日々記 観劇別館

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『レ・ミゼラブル』感想(2011.5.8マチネ)

キャスト:
ジャン・バルジャン山口祐一郎 ジャベール=岡幸二郎 エポニーヌ=Jennifer ファンテーヌ=知念里奈 コゼット=中山エミリ マリウス=原田優一 テナルディエ=駒田一 テナルディエの妻=森公美子 アンジョルラス=上原理生 リトルコゼット=清水詩音 リトルエポニーヌ=斎藤真尋 ガブローシュ=鈴木知憲

遅くなりましたが、レミゼ5月8日公演の感想です。
この日の座席は2階席H列センターブロック。舞台の板を様々に照らす照明も、群衆の動きもくまなく堪能できて、視界もほとんど遮られることのない良いお席だったと思います。
山口バルジャン、岡ジャベール、そして原田マリウスの楽日というのを意識して観たからかも知れませんが、この3人がとても良いと感じた公演でした。
まず、山口バルジャン。彼が歌に演技に込めている「気持ち」が極めて濃密に、そして熱く、遠い2階にも届けられました。
バルジャンの、恐らくは生来のもので、牢獄生活の間にも培われた自我の強さやプライドの高さが、次第に篤い信仰心と守るべき者達への強い人間愛に転換されていく様がありありと伝わってきたと思います。
2009年以前の公演ではあまり「バルジャンのプライド」を意識したことはありませんでしたが、今回「フー・アム・アイ」や「ワン・デイ・モア」で逡巡する山口バルジャンは実に誇り高く、かつ人間くさく「苦労の果てに勝ち得た物」にしがみつこうとしていました。とても強くて信心深いけれど、もしかして一歩間違うと身代わりを見殺しにしてしまうかも?と感じさせるバルジャンだったと思います。
そんなバルジャンの生きる目的が、誰かを守るために明日も生き延びたい、というものから、それにより誰かが生き延びられるならば喜んで自らの魂を御手に委ねたい、と変化していくのが2幕なのだ、と今回の山口バルジャンを観て思いました。
バルジャンが最愛のコゼットをマリウスに任せる瞬間、原田マリウスに合わせうんと膝をかがめ語りかけている姿に軽くほろりと来つつも耐え、また、臨終でバルジャンの命の灯を象徴するかのようにか細く揺らぐ、ろうそくの炎を見ても耐えたのですが、バルジャンが息を引き取り、ファンテに手を取られ「罪深き我が身……」と静かに立ち上がった瞬間、ついに気持ちがぐらりと来て一瞬ですが嗚咽してしまいました。山口バルジャンは今日もやはり、何かをじっと堪えるように目を瞑り続けていました。今回の公演では、ずっとそうでした。

次に岡ジャベール。いつになくパッションに溢れていると感じました。特に「自殺」。ひたすら駆逐すべき罪の象徴として追いかけてきた相手に信念を崩されてしまった、ジャベールの魂の上げた悲鳴そのもののような絶叫に、「あのとても牢獄で生まれたとは思えない程クールビューティーな岡ジャベールが、こんなになるなんて!」と呆然としたのは私だけではないと思います。本番中はまさか、カーテンコールでも違う意味で「岡さんがこんなことに!」と驚かされるとは思いもよりませんでしたが。
そして原田マリウス。前回まで、どちらかと言えば最初に見たものを親として刷り込みされたひな鳥のように、たまたま目が開いた時に見えたコゼットを盲愛している印象が強かったのに、今回初めて、コゼットを人間としてきちんと見て愛しているように見えました。ただ私はやはり、原田マリウスとジェニエポの「恵みの雨」に限っては、中山コゼットとのデュエット以上に強い共鳴感と心の交流があって好きなのですけれども。
「共に飲もう」で上原アンジョから「少し休め」と思いやりの言葉をかけられ目を合わせる時、原田マリウスはためらう間が微妙に長いように思います。ためらった末言葉を受け入れバリケードを降りていく時の表情がまた良いのです。

その上原アンジョ。最期のバリケードからの落ち方があまり美しくない、と聞きましたが、アンジョの落ちる瞬間自体気にしたことがありませんでした。そう言えば阿部アンジョは足から飛び降りていたな、という程度です。今回、その場面が見やすい席だったのを良いことにガン見していましたが、ハードルをベリーロールの体勢で飛び越える様子をスローモーションで再生したような落ち方でした。少々重量感こそあるものの、そんなに言われるほどに不格好ではない、と思いました。単に上達しただけかも知れませんけれど。
もう1回だけ、彼のアンジョを見られます。楽しみです。
テナ夫妻はプレビュー初日以来の駒田さん・モリクミさんコンビ。……って、今回のプリンシパル、マリウス以外はプレビュー初日と同じだったわけですが。
駒田テナは、言わば「明るくどす黒い」三波テナと違う色合いを意識的に出している、と感じました。宿屋の主人の頃から心は既に「善」とは無縁の境地にあって、ひたすら汚くふてぶてしい、それでいて軽妙なのが駒田テナなのです。モリクミマダムは、宿屋で山口バルジャンが立ち上がろうとして押さえ込まれる時、対・阿知波マダムに比べて心なしかバルジャンの抵抗が強いように見えます。歌、演技ともに醸し出す安定感がただごとではないです。
お久しぶりだったのはもう1人、知憲ガブでした。以前観た時は何だか舌足らずでガブにしては幼いなあ、と思ったのですが、今回は滑舌も良く、だいぶ安定してきた印象でした。お歌の音程は文句なし。顔立ちと声が愛らしいので、彼がバリケードで撃たれる場面では殊の外泣けまして(;_;)。カバン投げはしっかりバリケード上に届いていました。
中山コゼットは高音は本当弱いけれど、やっぱり綺麗。ジェニエポはもう少し日本語が身体に入ればもっと化けてくれるかも?と思わせてくれます。
ちなみに上原アンジョと駒田テナ以外のプリンシパルを観るのは、今回がラストでした。まだもう一度ぐらい観る機会がありそうな、不思議な錯覚に囚われています。

……気持ちに区切りを付けるために、ここまでやっと感想を記しましたが、実は昨日以降、かなり虚脱、放心状態な自分。プレビュー初日で山口バルジャンから溢れる感情に揺さぶられた時ほどではないものの、まるで雷雨に打たれた後の晴れ間に照らされている大地のような気持ちです(どんなだ(^_^;))。陽光の強さをまぶしく思いながらも、まだ雷雨が明けたことが信じられません。
心機一転、来週はSPキャストと玲奈エポ・新妻ファンテでマチソワします。それで私の今期のレミゼも終わりを迎える予定ですが、いよいよ本格的に真っ白な灰になってしまいそうな予感がしてなりません。