ここ2週間ほど、帝劇に行くのを自粛しております。ちょうど土日に別の用事が入ったという事情のほか、連休中ぐらいは家族の元にいる時間を増やそうという発想が働いたのもまた事実です。
というわけで次に『レベッカ』を観に行くのは今週土曜日の予定ですが、その前にかの演目で今回最もツボな場面について語っておきたいと思います。
『レベッカ』の2008年日本初演時にはなく2010年の再演から追加された場面として、、終盤の駅の場面でド・ウィンター夫妻の長いキスシーンがあります。
原作では、マキシムの運命の行く末の鍵を握るベイカー医師の元へ証言を聞きに行く前の晩に、夫妻が何度も何度も口づけて愛を確かめ合う場面が存在します。別に愛を確認するのはキスじゃなくても良いだろう、と言われればそれまでですが、あの切迫感溢れる描写にとても心震えさせられた自分としては、まあ、舞台にそのままの場面がないのは諦めるとして、日本初演版『レベッカ』の、大変段取りくさい抱擁でお茶を濁した駅の場面に不満たらたらでした。確かウィーン版のウヴェさん達はしつこいぐらいに密着しまくっていたのに、と。
それが再演では一転して、二人が長い時間しっかりと密着したキスシーン。
しばらく時間を置いて冷静に思い起こせば、舞台上手側から観ないと全くキス中の顔が見えないとか、演じるお二人の所作がどこか体育会系を感じさせるとか*1、そういう突っ込み所が見つかるのですが、初日は上手席から真正面でしかと観ることができたこともあり、ボルテージ上がりまくりでした。
物語の前半では、特権階級でもなく上流の振る舞いをすることもできない、そんなダメな自分が本当に幸せになってもいいの?と二歩も三歩も下がっていた「わたし」が、真の心を読み切れず辛い思いを抱いてきた夫を、彼の背負った罪ごと全て受け入れ、対等になった愛。その後愛を引き裂こうとする荒波に揉まれた末、たどり着いた永遠の結びつきを象徴するのが、あの長くて力強いキスなのだと思います。
あのキスシーンを観ていて思い出したのは、何故か『マリー・アントワネット』の終盤、マリーの処刑を控えた夜、監獄に潜入したフェルセンとマリーのキスシーンでした。この二人のキスはかなり生々しく、帝劇初演時の井上フェルセンには申し訳ないながら、凱旋公演の今フェルセンの演技に「年期と色気が違う!」とすっかり恐れ入ったものですが、それはさておき(^_^;)。
『レベッカ』の二人のキスは先ほども書いたとおり「永遠の結びつきのキス」なのですが、『M.A.』の二人のそれは「永遠の別れのキス」なのですね。マリーとフェルセンは天国での再会を誓ってはいますが、この世では二度と巡り会うことはないと分かっています。逆にド・ウィンター夫妻はこの世では深く深く結びつきましたが、果たして天国に行けるかどうかは疑問です。そう考えると両作品のカップルはどこまでも対照的で面白いと思いました。
*1:山口さんは剣道部出身、ちひろちゃんは「特技:器械体操」(事務所公式プロフィールより)なので体育会系なのは本当。