の髪飾りの謎〜』という特別番組をテレビで放映したと書いてあったので、恐らくこの番組でアッキーがレポーターを務めていて、会場で流れていたのは番組の再編集映像ではないかと勝手に推測しています。
同じ映像にシシィ直系子孫のマリー・ヴァレリーハプスブルク=ロートリンゲンさんという方が出ていましたが、福岡ではこの方の講演会も開催されたようです。取り急ぎ日本語の系図サイトを見た所、シシィの末娘でオーストリア大公家に嫁いだマリー・ヴァレリー皇女の曾孫に同名の方がいらっしゃるようですので、多分その方だろうと思われます。

展覧会カタログは正直そんなに中身が濃いと思えず購入を見送ったので、以下、完全に記憶に頼った感想です。

まず、展示ルートの最初に掲示されていた、シシィの母ルドヴィカがバイエルン公マックスと結婚する際、それは望まない結婚であったので、この結婚によりもたらされる全ての物に祝福が与えられぬように、と呪ったというエピソードは、かなりインパクトが強かったです。実際の結婚生活の上でもルドヴィカがマックスを呪い続けたのかは分かりませんが、まあ、どちらにしても、王女様があの宮廷生活大嫌い、自由奔放な旦那様と暮らすのは大変だったとお察しします。
ただ、後述しますが、展示の内容自体は、必ずしもシシィの不運ばかりをクローズアップするものではなかったので、正直な所、少し安堵しました。

目玉の「星の髪飾り」は、かなり小さかったです。ダイヤモンドが散りばめられた八芒星で、サイズ的には直径4cm程度といった所でしょうか。ただ、髪飾りは十芒星と八芒星のものがあって、有名なシシィの肖像画にもあるように、髪に散りばめるように付けるものなので、1個1個のサイズはあまり大きくある必要はないと思われます。
また、会場の説明板によれば、肖像画の髪型では十芒星の方が髪の表側に飾られており、八芒星のは陰に隠れてしまっているという話でした。但し肖像画では髪飾りが必ずしも写実的には描かれていないようです。
そもそもこの髪飾りが作られたのは、シシィが「魔笛」の夜の女王に感動したのを目にしたフランツ・ヨーゼフが、彼女に星のアクセサリーを、と考えたのがきっかけだったらしいですが、八芒星として重ねられた4つのダイヤ型には、オーストリアハンガリーチェコクロアチアそれぞれの民族の融和の願いも込められていたそうです。実際は、ミュージカルにもあるように融和には至れなかったわけですが……。

展示全体の内容は、星の髪飾りのほか、シシィのウェディングドレスから仕立て直され、銀糸による刺繍が施された法衣など、豪奢さを象徴する展示物ももちろんありましたが、全体に、シシィが1人の人間としてどんな喜びや痛みを心に抱いて生きたか?また、緑豊かな田舎で育った幼少時代の原体験からどんな暮らし方を好んだか?を、遺愛の品を中心に示していく内容となっていました。
ハンガリー離宮の調度品一式が、豪奢さ一辺倒よりもどこか癒しを追究したものがセレクトされていて、好印象でした。マリー・ヴァレリーの写真で埋められたついたてに、シシィの母性を垣間見た気がします。
一方で、別の宮殿の調度品について、シシィがウィーンの職人ではなくわざわざナポリの職人に発注して作らせて顰蹙を買った上、自分の趣味の良さを誇示するべくお披露目会まで開いた、という話に、舞台で見知ったシシィのエゴイスト、というか自己主張の強さを感じ取って苦笑したりもしていました。

シシィの外見の美しさや、宮廷での武器としての美貌を保つための過酷なダイエットについても触れられていました。
分かってはいたのですが、展示されているウェスト50cmのコルセットの現物を眺めながら、
「これを保つためには卵の白身と肉の絞り汁とオレンジしか食べちゃいけないのか……はぁ、とても真似できない」
と溜息を付いてみたりなんてこともしていました。
そして、身長172cmの人にしては、顔も手の甲も足の甲も、かなり華奢で小さかったことが遺品から分かりました。顔のサイズは、遺品というよりデスマスクから判明したわけですが。思わず、
「足のサイズ22.5cmってこの背丈には小さすぎだろう!身長が15cmも低い私より遥かに足の甲の幅が細くて、更にこんなに細い手なのに指の長さは私とほとんど変わらないってどういうことよ!?」
と1人、小さな乗馬用手袋やパンプスの展示ケースの前で荒ぶってしまいました(^_^;)。

美しさと言えば、長女ゾフィーを亡くした直後の喪服の肖像画が、もう本当に凄絶な美しさで……。ミュージカル『エリザベート』ではシシィが、幼いゾフィーの命を奪ったトートに向けて「貴方を決して許さないわ!」と絶望をぶつけています。展覧会では、シシィにとってこの事件は「わが子の死」であると同時に、無理やり皇太后からもぎ取ろうとした、子女の養育権という名の信頼の見事な失墜をも意味していたことが解説されており、あの絶叫もむべなるかな、そして深い絶望は彼女を叩きのめすと同時に、不屈な彼女を次の闘いのステージに向かわせる原動力となったのだ、としばし考え込んでしまいました。
ゾフィーの遺髪を納めた黒十字架のロケットを、シシィは生涯大切に持っていたそうです。

シシィの美貌と内面について多く語られているのと裏腹に、シシィと深く関わった周囲の人々については、夫であるフランツ・ヨーゼフも含めて、そんなに展示は多くなかったように思います。
フランツ・ヨーゼフについては、シシィ中心の展覧会でうっかり彼について突っ込んで紹介すると、色々な意味で展覧会が別のベクトルに向いてしまうので――例えばフランツはこんなに質素堅実なのにシシィは何て贅沢を!とか、逆にミュージカルに登場する、シシィの憂鬱を解消できない不甲斐ない系フランツのイメージを裏打ちしてしまう!とか――まあ仕方ないのかな、と諦めていますが、意外だったのはルドルフ。幼少時代の写真は、家族写真のみならず公務中の姿までいくつもありましたが、心中事件については、晩年のシシィが喪服をまとい続けた動機として簡単に語られているのみでした。もう少し語られても良かったと思うのですが。
また、シシィに死をもたらしたルキーニの殺害動機と社会的背景についてはパネル1枚で語られていましたが、ルキーニの人物像についてはさらりとしか語られていなかったり、と言った具合です。
その辺りの構成が、少しだけ不満ではありました。

ただ、展示物の中には、シシィとフランツ・ヨーゼフの結婚式を描いたイラスト、シシィの暗殺や葬儀の日取りを伝える新聞記事、きちんと腹心の女官の処遇にも触れられた遺言状(複製)などの貴重な資料もあり、展示の内容は本当にしっかりと作り込まれ、シシィという人物が確かに生きていた証を伝えてくれていたと思います。
彼女の生きた環境を肌で感じ取るには、本当はオーストリアまで飛ばなければいけないのでしょうけれども、今回の展覧会で、シシィの衣装の裾にだけ微かに触れることができたような気はしています。そんな心持ちです。