日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『エリザベート』感想(2015.6.20ソワレ)(その2)

キャスト:
エリザベート花總まり トート=井上芳雄 フランツ・ヨーゼフ=田代万里生 ルドルフ=古川雄大 ゾフィー剣幸 ルイジ・ルキーニ=山崎育三郎 少年ルドルフ=松井月杜

承前→『エリザベート』感想(2015.6.20ソワレ)(その1)

新生エリザの感想続きです。シシィとトートは前の記事に書きましたので、他キャストとかその他気になった点など。例により軽いネタバレありですので、新演出版を未見の方はご覧になってから読まれることを推奨します。

まず、万里生フランツ。井上くんと出自と状況が似ているようでまた少し異なり、日頃黒い役柄に果敢に挑戦しているイメージなので、逆に彼本人のパブリックイメージに沿った「育ちの良いエリートで、白い努力家」の役柄を観たいと思っていました。

万里生くん、最初の登場時はピリピリした岡田フランツの系統なのかな?と考えていましたが、岡田フランツとは異なり、自身が皇帝という重責を背負ったこと自体には全く抵抗を覚えていないので、すぐに「違う」と思いました。
万里生フランツは、シシィへの愛情は真っ直ぐで強いものですし、母親の助言も退けますが、自分自身の「正しい」生き方については、徹頭徹尾、何一つ疑問を抱いていないという印象を受けました。もちろん彼だけが悪いわけではない辛いすれ違いではありますが、「悪夢」で妻や母と相容れなかった結果に最後の最後まで激しく抵抗しつつ、結局は直球で受け止めねばならない運命なのが何だか悲しかったです。

雄大ルドルフ。以前はもっと神経質でひ弱なイメージでしたが、今回はぐっと役作りを変えてきて、凛とした皇太子でした。ちびルドの月杜くんが割と凛として歌も朗々なので、それに合わせて凛々しさ度を割り増ししている可能性もありますが……。
今回、マイヤーリンクでルドルフから求めてトートに死のキスをしていましたが、これは多分、初演版に戻した、ということですよね?*1
トートから一応意思確認はありますが、運命に弄ばれるだけではなく、自ら能動的に死に向かうルドルフは、これまでの演出を見慣れた立場からはとても新鮮でした。

ゾフィー。重厚に凛々しく厳しく、皇太后を演じられていました。劇場で見ている時には「山口さんやなつめさんと同じくらいのお歳かなあ?」というイメージを勝手に抱いていましたが、これを書きながら調べてお2人より少しだけ年長と知り驚いています。お歌は言うこと無し。
ところで今季は、ルドヴィカママが未来優希さんなのですが、今までそんなに意識しなかったのに、
ゾフィーとルドヴィカ、この2人間違いなく姉妹だ!」
と今回急に強く感じました。凛々しくて肝の太い姉妹です。

そして、育三郎ルキーニ。
登場した瞬間、素直に、
「若くて格好良くて歌が上手いルキーニって素敵!」
と思いました。
正直に申しますと、実は、育くんの「演技」にはそんなに期待はしていませんでした。優等生ではあるけれど、どちらかと言えば「歌の人」で、演技はひと頃よりは良くなったもののもう少し厚みが欲しいなあ、ぐらいにしか捉えていなかった始末でして。
今回、良い意味でその期待が裏切られました。シシィに同情しつつも権力者としてのエゴを憎悪し、エゴの犠牲となるルドルフにも憐れみを覚える、独りぼっちの青年ルキーニの心境を、巧みに表現していたと思います。

新生エリザ、過去に称賛された要素や過去のキャストがもたらした美点をばっさり切り捨てるのではなく、全体に、これまでに蓄積された資産を大事に守りつつ、細かい場面の改善や新機軸の導入をしっかり行っているという印象で、好感が持てました。

ただ、逆に、もう少し変更されても良かったと思うのに、あまり変わっていない箇所もありました。例えば1幕の俗称「トイレットペーパー」。重要な登場人物の出方も含めて大幅に組み直されたと思われるのに、巻き方を変えてまで「トイレットペーパー」を残したのは、余程気に入った演出だったのだろうか?と想像しています。

それでも、下手に変えなくて良い所は変えなくて良かった、と思います。
カーテンコールは、キャスト以外はほとんど変わらなかった箇所の1つ。ただ1つの変更点は、カーテンコールにはマダム・ヴォルフがいないことでした(未来さんはルドヴィカの衣裳で登場します)。
最後に井上トートと花總シシィが手を取り合って現れた時には、ああ、本当に代替わりしたのだなあ、としみじみしました。
ひとまず自分が新生エリザを観る予定は今回のみなので、今季新演出とキャストがどのように熟していくかを見届けることは現在のところありませんが、きっと3ヶ月公演の間にも良い変化を遂げる筈です。是非、そうなって欲しいものだと願っています。

*1:初演は生では観ていないので過去に観た舞台映像からの知識です。