日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

ラジオドラマ『LET IT PON! 〜それでええんよ〜』感想(2012.2.4放送)

無事聴くことができました。
ま、まさか第一声からあの方のお声だとは!しかも予想外に出番が多い!更にエンディングのキャスト読み上げまで!
と言った具合に、生での聴取時はあまりに興奮し過ぎて理性がどこかにすっ飛んでいたので、日を改めて翌日じっくりと録音を聴き直しました。

山口さんの役は主人公の女性医師楓さんの先輩医師「コンノ ヒトシ」さんでした。楓さんは多分気づいていないけど、彼女のことを憎からず思っている節あり。
このコンノ先輩、一見軽薄そうでいて医師として持つべき誠実さはしっかり持っているらしい、憎めないキャラなのですが……。どうしてこんなに?というぐらい声が艶っぽいのです。本放送の時、イヤホンをして聴いていたところ、両耳をフェロモンたっぷりのウィスパーボイスが直撃してきて、かなり心臓がバクバクさせられました。語っている言葉はごく普通の内容なのに。演技はいつものごとく、虚と実の境界線上の綱渡り世界なのに。祐一郎ボイスパワー恐るべし。あの声の威力は、姿なし、声のみで勝負する世界でも強力に発揮されるのだと今回悟りました。
声と言えば禅さんの七変化ぶりにも驚嘆させられました。楓さんのお父さんを、回想シーンの若い頃から現在シーンの28歳の娘を持つ老け役までしっかり演じ分けているのは、もう流石としか言いようがありません。出番が少なめなのがもったいなかったです。
そして、何と言っても白石加代子さん。楓さんの担当患者にして、実はある「約束」に縛られた大狸の化身なのですが、一声発するごとに、狸顔の一癖も二癖もある、それでいて心優しい異形のおばあさんの姿が、ありありと立体的に立ち上がってきます。この方の生の舞台を拝見したことはありませんが、きっと物の怪ぶりも情念の濃さもギュッと詰まって凄まじく発散されているに違いない、と想像しています。

ドラマの物語の感想ですが、胸にちくりときて切なさ満載、それでいて優しくて終了後はほっこり温かい気持ちになれる、そんなお話だったと思います。
命の営み、前を向いて生きることを力強く肯定しながらも、自然の流れに逆らって生きることを良しとしない狸の死生観。でも逆らって生きざるを得なかった大狸の20年の歳月が不幸だったか?と問われれば、恐らくそうではないわけで。その辺りは上手い結論が見つかりませんが、ただ一つ、ある者の人生は「誰かのため」にあるのでも、また「誰かに左右されるため」にあるのでもなく、最終的にはその者自身のものであり、答えは生きた者がどれだけ生を肯定して生きたか?にかかっているのではないか?と今は考えています。
楓さん(柊瑠美さんがさりげなく好演)が大狸の力で巡り会ったのは、本当にお母さんの魂だったのか?身体を生と死の間に持っていくことによって、自分の潜在意識と向き合い、自分の生を肯定する力を取り戻したのが真相なのではないか?という解釈もできそうですが、それを考えるのは野暮なことかも知れません。いずれにせよ、楓さんのこれからの人生に幸多かれ。

ところで、最後まで解決されずに残された「鉄橋を渡って松山にやってくる狐」の正体はやはり、終盤近くで“Singing in the rain”と歌っていたあの方なのでしょうか?何と言っても名前があんなですし、あの方がただの人間のまま終わるとは思えませんし(^_^;)。気になるところです。