日々記 観劇別館

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『ゾロ・ザ・ミュージカル』感想(2011.1.16マチネ)

キャスト:ディエゴ&ゾロ=坂本昌行 ルイサ=大塚ちひろ ラモン=石井一孝 イネス=島田歌穂 ガルシア軍曹=芋洗坂係長 老ジプシー&アレハンドロ総督=上條恒彦

日生劇場まで『ゾロ・ザ・ミュージカル』を観に行ってまいりました。昨日のレミコン映画に引き続きのミュージカル。2日連続なので、少々体力消耗気味です。

お話は19世紀初頭のカリフォルニアが舞台。父親の総督に反発して家出し、スペインで老ジプシーとその娘イネスら旅芸人のジプシー達と放埒に暮らしていた青年ディエゴを、幼なじみの娘ルイサが追いかけてきて、父親の死(厳密には行方不明)と、跡を継いだ義兄ラモンの横暴ぶりを告げる場面から、物語が展開していきます。
そしてジプシー達とともにカリフォルニアへ戻り、ラモンの領民に対する暴虐を目の当たりにしたディエゴは、旅芸人の衣装を集めて黒い仮面に黒マントの義賊「ゾロ」と名乗り、正体を知るイネスの助けを陰に日向に借りながら、ラモンに立ち向かう、というのが物語の骨子です。

とにかく、何を置いても歌穂さんが格好良い舞台でした。彼女が登場するだけで、一気に舞台が引き締まるのは流石です。
物語の大半は歌穂さん演じるイネスが牽引している様なもので、イネスの仕上がり次第で舞台がどちらにも転がって行く様にも見えました。
お歌はパワフル、滑舌も良く、物語の軸の一つであるフラメンコもリズム感たっぷりに、気っぷが良く気持ちの良いダンスを見せてくれていました。

ラモンの石井カズさんは実は初見でした。かつてレミゼでバルジャンを演じられていたという以外に、ほとんど予備知識はありませんでしたが、今回の、養父との心のボタンの掛け違いから性格が歪み、暴君と化してしまうラモンは、はまり役だったと思います。彼もまた、出てくるだけで場面が引き締まる方の1人だと感じました。あ、汗も凄いです(笑)。

ちひろちゃんも、清純な美少女ながら鼻っ柱強く果敢にラモンに向き合い、突っ張りながらもディエゴを想い続けるルイサを、堂々と演じていました。ルイサの歌は割と澄んだ声で歌い上げる系が多く、ちひろちゃんの持ち味が生かされていたと思います。途中で1箇所、入浴を含めた軽いお色気シーンがあるのですが、ルイサの「女」としての艶が嫌味無く出ていて良かったです。

そして主役たる坂本くん。彼も自分にとって初見の役者さんでしたが、すみません、正直ここまで好演を見せてくれるとは思いませんでした。
物語冒頭の、屈折して自堕落に享楽に身を任せる日々から、故郷に戻り生来の正義感に目覚め、片やラモンの前では道化を装いつつ、片や義賊に姿を変え戦い、父の「死」の真相を追求していく、等身大の悩める青年ディエゴの変化を、ごく自然に演じていました。
ロープアクションや剣戟など激しい動きもそつなくこなし、かつ道化を演じる等して笑いを取りに行く場面もしっかり外さず掴みきっていたと思います。

作品そのものの感想を申しますと、単純な勧善懲悪ではなく、それぞれに心に屈折を抱いた義兄弟同士の陰影に満ちた人間ドラマに仕上げられていて、面白かったです。
喧嘩っ早く憎まれ口ばかり叩くけれど生来決して悪人ではなく、むしろ素直で感じやすい青年であるラモンと、親の言うことを聞く「良い子」である自分に葛藤し、不良になろうとしてなり切れないディエゴ。そして、2人をそれぞれに愛しながら、その厳格さ故に息子達に真っ直ぐ愛情を受け止めてもらえない総督。
また、ディエゴとルイサの間に、幼い日から育まれた愛情。たびたび2人にシンクロして登場する、幼い日の彼らの姿が清く美しかったです。秘密の洞窟の場面での、坂本くんとちひろちゃんのデュエットも聴き応えあり。
こうした人間関係が濃密に織りなされているが故に、あの、ハッピーと言い切るにはあまりにもやるせない、しかし未来への希望を孕み、悲惨を引きずらず後味の良い結末に繋がっているのだと思います。
それから、ガルシア軍曹という人物もなかなか人間くさくて良かったです。かなり早い時期から主君であるラモンのやり方に違和感を覚えながらも、人間的な弱さ故に刃を向けることができず苦悩する巨漢。そんな男の悲哀を芋洗坂さんがコミカルに演じられていました。

不満があるとすれば、物語を強烈なオーラで牽引してきたイネスの中途退場があまりにもあっさりし過ぎていることでしょうか。あれれ?と肩透かしを喰らった気分になりました。でもあれを受けて、終盤のガルシア軍曹にまつわるドラマが生まれるわけなので、まあ、仕方ないのでしょうか。
あと、フラメンコダンス、本場のダンサーが来日していてとても見事なダンスを見せてくれる、のは嬉しいのですが、ちょっとダンスの場面が長すぎる様な気がするのは私だけでしょうか?何となく『パイレート・クィーン』の長ーいアイリッシュダンス場面を連想しました。もっともパイレートより遥かに人間ドラマに厚みのある作品ですので、パイレートのような「場繋ぎ」感は薄いですけれども。
不満ではなく心配だったのは上條さん。ひと頃よりだいぶお声が弱く、滑舌も今ひとつだったように聞こえました。それでも、舞台の上での存在感は素晴らしかったと思います。

それにしても、最初から最後まで、これでもか、とフラメンコのリズムと手拍子とが鳴り響く演目でした。特にイネスのナンバーなど、まだ耳の奥底で鳴り続けているように感じられます。
ちなみに休憩時間に売店で、オリジナル上演版のCDが売っていないかとチラ見しましたが、本日は売り切れでした。もしかしたら近隣の宝塚・演劇系ショップで探せば見つかったのかも知れませんが、今回はそこまでは探しておりません。通販も未チェックなので、ぼちぼちと探してみます。