日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『道化の瞳』感想(2012.4.15マチネ)

キャスト:
宮岸健一/クーガン=屋良朝幸 宮岸明子/チェリル=彩吹真央 里見貴行/ハリー=小西遼生 鈴木淳/カール=原田優一 高橋修司/フラット=佐々木喜英 矢口舞/グリゼルダ=桐生園加 桜井美穂/ベデリア=美羽あさひ 黒崎哲也/ダリウス=佐藤洋介 五十嵐敬子/ローガン=保坂知寿 安藤進/アルバート小堺一機 チャーリー=玉野和紀

『道化の瞳』、シアタークリエの2列目やや上手寄りという贅沢な席で、じっくり観てまいりました。
以下、軽いネタバレありの感想です。

重い病に冒された少年とその盲目の母親の物語。そして少年が病床で描き上げた1冊の絵本の世界に込められた、ただひとつの大切な願い。少年の宝箱からそっと取り出されたような、優しい色彩と周囲の人々への思いに満たされた哀しくも美し過ぎる物語。終演時には、周りからすすり泣きもちらほら聞こえてきました。

……なのに、なのに。自分的にはやや消化不良なのです。
原因は、1幕にお話を詰め込み過ぎに見えるのが大きいかと思います。
確かに、健一くんの置かれた事情や周囲の医師達の気持ちは、じっくり描かないと2幕の絵本の世界が生きてこないので、ある程度の説明は必要ではあります。しかし、医師達が抱えていた葛藤が投げ出されたまま、1幕のラストで舞台は絵本の世界へと移り、2幕のラストで現世に話が戻ってきた時には、投げ出された葛藤の始末がうやむやのまま、いつのまにか医師達が浄化されているのです。
あくまで健一くんの視点で物語を貫き通すなら、医師達の対立描写はそんなに細かくなくて良いでしょうし、逆に医師達の心境の変化をきちんと描くなら、伏線や問題点はしっかり回収して欲しかったと思いました。
この作品においては物語要素は棚に上げ、ショーステージとして観るという見方もありますが、それにしてもあんなに1幕が長くなくても良いじゃん!とどうしても考えてしまうのでした。

とは言え、玉野さんらのタップを主としたダンスも本当に楽しくて綺麗でしたし、歌も、歌要員キャストの皆さん(一部はダンスも見事にこなされてました)それぞれに、まんべんなく見せ場が用意されていて楽しいステージだったと思います。
物語の中では、小堺さんの軽妙洒脱さが救いをもたらしていました。2幕の芸人一座の座長よりも1幕のベテラン医師の先生の方に見せ場が多かったように思います。
大道芸も結構失敗は多かったものの、思い切り笑って楽しませてもらいました。さりげなく佐々木くんが器用さを発揮している様子でした。
佐々木くんと原田くんのコンビネーションも良かったです。1幕の全身タイツで激しく踊りまくる医師達に爆笑。原田くんはシリアスなドラマ部分でも歌のソロパートがあるなど大活躍していました。彼の声は凄く張りがあって滑舌も良いですね。
院長の息子役の小西くん、副院長には逆らえず、でも医師としての良心も捨てきれずに葛藤しまくる複雑な役にごく自然に入り込んでいました。そして2幕で良い人なのににこやかに階級差を肯定する貴族の若様の姿に軽く怖気。顔の綺麗さに目が行きがちですが、実は演技力のある人だと思うのです。1幕ラストでの彩吹さんとのダンスは目の保養ですね。
彩吹さんは多分初めて拝見しましたが、実力派なお方だと思いました。ダンスも歌もオールマイティーに行ける印象。全幕通して盲目の役なので相当ハードだった筈ですが、お母さん役もお嬢様役も全く違和感なくこなされていました。
玉野さんは……出落ちな役と申しますか、役の設定からして泣かせることが確定しているのはちょっとずるいです。言葉を発することができず、全ての感情を身振りとタップダンスで表現するチャーリーを見事に演じられていました。
チャーリーは、ただ一度チェリルお嬢様に触れた思い出を胸に、騎士としてひっそり生涯を全うするのですね。悲し過ぎる結末には納得いかない所もありますが、彼にはあの方法しかなかったのでしょうし、健一くんの幼い望みが託されたキャラクターなので、まあ仕方ないのかな、と思います。
そして知寿さん。2幕でのダンサブルなソロナンバーが素晴らしかったです。1幕でショータイム的な出番がないのは展開上致し方ありませんが、全体で1曲だけと言わずもっと観たかったですね。
イガフク(五十嵐副院長の略)先生は、健一くんの絵本の中で拝金主義でわが子にも選ばれない女として描かれた事をどう思ったのでしょう。そこはもう少し知りたかったように思います。
あ、主役の屋良くんのことを書けていない!彼もまた、器用な役者さんの1人だという印象です。10代の健一くんにもクーガン(可愛い)にも全く違和感なし。健一くんの化身であるクーガンが2幕で本当生き生きしているのが泣かせどころです。
ううん、なんだか消化不良なままの感想ですみません。2回観ればもしかしたら全く違う印象になるのかも知れませんが、残念ながらその予定はないのでした。