日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『レベッカ』感想(2019.1.13 13:00開演)

キャスト:
「わたし」=桜井玲香 マキシム・ド・ウィンター=山口祐一郎 ダンヴァース夫人=涼風真世 フランク・クロウリー石川禅 ジャック・ファヴェル=吉野圭吾 ベン=tekkan ジュリアン大佐=今拓哉 ジャイルズ=KENTARO ベアトリス=出雲綾 ヴァン・ホッパー夫人=森公美子

レベッカ』のシアタークリエ公演2回目を観に行ってまいりました。

スーパーアイドル乃木坂46の選抜メンバーにしてキャプテン、桜井Ichはプレビューも含めまるきり初見でしたが、とにかくか細くて少女に近い可愛らしさで、この子は守ってあげたい、という雰囲気に包まれていました。序盤のヴァン・ホッパー夫人との対話でも、心なしかモリクミさんがお手柔らかになっているような印象を受けました。歌声はトリプルキャストの他2人に比べると若干か細く、マキシムやダンヴァースとのデュエットでは声量が負けてしまっている所もありましたし、1幕中盤の「こんな夜こそ」では明らかにマキシムが歌うタイミングを彼女に寄せて合わせていると感じられる所もありました。でも声質は澄んでいて聞きやすいので、ミュージカルの仕事は続けてほしいと思います。

山口マキシムは今回は、あれ? 微妙に声を出しにくそうで伸ばしにくそう? と感じました。例えば2幕の「凍りつく微笑み」の、あらしのーなかぁーー♪のフレーズ、普段はもっと、たたたたーん、たたーー♪と階段を駆け上るようにすうっと気持ち良く高音に移行するのが、ほんの少し昇りづらそうに聞こえました。ただ、地の台詞の声は全く問題ないですし、歌に込められた熱量はいつも通りかそれ以上に素晴らしかったと思います。

桜井Ichと山口マキシムとの相性ですが、マキシムが「幸せの風景」でヒロインに向ける眼差しが本当に温かく、掌でふわりと彼女を包み込むような声で歌いかけていました。その後も、彼女を温かく守りたいのに自分が現実から逃げるために利用したこと、また、レベッカの影を意識しすぎるあまり彼女の些細な言動を責めさいなんだことを心から悔やみ苦しんでいるのが伝わってきて、とても良かったと思います。ただ、妻に対しての愛情と言うよりは保護者的な面がやや強いようにも感じられましたが。

それから、今期のクリエ公演では初見の涼風ダニー。保坂ダニーも涼風ダニーもレベッカへの執着の強さは変わらないのですが、保坂ダニーの振る舞いが徹頭徹尾、冷静で冷徹で無表情なのに対し、涼風ダニーの方が冷徹な中にも人としての感情が表に出ています。個人的好みで申しますとダニーがクールであるほどにレベッカへの執着と崇拝の異常性が際立ってくる、というのがたまらないのですが、クライマックスの高笑いが似合うのは、レベッカを愛しすぎて心が一体化してしまっている涼風ダニーの方です。あの笑い声、ダニー本人のものだと解釈するとどうも合点がいかないのですが、ダニーに身を借りたレベッカのもの、そして恐らくはマキシムにしか聞こえない声と解釈するとすんなりと納得できると気がつきました。炎の中からそのような恐ろしい幻影と幻聴をまともに受け止めてしまったからこそ、マキシムも20数年経ってなおレベッカマンダレイから完全に解き放たれることはないのだろう、と。

また、エンディングについて、今回観に行く前に、
「以前はキャストがヒロインを囲むようにカトレアの花を投げて床に立てていたが、ダンヴァースを除いてはカトレアの花弁だけ撒くように変更された」
とあらかじめ聞いていました。あまりあの場面について、「レベッカマンダレイの弔い」以上の深い意味は考えたことがありませんでしたが、今回改めてじっくり観て、ああ、最後にダニーの花だけ舞台に刺さってスポットが当たるのは、「今もそこにある、レベッカ」ということであるに違いない、という感想を抱きました。

そして思ったのは、マキシムとヒロインの結びつきは「孤独な者同士」というものでしたが、レベッカも突き詰めると結局の所は独りだったのではないか? ということです。もっとも、レベッカは孤独というよりは孤高の人であり、しかも自分自身が一番大好きで自尊心は天より高く、自分の美貌と幸福を保つためなら世間はいくらでも欺いて利用し、男性はどこまでも軽蔑の対象にすぎないという、かなりサイコパスな人物なので、独りであることは屁とも思わなかった(下品ですみません)点が一線を画しています。ただ、マキシムへのひどい仕打ちの根底には、金づるだが気難しいお坊ちゃんと蔑みつつも、ある意味歪みまくった愛情に近いものがあったのではないかという気がしてなりません。 ※あくまで個人の感想です(強調)。

なお、エンディングに登場するマキシムは60代ぐらい、中の人の実年齢とほぼ同じぐらいの筈ですが、「老けすぎやろ!」と突っ込みながらいつも観ております。全部レベッカマンダレイショックに吸い取られてしまって、現妻の強固な愛情だけを頼りに生きているのでしょうね。

カーテンコールでは一転にこにこ、さわやかに登場するド・ウィンター夫妻です。やはりお父さんと娘のような佇まいではありますが、桜井娘さんは可愛くて、「お父さん」はもっと可愛すぎるので、ほっこりしました。

最後に、初日感想で書こうと思っていて書き忘れていた覚え書きを一つ。

1幕のゴルフのシーン「ブリティッシュ・クラブ」に登場する人達、帝劇再演以前はジャイルズとジュリアン大佐、という人物は特定されておらず、ド・ウィンター家の噂をする上流階級の人達であった覚えがありますが、今回の再々演では歌う前に「おお、ジュリアン!」のように明らかに名前を呼びかけているので、あれ? と思いました。それでヒロインのことを「ひなぎくはばらにはなれない」とか言っちゃってるので、ヒロインとそんなに深く関わっていそうな大佐はともかくジャイルズ氏、結構ひどい!……と憤りながら帝劇再演の時のパンフの場面と曲のリストを眺めていたら、「ブリティッシュ・クラブ」にはしっかり「ジャイルズ、ジュリアン大佐」と書いてありました。今回、歌詞の変更は確実にあったと思われますが、結構人間の記憶はいい加減ですね。

次回の『レベッカ』観劇は今月20日の予定。クリエでは初・千弘さん。楽しみにしています。