日々記 観劇別館

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『レ・ミゼラブル』感想(2011.4.29 マチネ)

キャスト:
ジャン・バルジャン山口祐一郎 ジャベール=今拓哉 エポニーヌ=平田愛咲 ファンテーヌ=知念里奈 コゼット=中山エミリ マリウス=原田優一 テナルディエ=三波豊和 テナルディエの妻=阿知波悟美 アンジョルラス=阿部よしつぐ リトルコゼット=清水詩音 リトルエポニーヌ=斎藤真尋 ガブローシュ=小宮明日翔

昨日は早めに寝落ちしてしまったので、起きてすぐこれを書いております。
今期初の今ジャベールを、山口バルジャンとの組み合わせで観てまいりました。今回は原田マリウスも初見。ということでこの二人中心の感想です。

今ジャベールは万事過剰さがなく色々削ぎ落としている感じでした。イメージは古武士。それでいて、市長=バルジャンと気づいた時の目の色の変わり方や、対決でのいつかバルジャンに勝つんじゃないかとすら思える、しっかり腰の入った身のこなし、そしてバリケードを降りる時に決して銃を預けようとせず、でも一瞬銃を床に置いてしまう隙のある態度(笑)等、萌え所はしっかり打ち出している点が良いのです。
古武士な今ジャべは、世の中の何が問題かを理解しつつも、どこか達観し、割り切って眺めているように見えました。学生達は彼等の思想の善悪でも、ましてや好悪でもなく、ジャべの考える所の世の理を乱す者達だから、職務として潰しにかかっているだけ。絶対無比な星の巡り以外の何物へも、自分にすら執着しない男。
そんな彼が唯一執着し、心を乱す対象がバルジャン。バルジャンが完全な罪人であると信じ続けることによりジャべの生きるための挟持は保たれていたわけですが、何処かで聞いたようなフレーズを借りますと、最終的に、
「お前に命許したために、(自身が)生きる意味を無くしてしまった」
のではないかと考えずにはいられません。

原田マリウスは、何だか見た目やはりエンジェルな雰囲気でした。歌も阿部アンジョと声量勝負!な感じで、そして真っ直ぐな歌声で良かったです。
そして、かなり自分しか見えていないマリウスでもありました。見た目エンジェルなだけに、愛咲エポを本当に「お隣のちょっと可愛い子」ぐらいにしか思っていない、自身の内面と思想の成就、あと原作(未読ですが)だとお祖父さんやお父さんへの思いにしか興味ない雰囲気が、エポに対するのと同時に客席にもありありと伝わってくる、というのが、彼が1幕でコゼットに再会するまでの登場シーンでの印象です。
その分、自分の「誰かに対する愛」、そして自分への「誰かからの愛」に気づいた時の態度は、原田マリウス、かなり真摯だったと思います。そうすることが義務であるかのように、直球で相手に思いを注ぎ、あるいは返すマリウス。
山崎マリウスの場合、自分の中の思いもよらなかった愛に目覚めてうろたえつつも受け入れる、といった感じだったのですが、原田マリウスの場合は、愛に目覚めてもそれ自体にはあまりうろたえていない。もちろん愛と革命どっちを取るか?の葛藤とかエポに対する後悔とかはあるけれど、人を愛する感情を働かせること自体に動揺も迷いもないように見えました。……何だか上手く語れなくてすみません。

あとはいくつか印象に残った所を。
まず、知念ファンテ。前回観た時は「夢やぶれて」の高音部でがなり立てる感じが気になってましたが、今回は全くそんなことはなく、自然にソフトに聴かせてくれて良かったと思います。自分やバルジャンの臨終場面で聴かせてくれる、優しい歌声が好きです。あとバルジャンに姫抱っこされる時、羽根のように軽そうなのは、特に50代バルジャンにはありがたいかと……。
それから、三波テナはやっぱりどす黒かったです。1幕で悪事をエポに邪魔された時、実娘を蹴り倒す行動に何の迷いもありません(笑)。でもモンパルナスがエポを刺そうとするのはしっかり止めるので、何%かは愛情が残っているのだとは思います。そして2幕の地下水道では、あの明るめの声質でとても真っ黒い言葉を語ってくれるので、怖さ倍増。
愛咲エポは、上から目線な言い方になってしまうかも知れませんが「成長してるなー」と思います。前回聴いた時より、あらゆる場面で感情が豊かに、自然になっていると感じられました。「オン・マイ・オウン」もまだ色々試行錯誤、模索しているのかな?とは思いましたがしっかり聴かせてくれました。
阿部アンジョは声量と声の押し出しは十分なので、もう少し声に色気、というか艶があると嬉しいかもです。ただ、アンジョは女っ気ゼロという設定らしいので、そういう意味では艶は不要なのかも知れません。つい贅沢を言いました。

アンサンブルで今回気になったのは、田村ブリジョン。ブリジョンだけでなく、バリケードの名も無き学生、宿屋……様々な役で「何故この人はこんなに目立つ?」と印象に残りました。「目立つ」と言っても、間違っても浮いてるわけでなく、場面毎に別に意識して見ようと思ってないのに何故か目に入ってきます。ワン・オブ・ゼムであってもしっかりその役を演じている。それは役者としては至極当たり前のことだとは思いますが、上手くこなせる人はそんなに多くはいないと思うのです。
昨年のエリザにも出ていた方ですが、実は2008年に『SE・M・PO』、そして翌年の『ニュー・ブレイン』で観て以来頭の片隅でひっそり気になっている役者さんなので、これからもひっそり気にしていきたいと思います*1

最後に山口バルジャンについても少しだけ。
今回、オケの指揮が、塩田さんが5月8日までのお休みに入り、若林さんが務められていたのですが、山口バルジャン、塩田さんの時より歌の暴走度が低いように聞こえました。気のせいかも知れませんけれど、ちゃんとオケに合わせて歌うよう意識している感じです。
自分は音作りは実はレミゼに関しては、若林さんの指揮の走りすぎない重厚感が好きなのですが、エンタテインメントとしての音作りはやっぱり塩田さんなのかな?と思った瞬間でした。
あと、今ジャベールとの正面対決――1幕の対決と2幕の地下水道――では、油断すると殺されかねないという緊迫感が他ジャベールより増すのか(?)、絶叫する声の乱れが殊の外激しかったように聞こえました。
ちなみに「彼を帰して」では今回は鼻水は垂らしていませんでした(キミはそこしか観る所がないのか……)。
エピローグではやっぱり色々と感無量な、ぎゅっと堪えるようなしわくちゃのお顔になっていました。その分カテコで、いつもの若いふんわり笑顔に戻ってくれるギャップがまた良いわけですが(^_^)。

そのカテコでは、客席から、かなりしつこく何度もキャストの皆さんをコールしてました。私的にもうええやろ、と思ってからも、更に2、3回は呼び出されてました。最後の頃、今ジャベールが手を振りつつ自分の肩をトントン叩く素振りをしていたのが密かに笑えました。三波テナと何だか仲良さそうな雰囲気もツボでした。

*1:とか何とか言いながら、今期2回田村ブリジョンを観てるのに、その時は藤田モンパルナスに気を取られていたわけですが(汗々)。